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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
261/518

その258 メス豚、感謝される

 私は初見殺しの新技、”忍者殺し”で大モルト軍イリーガル部隊のリーダー、キズ男を撃破したのであった。


 おっと、いつまでも勝利の余韻に浸っている場合じゃない。

 私は倒れたままの金持ち親子のお姉ちゃん――屋敷からさらわれたアンネッタへと駆け寄った。

 アンネッタは手足を縛られ、猿ぐつわを噛まされている。

 ケガをしているようには見えないが、グッタリと横になったまま動かない。

 水母(すいぼ)の体からシュルシュルと触手が伸びると、アンネッタの体を診断した。


『どう? 水母(すいぼ)。まさか死んでるなんて事はないわよね?』

診断中(ちょい待ち)。――意識消失中(気絶してるだけ)。麻酔性薬物によるものと推測』

『薬物? 薬で眠らされているって事?』

肯定(せやな)


 どうやら薬で眠らされているだけで、大きなケガは無いらしい。

 私達は間に合ったのだ。

 私はホッと息を吐いた。


『・・・って、ちょっと水母(すいぼ)! あんた何してるのよ!』


 水母(すいぼ)の触手が三本、四本と伸びると、アンネッタを持ち上げた。


運搬を提案(ここは危ない)

『安全な場所まで運ぶって事? ・・・まあ、確かにその方がいいか』


 キズ男とその仲間達は倒したが、どこにコイツらの仲間が潜んでいるか分からない。

 ・・・って、そういや誘拐犯の一部を置き去りにしたままだった。

 あの時は相手をしている時間が惜しかったから無視(スルー)したけど、ヤツらが追いついて来る前に、この子を連れて逃げた方がいいかもね。


『分かった。落とさないように注意してね』

超心外(言われるまでもない)


 水母(すいぼ)はアンネッタを黒マントの中にスッポリと包み込んだ。

 月影(つきかげ)の黒マントの中身はほぼがらんどうだ。小さな女の子くらいなら余裕で収納する事が出来る。


 ・・・しかし、これってどうなんだろうな。


 私は頭上を見上げて、何とも言えない気分になった。

 アンネッタを運ぶにはこうするしかない。それは分かっているんだけど、幼女が触手に凌辱されているようにしか見えないんだが。


 幼女緊縛触手プレー。


 そんな言葉(ワード)が浮かんでくる。

 吊り責めは緊縛プレイの中でも最上級のプレイだとか何とか・・・

 いや待て! 私にそっちの趣味(SM趣味)はないから! そういう話を聞いた事があるだけだから! 私はノーマルだから!


移動を推奨(早く行く)

『・・・・・・』

重ねて推奨(早く行く)

『お、おう! わ、分かったぜ!』


 仕方がないんだ。これは仕方がない事なんだ。

 けど、この光景は絶対にこの子の親御さんには見せないようにしよう。

 私は固く心に誓いながら、急いでこの場を離れたのだった。




 てなわけで、私はアンネッタの実家、オスティーニ商会の屋敷に戻って来た。

 王都を良く知らない私は、他に適当な場所が思いつかなかったのだ。

 まだネクロラの信徒を排除しきれていないのだろうか? 辺りはすっかり薄暗くなっていたものの、屋敷の周囲は相変わらず人でごった返していた。


『あれっ? あれって王都騎士団か?』


 野次馬達の整理をしているお揃いの鎧を来た男達。今やすっかりお馴染みの王都騎士団の団員達である。

 その時、野次馬達から「おお~!」とどよめきが上がった。

 慌てて見回すと、屋敷から剣を持った男達が三人、慌てて逃げて来る所だった。

 騎士団員が素早く彼らに取り付くと、武器を奪って拘束する。

 ちなみに拘束と言っても、日本の警察のような優しい方法じゃない。剣で突き刺して倒れた所を縛り上げるのだ。

 マジかよ。何とも過激な連中だぜ。


過激?(おまゆう)

『・・・』


 お前は散々殺していただろうって?

 いやまあ、私の場合は状況がそれを許さなかったっていうか。他に方法が無かったって言うか。

 切りかかられたんだから()るしかないだろ?


 その時、屋根の上の私を見つけた野次馬達の一部が、こちらを指差して騒ぎ始めた。

 結構暗くなって来ているってのに。目ざといヤツもいたものである

 おや? こちらに手を振っているのは、騎士団の女騎士リヴィエラじゃないか。

 副団長自らが陣頭指揮をとっていたのか。

 そして今まで気付かなかったが、一緒にいるのはアンネッタの家族、金持ち親子一家である。

 そういや屋敷の中で姿を見なかったけど、どこかに出かけていたのだろうか?

 それはそうと、みんな揃っているなら都合がいい。

 私はこれ以上騒ぎになる前に、彼女達に合流する事にしたのだった。




月影(つきかげ)殿! 今までどこに?! 屋敷で戦っていたのではなかったのか?!」


 開口一番、女騎士リヴィエラが私に詰め寄った。

 気持ちは分かる。気持ちは分かるが、まあ待ちねぇ。


『ボソリ(水母(すいぼ)、お願い)』

了解(かしこまり)

「なんだ? 今の声は・・・こ、この少女は?!」

「アンネッタ!」


 私の合図で水母(すいぼ)がアンネッタを降ろした。

 後ろ手に縛られ、グッタリとして動かない娘の姿に、金持ち親子がギョッと目を剥いた。


【心配はいらない。薬で眠らされているだけだ。ケガもしていないし、じきに目を覚ますだろう】

「あ、ありがとうございます! アンネッタ、よく無事で・・・」


 金持ち親子は娘を抱きしめると喜びの涙を流した。

 ちなみにリヴィエラは目を丸くしながら、アンネッタと私――月影(つきかげ)を何度も見比べている。

 スリムな月影(つきかげ)の黒マント姿の、どこに少女を抱えていたのだろうか? そんな風に思っているようだ。

 まあ、そうなんだが、まさか馬鹿正直に「こう見えて、実はがらんどうなんです」などと答えるわけにはいかない。


「あの、さっきはどこからこの少女を――」

【屋敷からその娘をさらって逃げ出した輩がいたのでな。そいつらの後を追っていたのだ】


 あぶねえ。

 私は質問をされる前に話を進めて誤魔化す事にした。

 私は十人程の男達がアンネッタをさらって逃げ出した事。今までそいつらを追っていた事。そのほとんどは既に倒している事。などを説明した。


【集団の中にはリーダーらしき男がいた。良く目立つ傷だらけの男だったし、そいつの事を調べれば今回の件に関して何か分かるんじゃないか?】

「なる程。おい、月影(つきかげ)殿の言った通りの場所は分かるな? ここはもういい。何人か連れて現場に向かえ」

「はっ!」


 リヴィエラの命令を受けて、騎士団員達が走り出した。

 ここから先は後で知った話になるが、彼らは急いで現場に到着したものの、何も見つけられなかったそうだ。

 血の跡から、この場所で争いがあった事だけは分かったが、死体どころか遺留品一つ残っていなかったらしい。

 生き残った工作員だけで、八人もの死体を片付けたと考えるのは流石に無理があるだろう。

 どうやら私が思っているより、この王都には多数の大モルト軍工作員が入り込んでいたようだ。


月影(つきかげ)殿。娘を助けていただき、ありがとうございました」


 金持ちパパが私に頭を下げた。


「先日は私達家族を救って貰ったばかりか、今日はアンネッタを暴徒から救って貰きました。月影(つきかげ)殿――本当に。本当に・・・ぐっ・・・すみません。うっ・・・ううっ」


 金持ちパパは言葉を詰まらせると、目元を手で覆い、嗚咽を漏らした。

 金持ちママも涙を流しながらハンカチで口元を隠している。

 これ以上言葉を続けられない金持ちパパに代わって、アンネッタの弟君が私にお礼を言った。


月影(つきかげ)殿。姉を暴漢共の手から救い出して頂き、本当にありがとうございました。姉は先日、あなたに助けてもらった時の話を、何度も嬉しそうに私に語ってくれました。今、姉は眠っていますが、今日もあなたに助けられたと知ったらきっと喜ぶでしょう。本当にありがとうございました」


 弟君はそう言うと私に頭を下げた。


【気にするな。頭を――】

月影(つきかげ)殿」


 女騎士リヴィエラが私の言葉を遮った。


月影(つきかげ)殿はさらわれた少女を救っただけじゃない。少女を助けた事で少女の家族も救ったのだ。気にするな、などと言うべきじゃない。ここは素直に感謝の言葉を受け取るべきだと私は思うぞ?」


 そう? そうなんだろうか? いや、きっとそうなんだろうな。


 私はアンネッタの方へと振り返った。

 アンネッタはロープを解かれ、今はママに膝枕をされている。

 乱れていた髪は整えられているものの、頬に残った涙の跡が痛々しい。


 あの時はその場の勢いというか、夢中なだけだった気がする。

 助けなきゃ。そう思って後先考えずに突っ込んで行った。ただそれだけだった。

 その結果、私はさらわれた女の子だけでなく、彼女の家族も救ったのだ。


 この子が助かって本当に良かった。


 この時、私は心の底からそう思ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女騎士リヴィエラが月影を賛美するだけのキャラじゃなくてとても良いです。野次馬に姿を見られた事で月影が王都でちょっと有名になってしまうかもですね。
[良い点] 憧れの「月影さま」に2回も助けられたと知ったら アンネッタの恋心は大変な事になってしまいますね。 弟くんは延々と月影を称えるお姉ちゃんのトークにつきあわされてるんでしょうね。 愛しさのあま…
[良い点] 無事ことなきをえてよかった…。しかし部下の活躍は上司の手柄であるし、このお礼はなんとかクロコパトラの立場の強化に使えないかな~ [気になる点] マントの中のどのあたりにクロ子はいるんだろう…
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