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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
248/518

その246 メス豚、職質を受ける

 王都騎士団の装備を横領して、横流ししていた小悪党男爵ご一行。

 彼らは突然現れた謎の女騎士(部下らしきイケメンが副団長とか呼んでたな、確か)達によって、あれよあれよという間に拘束されてしまったのだった。

 さて、これからどうするか。

 私は壁際で彼らの働きを眺めながら、今後の事をボンヤリと考えていた。

 悪党達の拘束が粗方終わると、背の高い騎士が私の所にやって来た。

 女騎士を「副団長」と呼んでいた例のイケメン騎士だ。


「それで、月影(つきかげ)殿だったか? 詳しい話を聞きたいんだが?」


 ああ、うん。まあ、そうなるよな。

 まさか「君らの団長が隠していた装備をパクりに来ました」とは言えんよなあ。

 床でふん縛られてる小悪党(男爵)共と違って、こっちは真面目な騎士団員っぽいから、倒してしまうのもどうかと思うし。

 相手がイケメンだからっていい子ぶるなって? いやいや、私は誰彼構わず襲い掛かる無法者じゃないから。

 これでも戦う相手は選んでるつもりだから。


月影(つきかげ)殿?」

【う、うむ】


 さて、この場をどう誤魔化すか。




 迷った私はいつもの策を選んだ。

 そう。ザ・先送りである。

 説明は一先ず置いておいて、私は例の騎士団員(と思わしき)の死体が埋められていた部屋に、彼らを案内したのである。


「うっ! こ、これは」

「副団長は下がっていて下さい。おい、そこのドアを外してその上に死体を乗せるんだ」


 女騎士は死体を見るのは初めてだったのかもしれない。口元を押さえて青ざめている。

 騎士団員達は死にそうな顔になりながら、床の穴から死体を引っ張り出した。

 お前は平気なのかって? そりゃあ前世は人間だったし、決して気分が良いものじゃないさ。

 けどまあ、こういうのは慣れだな慣れ。知り合いの遺体ならともかく、所詮は見ず知らずの人間の死体だからな。

 君らも何度か見てればそのうち慣れるさ。

 といった訳で、掘り起こされた死体の数は合計五体だった。


「・・・見覚えのある顔があります。先輩の騎士団員です。入団当時に私も世話になりました。真面目で面倒見の良い人でした」


 イケメン騎士の言葉に、女騎士が「そう・・・」と痛ましそうな表情を浮かべた。

 女騎士が私に振り返った。


月影(つきかげ)だったか。案内感謝する。このような騎士団の不祥事を見せてしまい、汗顔の至りだ。彼らの無念は私が必ず晴らしてみせよう」


 女騎士は決意も新たに私に宣言した。


「・・・それはそうと、お前はなぜ、こんな夜更けにこんな場所にいたんだ? バローネ団長達を倒したのもお前だという話だが、一体、どういった経緯でそんな事になったんだ?」


 あ~、やっぱりそれって気になるよね。さすがに誤魔化すのも限界か。

 とはいえ、先送りのおかげで色々と考える時間は稼げた。てなわけで説明を始めますかね。




 騎士団員達は、馬車まで死体を運んで行った。

 人が減って急に静かになった部屋で、私はこの場に残った女騎士とイケメン騎士に、この一件のあらましを説明した。

 夜の町で偶然、金持ち親子が野盗に襲われている所を見かけ、助けてやった事。

 その縁で、王都の手配師の総元締めドン・バルトナから、仕事の協力を求められた事。

 彼の指示でこの屋敷に来たら、たまたま黒幕の男爵に鉢合わせしてしまった事。


「この王都でそんな事件が頻発していたとは。商業区画は団長の担当地域だったとはいえ、同じ騎士団に所属する者として、全く知らなかった自分が恥ずかしい」


 女騎士は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 ちなみに、「あらましを説明した」とは言ったが、馬鹿正直に全てを話した訳じゃない。

 どういう事か? 具体的に言うと私の目的。小悪党男爵が隠した装備をパクリに来た、という部分だけは誤魔化して説明をしたのである。

 そのせいだろうか。女騎士達はドン・バルトナの事がいたくお気に召したようである。


「しかし、そのドン・バルトナという男。町の秩序を守るために、月影(つきかげ)殿に頭を下げ、更には危険を承知で自らここまで来ているとは、どうしてどうして。市井(しせい)に埋もれさせるには惜しい、義侠心に厚い男ではないか」

「確かに。本来であれば亜人の女王に仕える月影(つきかげ)殿が、彼の心意気にうたれて協力を申し出た程ですからね。王都を守る我々としては、穴があったら入りたい所です」


 どうしよう。ドン・バルトナの株が爆上がりの件について。

 ちゃうねん。そんな気はなかったねん。いやね。報酬の装備に釣られて協力した、という生臭い部分を抜くと、どうしても美談っぽい作りになってしまうのよ。そのしわ寄せがドン・バルトナに行ってしまったのよ。

 マジでスマンこって。まあ、実際にドン・バルトナを見ればコイツらの気持ちも変わるだろう。ぶっちゃけ、どう見ても悪党顔だからな。


「しかし、月影(つきかげ)殿がこちらの味方に付いてくれて、本当に助かりました。おかげで部下の犠牲を出さずに済みました」

「それはそうと、月影(つきかげ)はどうやってバローネ団長達を制圧したのだ? 相手は十人以上、お前はたった一人だったのだろう?」


 ふむ。これくらいは正直に話してもいいか。月影(つきかげ)が魔法を使える事はドン・バルトナ達も知ってる訳だし。


【魔法だ。俺はクロコパトラ女王から直々に魔力を授かっている】

「魔法だって?!」


 女騎士が目をキラキラさせて身を乗り出した。

 逆にイケメン騎士は胡散臭そうに眉間にしわを寄せた。なぜに?

 後で知った事だが、王都では度々魔法を謳ったペテン師が現れては、人をだまして金を巻き上げ、問題になっているそうだ。

 そのせいでイケメン騎士の中では、「魔法」イコール「詐欺師」という負のイメージが根付いていたのだろう。


「何かここで見せてくれないか?! そうだ! 団長達と戦った時に使った魔法がいい! 是非よろしく頼む!」


 女騎士は私に断られるとは考えていない様子だ。

 って、あ。そういう事か。

 彼女と話をしていて、何かがずっと引っかかっていたのだが、その原因に今、気が付いたわ。

 この人は多分、貴族だ。

 生まれついての上級国民。自分が頼めば誰かがやってくれるのが当たり前。そういう風に育った人間。

 そんな奔放さと言うか、持って生まれた育ちの良さと言うかが、騎士として取り繕った言動の下からにじみ出ていたのだ。

 分かってしまえば納得である。

 とはいえ、そんなにイヤな感じじゃない。それはこの人の性格が正直で真っ直ぐだからだろう。

 だから私は彼女のリクエストに応える事にした。


【いいだろう。そこの壁を狙うぞ。最も危険な銃弾(エクスプローダー)


 パンッ!


 不可視の棘が壁に刺さると、瞬時にエネルギーを解放。

 乾いた音を立てて炸裂した。

 ボロボロの壁紙が千切れて、粉雪のようにパッと舞った。


「なっ?! 何だ今のは?!」

「これが魔法?! 団長達はこれにやられたんだな!」

【ああ、正確に言えば違う。あの時は今の魔法を連続して放った。つまりはこうだ。最も危険な銃弾(エクスプローダー)乱れ撃ち】


 パパパパーン!


 さっきよりも派手な音を立てて、部屋中に大量の壁紙の破片が舞い踊った。


「うおっ!」

「す、スゴイ!」

「なっ、何事ですか?! 一体何が?!」


 今の音を聞きつけたのだろう。馬車まで死体を運びに行っていた騎士団員達が、血相を変えて部屋に飛び込んで来た。

 女騎士は部下の手前、慌てて緩んでいた表情を引き締めた。


「むっ。何でもない。月影(つきかげ)の魔法を見せて貰っただけだ」

「はあ? 魔法? ですか?」


 騎士団員達は腑に落ちない表情で顔を見合わせた。


「それよりも遺体は運び終えたのか?」

「あっ、ハイ。それはさておき、屋敷の表で怪しげな一団を捕らえました。こんな夜更けに大人数で屋敷の様子を窺っていたので、不審に思って問いただした所、明らかに怪しい態度を見せたために即座に拘束致しました」


 あ。それドン・バルトナと彼の部下達だわ。

 そういや屋敷の外で待機するように言ってたんだっけ。

 このままだと詰め所まで連行されてしまいそうだ。私は女騎士に向き直った。


【そいつらの事なら心配はいらない。ヤツらは私の仲間――先程話に出たドン・バルトナ達だ】

「おおっ! ドン・バルトナ! おい、その者達は王都に暮らす民の安寧のため、我が身の危険を顧みずに動く素晴らしき男達だ。すぐにこの場に案内してさしあげろ」

「えっ? は、はい?!」


 上司の命令に、混乱を隠せない騎士団員達。

 なぜ彼女が、どう見ても反社会的勢力者ご一行様にしか見えない男達を、ここまで持ち上げるのか理解出来ないのだろう。

 そしてしばらく後。

 騎士団員によって連れられて来たドン・バルトナを見て、女騎士は愕然とした。


「えっ? こいつがドン・バルトナなのか?」

「あ、はい。俺がバルトナですが。・・・なあ、月影(つきかげ)殿、屋敷で一体何があったんだ? 散々待たされた挙句、なぜあんたが騎士団と一緒にいるんだ?」

「「「つ、月影(つきかげ)殿。俺達一体どうなるんですか?」」」

「あの、月影(つきかげ)殿。あなたの話から受けた印象と彼らでは、随分とその・・・先程の話はどこまで本当の事なのか? いや、あなたの話を信じていない訳ではないのだが」


 イケメン騎士は眉間にしわを寄せてこちらを見ている。あれは完全に私を疑っている顔だ。

 騎士団員達も、説明をして欲しそうな様子だ。

 そしてドン・バルトナの部下達は騎士団員に取り囲まれて不安なのか、縋るような目で私を見ている。

 さらにドン・バルトナ本人は殺意のこもった目で――じゃなくて、「説明してくれるんだろうな」と問いただす目で私を睨み付けている。


 全員が説明を求めて私を見ている。

 何という熱視線。

 ドン・バルトナが悪党顔だったせいでこの有様だよ。

次回「メス豚、逃げ損ねる」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここ、説明を一個間違えたらドンも騎士団も敵に回りかねなかったので危なかったですね(笑) 行き当たりばったりでなんとかしようとして袋小路になるクロ子面白いです
[良い点] 聞いただけの話を信じ込んで 人を上げたり下げたり 迷惑なクッコロさんだなあw クッコロさん属性がダダ漏れw でもいい人ですねえ。 旗頭には打ってつけですね。 [気になる点] ドン・バルト…
[良い点] クロ子さん、前世が元女子高生とは思えないほど冴えてる部分と、前世相応におマヌケなところと、両方がでていていい感じですなww [一言] つつきが楽しみですw
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