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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第一章 異世界転生編
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その21 メス豚、敵陣に切り込む

◇◇◇◇◇◇◇◇


 イサロ王子軍を追うドルド軍は、山から現れた伏兵に長く伸びた隊列の横を突かれて大混乱に陥った。

 ドルド軍は前後に分断され、軍首脳部は後続の部隊と切り離されてしまう。


 現在、後続部隊は指揮官であるドルドからの命令が届かず、各部隊ごとの自衛戦闘に移っていた。

 敵に囲まれることになったドルドの本隊は何とか敵を突破しようとしたのだが、街道を進んでいたイサロ王子軍の囮部隊が反転、攻撃を仕掛けた事により、防戦一方になってしまった。

 昨日猛威を振るった狂竜戦隊はイサロ王子の策にはまって、水中におびき出されて身動きが取れない状態だ。

 ルゲロニ所長によると、このまま体力を使い果たして溺れ死んでしまうだろう、との事。


 今のところなんとか持ちこたえているものの、ドルド軍は苦しい状況にあった。


 その混乱の中、一匹の豚が走竜の部隊を伴って戦場へ突撃を開始したのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 狙いは敵軍の中枢部。

 第一目的は暴走竜部隊なんぞを生み出した悪魔共の抹殺。

 第二目的は暴走竜部隊なんぞを平気な顔をして運用している敵将軍――悪魔の親玉の抹殺。


 恐竜ちゃん20頭で構成された私達クロ子切り込み部隊は一気に山を駆け下りた。

 街道の敵兵がみるみる迫って来る。

 彼らは恐竜ちゃん達の出現に戸惑っているようだ。

 騎士も乗っていない無人の走竜の集団だからな。さもありなん。


 数千の敵軍にたった20頭で何が出来るかって?

 ”電撃戦”って言葉を聞いた事ないかな。

 第二次世界大戦の開戦当初、ドイツ軍は航空戦力と戦車機甲部隊を組み合わせた画期的な作戦で敵軍の防衛線を突破していった。

 ちなみにドイツは第一次世界大戦の敗戦国だったため、敵国となるフランスより貧乏だった。

 電撃戦はその戦力差を補うために編み出された戦法でもあったのだ。


 電撃戦の基本はこうだ。

 先ず、航空機で敵陣の後方を爆撃する。前線が混乱している間に、打撃力を持った戦車を先頭に立てた機甲部隊が、その機動力をもって一気に突破する。

 防衛線を破られて混乱する敵は追従する歩兵部隊に任せて、突破した機甲部隊は防衛網の薄い敵陣後方をその機動力を生かして食い散らかす。

 こうして敵防衛線に空いた穴を中心に味方の全軍で押し込む。という戦法だ。


 この機甲部隊のキモとなるのはやはり主力戦車(MBT)だろう。

 主力戦車(MBT)に求められるのは機動力・攻撃力・防御力。


 私は恐竜ちゃん部隊を主力戦車(MBT)に見立てる事で、電撃戦を模した機動戦を行うことにしたのだ。



『恐竜ちゃん! 魔法攻撃開始(ファイエル)!』


 恐竜ちゃん達は一斉に魔法を発動した。


打ち出し!(ファイアリング)


 私を抱えているボブも魔法を発動。足元に転がっていた拳ほどの石が勢いよく飛んだ。

 敵兵達は恐竜ちゃん達の魔法攻撃を受けてバタバタと倒れていく。

 

 打ち出し(ファイアリング)の魔法は暴走竜も使っていた魔法で、自分の近くの小物を射出するものだ。

 走りながら使ってもかなりの命中精度なため、竜が割と良く使用する魔法のようである。

 普通は足元の石を飛ばす事が多いが、別に石以外の物が飛ばせないわけではない。

 打ち出し(ファイアリング)とは”物を飛ばすという現象を起こす”という魔法だからである。だったらなぜ石なのかといえば、単にそこら中にいくらでも転がっているからである。

 空気を圧縮して飛ばしているわけではないので、私の得意魔法、最も危険な銃弾(エクスプローダー)とは微妙に原理が似て異なる。

 ボブに最も危険な銃弾(エクスプローダー)の原理を説明して、『同じような魔法ってないの?』と聞いたら、『そんなややこしい魔法、見た事も聞いた事もないよ!』って驚いていた。

 どうやら最も危険な銃弾(エクスプローダー)は私のオリジナル魔法だったようだ。ちょっと鼻高々だったのは秘密である。


打ち出し!(ファイアリング)


 恐竜ちゃん達は突撃しながら更に攻撃。

 連続する石の弾丸に敵の隊列が大きく崩れた。


 今だ!


 恐竜ちゃん達は倒れた敵兵を飛び越えると、次々と敵部隊に切り込んだ。

 敵軍に飛び込んだ恐竜ちゃん部隊は打ち合わせ通りに左右に分かれ、そこから五頭ずつ、合計四つの集団に分かれて走り出した。

 ここからは時間との戦いである。

 誰かが敵の指揮官を見つけたら鳴いて私に知らせてくれることになっている。

 恐竜ちゃんという大声が出せる生き物だからこそ出来る連絡方法なのだ。


最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』


 進路上の敵兵に私の魔法が炸裂する。

 ヘッドショットが見事に決まった。ヘルメットの中の顔面が弾けて倒れる兵士。ボブは倒れた兵士を飛び越えた。


 今の兵士は死んだのだろうか? 私の魔法は大型の野犬ですら殺せる程の威力だ。

 顔面にヒットした以上、仮に即死していなかったとしても、もう助からないだろう。


 私は人を殺した。


 何を今更。今の私はメス豚だ。

 人間は私の捕食者。つまりは私にとっての天敵だ。

 敵を殺して何が悪い。


最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』


 今度は別の兵士の鳩尾のあたりにヒット。鎧が弾け飛び、敵兵は痛みに腹を押さえて丸まった。

 さっきは頭部を狙ったが、体に当てさえすれば防具を着た兵士でも無力化出来るようだ。

 だったらわざわざ当て辛い頭部を狙う必要は無い。

 私の目的は兵士を殺す事ではない。暴走竜部隊を作り出したヤツらの抹殺なのだ。

 魔法の使用にだって限界がある。効率よく戦うべきだ。


最も危険な銃弾(エクスプローダー)! 最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』


 不可視の弾丸が飛び、次々と兵士に着弾した。

 運良く鎧に当たった兵士は鎧の破損と負傷で済んだようだが、鎧の隙間に当たった兵士は腹が裂けて内臓がこぼれ出した。

 その兵士は自分の内臓を見下ろしながら絶叫している。あまり痛がっている様子が無いのは、ショックで痛みが麻痺しているからだろうか?


 私はぼんやりと立ち尽くすボブを怒鳴り付けた。


『立ち止まらない!』

『は・・・はいっ!』


 ボブは走りながらポツンと呟いた。


『クロクロの魔法ってえげつないね』

『そんな事よりちゃんと敵の指揮官を捜してよ』


 私達は敵兵の密集地帯を避けながら敵軍の中を駆けまわった。




『見つけたわーっ! 敵の指揮官よーっ!』


 戦いの喧噪の中、「ギョエー、ギョエー」という鳴き声が響いて来た。


 あっちか!


 豚の聴覚はとても優秀で、極めて敏感だ。

 その分視力は弱い――はずなんだけど、私には人間だった頃と同じように周囲が見えている。

 ひょっとしてこれも翻訳(トランスレーション)のような常時発動型の魔法なのかもしれない。

 あるいはこの世界の豚は元の世界の豚よりも視力が発達しているのか。

 いつか確認しておいた方がいいかもね。


『ボブ! あっち!』

『分かったよ』


 私はボブにブヒッと顎で――いや、鼻で方向を指し示した。

 目の前の敵は最も危険な銃弾(エクスプローダー)でぶっ飛ばす。


『大分時間を取られてる。他の恐竜ちゃん達も心配だし、最短距離でお願い』

『クロクロの体ってどうなってるの? いくらでも魔法を使って平気なわけ?』


 ボブは最初の攻撃以来一度も魔法を使っていない。

 さっきからずっと魔法を使いっぱなしの私に驚いている様子だ。

 まあ私はかなり無茶して鍛えたからな。

 私は努力する天才なのだよ。


 恐竜ちゃんの鳴き声を聞いて、散らばっていた恐竜ちゃんが集まって来た。

 パッと見た感じでは大きなケガを負っている者はいないようだ。

 なるべく戦いを避けて広範囲を捜すように指示をしておいたからだろう。

 魔法と言う飛び道具と圧倒的な機動力を持つ走竜の集団に対して、今も混乱している敵兵は有効な攻撃を加える事が出来なかったようだ。


『みんなはもう逃げて! ここからは私とボブだけで行くから!』

『助かるよ。魔法の使い過ぎでもうヘトヘトだったんだ』

『本当。こんなに魔法を使ったのって生まれて初めてだわ』

『・・・多分みんなクロクロの半分も魔法を使ってないと思うよ』


 ボブが何やら呟いている。

 恐竜ちゃん達は仲間と合流すると踵を返した。


 丁度そのタイミングで前方から別の恐竜ちゃん達が走って来た。


『敵の指揮官はここから真っ直ぐ行った先にいるわ。赤毛の背の高い若い男よ』

『ありがとう! みんなと一緒にここを離れて頂戴!』


 声からすると、私に魔法を教えてくれたあの恐竜ちゃんだと思う。・・・多分。

 相変わらず私は恐竜ちゃんの見分けがつかないのだ。


 魔法の時といい、今回といい、私は随分とこの恐竜ちゃんにお世話になっているなあ。


『分かったわ。ああ疲れた』


 恐竜ちゃんは若干おばちゃんっぽいため息をつきながら仲間と合流して去って行った。

 う~ん、あのくたびれた感じ。やっぱりあの恐竜ちゃんなんだろうな、きっと。


 こうして残ったのは私達だけとなった。


『さあ行こうボブ! ヤツらの終わりの始まりよ!』

『クロクロってさあ、時々変にカッコを付けた言い回しをするよね。そういうのって何て言えばいいのかなあ』


 日本では中二と言う。だがこの世界には学校教育制度自体が無いだろう。

 だから私はいくら中二セリフを言っても、中二とからかわれる事だけは無いのだ。

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