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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第六章 メラサニ山の戦い編
201/518

その199 メス豚と亜人村防衛戦

 朝の冷え込みを感じて、私は目を覚ました。

 一ヶ月にも及ぶ防衛戦の中、季節はすっかり秋に染まっている。

 敵の到着を待つ空き時間や、戦場を移動している最中に、ちょこっと秋の恵みをつまみ食いするのが、私の唯一の心の癒しとなっていた。


起床時刻(起きた)?』

水母(すいぼ)、帰ってたのね。ご苦労様』


 テーブルの上のピンククラゲがフルリと震えた。

 水母(すいぼ)には昨晩、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)以外の村人達を安全な後方に逃がして貰っていた。

 寝ていた私を起こさなかったという事は、どうやら何事も無く、無事に彼らを新亜人村まで送り届けたのだろう。


「ワンワン!」


 私達の会話で目を覚ましたアホ毛犬コマが、尻尾を振りながら鼻面を突き付けて来た。

 冷たっ! 濡れた鼻が冷たいんだけど。

 てか、なんだか妙に背中がポカポカと温かいと思ったら、あんた私にくっついて寝ていたのね。まあいいけどさ。


『はいはい。コマもみんなの護衛役、ありがとうね。さて、外の様子を見に行こうか』

了承(せやな)

「ワンワン!」


 今日の戦闘は、この防衛戦が始まって以来、最大の戦いになる。

 先ずは村の様子見(パトロール)。次に敵情視察だ。




 空には青く美しいグラデーションがかかり、まだ太陽は姿を見せていない。

 ここは山の中だからな。明るくなってもすぐには太陽は見えないのだ。

 旧亜人村はどこか閑散としていた。

 まだみんな寝ている時間だから。というのもあるが、今朝は人数が少ないからというのもある。

 昨日まではこの時間でも、早起きのオバチャン達が食事の支度を始めていたものである。


 今、旧亜人村(この場所)に残っているのは八十人。

 全員がクロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)――クロカンの隊員達だ。

 実はクロカン隊員の中でも、新人(ニュービー)達には――具体的には、身体強化の魔法である劣化・風の鎧(ウインドスプリント)の魔法を使えない者達には――村人達と一緒に避難して貰うつもりでいた。

 今日の戦いが厳しくなるのは間違いない。しかし、私はここで彼らを全滅させるつもりはない。

 いつどんな状況で逃げ出す事になっても、敵の追撃を振り切れるように、逃げ足だけは――身体強化の魔法だけは必須と考えていたのだ。


 しかし、彼らはこの一月で、全員が身体強化の魔法を使えるようになっていたのである。

 そう。彼らは実戦の中で劣化・風の鎧(ウインドスプリント)を身に付けていたのだ。


 意外と言っては失礼だが、ここは正直に言おう。意外だった。

 なにせ開戦前は、ほとんどの新人(ニュービー)が身体強化の魔法を使えなかったのだ。

 驚きに目を丸くする私に、彼らは照れ臭そうに答えた。


「俺達は心のどこかで人間の軍隊をナメてたんだ。いや、ナメてたと言うのは言い過ぎか。でも、今考えれば、本気ではなかったんだと思う。ウンタ達が出来るなら俺達だって出来る。何の根拠もなく、そんな風に考えていたんだよ」

「そうだな。そんな俺達の目が覚めたのは、クロ子に連れられて人間の陣地を見に行った時だ。あれは本当にたまげたよ。人間の兵士がうじゃうじゃいるんだもんな。俺なんて膝が震えて仕方が無かったよ」

「ああ、俺もだ」


 山脈越えからの隣国ヒッテル王国戦。敵の討伐軍を呼び込む原因にもなってしまった大モルト軍戦。

 私達は二度の戦いを、誰一人犠牲者を出さずに乗り切った。

 私達の成功を目にした事で、村人達の中には、「ひょっとして人間の軍隊相手って大した事がないのかも」という侮りのような気持ちが生まれていたようだ。

 「水母(すいぼ)の手術を受ければ」「魔法さえ使えるようになれば」人間の軍隊相手だろうと戦える。そんな風に思ってしまったようである。


 しかし彼らは、実際に自分達の目で人間の軍隊を見た事で認識を改めた。

 自分達の考えが、いかに根拠のない自信であるか、ひと目で思い知らされたのである。

 そこからである。彼らは真剣に魔法を学び始めた。

 幸い、彼らには魔法の先輩となる古参隊員達がいた。

 こうして彼らは戦いの中で魔法の技術を身に付けていった。

 そして今では、隊員全員が劣化・風の鎧(ウインドスプリント)を使えるまでになったのだった。


「「「「俺達の魔法(ウインドスプリント)な」」」」

『ああ、はいはい。それね。俺達の魔法(ウインドスプリント)


 てか何だよ、その名前に対する妙なこだわりは。苦労して身に付けた魔法だから譲れないってか?

 ちょっとカッコイイじゃん。べ、別に羨ましくなんてないんだからね。


 しかしそうか。あの時の偵察がそんな効果を生んでいたのか。

 あの時は「どうせ偵察に行くなら、新人(ニュービー)達にも敵軍を見せておくか」ぐらいの軽い気持ちだったんだけど。

 瓢箪から駒が出るというか、犬も歩けば棒に当たるというか、世の中何がどう転ぶか分からないもんだな。


 ――てな事があって、結局、クロカンの隊員達は全員が今日の戦いに参加する事になった。

 私の采配が、決断が、彼ら八十人の命を左右する。


『・・・・・・』

注意力散漫(どうかした)?』

『何でもない。今の敵の様子が知りたいわ。よろしくね、水母(すいぼ)

偵察開始(任せとけ)

「ワンワン!」


 水母(すいぼ)はコマの頭の上から浮き上がると、グラデーションの空の中をフヨフヨと漂って行った。

 元気なコマの声に目が覚めたのか、あちこちの家で人が動き出す音がする。

 私は朝の冷たい空気をお腹いっぱい吸い込むと、心の中で「えいや」と気合を入れたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 早朝。空が白み始めると同時に、指揮官”双極星”ペローナ・コロセオ率いる千五百の本隊が、山の麓の陣地を出発した。

 陣地に残されているのは、行軍や戦闘に参加出来ないケガ人だけ。

 現在動かせる全ての戦力を投入した、正に総力戦であった。


 指揮官コロセオは、今日の戦いこそがこの戦いにおけるいわば「天王山」――結果の分かれ目となる戦いと読み切り、全戦力を出す決断をしたのである。


 コロセオ率いる本隊は、何の抵抗も受けずに整地された山道を進んだ。

 そして正午前には、全軍が亜人村を望む広場へと到着したのだった。


 ここでコロセオの前に黒ずくめの男がやって来た。

 昨夜からこの場で亜人達を見張っていた彼の同僚、”不死の”ロビーダである。


「今動かせる全軍で来たのか。良い判断だ」

「ここまでの見張りご苦労だった。それで敵は? 女王クロコパトラはあそこに――あの村の中にいるのか?」


 ロビーダは小さくかぶりを振った。


「分からん。目撃されたのは亜人と女王の使役する魔獣だけで、女王の姿も駕籠も見ていない」

「魔獣か・・・厄介な」


 魔獣は女王クロコパトラが使役しているらしい、という情報は、既にコロセオと共有している。

 とはいえ、魔獣が亜人と行動を共にしている時点で、既に疑いようはないだろう。

 情報提供者として彼らに協力しているこの国の騎士タウロは、その情報を聞かされてショックを受けていた。


「まさかアルマンド殿下を殺めた魔獣を、女王クロコパトラが使役していたなんて・・・」


 クロ子にしてみれば「手を出したのはお前達が先」と言いたい所だが、タウロは女王に裏切られた気持ちになっていた。

 ロビーダはコロセオに尋ねた。


「それでどうする? ヤツらの堀と土塁は、ちょっとした砦並みだぞ」

「例え器が立派でも、守りに就いているのが有象無象の寡兵では恐れるに足らん。正面から当たって力でねじ伏せればいい」


 乱暴な発言のようだが、コロセオの言葉は理にかなっている。

 数の差を最大限に生かすには、とにかく全力でぶつけるのが一番だ。

 戦いにおいては、力こそが正義。ロビーダもここで下手に策を弄すれば、却って女王クロコパトラに付け入る隙を与えると考えていた。


「ならば俺達はこの場で休ませて貰おう。昨夜はろくに寝ていないのでな」

「そうしてくれ。なに、今日中にカタを付けてやる。女王クロコパトラの首は俺が頂く事になるが恨むなよ」


 この一ヶ月、耐えに耐えた鬱憤を晴らせるチャンスが、ようやくやって来たのだ。

 コロセオは今にも先頭に立って攻め込みたい気持ちを抑えていた。

 ロビーダはコロセオのテンションの高さに若干の不安を覚えた。

 とはいえ、力押しなら自分の出番は無い。ロビーダは今のうちに休憩する事にした。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「クロ子! 敵が隊列を組み始めた! 全員が武器を構えている!」

『・・・いよいよ来るか』


 正午より少し前。敵に動きがあった。敵本隊が合流したのだ。

 その数、約千五百。

 初日に攻めて来た数と同数だが、今回は条件が違う。

 我々は既に敵に発見されている。

 コソコソ隠れて罠にかければいい訳では無いのだ。


 その後、敵は休憩と食事を始めた。

 私達も見張りながら食事にする。

 仲間の何人かは――いや、あるいは全員にとって、これが今生の最後の食事になるだろう。

 そう考えると胃が受け付けなくなるが、そこを意志の力で無理やりねじ伏せる。

 腹が減っては戦は出来ぬ。

 命のかかったギリギリの場面で、生死を分けるのは根性――気力だ。

 もうダメだ。もうムリだ。そう諦めて足を止めた所に死神は忍び寄る。

 空腹では気力が湧かない。食事は戦うための燃料(エネルギー)だ。戦うために、生きるために私達は食べる。


 そんな憂鬱な食事が終わってしばらくすると、敵軍に動きがあった。

 物見台に登った隊員からの報告によると、武器を構えて隊列を組み始めたという。


 遂に敵の攻撃が始まるのだ。


 ブオー、ブオーと、角笛の音が鳴り響く。

 野犬の一部が張り合うように遠吠えを始めたのが、どこかマヌケで気が抜けそうになる。

 この角笛の音には聞き覚えがある。イケメン王子の軍に参加した時に散々聞かされた、大モルト軍の「攻撃開始」の合図である。

 私は隊員達に振り返って叫んだ。


『みんな! 作戦は「命大事に」! 絶対に死に急ぐんじゃないよ! 戦いは今日で終わりじゃない! こんなのは全然、序の口、地獄の一丁目だから! あんた達には地獄の底まで私に付き合って貰わなきゃいけないんだからね!』

「「「「おう!!」」」」


 私の最低最悪の掛け声に隊員達が答える。

 しかし、その声を塗りつぶす勢いで敵の声が響き渡った。


「ウワアアアアアアアアアッ!!!」


 ドドドドドド


 もうもうと土埃を上げながら、敵兵が突撃を開始した。


『来るぞ! 全員、腹に力を込めろ!』

「「「お、おう!」」」


 こうして私達にとっての天王山の戦い。亜人村防衛戦が始まったのだ。

次回「メス豚と防衛戦始まる」

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