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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第六章 メラサニ山の戦い編
200/518

その198 メス豚と決戦前夜

今回のサブタイトルを変更しました。

 私は身体強化の魔法を使用。一陣の疾風(かぜ)となり闇夜を(はし)った。

 旧亜人村を出てすぐ。森の中の開けた場所――敵軍が作った道――にはかがり火が焚かれ、見張りの兵士が立っていた。

 その数は六人。

 彼らが気付く頃には、全てが終わっている。否。私が終わらせる。


『EX最も危険な銃弾(エクスプローダー)乱れ撃ち!』


 無数の不可視の弾丸が、戦士の魂を死への旅路にいざなう。


 パパパパパパパ


「なっ?!」

「ギャアアアア!」


 一発一発は装備に阻まれて致命傷にはならなくても、一度にこれだけの攻撃を受けてしまえば命はない。

 敵の見張りは、体中から血を噴き出しながら地面に崩れ落ちた。


「今のは何の音だ?!」

「敵襲か?!」


 この騒ぎを聞きつけて、他の敵が騒ぎ始めた。

 私は『最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』。かがり火を消し飛ばすと跳躍。漆黒の暗闇の中に溶け込んだのだった。


「全員、その場を動くな! 敵の狙いは同士討ちだ! 近くの者同士が集まって班を作れ!」


 誰かの指示に兵士達の動きが止まる。そのまま近くの物同士が三~四人のグループを作り始めた。

 ちっ。初動で敵の混乱を誘う作戦は失敗か。私は内心で舌打ちした。


 ていうか、今の的確な指示は間違いなくヤツ(・・)だ。

 全身黒ずくめの、まるで忍者のようなあの男。

 この戦いが始まってから、何度も私の作戦を邪魔して来た、あの厄介な指揮官だ。


 そもそも、敵が旧亜人村まで道路を作ろうとした事が、完全に予想外だった。

 まさか初日の退却の直後にこんな手でくるなんて。

 数に劣る我々には、数に物を言わせたゴリ押しが一番堪えるのだ。


 しかも、それだけじゃない。アイツは今まで何度も私の罠を巧みに避けて、部隊の被害を最小限に留めて来た。

 そのあまりにも的確過ぎる指示に、私はマジで考えが読まれているんじゃないかと疑った程である。

 私は、その可能性を水母(すいぼ)に聞いてみた。


『ねえ、本当に相手の心を読む魔法とかって無い訳? そういう噂だけでもいいんだけど』

『心の数値化は不可能(無理ゲー)。よって、心を読む魔法は存在不可(ありえない)


 水母(すいぼ)によると、旧文明では心というものは五次元の一部と考えられていたそうだ。

 どういうこと?

 一次元がX軸()。二次元がX軸()プラスY軸()。三次元がX軸()プラスY軸()プラスZ軸(高さ)。四次元がX軸()プラスY軸()プラスZ軸(高さ)プラス時間軸。とした場合、五次元はこの全てを包括する”何か”でなければならない。

 彼らはそれを”存在する意思”。古代ギリシアの哲学者プラトンの定義したイデアのような物だと考えたようだ。

 心や意志は五次元の事象――イデアが三次元に落とした影のようなもの。心を正しく理解するためには、五次元的な視点から見る必要がある。だから三次元の壁を越えられない私達が、心を数値化するのは不可能なんだそうだ。

 何を言っているのか分からないって? 私だって、よー分からんわ。


「敵は魔獣だ! 飛び道具――遠距離攻撃の魔法を使って来るぞ! 大盾を持つ者が仲間を守りつつ周囲を警戒! 闇雲に捜すのではなく、全体を眺めて動く物を捉えるんだ!」


 おっと、理解不能な哲学の話を思い出している場合じゃなかった。

 今は戦闘中だ。集中しないと。


『てか、やり辛いったらないな。ホントにあの忍者野郎、どうにか始末出来ないもんか』


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ”五つ刃”、”双極星”ペローナ・コロセオの指揮する、仇討ち隊。

 彼らがこのメラサニ山に到着してから約一ヶ月。戦いは一つの大きな転換期(ターニングポイント)を迎えようとしていた。

 彼らが目的としていた亜人村。その目と鼻の先にまで遂に到達したのだ。


(くそっ。夜襲をかけて来るとは分かっていたが、露骨な同士討ち狙いか。相変わらずイヤな手を使う・・・)


 黒ずくめの指揮官。”五つ刃”、”不死の”ロビーダは、内心で舌打ちをしていた。

 クロ子が「厄介な指揮官」「忍者野郎」と毒づいていたのは、言うまでもなく(ロビーダ)の事である。

 しかし、ロビーダはクロ子が思っているように、彼女の策を読み切っている訳ではなかった。

 むしろ、常に先を――しかも斜め上を行かれて、後手を踏んでいるとすら感じていた。


 この一月の間。クロ子は様々な手段で彼らの工事を妨害して来た。

 茂みの中には、必ずと言っていい程、草を結んだ罠が作られ。迂闊に踏み込んだ兵士の足をすくった。

 進行先に大きな丸太が積み上げられていた事もあれば、無数の落とし穴が掘られていた事もあった。

 中でもタチが悪かったのは、木や藪に塗られた薬である。

 亜人村では職人的役割の老婆マニス(※以前、クロ子が大砲の試作を頼んでいた老婆)。彼女が作ったのは弱い毒性のある薬で、触れただけで皮膚に強い痒みを与えたり、漆のようにアレルギー反応を起こしてかぶれを引き起こすものだった。

 うっかり気付かずに触った工兵達は、かゆみや炎症にやられ、作業どころではなくなってしまった。

 敵陣では、患部を掻かないように腕を拘束された兵士が、痒みに身悶えしながら絶叫する声が一日中響き渡り、兵士達の精神をゴリゴリと削っていった。


 この頃になるとロビーダには敵の――クロ子の――狙いが分かっていた。

 ロビーダは、良く言えば現実主義者、悪く言えば情に薄い人間である。

 勝率を上げるためには味方の犠牲も容認するし、必要と考えれば部下を死地へと送り出す事もいとわない。

 言い換えれば、戦いに関しては効率を重視する人間なのだ。

 そんなロビーダだからこそ、いち早くクロ子の狙いに気付く事が出来たのである。


「亜人の女王クロコパトラは、わざと死者を出さないようにしている」


 戦力を決める最大の要素は、”数”と”士気”である。装備や練度はその次に来るものと考えていい。

 クロ子の罠は、その全てが敵の”数”を減らす事にでは無く、”士気”を下げる事に極振りされていたのだ。


 クロ子はこのメラサニ山を天然の要塞として最大限に活用している。

 険しい斜面と亜人村までの長い道のりは、ただ行軍しているだけで兵士達の体力と気力、そして集中力を奪う。

 しかも兵士達はただ漫然と行軍している訳にはいかない。いつどこから静かな敵――クロ子の仕掛けた罠が襲い掛かって来るか分からないからである。行軍中は気の休まる時間は無いのだ。


 戦いの中で退却しなければならなくなった時、基本的には、死体はその場に放置されていく。

 人間の死体というのは案外荷物になる。将軍等の高官クラスの戦死者でもない限り、通常は遺体の一部――遺髪や形見が持ち帰られる程度である。

 しかし、ケガ人となれば話は別だ。体を動かせない程の瀕死の重体や、よほど余裕のない戦いでもない限り、普通は連れて逃げる事になる。

 当然だ。

 ケガをすれば見捨てられると知れば、兵士は我が身を惜しんで戦わなくなるからである。

 また、助けられる仲間を見捨てた、という事実は逃げた兵士達にとっても心の重荷となる。ひいては、見捨てる命令を出した指揮官に対する不満や不信感にもつながる。

 指揮官にとっては、人道的な面でも、部隊の士気の面でも、負傷兵を――味方を見捨てるという選択はないのである。


 クロ子はそこを突いて来た。


 戦いで戦死者達が出れば、兵士は仲間の死に憤り、敵に――この場合はクロ子達亜人に対して――復讐の怒りを燃やし、一致団結するだろう。

 しかし、敵は見えない、ケガはする、では、どこにも気持ちの持って行きようがない。


 険しい山を行軍する肉体的、精神的疲労感。なのに、敵の姿すら見えない徒労感。それでいて、こちらだけが罠にかかってケガをする理不尽感。疲れ切って陣地に戻れば、そこにはケガをした仲間達の姿。夜には彼らのあげる苦痛のうめき声を聞きながら寝りに落ちる。

 そんな状態で士気を保てるだろうか? 不可能だ。


 あえて殺さない事で――ケガ人という足手まといを増やす事で――敵軍の”数”ではなく、”士気”を狙い撃ちにする。


 ただの遅滞戦術ではない。そのあまりに悪辣、あまりに異質、あまりに常識外れな戦いに、”不死の”ロビーダをもってしても、戦慄と――そして嫌悪感を感じずにはいられなかった。


 メラサニ山という天然の要害。規格外の魔法の力で、攻撃に罠の仕掛けにと、八面六臂の活躍を見せるクロ子。高性能な偵察用ドローンにも匹敵する水母(すいぼ)。そして、迷いなくクロ子の指示に従い、全員一丸となって粘り強く作業に取り組む亜人の村人達。

 そのどの要素が欠けても、この一ヶ月の成果は得られなかっただろう。


 しかし、数の暴力はそんなクロ子達の努力をも踏み潰す。

 指揮官の”双極星”ペローナ・コロセオは、多くのケガ人を出しながらも断固とした決意で工事を続け、遂には亜人の村に――敵の喉元に刃を突き付ける事に成功したのである。


 今や目に見える到達点が――亜人の村という目的地が――ある事だけが、兵士達の救いとなっていた。

 到達した亜人村は、周囲に堀が作られ、高い土塁によって要塞化されていた。

 捕虜の騎士の話によれば、どちらも以前には無かったそうである。

 強固な防衛施設。食事の時間に上がる煙の数。そして実際に目に見える亜人達の数。

 ここが彼らの本拠地である事は一目瞭然であった。


 ここさえ落とす事が出来れば、自分達の勝利だ。

 兵士達はただそれだけを心の支えに、作業を進めた。

 その努力と苦労は報われる直前にまで来ている。


 しかし、ここに来てロビーダは、イヤな予感がして仕方が無かった。


(確かに兵士達の士気は高まっている。しかし、裏を返せば、もしも失敗すれば兵士は目的を失い、戦う気力を失ってしまうという事でもある)


 自分の考え過ぎかもしれない。こちらの大軍に対して、女王クロコパトラはなすすべもなく、悪あがきをしているだけかもしれない。

 しかし、この一月の間、すっかりクロ子によって猜疑心を刷り込まれてしまったロビーダは、どうしても楽観的な考えを持つ事が出来ずにいたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ここは旧亜人村。

 月明かりの中、村人達が広場に集合していた。

 村長代理の少女モーナが、全員集まっている事を確認した。


「それじゃ、スイボちゃん、コマ。案内をよろしくね」

先導了承(まかせて)

「ワン!」


 淡く発光しているピンククラゲが、アホ毛犬の背中でフルリと震えた。


 ここに集まっているのは、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)以外の村人達。つまりは非戦闘員達である。

 彼らはクロ子が敵の見張りと戦っている間に、新亜人村に戻る手はずとなっていた。

 そう。クロ子の夜襲は、彼らを逃がすための陽動だったのである。


 彼らは村の背後の急斜面に作られた道から密かに抜け出し、新亜人村へと向かった。

 敵の見張りはクロ子の陽動作戦に見事にはまり、彼らの逃亡に気付く者は誰もいなかったのだった。

次回「メス豚と亜人村防衛戦」

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[一言] クロ子のことだから旧亜人村に誘い込んで村ごと殲滅するとかやりそうw
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