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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第一章 異世界転生編
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その16 メス豚、暴走竜の謎を暴く

 敵の秘密兵器は貪竜を使った魔法攻撃部隊だった。

 限界を超えて魔法を使う異常な竜達。

 仮に彼らの事を”暴走竜部隊”と呼ぶ事にしよう。



 行軍の休憩時間。私はボブ以外の恐竜ちゃんからも暴走竜部隊についての話を聞く事にした。

 そのほとんどはさっき聞いたボブの話と大して変わらなかったものの、一匹だけ彼らとの会話に成功した者がいた。


『会話っていっても大した事は聞けなかったわよ? 確か「人間の命令通りに魔法を使っている間はいいけど、イヤになって止めた途端に死ぬほど苦しい思いをする。だから嫌々従っている」とか言ってたわね』

『! その竜って人間に何か体をいじられたとか言っていなかった?』

『ううん。私の聞いた話はさっきの言葉だけ。それ以上は何も聞いていないわ』

『・・・そういやアイツら頭のこの辺にケガをしていたな。同じ場所にケガをしているヤツが何匹もいたんで少し気になってたんだ』

『それだ! 他にも頭のケガに気が付いた人いない?!』


 残念ながら暴走竜達の頭のキズに気が付いたのはその恐竜ちゃんだけだったようだ。

 もしも私の予想通りだったとすれば、そのキズはただのケガではなく手術の痕のはずだ。

 そもそも何匹もの竜が頭の同じ場所にケガをするなんて、普通に考えれば有り得ない話だからな。


 証拠は何もない。しかし、恐竜ちゃん達の話を聞いて、私の中の疑惑は確信に変わりつつあった。

 私は恐竜ちゃん達にお礼を言うと、考えを纏めるために一人になった。




 隣国ヒッテル王国。なんて恐ろしい事をするヤツらなんだ。

 私は湧き上がる怒りとおぞましさに身震いした。


 暴走竜はおそらく彼らによって人為的に生み出されたものだ。

 元々はただの貪竜を、彼らはどういう方法かによって暴走竜になるように改造したのだ。


 魔法を使う生物は体にマナ受容体(レセプター)を持っている。

 もちろん詳しい方法までは分からないが、おそらく彼らはそこに外科手術で手を加える事により、何らかの変化なり強化なりを促す事に成功したのだろう。

 それによって暴走竜達は魔法による疲労を感じる事無く、無制限に魔法を使える体になったものと思われる。


 そこだけ聞くと大成功な手術だが、もちろん世の中にそんなにうまい話があるはずはない。

 暴走竜達は疲労を感じないだけで、疲労自体は体に蓄積しているのだ。

 多分、魔法を使ってマナ受容体(レセプター)が活性化している時には感じないだけで、マナ受容体(レセプター)が不活発になった時に初めて自覚する事が出来るのだろう。

 つまりアレだ。火事場のクソ力的な感じ?


 暴走竜は魔法を使うと火事場のクソ力がオンになって疲労を全く感じなくなる。

 しかし当然、疲労自体がなくなるわけじゃないので、魔法を使うのを止めると火事場のクソ力がオフになって疲労を感じるようになる。

 疲労を感じた暴走竜達はどうするだろうか?


 また魔法を使うのだ。


 魔法を使ってマナ受容体(レセプター)が活性化すれば疲労感は消える。

 しかし感じないだけで体にはさらに追加で疲労が蓄積されている。

 一時の苦しさから逃れるために、彼らはさらなる負担を体に抱え込むことになるのだ。


 そして魔法を止めれば、当然さっきとは比べ物にならない程の疲労が暴走竜達を襲うはずだ。

 そうなった時、彼らはどうするだろうか?

 苦しさから逃れるために、やはりまた魔法を使うのだ。

 こうして雪だるま式に疲労は蓄積され、いずれは肉体の許容量の限界(キャパシティー)を超える。


 肉体の限界を超えた先にあるのは当然死だ。


 しかし運良く、いや、あるいは本人にとっては運悪く死に至らなかった場合。

 その暴走竜は長時間の想像を絶する苦痛を味わう事になる。

 死んだ方がましとも思える永劫の苦痛によるストレスで、生き残った暴走竜達の心はおかしくなってしまうのだろう。


 ただただ目の前の苦痛から逃れるために、彼らは人間に命じられるがままに魔法を使い続ける。

 それが自分にさらなる苦痛を与える事になるとも知らず。


 それは覚せい剤中毒で廃人になっていく人間と似ているのかもしれない。

 ただ、覚せい剤中毒患者は自分の好奇心なりで自ら進んで覚せい剤に手を出すのと異なり、暴走竜達は人間による手術で強制的に廃人になる道を押し付けられた、完全な被害者なのである。


 ――勿論証拠はない。あくまでもこれは私の推測であり想像だ。

 しかし、状況的に考えても大きく外しているとは私にはどうしても思えなかった。


 貪竜は元々は臆病で大人しい竜だという話だ。

 それが人間の手によって兵器に改造され、心が壊れるまで使い潰された挙句に最後は過労で死んでしまう。


 暴走竜を生み出したヤツはきっと人の皮を被った悪魔だ。

 他者の命の尊厳を踏みにじる、命を命とも思わない精神異常者だ。


 私は心にふつふつと湧き上がる怒りの感情をぶつける先も無く、歯を噛みしめてこらえる事しか出来なかった。




 短い休憩時間が終わり、王子軍の行軍が再開された。

 最初は悲壮感の溢れる敗戦軍の集まりだったが、次第に自分達の国が近付いて来ているせいか、彼らの歩みにも若干の力が戻っているようにも見える。


 さて、国が近くなると問題になるのが脱走兵だ。

 「ここからなら帰れる」「このまま軍にいたら敵が追い付いて来た時には戦わないといけなくなる」「ここまで来て死ぬのはゴメンだ」などという気持ちがどうしても兵士達の頭をよぎってしまう。

 馬に乗った騎士達が注意深く監視しているようだが、今夜の野営辺りが危ないんじゃないだろうか。

 一体どれだけの兵が逃げ出す事やら。

 そんなタイミングでもしも敵に夜襲をかけられでもしたら完全にアウトだ。

 王子軍はバラバラになり、それぞれが命がけで自分の故郷を目指すことになるだろう。


 今夜がこの戦の最後の山場かもしれない。


 私は恐竜ちゃんに運んでもらいながらそんな事を考えていた。



 ちなみに先に言っておくと、懸念された敵の夜襲は無かった。

 覚悟を決めていたのに肩すかしだったよ。

 まあ、無ければ無いでそっちの方が良いんだけどね。


 その一方で脱走兵の方はゴッソリと出たようだ。

 敗軍だしこればっかりはしゃーないか。

 誰だって自分の命が一番大事なのだ。

 まあそう思うのも、私が軍とは無関係なメス豚だからだろうがな。




 日も傾き、陣が張られて野営が始まった。

 明日か明後日にはガチムチ村に――なんだかイヤな名前だな。じゃあショタ坊村で。ショタ坊村にたどり着けるだろう。

 つまり今夜を乗り切ればショタ坊は無事にショタ坊村に帰る事になる。

 そうなれば私は晴れてお役御免である。


 お前何もしてないだろうって? まあそうなんだけど、ショタ坊に危険が無かったんだから仕方ないじゃん。

 ボディーガードが暇なのが一番じゃない?

 便りがないのは良い便り。

 平穏無事に勝る物はないのですよ。


 とはいえこの時の私は敵の夜襲を警戒していた。

 さっきも言ったけど、実際にはこの夜は敵は来なかったんだけどな。

 まあでも、私がそんな事を知るはずないし。


 周囲が寝静まった中、私はあっちをウロチョロ、こっちをウロチョロと徘徊――もとい、入念なパトロールを行っていた。


 あっ、誰かの食べ残しゲーット。


 モグモグ・・・はっ! いや、違うから。これはパトロールであって、食べ物を探し歩いている訳じゃないから。

 夜食を求めて徘徊している訳じゃないから。

 

 そんな風に陣地をパトロールをしている最中に、私は思いもよらない出会いをしてしまうのである。



 月も天高く上ってそろそろ深夜になろうかという時刻。

 見張りの兵士以外は全員寝静まっている――いやまあ、あちこちでコッソリと陣地を抜け出していく脱走兵はいるけどな。

 まあ概ねみんな寝ていると言ってもいいだろう。

 考えてみりゃそりゃそうだ。

 彼らは昨日の夜中に起き出して戦場まで移動した上に、今日は朝から合戦をしただけでなく、その戦いに負けてついさっきまで敗走していたのだ。

 精も根も尽き果てて、ヘトヘトになっていたのだろう。


 私はショタ坊や恐竜ちゃんに運んで貰っていたのでそうでもないけどな。

 その分今夜は見張りを手伝っているんだから大目に見て欲しい。


 さて、そろそろショタ坊のテントに戻ろうか、などと考えていたその時、私は夜目にも鮮やかな金髪に目を奪われた。


 銀色の月の光を浴びて憂い顔で佇むのは、高校生くらいの年頃のハンサムな少年。

 この国の王子様――え~と、そういや王子様の名前って何だっけ? まあいいや。この国のイケメン王子だった。


 彼はお供も連れずにただ一人でぼんやりと立ち尽くしていた。


 は~、やっぱり絵になるわ~。


 私はしばしの間彼の横顔に見とれてしまった。

 二次元から抜け出したような飛び切りの美形が、口を開けば案外毒舌の持ち主だという事を私は知っている。

 けど今夜の王子様は憔悴した様子で、かつては全身から発していた太陽のようなオーラというか、カリスマ的な存在感を感じなかった。

 抱けば折れそうな、あるいは触れただけで砕けてしまいそうな、そんな今にも消えてしまいそうな儚い美しさがそこにはあった。


 あっ、目が合っちゃった。

 ドキッ。まるで映画や少女漫画のワンシーンみたいじゃない?

 月夜のボーイミーツガール。

 この瞬間、私はこの世界の主人公になっていた。


「――なんでこんなところに豚が?」


 ・・・

 あ~、そういや今の私は豚だっけ。


 あまりにバッチリ絵になる光景に、柄にもなく(って失礼な!)乙女チックな雰囲気に流されていた私は、王子様の言葉に現実を突き付けられて一気に冷めてしまった。

 おのれこのドS王子め。私のMが目覚めてしまったらどうしてくれる。


 あ~ハイハイ。どうせ私はメス豚ですよ。

 私と王子様は月とスッポン、メス豚に真珠でございますよ。


「なんだ? 妙にやさぐれた目をした豚だな。・・・まあいい。ここで会ったのも何かの縁だ。少し俺の話を聞いていけ」


 そう言うと王子様は大きなため息を漏らした。


「人には決して聞かせられない愚痴も、豚相手になら話しても構わないだろう」


 ・・・さようでございますか。私のようなメス豚相手でよろしければ存分に。


 私は地面に座って手招きをする王子様の側にトコトコと歩み寄るのだった。

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