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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第五章 大モルト侵攻編
171/518

その169 メス豚と防衛戦(二日目)

 私はぼんやりとした頭で、兵士達が外を歩き回る足音を聞いていた。

 ていうか、眠い。静かにして欲しいんだけど。

 私は自分のテントの中で、ゴロリと寝返りをうった。


 我ながら無茶を言っている自覚はある。

 なにせ今は朝。そろそろ朝日が完全に昇ろうかという時間だ。

 今のうちに食事を終わらせておかないと、敵の攻撃が始まってしまう。

 腹が減っては戦は出来ぬ。私の言い分の方が身勝手なのだ。それは分かっている。


 けど、思わず愚痴りたくなる程、私は睡眠不足だった。

 原因は昨夜の作業にある事は言うまでもない。

 昨日の昼間の戦闘で、敵の凄腕”五つ刃”は、こちらの堀の五か所に埋め立て地を作った。

 敵軍は早ければ今朝の一発目から、そこを通って攻め込んで来るだろう。

 王子軍は敵軍に比べて、兵士の数も、兵士の質も、兵士の装備も、全てがことごとく劣っている。

 ぶっちゃけ、まだ負けていないのが不思議なくらいのザコなのだ。

 ていうか、負けていれば手伝いになんて来なくて済んだのにな。

 私は大口を開けてあくびをした。


『ふあ~あ。う~む、いかんな。どうも朝からテンションがだだ下がりだわ。水母(すいぼ)、どこ?』

朝の挨拶(ういーっす)

『ういーっす、って・・・何その挨拶。てか前から思っていたけど、アンタどこでそういう言葉を覚えて来る訳?』


 ピンククラゲがニョロリと触手を伸ばしてペコリと折り曲げた。あれでお辞儀のつもりらしい。

 彼は私が寝ている間に、クロ子美女ボディーのメンテナンスを行っていたのだ。

 昨日の私は、昼間に戦場で、夜に埋め立て地でと、立て続けに魔法を使用したために、美女ボディーの方にも負荷がかかっていた。らしい。

 そこで水母(すいぼ)は、今日の戦いに備えて徹夜で調整を行ってくれていたのだ。


 人を働かせて、お前はグースカ寝てたけどいいのかって?

 水母(すいぼ)の本体は、施設の奥に眠る超古代文明のコンピューターだから。

 生身の私と違って、睡眠を必要としない、常時稼働モデルだから。安心の一万年連続稼働補償だから。

 むしろ止めたら、誰がスイッチを入れ直すんだ? って話になるわな。


準備万端(いつでもOK)


 水母(すいぼ)は触手を伸ばすと、美女ボディーの身だしなみを整えた。

 心なしかいつもより、じっくり丁寧な気がする。

 なにせ今日は朝から最前線に出る予定だからな。水母(すいぼ)としては、自分の作った作品が衆目に晒される形になる訳だ。

 前人類の残したスーパーコンピューターのプライドにかけて、新人類共に見苦しい姿を見せる訳にはいかないのだろう。


『プライド? そんなの存在しない(ないよ)。私は感情を持たない』


 そう? 私は結構水母(すいぼ)は感情が出やすい方だと思っているけどさ。

 まあ、そういう設定(キャラ)で押し通したいのなら止めはしないけど。コンピューターだし、無感情系キャラってのも定番だからな。


 その時、テントに誰かが近付いて来る気配があった。


「クロコパトラ女王。起きているか? 人間の子供がやって来たんだが」


 この声は副官のウンタだ。

 どうやらショタ坊が私を呼びに来たらしい。早いな。何かあったのか?


『分かった。直ぐに出るから、小隊員達を集めといて』


 さて。いよいよ本格的な戦闘に介入する時が来た。今日は気が抜けないな。




「ふあ~~あ」

「・・・おい。何度あくびをしたら気が済むんだ」


 いつまでもあくびが止まらない私を、ウンタが見とがめた。

 仕方がなかろう。出ちゃうものは出ちゃうんだから。

 てか、ショタ坊がイケメン王子との食事になんて誘うからいかんのだ。


 やけに早く呼びに来たから何事かと思ったら、「食事をご一緒にどうですか?」と来たもんだ。

 いやいや、普通に無理だから。

 義体という梱包材に包まったまま食事なんて出来ないから。


『理屈の上では十分可能(やれるよ)


 マジでか。


 水母(すいぼ)がフルリと体を震わせた。

 この義体は、元々患者の欠損部位を補うものなので、ほぼほぼ人体と同じ機能を持っている。

 だから義体でも食事がとれるそうなのだが・・・いや、やっぱ無いわ。ご飯は生身で味わって食べないと。


「ご飯って・・・日頃、森でどんぐりや虫を拾い食いしているアレの事か?」

「あれなら、調理した食事が食べられるだけ、女王の体で食べた方がマシなんじゃないか?」

「ここの飯はまあまあ美味いからな」


 小隊員達に正論でフルボッコにされる私って。

 散々勝手な事を言いおって。お前らはこの体に入った事が無いから、そんな事が言えるのだ。

 ぶっちゃけ、食事の時くらいはここから出たいのよ。外の空気が吸いたいのよ。


 さて。我々が何をやっているのかと言えば、ショタ坊の食事待ちである。

 イケメン王子からの食事のお誘いを「いえ、結構です」とバッサリ断った私は、小隊員達に囲まれた状態で、ショタ坊が戻って来るのを待っていた。

 どうやら王子の中では、ショタ坊が私の担当者というか、お世話係になっているらしく、今日の作戦にも彼に同行するように要請して来たのだ。

 まあ別に私らはそれで構わんのだがな。

 昨日世話になった(世話をした?)腰曲輪守備隊の元優男君は、私にくっ付いて来たかったようで、悲しい目をしながら副官に引きずられて行った。

 あっちはあっちで重要防衛拠点だ。頑張ってくれたまえ。

 ”二つ矢”アッカムはブッ殺してやったからな。少しは楽になっていると思うぞ。


 などと考えていたら、ショタ坊がやって来た。いつもの護衛も一緒だ。

 さらに背後には例のロマンスグレーの伯爵様も続いている。


「お待たせしました。それで、クロコパトラ女王のお立てになった作戦なんですけど――」

「是非、私もこの目で実際に確認したいと思いまして」


 なに? 伯爵様も一緒に来たいとな?

 お目付け役のつもりか? 私の? それともショタ坊の?

 私は彼の表情を窺うが、相手は流石は上級貴族。ポーカーフェイスに隠されて、その本心は全く分からない。

 案外私の考え過ぎで、さっきの言葉の通り、単に自分の目で戦場を確認したいだけかもしれない。

 

「――デアルカ。好きにするがいい」


 考えても分からない事は、考えるだけ無駄である。

 こちらとしても、反対さえされなければ、反対する理由もない。

 そもそも私らって、亜人の小集団とそれを纏める小娘だからな。

 軍でも偉い人が一緒にいてくれた方が、現場で舐められずに済んでいいんじゃなかろうか?

 てなわけでここからは移動タイム。目指すは”大手”。この陣地の出入り口である。




 はい、到着。移動タイムの終了のお知らせです。

 まあ、道なりに丘を降りただけだからな。

 ここは、敵が埋め立てて作った五か所の橋の一番真ん中。

 さてさて、敵の様子はどうなっているのやら。おっと、その前に仕込みの具合を確認しておかないとな。


水母(すいぼ)

『フルリ(了解(かしこまり))』


 私はショタ坊達と陣地の指揮官が話をしている間に、土塁の上に移動した。

 魔法発動――ふむ。この手応えの無さよ。

 これは上手くいきそうだな。


 そして対岸の敵兵は――と。

 かがり火の後ろには、ここからでも分かる程、黒い燃えカスが山と積まれている。

 彼らは入れ代わり立ち代わり一晩中、こちらが埋め立て地を崩さないように見張っていたのだろう。

 ご苦労な事である。

 

 私が土塁の上から降りると、ショタ坊が駆け寄って来た。


「女王。言われていた物はあちらに準備出来ているそうです」

「デアルカ」


 さて。十分な数は集まったのかな?



 私達が案内されたのは、丘のふもと。

 そこには一抱えもある大岩が、ゴロゴロと転がされていた。


「大体ニ十個ですか。意外と少ないですな」


 伯爵様の呟きに、指揮官が慌てて言い訳を始めた。


「そ、そうはおっしゃられても、あまり斜面を切り崩すわけにもいかず、また、十分な大きさの岩ともなると、ここいらでは中々条件に適した物は見当たりませんで」

 

 伯爵様は片手を上げて指揮官の言葉を遮ると、私に振り返った。


「どうですか? クロコパトラ女王。こちらで足りますか?」


 足りるかどうかで言えば足りないが、要防衛箇所は五か所もある。

 私の魔力だって無限にある訳じゃないからな。一ヶ所あたりニ十個ならまあまあなんじゃない?


「さての。やってみなければ分からぬ」

「そ、そんなあ・・・」


 指揮官は世にも情けない顔になった。

 よっぽど伯爵様の機嫌を損ねるのが怖いらしい。

 封建社会だからな。さもありなん。


 さて。今日の作戦だが、私は昨夜のうちに、現場の指揮官に話を通して貰っていた。


 先ず第一に、明日は私も勝手にやるから、そちらも勝手に防衛をして貰う事。

 これには当然、異論も不満も出なかった。ぶっちゃけ、私のような怪しい女から、あえて言われるまでも無い事だったからである。


 次に、私が許可を出すまで、絶対に陣地から出て攻め込まない事。

 一見、彼らが従えるはずもない乱暴な言葉だが、こちらも特に異論も不満も出なかった。

 なにせ明日の相手は、”五つ刃”の指揮する精鋭部隊だ。

 守るだけでも精一杯。こちらから攻め込むなど、「やれ」と言われても不可能な話だからである。


 さて。最後は少し手間と労力のかかるお願いだ。大きな岩を出来るだけ数多くそろえて欲しい。大きさは問わないから、大きければ大きいほどいい。

 背後の丘を人海戦術で掘り返せば、いくらでも手に入るだろう。

 出来れば分かり易い場所に纏めておいて欲しい。というものだった。


「この三つの要求を呑んで貰えさえすれば、明日は妾の力を存分に振るおうぞ」


 指揮官達は呆気に取られていた。

 きっと「この女、何を言っているんだ?」とでも思っていたのだろう。

 私に協力するともしないとも言わない指揮官達だったが、伯爵様の一言で目の色を変えた。


「クロコパトラ女王の魔法は、非常に大きな力と聞いています。殿下も女王の戦果には期待しておられるご様子。現場の指揮官は女王のご希望に全力で応えるように」


 上位者からの命令は絶対である。それがお願いや要望の形をとっていても、「だったらやらない」という選択肢は彼らには存在しないのだ。

 彼らは快く(?)、私に協力してくれる事を約束したのだった。

次回「攻撃始まる」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 以前の砦攻めの再現か… [一言] こんな戦場でよくそんな岩を準備できたな…
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