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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第五章 大モルト侵攻編
170/518

その168 メス豚、相談を受ける

 初めて戦闘に参加したその日の夜。

 私はショタ坊に案内されたイケメン王子のテントで、ショタ坊から王子軍の抱えている窮状を聞かされていた。


「なる程――のう」

「――女王の魔法のお力で、どうにか出来ないでしょうか?」


 身を乗り出すショタ坊。

 まあ待て、ちょっと整理させろって。


 王子軍の窮状。それは今日の戦いで、防衛の要としていた堀を敵に埋められた、というものだった。


 ここで状況を振り返ってみよう。

 以前も説明したが、王子軍の陣地は前方後円墳のように二つ連なった丘の上に作られている。

 高くて小さな丘が北東に、低くて広い丘が南西に。

 それぞれの丘のてっぺんは平らに整地(※普請(ふしん)と言う)され、小さな丘は本陣の”本丸”、大きな丘は兵士達のテントが並ぶ”二の丸”となっている。


 どうやら元々、この場所には砦が作られていた途中だったらしく、丘の周囲はぐるりと堀で取り囲まれている。いわゆる横堀というヤツだ。

 横堀は所々、未完成の状態で放置されていたようで、敵は主にその場所から攻め込んで来ているらしい。


 さて。不完全な横堀とはいえ、攻守の要ともなる砦の出入り口――つまりは”大手”の堀は既に完成している。大きなコの字に作られた堀は、深さ三メートル、幅十メートルにも達しているという。

 これは結構な規模で、王子軍が今日まで敵軍の猛攻をしのげている要因にもなっていた。

 逆に大モルト軍にとってみれば、ここをどう攻略するかが敵陣攻略のカギとなるわけで、この場所は初戦から激しい攻防戦が繰り広げられていた。

 なる程。私らが今日参加していた戦いは、メインの戦場ではなかったんだな。



 さて。そんな大手近くの戦いだが、今日になって敵は新たな策を講じて来た。

 それは、空になった麦の樽や麻袋に土を詰めて、それを堀に投げ入れるというものだった。

 つまりは土嚢だな。

 どうやらこの世界では、工事に土嚢を使うというのは一般的ではないらしく、最初、王子軍は敵の狙いを計りかね、対応が後手に回ってしまったんだそうだ。


「というか、お主らは土嚢も使わずに、日頃はどうやって土木工事を行っておるのじゃ?」

「? あれは土嚢と言うのですか? 工事の仕方と言われましても、一定の間隔で地面に木の杭を打ち込み、そこに板を渡し、土が漏れないようにした所で中を土で満たしますが」


 なる程。分かったような分からないような。とにかく土嚢は使わないというのは分かった。

 そんな訳で、最初、王子軍は敵軍の狙いが分からずに戸惑っていた。

 その間に堀はどんどんと埋め立てられていく。

 ようやく事態を悟った王子軍が慌てて攻撃を開始すると、ここで敵の主力が牙をむいた。


「恐ろしく腕の立つ者達が指揮する、五つの精鋭部隊が襲い掛かって来たのです」


 捕虜にした敵兵からの情報によると、彼らは”五つ刃”と呼ばれる凄腕なんだそうだ。


 大二十四神の一柱、ザイードラ。

 冥府神であり、”命を刈り取る神”とも呼ばれる彼女の大鎌は、一振りで五つの命――赤ん坊・幼子・若者・成年・老人――の魂を刈り取るとされている。

 これをザイードラの鎌の五つ刃と言うそうだ。


 敵は自分達の五人の精鋭を、命を刈り取る神の鎌になぞらえて、五つ刃と呼んでいるという訳だ。

 ふむ。中々私好みの良設定(良いセンス)だ。そして出来れば彼らには味方として出会いたかった。

 こういった強豪は敵として出て来るものだろうって?

 そういう”創作物のお約束”みたいなのはいらないから。


 五つ刃の攻撃は凄まじく、王子軍は手も足も出なかったそうだ。

 そうこうしているうちに、敵はどんどん堀を埋め立てて行き、たった一日でほぼ埋め終わってしまったのだという。


「いえ、流石に全て埋められた訳ではありません。敵が作ったのは五か所の埋め立て地。五本の橋というわけですな」


 イケメン王子の副官、ロマンスグレーのオジサマが、私の間違いを訂正してくれた。サーセン。


 しかし、なる程。

 これでイケメン王子が憔悴しているのも納得出来た。

 敵が作ったという五本の橋。

 敵軍は明日、その橋を使って、(くだん)の五つ刃に率いられた部隊を送り込んで来るつもりだろう。

 堀という強力な防衛施設を失った王子軍が、果たして五か所の精鋭軍を抑えきれるだろうか?

 まあ、普通に考えれば無理だわな。

 これは王子が不安で落ち着かないのも分かるってもんだ。


 さて。大体の事情は分かった。

 逼迫した状況の王子軍。その原因は二つ。

 一つは完成しつつある堀の橋。

 もう一つは、五つ刃と呼ばれる凄腕に率いられた精鋭軍。

 てか、今日私達が戦った”二つ矢”だって、結構な強敵だったと思うんだけどな。

 その日のうちに、更にその上が登場するのかよ。

 なんたるパワーインフレ。敵は一体どれだけの戦力を抱え込んでいるんだ?

 なんだか向こうだけズルくない?(チートじゃない?)


「それで、クロコパトラ女王の魔法で、橋だけでもどうにか出来ないでしょうか?」


 おっと、軽く現実逃避している場合じゃなかった。

 未だに残業気分が抜けていないのかな。

 とはいえ――


「とはいえ、実際に見てみぬことにはどうとも言えんな」

「それは・・・敵は対岸に兵を配置し、こちらが土嚢を撤去に出ようとすると矢を射かけて来ます。大変危険かと思われますが」


 なる程、敵もバカじゃないって事か。

 対策はバッチリ講じている訳ね。

 それはさておき、ライフル弾ならともかく、普通の弓矢で水母(すいぼ)の魔法障壁が貫けるとも思えない。

 言われるほどは危険は無いと思うぞ。


「妾にそのような攻撃は通じぬ。いいから案内せい」

「わ、分かりました」


 ショタ坊が振り返ると、ロマンスグレーのオジサマが小さく頷いた。

 どうやらここからは彼が案内してくれるようだ。


「では私の後に」

「うむ。ウンタ、隊員をここに」

「ああ。おい、女王が移動する。準備をしろ」


 ウンタがテントの外に呼びかけると、小隊員が四人、テントの中に入って来ると駕籠のかつぎ棒に取り付いた。

 どれ、早速、現場の視察に向かいますか。




 そんなこんなで、我々は丘の下の陣地に到着した。


「伯爵?! 何か御用で?! それにその亜人達は一体?!」


 現場の指揮官が慌てて飛んで来ると、オジサマに頭を下げた。

 オジサマは伯爵様だったのか。どうりで気品のある佇まいだと思ったわ。


「敵の動きは?」

「い、今の所は何も。こちらからも何度か工兵を出そうと試みていますが、その度に敵からの激しい攻撃を受け、思うようにいかずにいます」

「――変わりは無しという事か。敵の”五つ刃”はどうしている?」


 オジサマの口から五つ刃の名が出た途端、指揮官の顔が目に見えてこわばった。

 どうやら昼間の戦闘でトラウマクラスの恐怖心を植え付けられているようだ。

 指揮官でこれなんだから、実際に戦場で五つ刃と相対した兵士が感じた恐怖は、どれほどのものだろうか。

 案外、敵が五つ刃を先頭に立てて進軍するだけで、こちらの兵士は全員逃げ出してしまうかもしれない。


「ここでは姿を見ておりませんが・・・。あの。も、もしや、他の場所に出たのでしょうか?!」


 指揮官は明らかに腰が引け、今にも逃げ出したそうにしている。

 オジサマも、今のはうかつな一言だったと察したのだろう。

 慌てて「そのような話はない」と否定をしていた。

 さて。彼らが話をしている間に、私は埋め立て地とやらの確認をさせて貰おうかな。


水母(すいぼ)

『フルリ(了解(かしこまり))』


 フワリ。


「「「「おおおっ」」」」


 水母(すいぼ)の魔力操作で私の乗った駕籠が浮き上がると、周囲の兵士からどよめきが上がった。

 駕籠は土塁の上に着陸した。対岸の敵兵が私を発見して何やら騒いでいるのが見える。

 あまりのんびりしている時間は無いかもな。手早く確認しよう。


 ふむふむ。分かっていた事だが、敵はかなりこちらの動きを警戒しているようだ。

 堀の向こう側ではガンガンかがり火が焚かれ、その奥では兵士がひっきりなしに移動している。

 どうやら彼らは交代用の兵士で、さらに奥では野営地の準備をしているようだ。

 敵は本腰を入れてこの場所を見張るつもりらしい。


 さてと、埋め立て地とやらだが・・・なる程、橋とは良く言ったものだ。

 大きな堀を横切る形で、まるで堤防のように埋立地が作られている。

 上端の幅は三メートルくらいだろうか。人間二人が並んで走れる程度の広さだ。

 てか、思っていたよりもショボイな。もっとガッツリ埋められているのかと思った。

 いや、それだけここの堀が広くて深いのだろう。


 五か所埋め立てられているとの事だが・・・あれか。

 見える範囲で二か所。いや、更に奥に三か所も見えるな。

 両岸に敵味方の兵士が密集しているので一目瞭然だ。

 つまりこの場所からほとんどの埋め立て地が見えている事になる。

 意外と互いの距離は近いんだな。


 どれ。埋め立て地の強度やいかに。


最大打撃(パイルハンマ)


 最大打撃(パイルハンマ)は、物を浮かせる現象に特化した魔法だ。

 単純な仕組みとあって、持ち上げられる重量は破格の物となるが、逆に明らかな欠点もいくつか抱えている。


「むっ。やはりダメか」


 私は魔法を解除した。

 最大打撃(パイルハンマ)の魔法は、何トンもある巨大な岩や、切り倒した巨木を持ち上げる事が出来るが、土や水といった、形が崩れやすい物を持ち上げるのには適していない。

 そして極み(EX)化しても、最大で十個までしか対象を選べない。

 一ヶ所の埋立地を作っていた土嚢は、膨大な数に上っていた。

 たかが十個程度をチマチマ取り除いていてもらちが明かない。それに多少崩した所で、敵の人海戦術の前に、あっという間に修復されてしまうだろう。


 私は背後の丘を振り返った。

 ここからでもチラホラと目に入る大岩を持ち上げて、上空から落とした方が破壊力は期待出来そうだ。

 問題は、一晩で五か所の埋め立て地を壊せるだけの数の岩を揃えられるかどうかだが・・・


 私は堀を見下ろした。

 深い堀の底は、無数に焚かれたかがり火の明かりすらも届かない。

 まるで黒い墨を流し込んだ巨大な運河のようだ。

 だとすれば、さながら埋め立て地は運河を遮るダムか。

 あれっ?


「・・・これってひょっとして」


 私はとある魔法を発動させた。

 そのまましばらく様子を見ると、再び同じ魔法を発動させる。


 ――やっぱり。


 よし。これで方針は決まった。

 五つ刃が恐怖でこちらの兵士の動きを縛るなら、私も恐怖で対抗する。

 こうしちゃいられない。

 私は土塁の上から降りると、次の埋め立て地に向かうように指示を出した。

次回「メス豚と防衛戦(二日目)」

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― 新着の感想 ―
[一言] 風を操って火計もあるな…
[良い点] 濁流で押し流すとか…? [一言] クロ子がクロコパトラの身体を操っているときは普段と口調がかわり、サブパイロット(水母)が操縦を補佐し、強大な攻撃を放つ…つまりいわばゼオライマーだな(ぉ
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