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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第五章 大モルト侵攻編
165/518

その163 ~復讐の誓い~

◇◇◇◇◇◇◇◇


 亜人の大男に馬乗りになり、その喉に剣を押し付けている赤備えの騎士。

 ”赤備えの騎士”ポルカは、生意気にも自分を傷付けた亜人の大男の首を掻っ切ろうと、全体重をかけた。

 興奮を抑えきれずに大声で笑い出すポルカ。

 その時――


 ヒュッ。


 ポルカは、自分の口が鋭い吸い込み音を立てるのを聞いた気がした。

 亜人の大男カルネが朦朧とした意識の中、黒豚クロ子が隊員達に教えた魔法、圧縮(コッキング)を使ったのだ。

 発動地点はポルカ口の中。

 瞬間的に圧縮された空気は、口内の柔らかな粘膜を傷付け、血だらけにした。

 しかし、彼には「痛い」と感じる時間すら残されていなかった。


 パンッ!


 突然、乾いた音を立てて、ポルカの口の中で豆粒大の空気の塊が弾けた。

 いや、それは爆発だった。

 限界まで圧縮された空気は瞬間的に膨張、反動でポルカの頭が大きくガクンと跳ね上がった。

 衝撃に顎の骨は砕け、唇はザクロのように裂け、舌は跡形もなく千切れ飛んだ。

 口内の肉は弾け飛び、ズタズタになった。


 ギョルン


 ポルカは白目を剥くと、「ブハッ」。口から驚く程大量の血液と肉片を吐き出した。

 ポルカは糸の切れた人形のようにガクンと崩れ、自ら生み出した血だまりの中に倒れ込んだ。

 そしてポルカはピクリとも動かなくなった。


 


 倒れ込んだ二人を、イサロ王子軍の兵士達が発見したのはそれから少し後の事だった。

 戦場で倒れた兵士や死体などさほど珍しくもない。――が、流石にこの二人は異彩を放っていた。


「おい、あれを見ろ。何でこんなところに亜人が倒れているんだ?」

「待て! 一緒に倒れているのは敵の赤鎧の騎士だ!」


 好奇心に駆られてノコノコと近付こうとした男を、仲間が止めた。


「今朝から前線を荒らしまわっていた赤鎧の騎馬に違いない! とんでもない凄腕だぞ! 俺達なんてあっという間に殺されちまうぜ!」

「なっ! ・・・いや待て、アイツ死んでいるんじゃないか? ピクリとも動かないぞ」

「お、おい、止せって!」


 兵士の一人が恐る恐る近付くと、”赤備えの騎士”ポルカの鎧を掴んで仰向けにひっくり返した。

 ポルカは首をあらぬ角度に曲がったまま動かない。どうやら死んでいるようだ。


「うげっ。ひ・・・ひでえ。口がぐちゃぐちゃだぜ。一体どんな殺され方をしたら、こんな死体になるんだ?」

「こっちの亜人はまだ息があるぞ。おいお前、大丈夫か?」


 兵士が亜人の大男――カルネの口元に水筒の飲み口をあてると、カルネはゴクリと喉を鳴らして水を飲んだ。


「ゴホッ! ゴホッ!」

「おう、気が付いたか。おい、なんで亜人がこんな所にいるんだ?」


 カルネはまだ意識が朦朧としているようだ。

 だが、直前に殺されかけた恐怖は強烈に印象に残っているのだろう。

 彼はうわごとで必死に訴えた。


「逃げ・・・ろ。赤い鎧の・・・ヤツ・・・強い。ヤツ・・・逃げ。殺す・・・る・・・ぞ」

「赤い鎧? お前の横で死んでいるヤツの事か? まさかお前がこれをやったってのか?」

「おいおい、マジかよ。コイツは今朝から前線で好き放題暴れまわっていた、鬼のように強い敵だぜ」


 兵士達は驚愕した。

 この無残な死体は目の前の亜人が作ったと言うのだ。

 そして亜人の方も全身傷だらけで死にかけている。

 一体この場所でどれ程壮絶な死闘が繰り広げられたというのだろうか。彼らには想像も出来なかった。


「お前、どこの部隊の所属だ? 主人は誰だ?」


 これほどの剛の者であれば、亜人とはいえ、有力な貴族のお抱え剣士であってもおかしくはない。

 兵士の態度は先程よりも幾分改まっていた。


「ヤツが・・・殺され・・・剣・・・逃げ・・・」


 しかし、カルネはうわごとを繰り返すばかりで埒が明かない。

 剣という言葉に、兵士の一人がカルネのそばに落ちていた剣を拾った。


「剣――これの事か? おいおい、刃こぼれしてボロボロじゃないか。この家紋。お前はこの家紋の貴族家に仕えているんだな?」


 剣は柄に家紋が浮き彫り(レリーフ)されていた。残念ながらここにいるのは平民の兵士ばかりで、彼らはこの家紋がどこの貴族家の物であるのかは分からなかった。


「とにかく、一度安全な場所に運ぼう。デカイな・・・。おい、全員で運ぶぞ」

「わ、分かった」

「おうよ」


 三人は苦労してカルネを抱え上げた。

 幸い彼らの部隊には医者がいた・・・とはいえ、前線にいる医者という時点で程度はお察しではあるが。

 ともあれ、こうしてカルネは奇跡的に応急処置を受ける事が出来た。


 ここからは夕方になってからの話。剣の家紋からこの剣の所有者がクワッタハッホ家の部下のエルーニョ家の当主である事が判明した。

 クワッタハッホ家に連絡が入ると、すぐさま亜人がかついだ駕籠に乗った美女が、男の身柄を引き取りに来た。

 こうしてカルネは水母(すいぼ)の治療を受け、一命をとりとめたのだった。


 そしてカルネを助けた兵士達が先程の場所に戻った所、赤備えの騎士の死体は影も形も無くなっていた。

 兵士達は、「きっと敵兵が運んで行ったに違いない」と考え、せめて価値のありそうなものを剥ぎ取っておくべきだった、惜しい事をしたな、と後悔したのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 口元を布で隠した男が、丘の斜面を登っていた。

 泥で汚された鎧は、良く見れば高価な赤備えである事が分かる。


 そう。”赤備えの騎士”ポルカは死んでいなかったのだ。

 彼の口内を吹き飛ばした爆発は、彼の意識を奪いこそすれ、命を奪うまでには至らなかったのである。

 また、倒れたのが横向きだったのも幸いだった。もし仰向けに倒れていたら、口の中に溢れた血で喉が詰まり、窒息死していたかもしれない。


 つい先ほど意識を取り戻したポルカは、部下と合流すべく、一人丘を登っていた。

 未だに傷口は塞がっておらず、口元を覆った布はジクジクと血を吸い、赤黒く変色している。

 一歩足を踏みしめるごとに、頭の芯に太い針を刺されたような激痛が走る。

 歯を食いしばって痛みに耐えようにも、顎関節が砕けたらしく、顎は頼りなくブラブラと揺れるばかりである。

 喉の奥の負傷も酷く、呼吸にすら痛みを伴う程であった。

 本来であれば絶対安静の重傷だ。

 しかし、ポルカには自らが鍛え上げた、彼の宝とも言うべき大事な部下達がいる。

 その名は”赤馬隊”。

 ポルカには、彼らを置きざりにして、自分だけ後方に下がるという選択肢は存在しなかった。



 

 ポルカはあまりのショックに呆然と立ち尽くしていた。


(バカな・・・一体何があったんだ)


 顎が砕けたポルカは喋ることが出来ない。いや、顎が治ったところで、ポルカは二度と言葉を喋る事は出来ない。

 ウンタの圧縮(コッキング)の魔法は、ポルカの舌を粉々に吹き飛ばしていたからである。


 ここは丘に掘られた竪堀(たてほり)の一つ。

 その溝の中で、赤い鎧を着た兵士達の死体が折り重なるように倒れていた。

 ”赤馬隊”の者達の無残な死体である。

 遺体の数はざっと四十。赤馬隊のほぼ八割が死体となって転がっている事になる。

 壊滅――いや、この光景を見てしまえば、逃げ延びた者も無事とは思えない。赤馬隊は全滅したと見た方がいいだろう。


(バカなバカなバカなバカな! 誰だ! 誰が俺の部下を殺した! 一体この場所で何があったんだ!!)


 死者の顔は全て醜く歪んでいた。

 彼らに浮かんでいるのは逃げ場のない恐怖。

 あり得ない出来事を目の当たりにした驚愕。

 逃れようのない暴力に打ちのめされた絶望。

 死に至る苦痛。そして苦悶。


 この場所が彼らにとって地獄であったのは間違いないだろう。

 赤馬隊はただの騎馬隊ではない。彼らは全員、ポルカによって厳しく鍛え上げられ、いくつもの戦場を渡り歩いた一騎当千の強者達である。

 そんな益荒男の心を折る、想像を超える何かがあったのだ。


 ポルカには、たった一つだけ心当たりがあった。


(あの女だ! 何をやったかは分からねえが、あの女が何かしたに違いない!)


 彼がこの場所で最後に見た光景。

 それは空中に浮かんだ質素な駕籠であり、その中に座り、涼やかな顔で戦場を睥睨する美女の姿であった。

 あの不思議な女なら。いや、あの想像を超えた女以外に、こんな事をするのは不可能だ。


 怒りに狂ったポルカは、理屈ではなく直感で正解を引き当てていた。


(おおおおおおっ! 殺す! 殺す! 殺す! (いくさ)なんてもう関係ねえ! 手柄とか、もうどうだっていい! 俺の全身全霊、全能力を持って、あの女だけは殺す! あの女だけは絶対に殺してやる!)


 ポルカは悔し涙を流しながら、謎の女に対して復讐を誓うのだった。

 もしもこの小説が気に入って貰えたなら、私の書いた他の小説もいかがでしょうか?

『村では小柄でやせっぽちの僕だけどこのマスクのおかげで女性が振り向くたくましい体になれました』

https://ncode.syosetu.com/n6772fm/

こちらも初期に書いた全40話(プラス番外編)のコメディー小説となります。

 魔族の侵攻から人類を守るため、神は日本の有名覆面レスラーを召喚した・・・はずが、手違いで、彼のマスクだけが召喚されてしまった。というお話です。

 私にとっては珍しくノリノリで書けた小説になります。

 趣味全開で勢いのままに書いたので、かなり読む人を選ぶかもしれません。興味を持った方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか(笑)。お待ちしております。

 休日にさっくり読み終わるコメディー小説を探している方は是非。


次回「メス豚と復讐鬼」

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― 新着の感想 ―
[良い点] またクロ子を付け狙うアベンジャーが一人誕生したか…。いつか彼らが徒党を組んでアベンジャーズとなる展開もあるやもしれませんなw
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