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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第五章 大モルト侵攻編
159/518

その157 メス豚、気まずい思いをする

 本丸の斜面に作られた腰曲輪。

 本陣から見下ろしていた時は、広い二の丸と無意識に比較していたせいかあまり大きく感じなかったが、こうして実際に訪れてみると結構な広さに驚いてしまう。

 多分、近所の大型スーパーの駐車場くらいはあるんじゃなかろうか?

 そんなローカル基準じゃ分からんですと? まあそうだわな。

 ざっと見た所、面積だけで言えば本陣のある本曲輪と同じか、やや劣る程度。

 そこを二百人~三百人程度の兵士達が防衛している感じだ。


 後で聞いたけど、ここにいるのはこの部隊の半分程度で、残りは本曲輪の上に配置されていたんだそうだ。

 つまり全体で言えば約六百人前後。大隊規模の部隊、という事になる。

 自衛隊で言えば指揮官は3佐。海外であれば少佐が率いるクラスの部隊だな。


 そんな場所だが、四十人からの我々が押し掛けたものだから、流石に人が多く感じてしまう。

 なんかスマン。

 ゾロゾロと現れた駕籠を担いだ亜人の一行に、兵士達の間にざわめきが広がる。

 漏れ聞こえて来る言葉の端々から、なぜ味方の陣地に亜人がいるのか理解出来ずに戸惑っているようだ。

 そういや、みんなに紹介とかしてもらっていなかったっけ。

 どうやら多くの将兵にとって、私らの存在は寝耳に水だったようだ。 


 さて。私達の到着を聞きつけて――というか、ショタ坊の到着を聞きつけて、部隊の指揮官が慌てて駆け付けて来た。

 ショタ坊はこれでも男爵家の当主様だからな。領地の代わりに王家から俸禄(サラリー)をもらっている、いわゆる扶持人(ふちにん)みたいなものなんだが。


「ラリエール様! それにどうしてこんな場所にクロコパトラ女王が?!」


 ん? この指揮官、私の事を知ってるのか?

 無精ひげと埃にまみれて気付かなかったが、声の感じからするとまだ若い指揮官なんじゃなかろうか?

 おや? そういわれてみればこの声、どこかで聞いた事があるような・・・

 私が記憶を探っている間に、ショタ坊が指揮官君に詰め寄った。


「クワッタハッホ卿?! ここの指揮官はあなただったんですね。敵は竪堀(たてほり)を埋めて道を作ろうとしています! 大至急、撤去作業のための兵を向かわせて下さい!」


 ショタ坊の言葉に、指揮官はグッと歯を食いしばった。


「それは・・・こちらでも理解しています」

「ならばなぜ、何もしていないんですか?!」


 指揮官がチラリと周囲を見回すと、話を聞いていた兵士達が気まずそうに目を反らした。

 なんぞ?

  

「――現場を見ながら説明致します」




 本陣から見下ろしていた時には一目瞭然だったが、近くから見てみると敵の偽装の巧みさに驚かされる。

 なる程、これじゃ気付かんわ。

 それでも私らと大して変わらないタイミングで気付いたっていうんだから、この指揮官君はかなり優秀なんじゃないだろうか?

 流石、重要なポイントを任されているだけの事はあるな。

 ショタ坊は難しそうな顔をしながら、敵が埋め立てた場所を睨み付けている。

 指揮官君は遥か丘の下、斜面に生えた木立を指差した。


「あそこに敵の射手が潜んでいます。ヤツは驚異的な腕前で、作業中の兵士だけを狙い撃ちして来るのです。おかげで兵士が怯えて作業が出来なくなってしまいました」

「なっ・・・! こ、この距離でですか?!」


 ショタ坊が驚くのも無理はない。

 この世界の戦争で使われる弓は、いわゆるクロスボウがメインとなる。

 クロスボウは狙いを付けるのが容易で、矢も短かく取り回しも良いため、新兵にも扱いやすく集団戦に向いている。

 亜人の村ではみんな和弓のようなアーチェリータイプの弓を使っていたが、あれは単にクロスボウを作る技術がないだけなのだ。


 そんなクロスボウだが、射程距離の短さが泣き所である。

 また、矢が短い=矢の重量が軽い、という点にもつながり、曲射も苦手とする。


 (くだん)の木立まで、ざっと見て四~五百メートル。

 この距離を、しかも下から上を狙って命中させるのは、クロスボウの性能を完全に超えている。(※クロスボウの飛距離は大型のものでも三百メートル程。有効射程距離――殺傷力や命中率を維持可能な最大距離――は四十メートルとなる)

 指揮官君の話が本当なら、こちらの弓は届かずに、敵の攻撃だけが届いている事になる。

 しかも、こちらが有利なはずの上を取っているにもかかわらず、だ。

 そんなデタラメな敵が相手なら、兵士達が怖気づいてしまうのも無理は無いだろう。


 そしてこの敵は私にとっても厄介だ。

 私は長射程の魔法を持っていない。

 候補としては、質量兵器でもある最大打撃(パイルハンマ)だが、あれは岩を落下地点に運ぶまでにとにかく時間がかかる。敵に見付かって簡単に逃げられてしまうだろう。

 私の得意とする最も危険な銃弾(エクスプローダー)は、せいぜい五十メートル程しか届かないし、正に打つ手なしだ。


「それなら、盾を持った兵士で守れば――」

「試しましたが、無駄でした。敵は盾の隙間をぬって工兵に命中させるのです」

「そんな・・・」


 どうやら敵スナイパーの腕前は相当に神がかっているようだ。

 ショタ坊は驚きに言葉を失くしてしまった。


「今朝の戦いで捕らえた敵兵からの情報によれば、”二つ矢”と呼ばれる射手との事。所属する部隊がアロルド辺境伯との戦いで消耗したため、今までアロルド領で再編していたようです。昨夜、敵部隊と合流したとの事です」


 なんでも、自分で大きく弧を描くように放った矢を、次に放った矢で見事に命中させた事から、”二つ矢”の名で呼ばれるようになったそうだ。

 なにそれ、二つ名持ちとか超イカス。

 モ〇ハンで言えば、紫毒姫(しどくひめ)リオ〇イアとか、大雪主(おおゆきぬし)ウ〇クススとか? 亜種や希少種どころじゃないじゃん。特殊個体じゃん。


 しかし、昨夜か。


 私は運命のイタズラというヤツを感じた。

 もしも相手の行程が一日前にズレていれば、我々が敵の補給基地を襲ったタイミングで鉢合わせしていたかもしれないのだ。

 いやはや、到着早々、そんな厄介な相手とカチ合わずに済んで助かったわい。

 私は内心で冷や汗を流していた。


 その時、ブオー、ブオー、と、遠くで角笛の音が鳴り響いた。

 どうやらタイムアップのようだ。敵の攻撃(ウエーブ)の開始である。

 指揮官君が部下に指示を出した。


「弓隊は配置に付け! 攻撃開始は各班長の判断に任せる! 一つの部隊に攻撃が集中しないよう、互いに声を出し合え!」

「「「「「はっ!!」」」」」


 彼の一声で一斉に兵士が配置についた。

 一糸乱れぬ見事な動きだ。こういうのを見る度にいつも思うのだが、凄く体育会系です。

 今や私も部下を率いる身になったし、参考にせんといかんのかなあ。

 指揮官君はショタ坊に振り返った。


「ラリエール様、本陣までお下がり下さい。ここは危険です」

「しかし・・・」


 ショタ坊は心配そうな顔で、敵が埋めた竪堀(たてほり)を見た。

 困り顔の指揮官君。

 ハッキリ言って邪魔なんだろうけど、彼の立場ではショタ坊に強く言う事が出来ないようだ。

 指揮官君は今度は私の方へと振り返った。


「クロコパトラ女王もお下がり下さい。――それとも我々に手を貸して下さるのでしょうか?」


 彼の表情からは、そこはかとなく期待感がにじみ出ていた。

 亜人を従えたこんな謎女の手助けを期待するとは。やはり、彼は私の事を――私が魔法を使う事を知っているようだ。


 ・・・まあいいか。どうせ最初から手を貸すつもりで来た訳だし。


「――よかろう。手を貸してしんぜよう」

「おおっ! 本当ですか?! これぞ闇夜に灯火! これで我らには勝利の神ヘリュケラの微笑みが約束されたも同然! 戦場に立ち込める死という暗雲も、女王の美貌の前にはたちまち晴れ渡り、女王の大いなる叡智は我らの行くべき道を指し示してくれる事でしょう!」


 んんっ? 何だろう。何か覚えのある、この芝居がかった大げさな言い回し・・・って、ああーっ!

 思い出した! お前ひょっとして、ショタ坊の部下の優男君か!


 私は指揮官君の大袈裟な喋りで思い出した。

 少し前に私はショタ坊を連れて、山越えをして隣国のヒッテル王国に攻め込んだ事がある。

 優男君はその時、ショタ坊の部下だった若手貴族コンビの片割れだった青年だ。


 いやいや、こんなの絶対分かる訳ないって。顔も姿も全然印象が違ってるじゃん。

 てか、いつも一緒につるんでたカップリング相手の(※個人の感想です)ガッチリ君もいないし。

 大体、あの時はもっと清潔感のある洒落た恰好をしていたじゃん。いかにも若い貴族って感じで、物腰も柔らかで余裕があったじゃん。

 こんなギラギラした目の、落ち武者みたいな感じじゃなかったから。


 確か名前は――ええと、ここまで出かかってるんだけど・・・何だっけ?


「そうだ。ベルベルなんとか」

「私の名前ですか? ベルナルド・クワッタハッホです女王。あの、ひょっとして今まで私だと気付いていなかったんでしょうか?」


 ああそうそう、ベルナルド君ね。ベルナルド君。ベルベルなんとかで六割合ってたので大体セーフ、セーフ。


「いや、普通にアウトだろ」

「一緒に山越えをした相手を気付かなかったとか。マジで言っているのか?」


 ウンタ達の呆れるような視線が痛い。

 ていうか、ウンタとカルネ。アンタ達気付いていたなら教えてくれたっていいだろうが。

 おかげでかかなくてもいい恥をかいてしまったじゃないの。


「まさか気付いていなかったなんて思うわけないよな」

「・・・ひょっとして俺達も髭を伸ばしたら分からなくなるんじゃないか?」

「そんなバカな。・・・いや、ありそうな話だな」

「ああ。クロコパトラ女王ならありうる」

「確かに」

「あ、あの――みなさんそれくらいで」


 さらに追い打ちをかけるクロコパトラ小隊員達。

 止めて! 私のHPはもうゼロよ!

 あまりの死体蹴りに見かねたショタ坊が、慌てて横からフォローを入れる。

 そして、指揮官君ことベルナルド君は、私が気付いていなかったのがショックだったらしく、虚ろな目でたそがれている。

 マジでスマンかった。この詫びは一人でも多く敵をブッ倒すことで致しますゆえ。


 こうして私は戦闘開始まで、なんとも言えない気まずい時間を過ごす事になるのだった。

もしもこの小説が気に入って貰えたなら、私の書いた他の小説もいかがでしょうか?

『5億7600万年の寿命で魔王を倒す』

https://ncode.syosetu.com/n1002fo/

転生要素のない、ガチファンタジーの全26話の完結作品となります。

魔神教団に攫われてしまった王女を助けるために、21年前に死んだと思われていた勇者が再び戦いにおもむく。といった内容のお話です。

初期の頃に書いた小説で、あまりに評価してくれる人が少なかったため、最初の話の終了と共に完結とした小説となります。

一応、お話は終わっているので、その点はご心配なく。

休日にさっくり読み終わる長さの小説を探している方は是非。


次回「メス豚、介入を決める」

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― 新着の感想 ―
[良い点] クロ子も充分特殊個体なんだよなぁ… [気になる点] 実はモンハンかなり好きですよね?w [一言] まぁ豚の脳みそってあまり大きくないし…(ぉ
[一言] すごく楽しみにしている作品なので、最近更新頻度が高くて嬉しいです。
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