表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第五章 大モルト侵攻編
150/518

その148 メス豚、戦場を観察する

 魔法使いハリィが、ハイポートの苦しみから逃れるために改造した新魔法。

 結論から言うと、この魔法は見事なまでに風の鎧(ヴォーテックス)の完全下位互換だった。

 ちょっとガッカリ。


 そもそも、人間や動物は足だけを動かして走る訳ではない。

 体幹がブレないように腹筋や背筋、より早く走るためには腕や上半身の力も使う。

 だからだろう。足だけ魔法で強化しても、中途半端な結果にしかならなかった。

 苦も無く風の鎧(ヴォーテックス)を維持出来る私にとっては、残念ながらハリィの作った新魔法は、全く使いどころのないシロモノであった。

 まあ、風の鎧(ヴォーテックス)の有用性が証明されただけでも有意義だったと思っとこうか。


 しかし、私にとっては微妙な魔法でも、風の鎧(ヴォーテックス)を維持するだけの魔力を持たない亜人達にとっては違っていた。

 足だけの強化の魔法でも、疲労の軽減と速度上昇の効果があったからだ。


 といった使用感が判明した途端。

 新兵達は一斉に色めき立った。


「お、俺に教えてくれ!」

「俺にも頼む!」


 彼らは一生懸命足だけ風の鎧(ヴォーテックス?)の魔法を練習した。

 はたから見ていても、「なんでそこまで必死なの?」と疑問を覚える程だった。


 そして、なんという事でしょう。驚くべきことに彼らはその日のうちに、全員が新魔法を使えるようになってしまったのだ。

 マジで?

 まだ圧縮(コッキング)の魔法すら、半数以上の人間がマスターしていないのに?


 ・・・いやまあ、日頃から狩りで野山を駆けまわる亜人達には、たまたま相性が良い魔法だったんだろう。多分?


 そして今、物覚えの悪い最後の一人が魔法を発動していた。


「やった! 成功だ! やっと俺にも出来たよ!」

「やったな! 良かった! 本当に良かった!」

「これで全員が風の鎧(ヴォーテックス)の魔法を使えるようになったな!」

「ああ! もうハイポートだって怖くないぜ!」


 新兵達の頬には嬉し涙が光っていた。

 喜びの感情を爆発させ、互いの肩を叩き合う男達。

 感極まって天に向かって拳を突きあげる者。大声で雄叫びを上げる者。感触を忘れないように足だけ風の鎧(ヴォーテックス?)の魔法を使って走り回る者。

 まるでスポーツ漫画のワンシーンような光景だ。

 てか、あんた達どれだけ必死な訳? ドン引きだわ。


 それはそうと、こんな中途半端な魔法を風の鎧(ヴォーテックス)とか言って欲しくないんだけど。

 足だけ風の鎧(ヴォーテックス?)なんですが。

 いや、ここは新しい名前を考えよう。

 そうだな。だったら、劣化・風の鎧(ウインドスプリント)で。


「ウインドスプリント!」

「ウインドスプリントか!」

「「「「「俺達の魔法! ウインドスプリント!」」」」」


 お前らホントにウザ暑苦しいな!


 そんなこんなで、彼らは全員風の鎧(ヴォーテックス)の魔法の下位互換、劣化・風の鎧(ウインドスプリント)を習得したのだった。

 てか、どんだけハイポートがイヤだったんだよ。

 しかし、これはクロコパトラ小隊にとって嬉しい誤算だった。

 期せずして我々の部隊は高い機動力を得たのである。

 そしてこの後、劣化・風の鎧(ウインドスプリント)はクロコパトラ小隊の必修魔法となるのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 とまあ、そんな事があった訳だ。

 そして現在。ショタ坊達の驚きの視線を受けて、クロコパトラ小隊の隊員達は自慢げに胸を張っている。


「馬に付いて行くと言っても、馬だってずっと走っている訳じゃないからな。全然問題無かったぜ」

「ああ。俺達にはウインドスプリントの魔法があるからな。それに訓練の時のハイポートに比べれば、むしろ楽勝だったんじゃないか?」

「ハイポートと一緒にするなよ。走りやすい平らな道だったじゃないか。ハイポートは山だろうが谷だろうがお構いなしだったんだぜ」

「そうとも。ハイポートを経験している俺達にとっては、なんてことのない行程だったな」


 何度も比較対象に引っ張り出されるハイポートって一体。

 もはやトラウマレベルなんじゃね?


 ちなみにショタ坊達の驚きには、亜人達が私の駕籠(かご)を担いでいた点も含まれているようだ。

 重い駕籠(かご)を担いだまま馬に付いて来るんだからな。私なら驚くよりも、気持ち悪いとか思ってしまいそうだ。

 ちなみに、当然これにもトリックがある。

 水母(すいぼ)が魔力操作で浮かせていたのだ。

 つまり隊員達は、ほぼ重量の無いスカスカの駕籠(かご)を担いでいたという訳だ。

 とは言っても、当然、何も担いでいない時よりは走り辛いだろうから、彼らの負担になっていたのは間違いない。


「いつまでも天狗になってんじゃないの。敵の部隊が近くにいるんだから気を引き締めて」

「「「「「てんぐ(・・・)って何だ?」」」」」


 天狗の意味は分からないものの、私の言いたい事は伝わったのだろう。ようやく隊員達の顔から浮かれた表情が消えた。


 現在、我々は戦場を北に見下ろす山の中にいる。

 移動中に街道を封鎖する敵兵が見えたので、それを避けて山の中に入ったのだ。

 こうして山の中を移動する事半日。

 我々は今いる場所に到着したのだった。


 どうやら王子軍は丘に立てこもって防衛しているようだ。

 対して敵軍は、周囲をぐるりと取り囲み、四方八方から攻撃を仕掛けている。

 現在攻めているのは、敵軍全体の三割程度か?

 残っているのは武器を持たない輜重部隊なんだろうか。それにしては数が多すぎやしないか?

 あるいは、いくら戦場が広いとはいえ、全軍を投入する程は広くないのかもしれない。


 あまりの敵の多さにショックを受けたのか、ショタ坊達の表情は硬く、顔色は悪い。

 しかし、私のような疑問は抱かなかったようだ。

 後で知った事だが、総攻撃の時は別として、普通は全軍で攻撃するような事はないらしい。

 大将や将軍が軽率に動いては、部隊をコントロールする者がいなくなるからだ。

 動く時はここぞという時。それ以外の時はどっしりと後方に構えて、攻撃や後退の命令を出しているそうだ。

 三国志の武将なんかはずっと前線で戦っているイメージがあるけどな。あれはフィクションゆえの演出だったのか、大昔の中国の戦争は実際にそうだったのか。


 ショタ坊の護衛がショタ坊に尋ねた。


「ラリエール様。我々の人数では、あの敵の囲みを突破して殿下の軍と合流するのは不可能です。どうしますか?」

「・・・ひとまずここで様子を見ながら夜まで待ちます。囲みが薄い場所が見つかればそこを突きましょう」


 この世界の戦闘は日中にしか行われないようだ。

 夜襲もしなくはないだろうが、戦闘において一番恐れなければならないのは同士討ちだ。

 それはそうだろう。必死こいて殺し合ったと思ったら、実は味方同士なんて事になれば最悪だ。

 湧き上がる恨みや憎しみは敵との戦いの比ではないだろう。


 敵に仲間が殺されたのなら、「許せない」「仲間の仇だ」と、怒りは敵に向けて発揮される。ある意味では健全な(?)怒りだ。

 しかし、同士討ちの場合、怒りの感情を向ける先が同士討ちの相手――味方となる。当然仕返しをするわけにもいかず、内に籠った不健全な(?)怒りとなる。

 その結局、怒りは恨みや不信感、不満の元となり、全体の士気を大きく下げる原因となるのだ。


 そんなイヤげな同士討ちだが、昼間でも発生する事があるというのに、視界不良の夜間ともなればその確率は跳ね上がる。

 数に勝る敵が、あえてそんな危険を冒すとは思えない。ショタ坊はそう判断したのだろう。

 逆に我々にとっては、夜の闇が姿を隠す格好の隠れ蓑となる訳だ。


「皆さんには今のうちに休憩を取らせてください」

「分かりました。おい、見張りを残して休憩だ。準備に取り掛かれ。そこのお前達は近くに水場がないか探してこい」


 テキパキと部下に指示を出す護衛隊長。

 対して、私達クロコパトラ小隊の面々は手持ち無沙汰でいた。

 実はこの行軍中、毎回こんな感じだった。

 経験不足の素人軍隊の悲しさよ。我々はこういう時の行動がマニュアル化されていないのだ。


「クロコパトラ女王、水場を探すなら俺達も手伝った方が良くないか?」

「・・・デアルカ」

「亜人のみなさんは山に慣れているでしょうから、手伝って貰えれば助かります」


 くっ。ショタ坊に気を使われてしまったわい。

 副官のウンタは仲間の何人かに、ショタ坊の部下を手伝うように指示を出した。


 こんな事ならマサさん達、野犬の群れを連れて来ておけば良かった。

 彼ら野犬は、鋭い嗅覚で水場や獲物を探すのを得意としているからな。

 アホ毛犬コマは付いて来たがっていたが、危ないので村に残したのだ。


 次いでウンタは第一分隊隊長のカルネに声を掛けた。


「夜まで休むならこの辺を片付けた方がいいと思う」

「そうだな。おい、お前ら」


 カルネは仲間に声をかけるとナタで下生えを刈り取り始めた。


「夜になったら移動するかもしれない。あまり念入りにする必要はないぞ」

「分かっているって」


 彼らは刈り取った草や大きな石を他所にどけていく。

 狩りの時には山で野営をするらしく、彼らの動きは手慣れたものだった。


 ショタ坊の部下はというと、馬の汗を拭いたり、塩を舐めさせたりしている。

 こうしてみんなが作業をしている間も、ショタ坊は真剣なまなざしで戦場を見つめていた。


 う~ん。私は何をすればいいんだ。

 私は一人、身の置き所のない状態で、ぼんやりとご飯の時間を待ち続けるのだった。

次回「メス豚、解放感を味わう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ