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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第五章 大モルト侵攻編
146/518

その144 メス豚とルベリオの衝撃

 ショタ坊が護衛の騎士を連れて家の中に入って来た。

 会談の再開である。


 小隊員達に尻を叩かれた事もあって、私の心は既に決まっている。

 とはいえ、決して私達の命を安売りするつもりはないぞ。

 私はクロ子美女ボディーの中でフンスと気合を入れた。


「それでは妾からそちらに要求したい事を伝える」


 ゴクリ。ショタ坊が緊張に喉を鳴らした。



「まず一つ。妾達はそちらの指揮下には入らぬ」

「! それは――?! 独立して動くという意味ですか?!」


 私の要求に、ギョッと目を剥くショタ坊。

 いやいや、さすがにそれはないだろう。


「そうではない。そちらの要望には可能な限り従うが、命令は受けない。という意味じゃ」

「しかし、それでは! ――し、失礼しました」


 ショタ坊は何かを言いかけたが、隣の護衛に腕を掴まれて黙り込んだ。

 大方、「先ずは相手の要求を全て聞いてから」とか思ったに違いない。

 そうしてくれ。その方がこちらとしても二度手間にならずに済むし。

 というか、指揮下には入らないだけで、作戦には従うつもりだぞ? 私らだけで四万の軍勢を相手にする事なんて出来ないからな。

 便利に使い潰されるのがイヤで、指揮権を渡さないだけだから。


「次に。妾達の給与は――食事は、将官待遇を要求する」


 そちらに協力してやるんだから、メシくらいは良いものを食わせろって話だ。

 食事は部下の士気に直結するからな。

 お前は新兵訓練(ブートキャンプ)の時に、みんなにマズ飯しか食べさせなかっただろうって?

 仕方がないだろ。40人もの新兵の食事を用意する方法は、他に無かったんだから。

 私だって、「悪い事をしたなあ」と思っているっての。


「将官というのが何を意味するものかは分かりませんが、一般の兵よりも良いものを提供するように致します」


 ショタ坊は今度は軽く請け負った。

 亜人の兵が何千人もいるなら話は別だが、数十人程度なら大した負担でもないだろう。最初からこの要求は通ると思っていた。


「次に。この山を我々の領地として認めてもらう」

「さすがに全てという訳には・・・」

「ダメじゃ。その上でふもとの村を一つ頂く」

「なっ?!」


 ショタ坊はショックのあまり言葉を失くしてしまった。




 私からの要求。それはこの山を亜人の領地として認めさせる事。

 そしてショタ坊村――正式な名前があったはずだけど、何だったっけ・・・まあいいやショタ坊村で――の支配権である。

 ショタ坊は、まさか自分の生まれ育った村が条件に出されるとは思ってもみなかったのだろう。

 驚きのあまり何も言えずに固まっている。


 私の最初の構想では、この国と隣国との緩衝地帯に新しく村を作るつもりでいた。いや、作らせるつもりでいた。

 しかし、今回の一件で、私はこの国の軍事力が信用出来なくなっていた。

 下手に隣国との間にいさかいを起こせば、消耗した所を、今回のように大モルトに漁夫られてしまう。

 私は別にこの国に恨みがある訳じゃない。同盟を結んだ以上、むしろ滅んで貰っては困るくらいだ。

 大モルトがこの国と同じように、亜人と同盟を結んでくれるとは限らないからな。


 だったら山を領地として貰うだけで良さそうなものだが、そうはいかない。

 亜人の存在を人間に認めさせるためには、領地に引きこもるだけではダメだ。それでは無駄に彼らの警戒心を刺激してしまう。

 人間との間には交流を持たなければならない。

 それに、この山が亜人の領地となれば、他の地域の亜人達が流れて来るだろう。

 そうなる前に、前もって村を豊かにしておかなければならない。


 個人的にも人間の技術者――鍛冶屋なりなんなりの、冶金技術を持つ者が欲しい。

 マニスお婆ちゃんに大砲を作ってもらって分かった事だが、私の理想とする新兵器の開発には、やはり亜人の村人の技術だけでは限界がある。

 基礎的な知識は水母(すいぼ)のライブラリーにも残っているが、この世界で実現可能な兵器に落とし込むためには、専門の技術者が必要だ。

 勿論、時間をかけて技術者を育てていく事も不可能ではない。

 しかし、そのためには最低限の教育は必要だし、工具や施設も作らなければならない。

 それらを一から全て手探りでやるのだ。これがどれほど困難な事業となるか分かるだろうか?


 昭和の昔。日本はドイツのメッサーシュミットのエンジンをライセンス生産して戦闘機を作った。

 しかし、日本初の量産型液冷エンジンは故障が多く、また、生産数も満足なものとはならなかった。

 当時既にアメリカを始め、ヨーロッパ各国、ソ連も液冷エンジンの戦闘機を飛ばしていたにもかかわらず、だ。

 急速に近代化した日本では、工作機械も未熟なら、それを使いこなす技術者もまだ育ちきっていなかったのである。


 逆にポルトガルから日本の種子島銃に鉄砲が伝来した時。

 当時の日本は戦国時代。全国的に武器の需要が高かったこともあり、各地で刀鍛冶が盛んだった。

 彼らはその技術で鉄砲を再現した。

 生産された”種子島銃”は瞬く間に全国各地に広まり、織田信長の天下統一事業の原動力になったのだ。


 大軍は確かに強い。

 しかし、それも軍を維持するために必要な補給が十全に整えられている事が前提となる。

 同じように兵器も単純に性能の優劣だけでは語れない。

 それを下支えする技術がなければ、カタログ上のスペックだけの張子の虎でしかないのだ。


 おっと、熱く語り過ぎてしまった。

 そういった訳で、私はこの国の人間と交流するための窓口として、ショタ坊村を要求したのだ。

 あの場所なら、いざという時には村を放棄して山に逃げ込めるしな。

 そもそも、いつまでもこの旧亜人村を人間達との窓口にしておく訳には行かない。

 麓からは距離があるし、防衛上の観点からもあまり好ましくないからだ。

 それに今は放棄しているとはいえ、少し前まで亜人達が住んでいた村だ。あまり人間達にうろうろされては、村人達も面白くないだろうしな。

 

 といった訳で、私からの要求は、軍での自由行動の確保と、亜人の領地を認める事と、交易の窓口となる村の提供。

 色々と吹っかけたつもりだが、それでも実現可能なラインを見極めたつもりでもある。


「そちらが妾の出した条件を受ければ動くし、受けなければ動かぬ。ちなみにこれは決定事項じゃ。交渉するつもりはない」

「・・・・・・」


 可愛い顔を青ざめるショタ坊。なんだかいじめてるみたいでスマン。

 護衛の男は怒りに震える目で私を睨んでいる。

 人の足元を見て強欲な、とか思っていそうである。

 ショタ坊がいなければ、剣を抜いて私に切りかかっていたかもしれない。おお怖い怖い。

 けど、こっちだって自分の命と部下の命をお前達に賭ける(ベットする)のだ。

 一歩も譲ってやる気はないぞ。


 さて、ショタ坊はどう出る?


「・・・少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか」

「よかろう」


 当然、考える時間は必要か。

 今度は私達が外に出て行く事になったのだった。




 ショタ坊は一時間ほど一人で悩んでいたようだ。

 てか長いな。待ちくたびれてお腹が鳴るかと思ったぞ。

 この空き時間に、私は水母(すいぼ)にとある物を頼んでいた。


 私達が護衛の騎士に案内されて家に戻ると、そこにはすっかり憔悴しきったショタ坊が座っていた。

 今までと違い、立ち上がって挨拶をする気力も無いようだ。

 前世で女子高生だった私は知らないが、中間管理職の会社員というのはこんな感じなのかもしれない。

 会社員どころか、まだ子供(ショタ)なのにな。胃に穴が開いてないか心配だ。


「・・・先程の条件を呑めば、本当に女王のお力をお貸し頂けるのですね?」

「ラリエール様?!」


 護衛の男が驚きの声を上げた。

 私が「ウンタ」と声をかけると、隣に控えていたウンタがショタ坊に紙を渡した。

 さっき水母(すいぼ)に作って貰った物――この件の契約書だ。


「これは――紙? ではない?」


 ショタ坊が驚きに目を見張る。

 紙のような何かは、正確に言えば紙を作ろうとして失敗した何か(・・)だ。

 てか、やっぱり人間の国に紙はあったのか。くそう。無駄骨だったか。

 私は落胆を隠しきれなかった。


 私は将来、人間と交易する時を見越して、亜人村に産業を起こそうと考えた。

 その一つがこの”紙”だ。

 村の周囲には紙の原料――パルプの元となる木がいくらでも生えている。

 そして私には頼れる知恵袋、水母(すいぼ)がついている。


 とはいえ、流石の水母(すいぼ)のライブラリーにも「ゼロからの紙の作り方」なんてものは無かった。そりゃそうだ。

 あくまでも水母(すいぼ)は魔核性失調症医療中核拠点施設コントロールセンターの対人インターフェースだからな。

 何? 長くて聞き取れなかった? 魔核性失調症医療中核拠点施設コントロールセンターの対人インターフェースだよ。魔核性失調症医療中核拠点施設コントロールセンターの対人インターフェース。

 ゴメン、私が悪かった。だからもう読み飛ばしは無しでオネシャス。


 そんなこんなで、私は水母(すいぼ)の限定的な情報から紙を再現しようとした。

 木そのものを売るよりも、加工して売った方が儲けになると思ったからだ。

 つまりは知識チートというヤツだな。


 そうやって完成したのが、この紙のような何かである。

 木だけではどうしても強度が出せなかったので、麦わらも混ぜ込んである。

 なかなかに苦労した一品なのだが、どうやら人間の国では既に紙が流通していたようだ。

 ガッデム。なんてこったい。


 ウンタはショタ坊に二枚の紙のような何かを渡した。


「二枚とも同じ内容が書いてある――はずだ。確認してくれ」

「・・・お預かりします」


 ウンタは少し目を泳がせた。彼は文字が読めないからな。

 私? 子豚に文字の読み書きが出来るわけないでしょ。会話だって翻訳(トランスレーション)の魔法頼りだし。

 この文章を書いてくれたのは水母(すいぼ)だ。

 彼はショタ坊達と山越えをした時に、ショタ坊の持っていた本を盗み見て、この国の文字を学習していたのである。

 相変わらず水母(すいぼ)が万能過ぎてチートなんだけど。


 水母(すいぼ)が言うには、どうやらこの大陸で使われている文字は、旧文明の昔、この国で使われていた文字と根本的な違いはないらしい。

 あるいは識字率の低さが文字の変化を妨げていたのかもしれない。

 というか、ショタ坊って文字が読めたんだ。何だか軽い劣等感が・・・。


「さ、先程、妾がお主に話した内容が書かれているであろう?」

「――はい」


 ショタ坊は紙に目を落としたまま、やや震える声で短く返事を返した。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ルベリオは衝撃を受けていた。

 まさか亜人達が、独自に紙を作るほどの技術を持っているとは思っていなかった、という事もある。

 しかし、真に驚いたのは、クロコパトラ女王が文字の読み書きが出来るという点であった。

 クロ子が察しているように、この世界では識字率は決して高くは無い。

 だからルベリオが驚いたのも当然と言えた。

 しかし、彼が驚いたのはそこではなかった。


(この文字はこの国のものではない! カルトロウランナ(・・・・・・・・)王朝の文字だ(・・・・・・)!)


 そう。水母(すいぼ)が盗み見た本というのは、以前にイサロ王子の妹ミルティーナがルベリオに手渡した魔法に関する研究書だったのである。

 ミルティーナが王城の書物庫から勝手に持ち出したそれは、大陸の三大国家の一角、カルトロウランナ王朝で書かれたものだった。

 ルベリオは本を戻しておくようにミルティーナに頼んだのだが、彼女は面倒くさがった。

 困り果てたルベリオは、後日イサロ王子に相談。王子は妹の行動に呆れながらも「どうせ書物庫で埃をかぶっていたものだ」と、その本をルベリオに下賜したのだ。

 ルベリオは大変恐縮し、それ以来、その本を肌身離さず大事に持ち歩いていた。


(あの後、サルエル先生に教わったから、カルトロウランナの文字も少しなら読むことが出来る。そうでなければ危うく女王の前で恥を晒す所だった)


 内心で冷や汗をかくルベリオだったが、彼にはそれよりももっと気になる事があった。


(女王はカルトロウランナの人間に違いない!)


 その想像はルベリオにとって大きな衝撃だった。

 しかし、そう考えれば納得がいく点も多い。


 カルトロウランナ王朝は、この大陸で唯一と言っていいほど魔法を研究している国である。

 クロコパトラ女王の持つ常識外の魔法の力。あれも女王がカルトロウランナの出身なら理解出来なくはない。

 そして識字率の低いこの世界で、女王が文字を読み書き出来る事実から、彼女がカルトロウランナでも裕福な家の生まれである事が分かる。

 女王の類まれな美貌と、人を寄せ付けない超然とした佇まい。彼女はカルトロウランナでも相当に高貴な出だったのではないだろうか?


(クロコパトラ女王の正体はカルトロウランナ王朝の大きな貴族の令嬢。あるいはかの国の王家に連なる者)


 今、自分は女王の秘密の一端に触れている。


 ルベリオは極度の緊張にゴクリと喉を鳴らすと、周囲に表情の変化を読まれないように、渡された紙を読むふりをして懸命に誤魔化すのだった。

次回「メス豚、契約を結ぶ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここでクロコパトラの出自をカルトロウランナ王朝だと見抜いた(見抜いてない)ルベリオと 同じくクロコパトラをカルトロウランナの人間だと見抜いた(誤解)アンナベラが出会う事で 「この少年…出来…
[一言] >クロコパトラ女王の正体はカルトロウランナ王朝の大きな貴族の令嬢。あるいはかの国の王家に連なる者 な、なんだって~(棒)
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