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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第五章 大モルト侵攻編
141/518

その139 メス豚、新兵器を試験する

 以前、亜人の村の職人、マニスお婆ちゃんに制作を依頼していた”試作木製大砲”。

 ようやくその試作品第一号が完成した。

 しかし、残念ながらその出来は、設計担当の水母(すいぼ)のお眼鏡にかなう物ではなかった。

 お婆ちゃんなりに設計通りに作ろうとしたのだろうが、残念ながら彼女にはその技術も工具も無かったようだ。


問題箇所多数(まるでダメ)。特に強度不足が深刻(ヤバすぎ)


 ピンククラゲ水母(すいぼ)はバッサリと切り捨てた。


 水母(すいぼ)の言いたい事も分かる。

 そもそも、木を素材にして大砲を作っている時点で、最初から強度不足は分かり切っているのだ。

 それなのに、さらにマニスお婆ちゃんは、砲門をくり抜くために砲身を二つに割ってしまった。

 しっかりと接着はしているようだが、これでは発砲時の圧力に耐えられないだろう。


 水母(すいぼ)は試作大砲の周りをフヨフヨと飛び回りながら、一つ一つ問題点を指摘していった。

 お婆ちゃんも、設計通りに作れなかった事は分かっているようだ。

 申し訳なさそうにしながら、水母(すいぼ)の言葉に真面目に頷いている。

 そんなお婆ちゃんの姿に、私はいたたまれない気持ちになってしまった。


 イヤな気分だ。


 私はお腹に石でも飲み込んだような、重いしこりを感じていた。

 いつの間にか私は、まるで自分が水母(すいぼ)からダメ出しを食らっているような気持ちになっていた。


『以上の点を踏まえて全修正(やり直し)

『ま、待って!』

「何? クロ子ちゃん」


 私の声に振り返る水母(すいぼ)とマニスお婆ちゃん。

 作り直しは流石に酷いんじゃない?


 お婆ちゃんは何日もかけてこの大砲を作ってくれたのだ。

 それをちょっと見ただけで、「全部作り直して」は無いだろう。

 それって人としてどうなのよ? って話だ。

 まあ人も何も、水母(すいぼ)は旧文明に作られた対人インターフェイスで、私はメス豚なんだが。


『えと・・・その。そ、そうだ! せっかく作ったんだから一度くらいは試し撃ちをしておかない?!』


 いやいや。何を言っているんだ私は。

 他に言う事はあるだろう。

 案の定、水母(すいぼ)は私の提案に否定的だった。


その必要を認めない(時間のムダ)


 うぐっ。そんなの私にだって分かってるわい。

 やるだけ無駄だと思っているわい。


『そ、そんなの実際に使ってみないと分からないじゃない?! それともあんたの設計通りなら、絶対にちゃんと動くって保証でもあるわけ?!』

仮定の意味不明(何言ってるの?)。設計に間違いはない』

『設計と現実は違うわ! 何で実際にやってもないのにそう言えるのよ!』

「く、クロ子ちゃん。急にどうしたの? お友達同士でケンカはダメよ」


 マニスお婆ちゃんは困った顔で私をなだめに回った。

 私もどうかとは思うけど、意地になってしまって自分でも止められないのだ。


『とにかく、試し撃ちはするから。どうしても意味が無いと思うのなら、あんたは施設に戻っていてもいいわよ』

『・・・了承(分かった)。試射を認める』


 私のごり押しに、水母(すいぼ)は渋々ながら試し撃ちを認めたのだった。




 流石にこの場で発砲するのは危険なので、私達は試作大砲を村の外まで移動させる事にした。

 作業員として選ばれたのは、クロ子十勇士改め、クロコパトラ小隊所属のウンタとカルネの二人だった。

 彼らは村で暇そうにしていたところを私にスカウトされたのだ。

 二人は苦労して、村のはずれまで大砲を運び出してくれた。


「やれやれ。思ったよりも大変だったぜ。こんなことなら後二~三人呼んでおけば良かったかもな」

「なあクロ子。これって一体何をする道具なんだ?」


 二人は疲労よりも好奇心が勝ったようだ。

 試作大砲の周りを回りながら、興味深そうにためつすがめつ(・・・・・・・)眺めている。


『今から見せてあげるから落ち着きなさい。と言っても、これから始めるのはあくまでも試し撃ちだからね。上手くいかなくても文句は受け付けないから』

「試し撃ちって?」

『それも見ていれば分かるから。それよりも準備を手伝って頂戴』


 さて、どうなる事か。それでは早速、準備を始めますかね。



 試作大砲はその構造上、空撃ちが出来ない仕様となっている。

 マニスお婆ちゃんは、事前に作っておいた試し撃ち用の砲弾を取り出した。

 握りこぶし大の砲弾は、丸い木の球の周囲を皮で巻いた物となっている。

 木で大丈夫なのかって? まあ、これはあくまでも試し撃ち用の弾だから。


『ウンタはその弾を先端から込めて。そうそう。カルネはその棒で球を奥まで押し込んで。どう? 押し込んだ感じは』

「感じって・・・。特に引っかかる所も無く、普通にすっぽり入ったんだが?」


 あれ? そうなんだ。もしも加工にムラとかあれば、キツかったり緩かったりして途中で引っかかりそうなものだけど。

 どうやら私が思っていたよりも、マニスお婆ちゃんの工作精度は高かったようだ。


『そうしたら尾栓(びせん)の位置にある棒を引っ張って』

「びせん? びせんってどこだ?」

「これの事じゃないか? よっと。これでいいのか?」


 マニスお婆ちゃんが頷いているので間違いないだろう。


『次は適当な場所に砲身を向けて。まあその辺でいいでしょ。それじゃみんな下がって』


 私は筒内爆発を警戒して、念のためにみんなに下がってもらった。

 これで準備は完了である。


 ゴクリ。


 緊張で私の喉が鳴った。


『それじゃ今から試し撃ちを開始します。打ちー方、始ーめ! EX圧縮(コッキング)


 極み(エクストリーム) 化された圧縮(コッキング)の魔法によって、砲の後部――シリンダー内の空気が圧縮。

 空気取り入れ口から空気が流れ込み、その勢いで尾栓(びせん)の棒がスコンと引っ込んだ。

 棒の先には弁が取り付けられていて、空気取り入れ口を塞ぎ、シリンダー内を密閉する。

 ちなみに棒はクランクシャフトに繋がっていて、シリンダーに蓋をした所でロックがかかるようになっている。はずだ。


 ここまでの動作は順調。後は圧縮された空気が限界を超えると――


 ドンッ!


 腹に響く破裂音がしたかと思うと、砲身に大きな亀裂が入った。

 私の目の前の地面に大きな木の破片が突き刺さった。

 うひょっ! 怖っっ! お腹の下の辺りがヒュンってなったわ!


「うわっ! 危ねえ!」

「痛えええっ! 何かが腕に当たったぞ!」


 ウンタ達の方から悲鳴が上がった。

 念のために離れてもらっていたが、どうやら十分な距離では無かったようだ。いや、スマン。


『ゴメン、ゴメン。もっと離れていてもらえば良かったわ』

「一体何があったんだ? その筒、ブッ壊れちまってるじゃねえか」

「それで結局、その筒は何をする物だったんだ?」


 カルネは痛そうに腕をさすっている。

 幸い大きなケガではなかったらしい。

 どうやら破片が当たったのは彼だけで、カルネもマニスお婆ちゃんも無事だったようだ。

 そりゃまあ、この中ではカルネが一番、当たり判定(ヒットボックス)が大きいからな。


「大きな音がしたが、この筒の中で圧縮(コッキング)の魔法を使ったのか?」

『まあそうなんだけど。弾はどこに・・・ああ、すぐそこに落ちているのか。やっぱり砲身が耐えられなかったみたいね』


 木製の砲身は、砲内の圧力に耐えられなかったのだろう。キレイに縦に裂けていた。

 やはり水母(すいぼ)の見立て通り、張り合わせた面の強度が不足していたようだ。

 ちなみに砲弾は20m程先の地面にポトリと落ちていた。

 砲丸投げなら新記録かもしれないが、木製の砲弾でこれ(・・)では使い物にならないよなあ。


 ・・・結局、水母(すいぼ)の言った通りだったか。


 私は気まずい思いをしながら、水母(すいぼ)の方へと振り返った。

 彼はマニスお婆ちゃんと一緒に、砲身の裂け目を調べている。


 結局、私が意地を張って試し撃ちをしたせいで、せっかくお婆ちゃんが作ってくれた大砲を壊してしまった。

 お婆ちゃんには悪い事をしてしまったな。後、水母(すいぼ)にも謝らないと。

 私はトボトボと二人に近付いていった。


「スイボちゃんの言っていた通り、壊れちゃったわね。ごめんなさいね」

謝罪不要(いいって)。この結果は想定通りであり(アリ寄りの)予想外(ナシ)

「? それってどういう意味かしら」


 水母(すいぼ)は忙しく砲身の裂け目をまさぐりながら、お婆ちゃんの質問に答えた。


『一番のネックとなるピストン周りの出来が、想定外に優秀だった。砲身内の加工精度も満足いくものだった』

「けど・・・」

否定(けどじゃない)。強度不足はいくらでも補える。具体的には砲身をロープで巻いて補強してやれば良い。砲身を張り合わせていた接着剤でロープを補強出来ればなおの事良し』


 水母(すいぼ)にしては珍しく饒舌だ。


 確かに、マニスお婆ちゃんの作った大砲は、水母(すいぼ)のお眼鏡にかなうものでは無かった。

 しかし、彼は今の試し撃ちを見て認識を改めたようだ。


「接着剤? (にかわ)で固めるのね。でもそれだとスイボちゃんの設計の通りにはいかないけどいいの?」

『・・・設計と現実は違う。クロ子の言った通りだった。反省中』


 水母(すいぼ)はそう言うと、気まずそうに小さくフルリと震えた。


 水母(すいぼ)、あんた・・・。


 どうやら彼は、大砲の外見上の印象に引っ張られて、仕組みの出来や工作精度の評価がおろそかになっていたようだ。

 その事実に気付いた時、彼のコンピューターとしてのプライドが深く傷付いたのだろう。


 けど違う。私はそんなつもりで言ったんじゃない。

 私は胸が締め付けられる思いがした。


 反省すべきはむしろ私の方だ。

 あの時は、いつもの私の悪い癖が出たのだ。

 私は水母(すいぼ)の間違いを指摘したかった訳じゃない。

 あれは売り言葉に買い言葉。引っ込みがつかなくなって意地を張っていただけなのだ。


 そう思った時、自然に謝罪の言葉が私の口を突いて出ていた。


『・・・ごめんね水母(すいぼ)。さっきのは私の言い過ぎだったわ』

否定(ちがう)。クロ子は言い過ぎではない。誤ったのは水母(すいぼ)


 自分の非を認め、互いに謝り合う私達。そんな私達の様子をマニスお婆ちゃんは微笑ましく見守っていた。

 そんな中、カルネが不思議そうに私に尋ねた。


「それで結局、コイツは何をする物だったんだ?」


 お前は少しは空気を読め。

次回「メス豚と新たな戦いのゴング」

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