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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第一章 異世界転生編
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その12 メス豚、演説を聞く

 翌日。

 村に新たな部隊が到着した。

 柵の中からだと良く見えないけど、王子様の部隊と同じくらいの人数はいるんじゃないだろうか?

 つまりは結構な人数だという事だ。

 明らかに小さな村のキャパシティーを超えてますな。


 兵隊達が道を開けると、”いかにも軍人”といった雰囲気の髭のお爺ちゃんが馬に乗って現れた。

 ガチムチ邸で立哨していた兵士達がカチンコチンに固まって敬礼をしている。

 どうやらこの髭のお爺ちゃんはかなり偉い人のようだ。

 社長――な訳ないから、将軍とかそんな立場の人なのかもしれない。


 お爺ちゃん将軍?は兵士の敬礼に対して鷹揚に頷くと、部下を連れてガチムチ邸に入って行った。

 オイオイ、王子様の宿泊場所に顔パスかよ。やっぱり偉い人だったんだな。


 どうやら王子様の部隊は彼らを待っていたようだ。

 ガチムチ邸の前に馬車が停まると、使用人達が王子様の荷物らしきものを載せ始めた。

 兵士があちこち走り回って村人を集めている。


 いよいよ戦場に向かう準備が始まったのだ。




 村の広場にはびっしりと兵士達が集まっていた。


 流石に小さな村の広場に全員は入り切れなかったらしく、はみ出した者達が容赦なく道に溢れている。

 そしてこの場には村人達も集められていた。

 武装した集団に取り囲まれて余程不安なのか、互いに肩を寄せ合って小さく縮こまっている。

 まあ気持ちは分かるけどな。


 兵士達、と言っても武器も防具もバラバラで、めいめいが好き勝手な恰好をしているように見える。

 多分、国から支給された官給品ではなく、自前の装備なんだろうな。

 彼らは農兵とか地侍(じざむらい)とかそういった所か。


 そんな彼らを纏めるのは、こちらは揃いの装備に身を包んでいる騎士達だ。

 彼らが正規軍だな。隊列が整っている所といい、いかにも騎士然としている。

 そういや以前、恐竜ちゃんに乗って来た騎士も同じ恰好をしていた気がするな。

 恐竜ちゃんのインパクトが強すぎて忘れてたわ。


 そんな騎士の中でも、ひと際立派な恰好をした騎士が大声を張り上げた。


「気をつけ! 今より殿下と将軍閣下からお言葉を頂戴する! 全員その場で傾聴せよ!」


 騎士の言葉はビックリするくらい辺りに良く通った。

 学校の応援団を思い出したわ。

 無線も拡声器も無い時代、戦場で部下に指示を出そうとすれば、彼のようなスキルは必須なのかもしれない。

 

 みんなも私と同じように彼の大声に驚いたのだろうか。

 周囲のざわめきは収まって、村はしんと静まり返った。



 突然訪れた静けさの中、さっきのお爺ちゃん将軍に先導されて王子様が姿を現した。

 颯爽と歩く王子様の金髪が風になびく。

 ほえ~、イケメンは歩いているだけでも絵になりますわ。


 お爺ちゃん将軍と王子様は全員の前に立った。

 先ずはお爺ちゃん将軍から話があるようだ。


「わが軍はこれからグジを出てアマーティに向かう! 先発するのはカサリーニ軍! 次いでペトロニ軍! なおカルザは――」


 う~ん。何を言ってんだかさっぱり分からん。

 常時発動している翻訳(トランスレーション)の魔法で会話の意味は分かるけど、流石に固有名詞までは分からないからな。

 まあ私が同行する訳じゃないから適当に聞き流しておけばいいか。


 それはそうと、お爺ちゃん将軍は本当に将軍様だったんだな。

 どうりで立派な髭をしていると思った。いや、髭関係ないけど。


 お爺ちゃん将軍の業務連絡が終わり、次はイケメン王子が前に出た。


 王子様ステキーッ(ブヒーッ)! こっち向いてーっ(ブヒーッ)


 私だけがブヒる中、王子は周囲を見渡した。

 彼は自分が全員の視線を集めている事を確認した上で演説を開始した。



 その内容は何と言うか状況説明?


 ザックリ言いますとですな。

 王家では隣国の軍がこの辺に攻めて来るという動きを掴んだ。

 国王様は直々に王子様にその迎撃を任された。

 敵は寡兵な上、こっちの軍は百戦錬磨の将軍閣下が率いている。

 恐れる要素はゼロである。

 手柄を立てるために励むが良い。


 とまあそういった内容が、説明半分アジ演説半分で語られた。

 いやあ愛国心が刺激されますなあ。


 しかし、なるほどなるほど。そういった状況だった訳ね。

 村人達も初めて聞かされる話だったみたいで、チラチラと周囲と目配せをしては頷き合っている。

 彼らはこの恐ろしい軍隊が、隣国の軍から自分達を守るために派遣された兵だと確認出来て、ようやくホッとする事が出来たみたいだ。

 まあTVも無ければ、まだ新聞も無い世界みたいだからな。

 こうやって事情を知ってる人から聞かされないと、今、自分達の周囲で何が起こっているのかなんて分からないんだろう。


 しかし、話を聞く分だと何ら心配は無さそうに思えるな。


 こっちの方が戦力は上らしいし、彼らを率いるのは経験豊富なお爺ちゃん将軍だ。

 さらに王子が直接戦場に出向く事でこちらの士気はうなぎ登りだ。

 どこをどう見ても負ける要素は見当たらない。

 敵だって負けると分かれば、必要以上に突っかかって来る事もないだろう。

 というよりまともな戦いになるとも思えない。

 こりゃあ昨日ショタ坊が言ってた通り、せいぜい小競り合い程度で済むんじゃないかな。


 でもなぜだろう。


 やっぱり私の心にこびり付いた不安は拭えないのだ。

 


 私はこの世界の常識も、この国の現在の情勢も、隣国の軍事力も分からない。

 だが根本的な疑問として、そもそもどうして隣国は攻めて来るのだろうか?

 ざっと周囲を見渡したところ、ここには村に入り切れない程の兵士がいる。

 戦力はどれくらいなんだろうか? 二千? 五千? 流石に一万はいないだろう。


 仮にこの軍が三千としよう。

 それを下回るとされる相手の軍はこちらの半分以下として千とする。


 千の軍団なら緩衝地帯の周囲の村を荒らすには十分な兵力だ。だが、言ってしまえばそれだけだ。

 まともな戦力を相手にするには不足だし、ましてや敵国内に切り込んで砦を落とすには、どう考えても少なすぎるとしか思えない。


 相手の狙い――軍事目的が分からない。


 相手の国土に攻め込んで村を荒らした。そういう事実が欲しいんだろうか?

 だとすればそれは既に失敗している。

 敵国に情報が洩れてこうして手を打たれている時点でアウトだ。

 のこのこ出向いても返り討ちに遭うだけだろう。

 私が敵国の将軍なら絶対に軍を進めない。それともあちらには負けると知りつつも引けない理由でもあるのだろうか?


 この戦いは何かがおかしい。

 ハッキリとは分からないけど、何か前提条件が間違っている気がする。

 どこかに大きな見落としがあるような、そんな気がしてならないのだ。


 私の考え過ぎだろうか?


 案外、隣国とはこうしてしょっちゅう小競り合いを続けていて、今回はたまたまこちらが先手を打てただけだったりするのだろうか。

 王子様もお爺ちゃん将軍も特におかしいとは考えていない様子だ。

 だったら私の方が間違っているのかもしれない。


 そう思いながらも、私はやはりどうしても納得する事が出来ずにいた。




 王子様の話が終わると兵士達はぞろぞろと村の広場を出て行った。

 今までずっと怯えて家に閉じこもっていた村人達も、彼らが自分達を守るために来てくれた事がハッキリしたためか、去って行く彼らの背に声援を送っている。

 現金なもんだね。


 ふと気が付くとショタ坊が柵の前に立って私を見下ろしていた。


 ショタ坊の背中には大きな荷物が背負われている。

 お爺さんとお婆さんが持たせてくれた旅支度だろう。

 中身は着替えやおやつかな?


「クロ子、元気でな」


 ショタ坊はしゃがみ込むと私の頭を撫でた。

 私もブヒッと鳴いて答える。


「お転婆もほどほどにな。もうケガをするなよ」


 いつぞやのケガの時にはショタ坊の世話になったなあ。てか私ってショタ坊にずっとお世話になりっぱなしなんじゃね?

 命を救われた時もそうだけど、日頃から食事の支度に掃除にと世話をかけっぱなしだったわけだし。


 あれっ? 私らってショタ坊がいないと何にも出来ないんじゃん。


 初めて気が付く衝撃の事実。私ら明日からどうすりゃいいの?


「お前達の世話はロックに任せているけど・・・ 何とか上手くやってくれる事を願っている」


 そして告げられる非情な宣告。

 おおう・・・マジか。今後は岩男が私らのお世話係りになるのか・・・

 チェンジお願い出来ないでしょうか? 無理ですよね。分かります。


 その時、私の頭を撫でていたショタ坊の手が止まった。

 どうかした? まだ撫でていても良ろしくてよ? 


「今回の戦・・・殿下は何の心配も無いと言っていたけど、僕はそうには思えないんだ」

「ブヒッ?!」


 ショタ坊の目は私を見ながら、どこか遠くを見ていた。


「イヤな予感って言うか・・・ どこか不自然な気がするんだ。何がどうとは言えないけど、見えない罠にはまっているような・・・ 僕達は何かを見落としているんじゃないかな」


 私は素直に驚いた。

 ただの朴訥な村の少年に過ぎないと思っていたショタ坊が、まさか私と同じ不安を感じていたなんて。

 ・・・てかこれって動物のカンじゃなかったのか。誰かに言ってないで良かった。危なくかかなくてもいい恥をかくとこだったわ。


 ショタ坊はかぶりを振ると立ち上がった。


「初めて戦に行くから神経質になってるだけかな。じゃあクロ子、元気でな」


 ショタ坊は不安を断ち切るように勢いよく振り返ると、離れた場所で見守っていたお爺さん達の方へと歩いて行った。

 私はそんなショタ坊の背中を黙って見送る事しか出来なかった。

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