その103 メス豚と最初の部下
「行ったか・・・」
ショタ坊達の姿が村の外に消えて、私はホッとため息をついた。
とんでもない約束をしてしまったが、人間に村の存在がバレてしまった以上、今までのように隠れ住んでいるわけにはいかないだろう。
村の人々を守るためには戦わなければならない。
望むと望まざるとにかかわらず、嵐の時代がやって来るのだ。
「クロ子。コイツらの事はすまなかった」
ショタ坊達を見送っていた亜人達が戻って来た。
亜人の青年ウンタと武装した村の男達だ。
彼らの勝手な行動のおかげで随分とヒヤヒヤさせられたもんだ。
ウンタが事情聴取をした所、やはり彼らは人間の使者を襲うためにこの村に来ていたそうだ。
どうやら私達の到着は、本当にギリギリのタイミングだったらしい。
「本当にそいつがクロ子なのか? どう見ても人間にしか見えないんだが」
自分達の命が救われた事に未だに気付いていないのか、男達からそんな言葉が出た。
私は彼らの能天気な態度にイラッと来た。
「アンタ達ね――」
「みんな。私は村に近付かないでって言ったわよね」
だが、私の言葉はモーナに遮られてしまった。
モーナは厳しい顔で男達一人一人を見回した。
のん気な態度から一転、途端にバツが悪そうにする男達。
「村長代理の私の言葉ってその程度のものなの? だったら私は今日限り村長代理を辞めるわ。カルネ、あなたがやる? どうせ私の言葉を聞く気がないなら、私なんていてもいなくてもいいわよね。全てあなた達が決めて頂戴」
「いや。待ってくれモーナ、俺達は別にそんなつもりじゃ・・・ それに俺なんかの言葉を村の女達が聞くはずないじゃないか!」
カルネと呼ばれたリーダー格の男が、慌ててモーナに謝った。
てか、なんとも情けない理由よのお。
「すまなかったよ。俺達の村に人間が住み着いているのが腹立たしかっただけなんだ」
「カルネだけが悪いんじゃない。俺達も同じ気持ちだったんだ」
「そうだそうだ」
「お前達! いい加減にしろ!」
ざわつき始めた男達をウンタが怒鳴り付けた。
小さな村で生まれ育って外の世界を知らない男達は、どうやら決定的に危機意識が低いようだ。
ウンタに説明されただけでは、自分達がいかに危険な状況にあったか実感出来ていないのだろう。
まあいい。だったら彼らの望むようにしてやるだけだ。
どのみち頭数は必要だったんだからな。
「話の続きは後でやって頂戴。それより、この中にウンタ以外に、水母の手術を受けて頭に魔力増幅装置を埋め込みたい人っているのかな?」
私の言葉にモーナがギョッと目を見開いた。
男達は戸惑ったように顔を見合わせている。
やがて一人、また一人と手を上げる男が・・・って、全員かい!
まあ、血の気の多い男達だから無理もないか。
「分かった。村に帰ったら水母の施設に集まって。全員に手術を受けてもらうわ」
「「「「「おおっ!」」」」」
「クロ子ちゃん!」
喜びに沸き返る男達。
ウンタも一緒になって互いの肩を叩き合っている。
モーナが慌てて私の服を引っ張った。
肩ひもがずれて白い肩がむき出しになる。
ピンククラゲ水母の体からスルスルと触手が伸びると、無言で服を戻してくれた。
イヤン水母、紳士やん。
「彼らは山越えに連れて行くわ」
「そんな! 危険だわ!」
「「「「山越え?」」」」
青ざめるモーナと、キョトンとする男達。
さすがの男達もモーナの様子にただならぬ気配を感じたようだ。
ついさっきまでの喜びはどこへやら。今は私達の会話に耳を傾けている。
「今後、私が指揮する部隊には、水母の手術を受けていない者は入れない事にする。戦闘力は少しでも高めたいし、その程度の覚悟も出来ない男は戦場には連れて行けないから」
つまり角の生えた亜人は、クロコパトラ女王の親衛隊という訳だ。
ちょっと考えている魔法もあるし、そのためにも魔力増幅装置の上乗せは必要となるだろう。
仲間意識や連帯感を高める役にも立つかもしれない。
男達が慌てて私に尋ねた。
「戦場って、俺達は戦場に行くのか?!」
「そうよ。手術を受けたら私と一緒に戦場に行ってもらうわ。当然、生きては戻れないかもね」
流石に躊躇する男達。そりゃそうだ。
のん気な男達でも、ようやく自分達が望んでいた事がどれだけ危険な事か気が付いたらしい。
私に言わせれば、今更、って気もするけど。
・・・ここで全員怖気づいてしまったらどうしよう。
まあ、その場合は私は一匹でも行くけどね。
「俺は行くぞ」
「ウンタ!」
「あの日ククトとクロ子が助けに来てくれなければ、俺達はどうせ人間の奴隷になっていたんだ。もし戦場で死んだとしても、それはクロ子と一緒に戦っての死だ。奴隷としての死じゃない」
ウンタの言葉に男達はハッと顔を上げた。
「・・・その通りだ。戦場に行くとしても、それは俺達の選択だ」
「どの道、人間の奴隷になっていても、戦場に送られていたかもしれないしな」
「違いない」
男達は次々とウンタの後に続いた。
アンタ達・・・
「分かった。アンタ達の命は私が預かったわ。絶対に無駄には死なせないから」
「「「「「おおーっ!」」」」」
私の言葉にモーナは諦めたように顔を伏せた。
ゴメンねモーナ。
誰一人死なせるつもりはないけど、戦うと決めた以上、犠牲者は覚悟しないといけない。
勿論、その犠牲者が私になる可能性だって十分にある。その覚悟は出来ている。
私と共に戦う事を誓ってくれた十人の男達。
こうして私は生涯最初の部下を手に入れたのだった。
群れの野犬達? あれは群れの一員であって、部下っていうか手下って感じだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇
一度通った道だけあって、帰りは早かった。
ルベリオ達は翌日には山を下り、麓の村で預けていた馬を受け取った後、その日のうちにランツィの町へと到着していた。
町の外は野営をしている兵士達で溢れ返り、また、彼らを相手に商売をする商人や娼婦で賑わっていた。
「何か気になる事でもありましたか?」
護衛隊長は、馬上で周囲を見回しているルベリオに声を掛けた。
「いえ、行きよりも兵の数が増えているように感じて」
「ああ、確かに。増援が来たのかもしれませんね」
どうやら、ルベリオ達が山に入っている間に、イサロ王子の指揮する援軍が町に到着したようだ。
「殿下に報告しないと!」
慌ててキョロキョロと辺りを見回すルベリオ。
護衛の騎士達はそんな彼の姿に笑いを堪えている。
「殿下が兵士の野営地にいらっしゃるとは思えません。町の中にいるのではないですか?」
「あっ! た、確かにそうですね」
イサロ王子の軍がルベリオの故郷、グジ村で滞在していた時も、兵士は村の外で野営し、王子は村長の家で宿泊していた。
ルベリオはその事を思い出し、赤面した。
「急いで町の代官の屋敷に向かいましょう。きっと殿下はそちらにいらっしゃると思います」
「そうですね。お前達そこを退け! 我らの前を遮ると許さんぞ!」
ルベリオ達は人をかき分けるようにして町の入り口を目指した。
彼らが町に入ったのは日も傾き、家々の窓から夕食の支度の煙が上り出す時刻だった。
外の混雑からようやく逃れて町に入れば、今度は一日の仕事を終えて家に帰る者達の混雑が待っていた、という訳だ。
ルベリオ達は人混みに閉口しながら馬を進めた。
「えっ?! まさかルベリオ?!」
その時、通りに少女の驚きの声が響いた。
咄嗟に馬を進め、ルベリオの周囲を取り囲む護衛の騎士達。
馬上のルベリオは、聞き覚えのある声に驚いて辺りを見回した。
彼の探し人はすぐに見つかった。
「ベラナ! 久しぶりだね!」
ルベリオの姿に目を丸くして驚いているのは村の少女。
かつてルベリオとキスをした事もある幼馴染、ベラナだった。
次回「ルベリオと興奮する幼馴染」




