一時の転校生
ひとりぼっちなのに何故か浮いていない生活が続いていた小学校高学年になりかけの頃、1人の男の子が篤沙のクラスに転校してきた。彼女がいるクラスに転校生が入ることは今まで無かった。
初めてと言っていいほどの珍事にクラスは色めき立ち、男子は新しい友情の可能性に女子は初めての転校生という出会いにそわそわしていた。篤沙を除いては・・・。
(どうせ、私には関係ない事だし・・・。)
そう思いながら窓の外の風景を見やると青々としていた葉は少しづつ秋に向けて色を変えはじめていた。新しいクラスメイトもそのうちこの風景の様にしか自分が見えなくなると思いながら。
そうしている内に担任の先生が1人の男の子を引き連れて教室に入ってきた。男の子も一緒に入ってきたので一気にクラス全体が騒然としだした。ふと教壇の方に視線を移すと、担任の先生と視線が合い少しだけ気不味い気がしてそっと横に視線をずらした。
「はいはーい!皆静かにねー!この時期には珍しいと思うけど、彼のご家庭の事情によりこの学校に居るのは短い間になるとは思いますが、このクラスに転校生が来ることになりました!皆、仲良くしてください!」
彼女・・・担任の先生が一気に言いまくってクラス全体が静かになったのを確認してからゆっくり隣の男の子に促した。
「それじゃあ、自己紹介してもらえるかな?」
そこまで話を聞きながらそれ以降は聞き流した。どうせ私には関係ない話だと思いながら・・・と思っていたのも束の間、突然クラスがザワついた。ほとんどもう上の空だった篤沙は何事かと思い、教室内に意識を戻した。ヒソヒソと話す女子のささやき声に集中して聞き取った内容に思わず、驚愕した。
(なんであの子の隣なの)
確かにそう聞こえた。きっと、あの男の子の新しい席を決める話でもしてたのだろう。私の席は窓際の列の最後の席でその最後列は私の席しかない。なので自然と新しい席はその隣になったのだろう。
しかし、私が驚愕したのはそれでは無い。何故か空気に近い私が久し振りにクラスの中で目立っているという事だ。皆が忘れ始めて私自身も慣れてきたというのに突然の奇異による眼差しがとても痛い。
(どうしよう・・・自己紹介とか聞き流してたから名前とか分かんないよ・・・!黒板にも名前とか書いてないし・・・)
必死で表面では自分を取り繕い脳内であれこれ考えながら、教室の後ろ側に用意してあった席をこちらに運んでくる彼をそっと見するとふと彼の名札が目に入った。
『かんざき』
苗字が平仮名でたったそれだけだったが、今の私にとってそれは救いだった。少なくとも苗字呼びだけでなんとかなりそうだ。
「短い間になるかもしれないけど宜しくね!」
「あ・・・はい・・・」
素っ気なく終わったやり取りではあったが、クラスのひそひそと聴こえる声から早く耳を塞ぎたくて仕方なかった。
「はーい、じゃあ朝のホームルームを始めます・・・」
(先生ありがとう、ナイスタイミング)
この時ばかりは担任の先生に感謝をした。この教室にいる時点でこの空間のヒエラルキーのトップは担任の先生である彼女だ。教室の空気はまだそわそわしている空気が漂ってはいるが私は安心した。
それから暫くして、教科の間の休み時間私の周り・・・もとい、隣の席のかんざきくんの席の周りが人集りになるのは時間の問題だった。・・・としても私の近くは人は少なかったけれども、それでもそれは私とかんざきくんの壁になってたので安心だったが。
その日は殆ど、隣の席の間にはクラスメイトという名の壁が存在してたので安心して過ごせた気がする。給食の時間だけはそこに壁がなかったので落ち着かなかったが。
2020/12/13 続き書きました