第4話 誰よりも胡散臭く
第4話 誰よりも胡散臭く
「…はあ? あのジャックが?」
「うん」
ジェフさんは真顔でうなずいた。
「ほんとほんと、ジャック最強。
いろんな初心者さんたちを見てるガイドの僕が言うんだから、すごくほんと」
「はあ…」
ジャック最強説…胡散臭っ!
ないない、ジャックは「『テラクラフト』の悪夢」なんだから。
思えばこのジェフさんも胡散臭い人だ。
このゲーム最初のプレイヤーと、ガイドと言うけれど、
一体どこまで本当なのだか。
だが、ジェフさんの知識は本物だったし、
ジェニファさんや連合員のナナさん、タクさんはとても親切で、
私たちはこの連合「トータル」にお世話になる事に決めた。
連合員になると、この連合ハウスに住む事が出来る、
私たちも実際住んでいると、ナナさんが教えてくれた。
そのため、私は豆腐建築の家に戻って、荷物を取って来る事にした。
「マヤ、良かったらこれ貸したげる」
出かける前、ジェニファさんが豚の貯金箱と金庫を貸し出してくれた。
「自分のインベントリがいっぱいになっても、
この貯金箱と金庫にも荷物を入れられる。
マヤもいつかお金が貯まったら買うといいよ」
ジャックは連合に預けることにした。
その方が私の背中に隠れるより、ずっと安全だ。
私ひとりだったので、豆腐建築への道はずっと楽だった。
夜明けと共に出かけて、着いたのが昼前だった。
宝箱の荷物を詰め込んで、再び出発する。
そして夕方には森を抜けて、連合ハウスのある草原に出た。
すると、私に声をかける者があった。
「こんにちは、初心者さん? 今ひとり?」
それはジェフさんと同じ年頃の男の人だった。
装飾が多く、いかにも強そうな装備をしているが、
下膨れの顔に、おちょぼ口の純和風の顔立ちをしている。
日本のプレイヤーらしい。
「あ、はい」
「俺はグレンて言うんだけど、うちの連合に遊びに来ない?
『エゴイズム』て上位200位以内に入る連合だから、資金も潤沢だし、
初心者さんにも十分なアイテムを支給できるよ、どう?」
「えっ…」
私が戸惑っていると、グレンさんは近づいて来て、
私をじっと見つめて、それから耳元に囁いた。
「君、いくつ? 中学生?」
その時だった。
青い光が私の真横を駆け抜けたかと思うと、
グレンさんの頭がふっ飛んで、草の上に転がった。
「よっしゃ、命中」
見ると、連合ハウスの庭先で、ジェニファさんが鉄砲を片手に、
拳をぐっと握りしめていた。
「ジェニファさん…!」
「お帰りマヤ、遅いから心配したよ」
連合ハウスの3階の階段から一番近く、ジェニファさんの隣に、
小さいながらも私の部屋が用意されてあった。
壁には白い壁紙が貼られてあり、
高い位置にいちごの花の模様が、アクセントとして横一列に並べられてあった。
ベッドや寝具は白でまとめられてあり、
下半分だけ開く押し上げ式の窓には、緑のカーテンがよく映えてきれいだった。
「ジェニファさん、ジャックは? 一緒じゃないんですか?」
「ジャックは男の子だから、2階のジェフの隣だよ」
ジェニファさんは、2階は男の人たちのフロアで、この3階が女の人たちのフロア、
バスルームも各階にフロア専用のがあると教えてくれた。
そして、階段もハウス内部のものとは別な、直通の外階段の位置も教えてくれた。
「…マヤ、このハウスに帰って来る直前にあった事を覚えてる?」
「確か、森を抜けて、草原に出たところで男の人に声を…」
「これからは知らない男の人に誘われても、ついて行ってはダメ。
ほんのわずかでも、迷う様子を見せてもダメ、いい?」
ジェニファさんは、私の荷物を片付ける手を止めて、
厳しい表情で念を押した。
「はい、でもどうして?」
「ここには私やナナ、サワ、ケイをはじめ、女の人たちが何人もいるけれど、
それは本当に稀な事なの…この世界には女の人がうんと少ないの」