表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/84

第3話 誰よりも邪魔臭く

第3話 誰よりも邪魔臭く


「どういう事?」


私はジャックの青い目をじっと覗き込んだ。


「まやちゃん、あの人の連合を訪ねてみてよ」

「なんで?」

「僕たちだけじゃ、どうがんばってもこれが限界だと思うんだ。

…だってまやちゃんは僕なんかと一緒だから。

僕はまやちゃんにとってお荷物だから、誰か他の人の助けが要るよ…」


ジャックはようやく小さく消え入った。

…気にしていたのか。


「ジャックはお荷物なんかじゃないよ」


そうは言ったものの、実際お荷物だった。

ジャックは本当に何も出来ないし、何をさせても失敗しかない。

そして、ここに来て1週間になるけれど、彼は少しも成長していないし、

たぶんこれからも成長はしないだろう。

ジャックには同じ初心者の私ではなく、誰か教える人が要る。


それからしばらくの間、連合のある街の入口まで、森を抜けるために、

私は体力とレベル上げに、そして武器の制作に専念した。

森にはスライムもいるけれど、ゾンビだっている、

夜になれば、目玉みたいなモンスターだって飛んでいる。


そうして森を抜ける自信がついたところで、

ジャックを連れて街の入口へ向かった。

「テラクラフト」の1日の始まりは午前4時30分、

それにきっかり合わせて豆腐建築の家を出た。


丘を下って窪地まで出ると、ジェニファさんが教えてくれた通り、

右に折れて、街へと続く森に入る。

森と言うが、草原と同じ丈の低い草地に、木が並んでいる程度で、

現実世界の林が近いと思う。


朝はスライムが多く出現する。

私はがたがたと震えるジャックを背中に隠しながら、

ぴょんこぴょんことうさぎ跳びするスライムを、

1体ずつ丁寧に倒しながら、前へと進む…。



「こんにちはあ…ジェニファさん、いますか?」


連合「トータル」に着いたのは夕方近くで、もう陽が傾いていた。

森を抜けると、街までまた草原になっており、

「トータル」の「連合ハウス」は、その中にぽつんと建つ一軒家だった。

壁にも屋根にも木材が多く使われてあり、ログハウスのような佇まいだった。

中から「はーい」という声がして、20代とおぼしき茶髪の男の人が出てきた。

私はジェニファさんからもらったメモを見せた。


「あ、初心者さんね、大変な道のりをわざわざありがとうございます。

モンスターが来るから、とにかく中に入って待ってて。

ジェニファはここの補佐です、今呼んで来ますね」


男の人は、家の奥に向かって「ジェニファ」と声をかけた。

ジェニファさんは頬を染め、目をきらきらさせて、

私たちのいる玄関まで駆け出して来た。


「マヤ! ジャック! ようこそ『トータル』へ…!」


ジェニファさんは私たちにお茶を出してくれ、

それから最初に出てきた男の人を紹介してくれた。


「僕はジェフリー、ジェフでいいよ。

この『トータル』で盟主をしているけど、初心者のガイドのがメインかも。

わからない事はなんでも聞いてよ」


驚いた、ジェフさんは「トータル」の盟主だったのか…。


「ジェフはなんと! ID1、このゲーム最初のプレイヤーなの。

私も初心者だった頃、いろいろ助けてもらったの…だから今はその恩返し」


ジェニファさんがうふふと笑いながら付け足した。

私もジャックももう一度目を丸くした。


ジェニファさんとジェフさんが、夜は危ないからと泊まって行くように勧めてくれ、

私たちはそれに甘えさせてもらう事にした。

夜間は夜間限定のモンスターがいるし、数そのものも多い。

私でも外に出る勇気はなかった。


パンプキンのスープとパイなど、見たこともない豪勢な夕食のあと、

私はジェフさんにレベル上げの方法や、家具の作り方、

家の建築などについて、眠くなるまでいろいろと質問した。

たくさんの質問にも面倒臭がらず、ジェフさんはひとつひとつ、

詳しく丁寧に教えてくれた。

それから…。


「ジャックはどうしたら強くなれますか?」


大事な質問だった。

この質問こそ、私がこの連合を訪ねた最大の目的だった。


「今のままだと、ジャックはこの世界を生き延びられない。

もし私が倒れて、彼ひとりになってしまったらと思うと…」


リビングの隅で窓の外のモンスターに怯えて、身体を丸めに丸め、

泣いて震えるジャックに目をやって、ジェフさんは少し笑った。


「…ジャックは強くなるよ、きっと、誰よりも強く」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ