第21話 誰よりも魅力
第21話 誰よりも魅力
古新聞で包まれた細長い包みを開いて見ると、
棒状に形成され、長さ10センチほどに圧縮された肉の塊と手紙が入っていた。
「サラミ? 生ハム?」
「いや、これは食べ物ではないみたいだな…しっかり加工されてある」
手紙を開いて見る。
手紙は便箋で何枚にも渡り、細かな文字でびっしりと書き込まれてあった。
冒頭はこう始まっていた。
“マヤへ。バハムートの肉の一番良いところだけを、ひき肉にしたものに、
豚の貯金箱の欠片と、ヨーグルトやはちみつ、ハーブなどを混ぜて固めました。
万が一、食べてしまっても害はないですが、
決して食べ物と間違えないように、誰かに食べられないように保管もしっかりと。
これはマヤが魔法を使う時、ロッドとしてお使いください”
魔法のロッド…!
手紙の部分はそれだけのようで、以降は取扱説明書らしかった。
アジットさんは聞いた。
「シェフ、誰がこれをあんたに預けて行った?」
「なんと! あの夜鷹さんだよ…でも彼も預かっただけみたいだ」
…ケミーさんだ。
浜に揚がったバハムートから、一番いいところを持って行ったのは彼しかいない。
「バハムートの肉で作ったロッドか…聞いた事がないね。
しかもあの夜鷹さんに届けさせるとは、これはマヤも頑張らないとな」
シェフのサトーさんは、私の肩を叩くと厨房へと戻って行った。
「…それにしても驚いた、夜鷹さんて有名なんですね。
『プログレッシブ』では、合戦でいつも前衛を殺しそうになってる印象だけど」
「あの人はもともと、強い連合の前衛だったから有名だし、
今でも彼を慕う人は多いんだ…往年のスタープレイヤーてところだね」
それが今は利き手が動かなくなって、「プログレッシブ」に流れ着いた。
「プログレッシブ」は本当に過去を抱えた人の連合なのだ。
たとえ戻りたくなっても、戻ってはいけないところ…。
この「テラクラフト」の世界には、案外たくさんの連合がある。
部屋のコンピュータで見たところ、1000以上はある。
ソロの人や引退した人のひとり連合と、私とジャックが最初に作ったような、
身内のみの少人数連合が半数以上で、
「トータル」や「プログレッシブ」、「セカンド・ホライズン」のように、
ハウスを持つほどの連合はそんなに多くはない。
200あるかないかといったところだろう。
「セカンド・ホライズン」は、最大手の「ラ・シエスト」を本家とする、
100位ぐらいの中堅連合だった。
連合ハウスは街中にあるが、最初は海辺の漁師小屋だったと言う。
だから今でも連合は海戦を得意とし、連合員たちは毎朝交代で漁に出ている。
そして海産物で富を成した。
目立って強い訳ではないが、「ラ・シエスト」に入る者も多く出しており、
古くからの名門連合ではある。
そんな連合で前衛でもなく、後衛でもない、
そして決して合戦に出されることのない、
たったひとりだけの「回復班」とはどういう立ち位置なのだろう。
私では戦力にならないから、体のいい補欠なのだろうか。
アジットさんからはその晩、私に婿を取らせたいと正式に話があった。
そのために今、本家である「ラ・シエスト」にも相談しているとも彼は言った。
大晦日の午後だった。
私はまたアジットさんのオフィスに呼び出された。
「マヤ、『ラ・シエスト』から返事があった」
「決まったのですか?」
「それが…ふじさんはマヤを『ラ・シエスト』に欲しいと言っている」
「えっ…」
「ラ・シエスト」は最大手の連合であると同時に、
連合順位第1位、最高の連合でもある。
「回復班なのにですか?」
「回復班だからこそだと思うんだよ…。
回復だけに特化している人は、マヤ以外に誰もいない。
そして回復班の設立は、盟主のふじさんの賛成で決まったようなもんだし、
ゆくゆくは引き抜くつもりでいたのだろう」
アジットさんは髪をかきむしり、困りに困っている様子だった。
「…俺たちはマヤに婿を取らせて、できればここを継いで欲しかったけれど…。
まあ、ふじさんと『ラ・シエスト』は気長に待つと言ってくれている。
どうしたいかよく考えておいてくれないか」
…最高の連合「ラ・シエスト」が私を欲しいと言っている。
「ラ・シエスト」なら合戦にも出られる、より高度な教育もきっと受けられる。
なんとも魅力的な話だ…。
私は部屋で、ベッドに腰掛けて、
あのバハムートの肉で作られたロッドを持て余していた。
まだ一度も試した事がない。
それにしても見た目は本当に美味しそうな肉の塊だ。
先端を少し舐めてみる、不味い。
はちみつの甘さに、ヨーグルトの酸味と、
ハーブの苦みと薬っぽさが合わさり、たまらなく不味い。
説明書に目を通してみる。
ケミーさんも私が回復班なのは噂で聞いているらしい。
説明書は回復魔法の基本的な使い方から始まっていた。
それから応用編、この最後に小さく付け足したように「増殖」とあった…。




