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第九十九話 西部反乱





「エリスがいない? どうしてだ?」


 聖王都に戻ってきた俺はエリスのところへと向かったのだが、城にエリスの姿はなかった。

 エリスを守るために聖騎士が勢ぞろいしたというのに、そのエリスが城にいないというのはどういうことだ?


「どうしたもこうしたもない。王家としての仕事だ」

「王家としての仕事?」


 城にいたレイモンドに訊ねるとそう返された。

 この状況化で王家の仕事なんてあり得るのか?

 パトリックの提案で日本にはアーヴィンドが派遣され、それ以外の聖騎士はエリスの護衛のために聖王都へ集結したと聞いていたのだが、帰ってきたらそのエリスがいない。

 いくらなんでもすぐに動くのは危険すぎるのではないだろうか。


「何を考えているかはわかる。オレもすぐに動くのは危険だと思ったが、状況がそれを許さなかった」

「なにが起きた?」

「西部で大貴族同士の衝突だ。鉱山の利益で問題を抱えてたんだが、片方が軍を準備し始めた。それに対抗してもう片方も軍を準備し始めたから、その調停のために姫殿下が向かったわけだ。国内で内乱を起こしている暇はないからな」


 西部と聞いてなんとなく俺の心の中がざわつく。

 聖王国とて一枚岩じゃない。ここまで国が大きくなったのは他国と戦争し、勝ってきたからだ。特に国境に近づけば近づくほど、歴史的に見ればつい最近まで別の国だった土地となる。

 そんな土地に貴族を派遣したり、元々の有力者を取り込んで土地を収めてきたわけだが、

西部は魔王軍との戦いで奇襲を受けた際に、王家に見捨てられたという意識を抱いている。現状、聖王国一番の火薬庫といってもいい。


「この忙しいときに鉱山の利益問題?」

「西部は独立色が強いからな。こういう問題も多い」

「危険はないのか?」

「護衛に聖騎士が三人ついてる。」

 

 十分な数だ。

 たとえ軍が相手でも対応できるだろう。

 しかし、胸の中のざわめきは収まらない。


「罠とは考えないのか?」

「十分に検討した。しかし、罠であろうと西部の大貴族同士の対立を放置するわけにはいかない。収める力を持つのは陛下と姫殿下のみだ。選択肢がない以上、どうすることもできない」

「いつ出た?」

「追っても無駄だ。王室座乗艦で向かわれた。今ごろはもう両者の仲介に入ってる」

「やけに冷静だな?」

「三人ともオレよりも序列は上だ。たとえ五英雄が姫殿下を狙おうと簡単には突破できない」


 レイモンドの言うことはもっともだ。

 しかしそれでも不安は消えない。この状況で起きることはすべて黄昏の邪団が関わっているように思えてしまう。

 奴らの計画は周到だ。

 もしも西部の貴族が反乱を起こすとするなら、聖騎士をどうにかする方法を持っているはずだ。そうでなければ反乱など成功しないからだ。


「心配する気持ちはわかるが、大人しくしておけ。聖騎士団長が落ち着いたら二人を連れてくる。こっちにいたほうが守りやすいからな。それまでは城にいろ」

「……わかった」


 できればエリスのところに行きたいが、単独行動で駄目だしを食らったばかりだ。

 それに何もかもを疑えばいいというわけでもない。

 そう自分を無理やり納得させて、俺はその時は引き下がった。




■■■




 明くる日。

 聖王の目の前には三枚の布が置かれていた。

 それを重臣たちは茫然とした様子で見つめている。

 至急の用があると呼び出された俺は、その布を見て恐れていたことが現実になったことを察した。


「来たか。状況は見てのとおりだ」

「……あんたはいつもそうだな。常に王であろうとする。尊敬に値するが、今は苛立ちしかわいてこないからやめてくれないか?」

「私は父である前に王であらねばならないのだ」

「……娘の護衛が聖騎士の証である白のマントをあんたに突き返したんだぞ……?」


 聖王の前にある布は聖騎士が身に着ける白いマントだ。

 それが三つ。

 どこから送られてきたものかなんて考えるまでもない。エリスの護衛についていた三人の聖騎士の者だ。

 血もついていないことから戦闘で剥ぎ取られたモノではない。裏切ったのか、もしくは別の手段で奪われたのか。

 どうであれ今、エリスの身には危険が迫っている。


「エリスは王女。しかも国民の人気が高い。相手も手は出せないだろう」

「相手は誰だ? 黄昏の邪団か? それとも西部の大貴族か?」


 俺の質問に聖王は少し黙ったあとかすかに苦痛を表情に浮かべた。

 そして。


「相手は西部全体だ。西部の大貴族、ラッセル公爵とグロスモント侯爵が連名で私への弾劾状を出してきた。その二人に西部の貴族たちも同調し、西部諸侯連合が結成された。同時に彼らはエリスを保護しているそうだ」


 聖王の言葉に重臣たちが暗い顔を見せた。いつぶりかの内乱であり、よりにもよって王女が敵の手にある。

 保護とは言ってはいるものの、事実上の人質だ。

 聖騎士たちもそれで脅されたとみるのが一番納得できる。


「保護しているならちょうどいい。俺が引き取りにいく」

「トウマ。これは聖王国における反乱だ。お前が勝手に動けば状況が混乱する」

「……黙ってみてろと?」

「まずは外交努力から始める。エリスが相手の手にある以上、強引な手は取れん。向こうの要求も聞かねばならないからな」

「要求なんて聞くまでもない。あんたの椅子だ」

「それでも話は聞かねばならない。向こうは周到な準備の上で軍と用意していた。こちらも軍を用意するための時間が必要だ」


 聖王の言葉を俺は理解できた。

 しかし納得はできない。

 だが、一人で動いたあげくエリスに何かあれば……。

 そう思うと動く気にはとてもなれなかった。



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