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第九十三話 東凪襲撃・中




 はじめに動いたのはミコトだった。

 即座に二本の剣を抜くと、入れ墨の男に肉薄する。

 それに対して、入れ墨の男は悠然とそれを迎え討つ。


「はっ!」


 ミコトは右から二本同時に斬りかかる。

 しかし、それを入れ墨の男は左手で受け止めた。男の左手はまるで鉄のように黒くなっていた。


「自己紹介がまだだったな。俺は鉄腕のオーウェン。まぁ見てのとおり体を鉄にできる」


 それがどういうことなのか。

 ミコトは瞬時に察して防御体勢を取った。そして間髪入れずに反撃が来る。

 ただの右ストレート。普通なら防御した刃に手が斬られるが、今のオーウェンの腕は鉄。

 ミコトはそのストレートの威力の押されて後ずさる。


「察しは良いみたいだな。俺は全身を硬化できる。つまり絶対防御。そして絶対防御の体で打撃を与えれば、それは一撃必殺の攻撃になる。この意味がわかるか? 俺が無敵だってことだよ」

「長々どうも……けど、そんなに自信があるならずっと硬化してればいいんじゃないの? ああ、答えなくていいよ。やらないんじゃなくて、やれないんだよね? 魔力をかなり使っちゃうから」


 ミコトに言い当てられたオーウェンは青筋を立てる。

 自慢の能力を大したことないと言われたようなものだからだ。しかも小娘に。

 そんなオーウェンの少し後ろから女が笑う。


「あははは! オーウェン、舐められてるわよ?」

「うるせぇ! お前はそっちのガキを押さえとけ! 俺はこいつに大人の怖さを教えてやる!」


 そう言ってオーウェンはミコトに突っ込む。

 ミコトもそんなオーウェンに斬撃を加えるが、オーウェンは体を硬化させて斬撃を防ぐ。

 普通の鉄ならミコトは易々と斬り裂ける。そんなミコトの斬撃を受け止めている以上、オーウェンの防御力は鉄を超えていた。

 それゆえにミコトはそんな防御力が長時間持つはずがないと睨んでもいた。全身硬化ではなく、部分硬化に留めているのも魔力を節約するため。

 それならば持久戦に持ち込み、斬れるときに斬るというのが正しい選択だろう。

 しかし、今は三対二。オーウェンの相手に掛かり切りになるということは、明乃が二人を相手にするということに繋がる。


「アケノ、大丈夫?」

「平気です。ミコトはその人の相手をお願いします」

「……わかった。任せて」


 明乃の言葉には気負いがなかった。

 冷静さを保っているならば、勝算があるのだろうと判断し、ミコトはラッシュを仕掛けてくるオーウェンに集中することにした。




■■■




「あんなこと言っていいのかしら?」

「さきほども言いましたが、平気です」

「あら、そう。可愛くない子ね。チェイン爺。この子は私がやるわよ?」

「二人がかりで殺してしまっても困るからねぇ。ワシは外から援軍が来ないか見張っておこう」

「援軍が来るほど時間なんて掛けないわよ」


 そういって女はゆっくりと明乃に近づく。

 見るからに魔法師という見た目の女があえて間合いを縮めてきたことに、明乃は警戒を露にする。

 しかし、女はそんな明乃の様子を笑う。


「自己紹介がまだだったわね。私はヴィヴィアン。水魔のヴィヴィアンよ」

「東凪家の東凪明乃です。まぁ言わなくてもご存知でしょうが」

「ええ、そりゃあターゲットだもの。東洋一の魔力を持つお嬢様。そして無刃の剣士と親しい少女。残念ね。愛しの無刃の剣士様がいなくてさぞや心細いでしょう?」

「ええ……心細いですよ。あの人がいるといないとじゃ天と地ほどの差もあります」


 明乃は正直に告白する。

 虚勢を張っても仕方ないと思ったからだ。心細いと思っているのは事実であり、そのことを恥ずかしいとも明乃は思っていなかった。


「やけに正直ね?」

「あの人に守られることを覚えたら、だれだって心細くなりますよ。ですが……だからといって頼りっぱなしというわけにもいきません」


 そう言うと明乃は自らの魔力を解放する。

 普段は厳重に鍵が掛けられ、周囲に悪影響が出ないようにされている明乃の魔力が全開になった。

 その魔力の大きさに思わずヴィヴィアンは一歩後ずさる。

 東洋一の魔力と知らされていても、所詮は地球の小娘と侮っていた。しかし、目の前にいる少女の魔力はケルディアでもなかなかお目にかかれないレベルの魔力だった。


「さ、さすがに盟主が名指しでターゲットに指名するだけはあるわね……」

「なんという魔力量……これはすごい」

「ここは東凪家のお膝下。この地へ不当に侵入したあなたたちを許すわけにはいきません。東凪家の後継者としてあなたたちは成敗します」


 言うや否や明乃はヴィヴィアンの懐に潜り込む。

 まさか距離を詰めてくるとは思っていなかったヴィヴィアンは虚を突かれて、反応が遅れる。その反応の遅さを見逃さず、明乃はヴィヴィアンの腹部に掌底を叩き込んだ。


「ぐっ……打撃なんて野蛮な子ね……」

「知らなかったんですか? 最近の魔術師は近接戦闘もこなせるんですよ? おば様」

「小娘……! 調子に乗るな!」


 笑みと共に放たれた明乃の挑発に、見事にヴィヴィアンは乗る。

 水魔の名が示すヴィヴィアンの周りに水が集まり、その水がやがて水の獣のような形を取った。


「私を怒らせたことを後悔なさい! 私の水獣は強力な魔物すら粉砕するわ!」


 自信満々に告げるヴィヴィアンとその水獣。

 明乃はその水獣を見ながら、これまで見てきた魔物を思い出す。

 酒呑童子はもちろん、茨木童子にも及ばない。

 ならば恐れるに足らず。

 明乃はゆっくりと右手を水獣を向ける。そして水獣が動きだす前に覚えている最速の魔法を唱えた。


「シャープ・レイ――」


 鋭く放たれた光線は水獣を貫き、ヴィヴィアンの横を突き抜ける。

 その一撃で水獣はただの水へと戻り、ヴィヴィアンはその光景に呆然とすることとなった。

 シャープ・レイはレイの上位魔法。速さに関しては一級品であるが、本来なら威力不足となる魔法だ。

 しかし、明乃はそれを持ち前の魔力でどうにかしてしまった。

 速さと十分な威力を兼ね備えたその一撃は、ヴィヴィアン自慢の水獣を一撃で蹴散らすとともにヴィヴィアンのプライドまでも砕いた。


「舐めるなとあなたは私に言いましたが……それはこちらの台詞です。私の師匠は無刃の剣士と真紅の魔女。あの人たちに比べれば、あなたなんて大したことありません」

「師匠自慢とは生意気ね……あなたがすごいわけではないでしょうに」

「そうですね。けど、あなたには負けません」

「……ここまで生意気な小娘は初めてだわ……叩き潰してあげる」


 そういってヴィヴィアンは明乃を睨む。

 その視線を正面から受け止めた明乃は、ヴィヴィアンとほぼ同時のタイミングで魔法を放った。

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