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第九十二話 東凪襲撃・上

短くてすみません汗






 とある日の夜。東凪家はこれまで受けたことのない挑発を受けていた。

 東凪本邸の近くに大規模な結界を張られたのだ。封鎖型の結界であり、そこに一般市民は自然と近寄らなくなる。そんな結界をお膝下ともいえる街に張られた東凪家だが、その動きは鈍かった。


「お父様! 私に行かせてください!」

「ならん」


 東凪家では対策のために家中の主だった面々が集合していたが、雅人は明乃が向かうことを許可しなかったのだ。


「どうしてですか!?」

「これは挑発だ。我々の戦力を把握したうえで、この行為に及ぶということは敵にも相当な戦力がいる。それでもこんな回りくどい手を打ってくるということは結界内から引きずり出したいのだろう」

「そうだとしても街に被害が出る前に対処すべきです!」

「対処しないとは言っていない。すでに自衛隊と聖王国に事情を伝えてある。そのうち双方から援軍が来る。動くのはそれからだ」

「その前に街に被害があったらどうするんですか……?」

「方針は変わらない。戦力が整った上で動く」


 その言葉に多くの者が反対を口にした。

 家中の者たちからは雅人の姿勢が軟弱に映ったのだ。

 よその組織に頼らねばならないほど、自分たちは弱くない。そういう自負が彼らにはあった。だが、雅人はこれまで東凪家が相手にしてきた敵と、最近の敵は格が違うということよく理解していた。

 斗真がいない今、無理をするわけにはいかない。それが当主としての雅人の判断だった。


「この街には多くの知り合いがいます! それを見捨てるんですか!?」

「お前よりもずっと長く私はこの街にいる。知り合いもたくさんいる。お前よりもな。だが、感情に流されて判断を誤るわけにはいかんのだ」

「ほ、報告します! 街の住人たちが結界に向かって歩き始めています! どうやら結界に引き寄せられているようです!」

「……結界に向かう市民を阻止せよ。ただし結界に近づきすぎるな」


 雅人は内心で大きなため息を吐く。

 こちらが動かないならば向こうが動くと予想していたが、その予想が見事に的中してしまったからだ。

 さらに報告を聞いて家中の者たちがいっそう声を大にして、結界への突入を支持し始めた。

 その筆頭である明乃の表情には固い決意が漲っていた。


「私は行きます」

「……明乃。お前は斗真ではないんだぞ?」

「わかってます」

「私とて斗真のようになれるなら、斗真のようになりたい。世界を救い、多くの者を救ってみたい。しかし、現実はそうはいかない。斗真は特別だ。我々が斗真のような真似をすれば手痛い代償を払う羽目になる。援軍を待て」

「待っている間に犠牲になる人がいるかもしれません。もしも今、その人たちを見捨てたら、東凪家は本質を見失います。国とは民です。国の守護を任されてきた私たちには民を守る責務があります」


 正論だと雅人は納得する。四名家として正しいのは明乃のほうだ。

 だからといって雅人も意見を変えるつもりはない。現状の戦力と状況を考えれば挑発であり、罠であることは明白。そこに責務を理由に飛び込めば、間違いなくやられる。当主としてそんな結果を招くわけにはいかない。

 しかし明乃は立ち上がる。

 そんな明乃に同行しようと多くの者が立ち上がるが、それを明乃が制止する。


「皆さんはここに残ってください」

「ど、どうしてですか!? お嬢様!?」

「足手まといです。皆さんを守りながらでは戦えません。できるだけ、一般市民の方が結界に近づくのを阻止することに集中してください」

「そ、そんな! お嬢様お一人で行かせるわけには!」

「一人じゃありません」


 そう言って明乃は廊下のほうを見る。

 そこではミコトが二本の愛剣をもって立っていた。


「ボクはお父さんの言うこと聞いたほうがいいと思うけどなぁ」

「じゃあ私一人で行きます」

「トウマに怒られても知らないよ?」

「いないあの人が悪いんです。怒られる筋合いはありません」

「はぁ……危なくなったら撤退しようね?」

「状況によります」


 ミコトは明乃の言葉を聞き、二度目のため息を吐く。そして雅人を見た。

 目を瞑っていた雅人は少しだけ目を開くと、ミコトに向かって一言呟く。


「明乃を頼む」

「うん! 任せて!」


 ミコトは満面の笑みを浮かべながら雅人に答えた。

 ミコトにとって雅人は本当の父のような存在だ。その雅人に頼まれたとあれば、ミコトに否はない。

 心配そうな家中の者たちを尻目に明乃とミコトは敵が張った結界へと向かうのだった。




■■■





 結界は廃ビルを中心に張られていた。

 そこに侵入した明乃とミコトはすぐさま屋上へと向かう。

 はっきりと強力な魔力を屋上から感じたからだ。

 階段を登りきると三人の男女が屋上にいた。

 一人は皺くちゃな老人。一人は黒一色で身を固めた妙齢の女性。一人は全身に入れ墨が入った若い男性。


「おやおや。本当に来たねぇ。しかも盟主が言っていた二人だ」

「正義感が強いってのも考えものね」

「ふん、俺は楽しませてくれんなら文句はないぜ!」


 登ってきた二人を見て、三者三様の反応を示す。

 一方、三人の姿を見た二人は一瞬で警戒態勢に入った。

 斗真やジュリアほどではないにせよ、目の前にいる三人が歴戦の猛者であることがわかったのだ。


「生きたままっていう注文だから殺しちゃ駄目よ?」

「わかってるさ。ワシはな」

「俺はできるかぎり努力してやるよ」

「知らないわよ? 盟主に殺されても」

「はっ! 俺を殺せる奴なんていやしねぇよ」


 そんな会話を聞きながら、明乃とミコトは眉を潜める。

 まるで自分たちなど眼中にないかのような態度だったからだ。


「それならボクがその盟主とやらの手間を省かせてあげるよ」

「クソガキが一丁前なことを言うじゃねぇか」


 そう言ってミコトと入れ墨の男が前に出る。

 その二人を援護する形で明乃とほかの二人が魔法と魔術の準備を始める。

 そして合図もなく戦いは始まった。

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