第九十一話 四英雄談議
更新止まっていてすみませんでした。右手首を捻挫しまして、あまり早く打つことができません。なのでしばらく更新が遅れてしまう場合がありますが、ご了承ください。
ジュリアのゲートで連れていかれたのは見覚えのあるボロい館だった。
「パトリックの館かよ……」
「嫌な思い出でもあるのかしら?」
「嫌な思い出しかないな。あいつの謎発明品に追いかけ回されたり、あいつの実験失敗で爆発に巻き込まれたり」
「ご愁傷様ね」
「お前のほうがもっとひどいけどな」
「パトリックよりはマシよ」
言いながらジュリアと俺は二人そろって館に入る。
外面とは違って、館の内面は綺麗なものだった。
数人の使用人が出てきて俺たちを出迎えると、俺たちを食堂へと案内する。
案内された場所には大量の食事が運び込まれていた。
「ヴォルフ。君は相変わらずよく食べるね……」
「俺は戦士だからな」
まったくもって答えになっていない。
大量に運び込まれている食事のほとんどはヴォルフへのモノだった。
パトリックの前にはヴォルフの前にある量と比べれば雀の涙ほどの食事しか置かれていない。しかし、それでも成人男性の一人前といったところ。
「おや? やぁ、トウマ。よく来たね」
「パトリック。同窓会の気分じゃないんだが?」
「わかっているよ。しかし、君も水臭いとは思わないかい? リーシャが関わる一件で私たちに黙って動くなんて」
「……カリム・ヴォ―ティガンを倒せばそれで終わる。俺だけで十分だ。それに俺たちが揃って動けば警戒される」
「なるほど。君が一人で支部を襲っていたのはそれが狙いか。しかし、用心深い黄昏の邪団の盟主が支部を襲われたくらいで姿を現すかな?」
その質問に俺は押し黙る。
出てくるかどうかはわからないが、打てる手はこの程度しかない。それくらいカリムは表には出てこない。
魔王軍との戦いの時も表に出てきていたのは幹部だけだった。
「ジュリアにも言ったが、ほかに良い手があるのか?」
「どうだろうね。それは君の話を聞いてみてからじゃないとなんとも」
「俺の話?」
「詳しい話を聞かせてほしい。リーシャを救う方法があるから動いているんじゃないかい?」
「……」
話していいものかどうか。
君子の存在を知る者が増えれば増えるほど、それだけ君子は危険にさらされる。
それは八岐大蛇の復活に直結し、かつリーシャを救う手段が閉ざされることにもなる。
しかし、ある意味こいつらほど信頼できる人間もいない。
断言できるが、リーシャの不利益になるようなことは決してしない奴らだ。少なくともリーシャを救うまではこいつらは絶対的なリーシャの味方となる。
「……わかった。話そう。ただし他言は無用だ。ヴォルフもそれでいいな?」
「俺が余計な話をするとでも?」
「あなたはつい口を滑らせそうね。特にお酒が入ってるときとか」
「酔うと口が軽くなるからね。ヴォルフは」
「しばらくお前は禁酒だ」
「く、口を滑らしたりはしない! だから禁酒なんていらん!」
「禁酒しないなら説明はなしだ」
「くっ……!」
「だそうよ?」
「禁酒だね」
「……さっさとその盟主とやらを殺すぞ!」
了承と受け取り、俺は席についてリーシャを救える可能性について話し始めた。
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「ふむ……古代種とは興味深い」
「時間の進みがない場所で千年以上もねぇ……つまらなそうな人生ね」
「それだけの時間があれば俺なら最強になれるな」
俺の話を聞いた三人の反応だ。
ヴォルフには何も期待していないからいいとして、ジュリアも主観的な反応だ。
やはりこういうときにアテになるのはパトリックくらいか。
「話を聞いて、なにか思いついたか?」
「なかなか難しいね。ただやはり、君のやり方じゃカリムは釣れない。彼は正真正銘の狂人。組織の維持に力を割くとは思えない」
「だったら組織を壊滅させてから探すだけだ。奴が完全に雲隠れできているのは組織があるからだ」
「たしかにね。だからカリムは君を放置はしないだろう。しかし、私がカリムなら君に直接手を下す真似はしない」
「どういう意味だ?」
パトリックは食後のコーヒーを一口飲む。
そして俺に説明するために咳払いをした。その様子はやはり教授とか先生にしか見えない。
「トウマ。君にはいくつか欠点がある」
「いきなりなんだ?」
「聞きたまえ。一つ、君はリーシャが絡むと頭に血が上る。二つ、自己評価が恐ろしく低い。そして三つ、他者の評価を気にしない。これらのせいで今、君は致命的なミスを犯している」
「ミス?」
「そうだ。君は理解していないようだが、カリムは魔王に与した男だ。君を相手にすればどうなるか。そのことをよく知っている。おそらく彼は君の前には極力姿を現さない。そして君は魔王を倒したあとの二年間のような感覚で動いているが、それこそミスだ。今の君には守るモノが多い。昔とは違う」
「おい……パトリック……まさか」
「私がカリムなら君は狙わない。狙うなら君の帰る場所を狙う。もちろん部下たちに襲わせるがね」
頭に冷や水をかけられたような気分だった。
よく考えればそうだ。わざわざ俺を相手にする必要なんてない。
相手はテロリスト。方法なんて選ぶわけがないんだ。
狙いやすいところを狙うに決まっている。そして狙われるのは十中八九、明乃とミコトだ。
二人が狙われれば俺は支部を襲うどころじゃなくなる。
「ちっ!」
悠長にここで座ってる場合じゃない。
急いで立ち上がる。
しかし、俺はジュリアに呼び止められた。
「待ちなさい。今更いっても遅いわよ」
「まだ決まったわけじゃない!」
「いえ、決まってるわ。あなたの出番なんてないわよ」
呆れたようにジュリアは告げると静かに紅茶を飲む。
そのやけに落ち着いた態度に俺は疑念を抱いた。
ジュリアにとって明乃やミコトは気に入った相手だ。どうでもいい相手ではないはずなのに、なぜそこまで落ち着いている?
その答えをパトリックが教えてくれた。
「ここにいない時代遅れの騎士がどこにいると思っているんだい?」
「……エリスの傍じゃないのか?」
「最初はそうだったよ。しかし、皇帝陛下を通じて私が警告を発した。トウマに関連する人は狙われる可能性があるからね。それによって現在、白金城には十二人の聖騎士のうち、十一人がいる。そして残る一人は日本だ。その残る一名が誰だかわからないほど君は愚かじゃないと思ってるがね?」
「アーヴィンドが……行ってくれたのか……」
「驚くわよね。私も最初、パトリックがアーヴィンドのこと嫌いすぎてハブいたんじゃないかしら? って思ったもの」
「私は好き嫌いで非効率的なことはしないよ」
そんな話をしながらパトリックはさきほどまで俺が座っていた椅子を指さす。
座れということだろう。
日本のことはアーヴィンドに任せておけということだろう。たしかにあいつなら何の心配もない。
守ることに関してはあいつ以上の奴はいないからだ。
「自分が頭に血が上っていたことは理解できたかい?」
「……ああ」
「よろしい。なら、カリムをおびき出す方法を考えるとしよう。ジュリアとヴォルフはなにか意見あるかい?」
「カリム・ヴォ―ティガンってどれくらい生きてるかわからないお爺ちゃんよね? やっぱり私が囮になるしかないんじゃないかしら? 美貌と魔力を兼ね備えた私ならピッタリでしょ? 唯一の不安は私の色気にカリムが怖気づかないかというところね」
よくもまぁそんなアホな作戦を思いつくもんだ。
どんだけ自己評価が高いんだよ……。
「ふん、馬鹿な女だ」
「馬鹿とはずいぶんね? そういうあなたは良案があるのかしら?」
「ふっ……俺はずっと思いついていた。そのナカミカドとかいう奴を縛って、立て札でヤマタノオロチ復活のカギと記しておけば、向こうから寄ってくる。敵の好む餌を撒くというのは狩りの基本だからな」
「という風に二人は戦力外だから、君には冷静でいてもらわないといけない」
「ああ、理解したよ」
パトリックはジュリアとヴォルフの馬鹿すぎる意見に頭痛でもするのか、顔を歪めながら頭を押さえている。
俺が来るまでこの調子だったと思うと同情を禁じ得ない。
「一番手っ取り早くのはヤマタノロチの封印場所で待ち伏せだろうけどな」
「それこそカリムは雲隠れだろうね。数年か数十年くらいは近づかないと思うよ」
「ああ、それが怖くてその手段は取らなかった」
「ふむ、やはり情報不足だね。これは色々と聞く必要がありそうだ」
「聞くって誰に聞く気だよ?」
「ケルディアで最も長く生きている人物さ」