第八十九話 危惧
今日は疲れたー。久々に体動かしたせいか、体バキバキですw
一応、頑張って24時更新頑張りますが、間に合わなかったらお察しください(-_-;)
東凪家の朝はいつも騒々しい。
しかし、ここ最近は静かなものだった。
「おはよう……」
「おはようございます。ミコト」
「うん……」
かなり早くに起きてきたミコトは斗真の席に何も置かれてないのを見て、まだ斗真が帰ってきてないことを察する。
毎日毎日、起きるたびに斗真が帰ってきているかもしれないという望みを持って部屋に入り、毎日毎日、落胆している。
ムードメイカーであるミコトがこれでは誰もはしゃぐことはない。
子供たちですら表情は暗い。
「まだ……帰ってこないんだね……」
「はい。ケルディアでの用事が長引いてるみたいです」
明乃も明乃で冷静を装っているが、ここ数か月いて当たり前だった斗真がいない環境に戸惑いと不安を感じていた。
これまでもいないことはあった。しかし、ここまで長期的にいないのは初めてだった。
「お父様。なにか聞いておられないのですか?」
「……昨日の夜。姫殿下から連絡があった。斗真はケルディアのテロ組織、黄昏の邪団をこの機会に壊滅させるつもりらしい」
「黄昏の邪団って……」
「私たちにも馴染みの深いテロ組織ですね……」
明乃にとっては自分の身を狙った組織であり、ミコトにとっては母を利用した組織だ。加えて、双方ともいまだに狙われている身でもある。
そんな組織を斗真が壊滅させようとしている。
それ自体は何ら不思議ではなかった。しかし、なぜこのタイミングで、しかも自分たちに相談すらなかったのか。
そのことが二人には不服であり、悲しかった。
「ケルディアの各国が協力して、かなり大規模に動いているそうだ。すでに多くの支部を壊滅させており、ケルディアにある支部をすべて壊滅させるのも時間の問題だそうだ」
「さすがは斗真さんですね……」
「素直に喜べないよ……ボクらに相談もないなんてさ……」
ミコトは唇を尖らせて不満を口にする。
何も言わずに斗真が動いているのがどうしても納得できないのだ。
しかし、そんなミコトを雅人が宥める。
「斗真は性格的に自分のために積極的には動かん。動くときはいつも他人のためだ。それは二人が一番よくわかっているはず」
「はい……斗真さんはそういう人ですね」
「また誰かを助けようとしてるのかな……?」
「それは私にはわからん。だが、ここはすでに斗真の家であり、我々は家族のようなもの。そして家族ならば黙って帰りを待つのも大切だ」
雅人はそう言って明乃やミコトを納得させる。
しかしと雅人は内心で危惧していた。
たとえ他人のためであっても、斗真が最初から積極的に動くことは今までなかった。あくまで巻き込まれたのちに動く。受動的立場で斗真はずっといた。
それは斗真の性格からして、そういう立場であることが一番しっくりくるからだろうと雅人は考えていた。
その性格は戦闘スタイルにも反映されている。
敵の攻撃を受けてからのカウンター。斗真の基本戦術はそこに尽きる。
攻撃力はすさまじいが、決して斗真は攻撃的ではない。
そんな斗真が攻勢に出た。
斗真ほどの実力者ならば不覚を取ることはないだろうが、それでも一抹の不安が雅人にはあった。
慣れぬことをすれば足を滑らせる。
人間とはそういうものだからだ。
■■■
斗真の行動は日本にいる東凪家だけでなく、ケルディアの各地で驚きをもたらしていた。
今まで積極的に動くことのなかった五英雄、無刃の剣士が突如として黄昏の邪団の壊滅に乗り出した。
しかも戦力はいらないから情報をよこせという。
最初は困惑した各国だが、次々と支部を潰していく斗真を見て積極的な支援に動いた。
傍観していると黄昏の邪団に与していると見られかねないからだ。そのため、帝国と聖王国には協力しようと様々な情報が寄せられていた。
それらの情報から急速に黄昏の邪団の支部は見つけ出されていた。
「サトウがまさかここまで積極的に動くとはな……」
帝国皇帝マリオン・オグマは皇帝の椅子に座り、上がってきた報告書に目を通す。
そこには黄昏の邪団の支部がまた壊滅させられたと書かれていた。同時にそこにいた多くの犯罪者が惨殺されたということも。
「パトリック。お主はどう見る?」
「どうとは?」
「サトウは前回の賢王会議でわかるとおり動いたら手に負えん男だ。しかし、滅多に自分から動くことはないし、世界をどうこうしようと考えるようなタイプでもない」
「そうですね。彼はそういうことを面倒という言葉で片付ける男です」
帝国の最高技術顧問という立場にあるパトリックは、同時に皇帝にとってはよい相談役である。ときたま皇帝の傍に呼ばれて相談に乗ることがある。
しかし、今回は帝国の最高技術顧問としてではなく、五英雄の一人、斗真の戦友としてよばれていた。
「そうだ。そんな奴がいきなり動き始めた。いきなり正義に目覚めたわけでもあるまいし、なにか理由があると思うのだが?」
「そうですね……私に言えることは彼は自分のためには動かないということです」
「なるほど……。では聞こう。奴が黄昏の邪団のような巨大なテロ組織を壊滅させようと思う他人はどれくらいいる?」
「難しい質問ですね……。現状、トウマの近くにいるのはアケノ・トウナギとミコト・サトウ。どちらもトウマにとっては守るべき対象です。しかし、どちらも黄昏の邪団と関わりがありますが、その時点ではトウマは壊滅させようと動いてはいません。ですからこの二人は除外。そうなると残るは二人のみ」
「その二人とは?」
「エリスフィーナ・アルクスとリーシャ・ブレイクです。しかし……聖王女殿下が黄昏の邪団に狙われたという情報はありませんし、そもそも彼女には聖騎士団がついています。となると考えられるのは一人のみとなります」
「……閃空の勇者か」
皇帝の言葉にパトリックは静かに頷く。
あの日、氷漬けになったリーシャをパトリックもなんとかしようと死に物狂いで手を尽くした。
あらゆる魔導具を試し、多くの魔導具を開発した。しかし、どれも空振りに終わった。魔王が使う未知の術に対抗する手段はパトリックにはなかったのだ。
あれから二年。そんなリーシャを黄昏の邪団が狙うとは思えない。ならば考えられる理由は一つ。
リーシャの復活に関わることで、黄昏の邪団が邪魔になった。
そのことに思い至り、パトリックは目を瞑る。
それすら空振りに終わったら、トウマはどうなってしまうのだろうか。もしかしたらすべてに絶望して、世界の敵になるのではないか。
そのときに止められる者はいるだろうか。
いないだろうとパトリックは内心で即答した。
魔王への最後の一撃を放ったトウマに勝てる者がいるならば見てみたい。それほどまでにあの瞬間の斗真は化け物じみていた。
それを知るがゆえにパトリックは皇帝に忠告する。
「くれぐれも邪魔はしないことです。リーシャが関わっていた場合、トウマは決して止まりませんし、止められません」
「それほどか?」
「それほどです。あと、もう一つ邪魔しないほうがいい理由があります」
「聞いておこう」
「リーシャは五英雄すべてにとってかけがえないの人間です。あのヴォルフですらリーシャを認めていました。ゆえに……今のトウマを邪魔した場合、五英雄が本気で敵に回るとお考えください。もちろん私もです」
「……よろしい。よく理解した」
放たれた言葉の鋭さに皇帝は感心する。
パトリックにではない。パトリックほどの人間にここまで言わせるリーシャ・ブレイクの人柄に、だ。
だがしかし。
「パトリック。もしもサトウが失敗した場合はどうする? この老体の目には今のサトウは危うく映るのだが?」
「それもまた正しい見解でしょう。トウマにブレーキをかける者が必要です」
「ではお主がいくか?」
「私だけでは足りません。あまり呼びたくはありませんが、残る三人も呼ぶとしましょう」
そう言ってパトリックは現状ケルディアで最強の戦力を呼び集めることを示唆したのだった。