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第八十八話 パーティー殺しのリュート






 五日で五つ。

 その数字は俺が潰した黄昏の邪団ラグナロクの支部の数だ。これまで各国が血眼になって見つからなかった支部を、こうも簡単に見つけられるのには理由がある。

 各国が協力して探しているからだ。単独で探す場合、その国に潜む構成員の影響でどうしても調査が上手くいかない。しかし、現在は帝国、聖王国を中心に綿密な情報のやり取りをしながら調査が進んでいる。

 どの国も俺がやる気になっている間にできるだけ支部を潰してほしいからだ。

 調査方法はある程度場所が絞れると俺に情報が投げられ、別の場所に移る。この辺にあるらしいと言われ、あとは俺がしらみつぶしに探すだけだ。その結界が五日で五つという成果に繋がっている。

 そして、それはもうすぐで六つとなる。


「くそっ! 退け!」

「無刃の剣士だ!!」


 山奥に作られた支部に対して、俺は空から急襲を仕掛けた。

 多くの構成員が俺に向かってくるが、俺はそれを容赦なく斬っていく。

 とはいえ、魔力刃や朔月で斬っているわけじゃない。前者は魔力の消耗が激しくて、連戦には向いてないし、後者はそれを使うほどの相手が出てきていない。

 俺の手にある刀はヴィーランドが作った〝無黒〟という名の刀だ。特別な能力はないが頑丈に作られている。

 連続で雑魚を狩るという点では良い刀だ。

 朔月以外の刀は握らない主義だったが、今は主義より効率だ。


「覚悟ぉぉ!!」


 後ろから斬りかかってきた男の両腕を振り向きながら切り落とす。

 一瞬なにが起きたかわからず、男は茫然とする。

 そして大きな声で叫んだ。


「うわぁぁぁぁ!! この世に終焉を!!」

「うるさい」


 首を飛ばし、その命を断つ。

 構成員はこんなんばかりだ。

 平の構成員でも今の世に絶望し、終焉が来ることを望んでいる。終末論者であり、破滅論者の集まりだ。

 特に魔王軍との戦いでそういう人間は増えた。

 魔王軍によって悲劇が降りかかり、その悲劇の元凶である黄昏の邪団ラグナロクに入るってのは俺には理解できない思考だが、実際に多くの者が黄昏の邪団に入っている。

 その構成員の数はもはや測定不能であり、各国の中枢近くにも構成員がいると言われている。しかし、その中枢にいる構成員でも多くの国が協力して進める調査は止められない。嘘の情報を流してもすぐにばれてしまうからだ。


「さてさて、今回の支部長はどいつだ?」


 これまで支部にはそれぞれ支部長がいた。

 どいつもこいつも癖の強い犯罪者だったが、実力だけは一級品だった。

 この支部にも間違いなくいるはずだが……。


「まさか本当に単身で乗り込んでくるとはな」


 刀についた血を払っていると、通路の向こうから槍を持った男が歩いてきた。

 赤い髪に合わせた赤い槍。

 身長は高く、二メートル近い。

 その顔に俺は見覚えがあった。


「パーティー殺しのリュートか」

「俺のことを知っているのか? 無刃の剣士に知っていてもらえるなんて光栄だね」

「知っているに決まってる。かつて最強のA級冒険者と言われ、S級昇格も間近でありながら、所属したパーティーがことごとく全滅することを不審に思ったギルドの調査でパーティー殺しが発覚してお尋ね者になった異常者。全滅させたパーティーの数は軽く十を超え、殺した冒険者の数は百以上ともいわれる冒険者史上最悪の犯罪者。正真正銘の屑野郎だ」

「一つ訂正があるな。全滅させたパーティーの数は二十一だ。地道に積み上げた成果だ。間違えないでほしい」

「はっ! 笑わせるぜ。後ろから襲撃しておいて成果だと?」

「ああ……すごい良い表情でみんな死んでいくんだ。モンスターと俺に挟まれ、絶望しながら俺の槍に貫かれる。その表情を見るたびに毎回絶頂しそうになる……」


 超のつく変態だな。

 黄昏の邪団にはこういうタイプもいる。

 世界の終焉なんて興味はないが、犯罪行為をするのに都合がいい。自分の目的を達成するのに都合がいい。そういう理由で所属している奴らもいる。

 リュートはそのタイプだろうな。


「今もたまに幻術を姿を変えて、新人パーティーと一緒にモンスターを狩りにいくんだ。この前は田舎から出たばかりの三人パーティーの助っ人に入ってな? 男二人、女一人の構成だった。幼馴染で、男二人は女のことが好きで仕方なかったんだろうな。まず正体を明かして絶望させた。そして男二人の武器を壊し、動けなくなってる女をじっくりじっくり目の前で殺してやったよ……あの時の女の悲鳴、男たちの顔……最高だったなぁ。最後に抵抗諦めた男たちをモンスターの群れに投げ込んだ。一瞬で殺してもらえると思っていた男たちは長い悲鳴を上げながら死んでいったよ……ああ、思い出すだけでゾクゾクする。わかるだろ?」

「わかるわけねぇだろ」


 後ろに回り込んで俺は首を狙う。

 しかし、それは軽々防がれた。


「そうか。残念だ」


 完全に刀の間合いにも関わらず、槍を巧妙に操ってリュートは突きを繰り出してくる。

 体をひねって避けるとその槍は壁をいとも簡単に貫いた。

 壁にはひびすら入らず、ただ丸い穴が開いている。力が一点に集中している証拠だ。

 食らえばひとたまりもないだろうな。


「あんたとは一度戦いたいと思ってたんだ……世界を救った剣士。魔王を斬った英雄。あんたの絶望の表情はさぞや綺麗なんだろうなぁ」

「悪いが絶望なんて感情はとうの昔に捨てている」


 あの日リーシャを失い、俺はすべてに絶望した。それからの二年間、ずっと俺は絶望しながら生きてきた。

 しかし、今は違う。

 新たに守るべきものも増えた。リーシャを助ける方策も見つかった。

 絶望している暇なんて俺にはない。


「どうかな?」


 そう言ってリュートは構えを取った。

 右手に持った槍を上段に構え、左手を添えている。その体勢から繰り出されるのはおそらく突き。

 警戒を強めていると、リュートが動く。

 一歩踏み出しながら俺に向かって突きを繰り出す。俺はその間合いを完全に読み切って下がる。

 しかし。


「なに!?」


 槍がいきなり伸びた。

 そのままの意味だ。

 穂先が逃げる俺を追ってきたため、俺は刀でその穂先を受け止めるしかなかった。

 しかし、さきほどの突きよりもさらに威力のある突きだ。受け止めてはいけない類の攻撃だった。

 一気に奥まで飛ばされ、壁際まで追いつめられる。


「ちっ!」


 このままだと壁に叩きつけられるため、なんとか軌道を逸らして横に逃れた。

 すると槍は壁に大穴を開けて伸び続ける。あのまま受け続けたら支部の外まで吹き飛ばされてたな。

 リュートが槍を引く動作を見せると、槍は瞬時に元の長さに戻った。


「どうだい? 俺の伸槍は」

「大したもんだ。不意打ちが好きなお前にはお似合いだ」

「はっはっはっ! ひどい言われようだな。これは暗殺にも向いているんだぜ? 言ってる意味がわかるか?」

「なにが言いたい?」

「聖王国のお姫様、エリスフィーナだっけか? 彼女と仲がいいらしいじゃないか。あのお姫様を殺したらあんたの顔は絶望に染まると思うんだが……どうだい?」


 愉快そうにリュートは笑う。

 その笑みは恐ろしいほどに不快だった。


「……かつて似たようなことをしようとした暗殺者がいた。そいつがどうなったか教えてやろうか?」

「どうなったんだい?」

「両手両足を奪われて惨めに死んでいったよ。最後は絶望しながらな」


 体から殺気をまき散らしながら俺はゆっくりとリュートに向かって歩く。

 こいつはミスを犯した。

 エリスの名前を出さなきゃ逃げれたかもしれないのに、エリスの名前を出しちまった。

 支部の壊滅が目的だったが、目的にこいつの惨殺が追加された。もうこいつは逃がさない。


「俺もそうなるって言いたいのか?」

「ああ、すぐにな」

「笑わせるな! 俺の伸槍は無敵だ!」


 そう言ってリュートは槍を突き出す。

 さきほどと同じように槍は高速で伸びる。しかし、種が割れれば怖い攻撃でもない。

 横にずれて躱すと俺はそのまま槍に向かって刀を振り下ろす。


「なにぃ!?」


 槍は半ばで断ち切られ、リュートの手にはただの伸びる棒だけが残った。

 まさか二撃目で躱され、武器破壊までされるとは思ってなかったのかリュートの顔に見るからに焦りが浮かぶ。

 そんなリュートに俺はゆったりと近づいていく。


「どうした? 俺を絶望させるんじゃなかったのか?」

「う、うおぉぉぉぉ!!!!」


 リュートは手に持った棒で俺に反撃を試みる。

 しかし、数度の打撃はすべて防がれ、お返しに両手首を落とした。


「うわぁぁぁ!!」

「汚い悲鳴だ。まだ赤ん坊の夜泣きのほうがマシだぜ」

「くっ!!」


 さすがというべきか。

 リュートは両手首を失いながらも右足でハイキックを仕掛けてきた。

 しかし、俺はその攻撃を刀で受ける。なんの防具もつけていなかったリュートの右足はスパりと切れてしまった。


「あああああ!!」

「不揃いじゃ不格好だろ? もう片方も貰っておいてやる」


 そう言って俺は最後の左足も斬る。

 完全に四肢を奪われたリュートは無様に這いつくばる。

 そんなリュートに俺は最後の質問をする。


「絶望した気分はどうだ?」

「う、う、うわぁぁぁぁぁ!! 許してくれ! 俺はまだ!」


 命乞いは聞かずに俺は首を落とす。

 こいつも今まで殺してきた者たちにそうしてきただろうから。


「あの世で殺した奴らに詫びてこい」


 もはやこと切れたリュートの死体にそう言葉を投げながら、俺はその支部の破壊にかかった。 

 

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