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第八十六話 最古の結界師

とりあえずしばらくは本編に集中していこうと思います。




「ほう。これが噂に聞く飛空艦か。なかなか大げさな作りじゃのぉ」


 初めてみた飛空艦を見上げながら君子はつぶやく。


「元々、ヤバい魔物がいる場所用に作られた乗り物だからな。ゲートでの移動に適しているから今じゃ地球とケルディアの往来用だけどな」


 あれからすぐに俺は車を呼んで、君子と一緒に高尾空港に向かった。

 すでにエリスにも連絡してあり、聖王国のチャーター便が用意されていた。


「まぁ画期的な発明ではあるのぉ。世界間を移動するのじゃ。普通の人間は必ずどこかに異常が生じる。鍛えているものでも、気分が悪くなることは避けられんじゃろうな」


 たしかに何度か生身でのゲート通過は試されている。

 しかし、どれも芳しくない。

 聖王国の聖騎士ですら体調を崩したほどだ。とてもじゃないが今のところゲートでの移動は飛空艦一択となっている。

 ちなみに俺はゲートで飛ばされた際、三日間も眠り続けていたそうだ。発見からということだから、もっと眠っていたかもしれない。

 それくらい世界間の移動にはリスクが生じる。


「生身で通ったことがあるのか?」

「さすがに経験はないのぉ。ただ八岐大蛇が通ってきたゲートはこれよりも大きかった。そのせいか傍によっただけで気分が悪くなったものじゃ」

「これより大きいゲートって……」


 この高尾にあるゲートは三指に入る大きさだ。聖王国と繋がっていることも相まって、世界で最も価値あるゲートとすらいえる。

 そんなゲートでも近づいただけじゃ気分は悪くなったりしない。

 さすがは八岐大蛇が通ったゲートというべきか。


「まぁ数日で閉じたがの。本来、ゲートはそういうものじゃ。このゲートのように固定化するほうが異常事態なのじゃよ」

「それもこれも魔王の影響だ」

「軍勢を送り込むためにゲートを固定化させたそうじゃの。それでほかのゲートにも影響が出てしまったと……悪魔の王というだけはある。良く倒せたのぉ?」

「運がよかった。本当にそう思うよ」


 飛空艦に乗り込み、俺はそう呟く。

 同じメンバーでもう一度倒してこいと言われても、おそらく倒せない。

 奇跡の連続で魔王を追い詰めることができたんだ。もう一度やったら、五英雄が即死亡なんてこともありえるぐらいにギリギリだった。


「運も実力の内。生き残った者にはそれを誇る権利があると儂は思うがのぉ」

「そんな権利は俺にはない。俺のミスで師匠は氷漬けにされたんだからな……」

「それがお主の理由か。しかしのぉ、師と弟子というのは家族も同然。師ならば弟子の危機には命を賭ける。そうでなければ師などとは呼べん。お主の師は師としての役目を果たしただけじゃ。気に病むなど師に失礼じゃぞ?」

「そうかもしれない……だけど、家族なら助け合うべきだろ? 弟子が師を救っちゃいけないなんて決まりはないはずだ」

「それもまた確かに一つの考えではあるな。しかし、それにすべてを賭けることを師は望まぬ。儂で無理なら諦めよ。儂で無理だとするなら、ほかのどんな者でも結界は破れぬ」

「……」


 俺は君子の言葉に応えなかった。

 そんな俺を君子は問い詰めたりはしない。こういうところはまさしく大人だった。

 そんな俺たちを乗せて飛空艦は静かに出発した。




■■■




 聖王国側の空港にたどり着くと、俺たちはそのまま飛空艦で聖王都へと向かう。

 その間、君子は終始テンションが高かった。


「ほー、これがケルディアか。たしかに特殊な地じゃ。これならば魔物が多く生まれるのも納得じゃな」

「そんなこともわかるのか?」

「うむ、大気には魔力が濃く、しかも大地には幾本もの龍脈がある。これだけの地じゃ、むしろ人間が覇権を取っていることのほうが驚きじゃ」

「地球に比べたら人間も強いからな。どちらかといえば古代種に近いんじゃないか?」

「そうかもしれぬな。まぁそうなると、その者たちと肩を並べるお主はなんだという話になるのじゃがな」

「まぁそれなりに才能があったんだろうな。地球にいた頃じゃ絶対に役に立たない才能だが」


 今ならまだしも、俺がいた頃の地球じゃ魔物をぶった切ることのできる才能なんてまったく役に立たなかった。

 そういう仕事は裏で魔術師たちがやっており、俺のような素人には絶対に回ってこない。

 あのまま地球にいたら俺は平凡な人生を送ったことだろう。


「それなりとは謙遜じゃな。魔王を斬っておいて」

「良い師を持った。それだけだ」


 その言葉と同時に飛空艦は着陸する。

 外を見るとエリスが出迎えに出ていた。事情はエリスに伝えてあるし、本人としても居ても立っても居られないって感じなんだろうな。

 飛空艦を降りると、エリスは君子に一礼する。


「我が王国へようこそいらっしゃいました。ナカミカド様。わたくしは聖王国の第一王女、エリスフィーナ・アルクスと申しますわ」

「これはこれは。綺麗な娘じゃな。しかも膨大な魔力も持っておる。今のような世の中に生まれてよかったのぉ。昔なら即生贄じゃぞ」

「えっと……」

「気にしなくていい。感性が俺たちとは違うんだ」


 困惑するエリスにそういうと俺は歩き始める。

 外で無駄話をする気はない。

 君子の話じゃ八岐大蛇の封印を解こうとしている奴がいるらしい。そいつが本気で八岐大蛇を解放しようとするなら、一番手っ取り早いのは君子に封印を解除させることだ。

 そういう危険性もあるから君子はずっと空間の狭間にいたわけだ。

 そんな君子を引っ張り出した以上、君子の安全を守る義務が俺にはある。


「そう焦るでない。斗真。儂の存在を感知して敵が来ることはありえん」

「どうしてそう言い切れる?」

「そういう結界を張っておる。だから心穏やかにしておれ」

「だが、八岐大蛇の結界に敵は気づいた。つまり、その結界も無敵じゃないんだろ?」

「それもそうじゃがの。だが、ここはケルディア有数の大都市。襲うには不向きじゃ。だからそう尖るでない」


 言いながら君子はマイペースに歩き始めた。

 できればさっさと屋内に入ってほしいんだが……。

 内心ではそう思いつつ、俺は諦めて君子の傍で護衛についた。

 しかし、結局君子の言う通り、誰かが襲ってくることもなく俺たちは城の中に入って、地下へと進むことになった。


「随分と厳重じゃのぉ」

「大切な方ですので」


 地下に入ったのは俺とエリス、そして君子だけだ。

 元々、地下は普通の者が入れる場所じゃないし、リーシャが運び込まれてからは魔法による警備もより厳重なものとなった。

 そして地下の一室。

 そこの扉を開けると花に囲まれた氷漬けのリーシャが見えた。


「ふむふむ、なかなか悪くない部屋じゃのぉ。姫君の趣味かのぉ?」

「はい。リーシャが寂しくないように、あちこちから花を取り寄せていますわ」

「なかなか気が利く子じゃ。その容姿でこれだけ気が利くのじゃ、引く手数多じゃろう? 」

「そんなことありませんわ」

「謙遜じゃのぉ。まぁいつの世も美女は苦労する。平和な世の中でも変わらぬ定めかのぉ」

「お喋りはいい。この結界を破壊できそうか?」

「せっかちな奴じゃ。女に嫌われるぞ?」

「別にあんたに嫌われたってかまわないからな」

「可愛くない奴じゃ。氷の中の娘はお主を一流の剣士に育てることには成功したようじゃが、人格面での成長は促せなかったようじゃの」


 そんなことを言いながら君子は氷に触れる。

 すると、ふむふむ、とか、ほーう、とかいろいろと言い始めた。

 ジュリアですらほとんどわからなかった氷の結界だが、結界のスペシャリストからすれば触れるだけで多くのことがわかるらしい。

 しばらく触ったり、歩き回ったりしたあと、君子はその場で正座をして瞑想状態に入った。

 その状態の君子からはとんでもない魔力が発せられており、俺とエリスはたまらず距離を取る。


「すごいですわね……」

「ああ……千年以上生きてるってのはあながち間違いじゃないのかもしれない」

「あの方に無理だったとしたら……もう望みはありませんわね……」

「あいつに無理ならいずれ俺が斬る。本体を斬れたんだ。作り出した物も斬れるはずだ」


 とはいいつつ、俺はまったくもって氷を斬れる気がしていなかった。

 大抵の物は斬れるかどうかわかる。しかし、この氷にはそういうものが一切ない。

 おそらく物理攻撃では破壊不可能。

 斬るとするならそういった物を斬るのに特化した刃を召喚する必要があるわけだが、そうそう簡単にそれを引けるかどうか。

 そんなことを考えていると、君子から発せられていた魔力が消えた。

 そして君子は立ち上がる。


「ふむ、だいたいわかったのじゃ」

「それで……壊せるのか?」

「破壊は可能じゃ。じゃが儂一人では足りぬ。そして儂はその足りぬ人材をお主たちに教えたくはない」

「なに……?」


 予想外の言葉に頭が真っ白になる。

 そして気付けば俺は刀に右手を伸ばしていた。



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