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第八十四話 幼女現る

みんな大好きロリババアだよー




 俺の名を聞いた爺さんは素直に刀から手を離した。

 とりあえずホッとしつつ、俺も刀を投げ捨てる。

 右手は血だらけだが、ひどいのは出血だけ。帰って明乃あたりに頼めばすぐに治る。


「魔王を倒した誉れ高き五英雄。そのうちの一人が日本人で、今は東凪家にいるということは聞いていたが……それが貴様か?」

「一応な。こっちも聞くが、あんたは中御門家の護衛か何かか?」

「それは……」


 爺さんは口をつぐむ。

 余計な情報は喋ってはくれないらしい。禁じられているのか、それとも喋らないようにしているのか。どちらにしろ、この爺さんを相手にしてると話は進まんな。


「用があるのは中御門家だけだ。会わせてもらえないか?」

「それはできん……」

「なぜ?」

「向こうから来ないかぎり、接触することはできないからだ」

「向こうから来ないかぎり?」


 意味深な言葉に俺は怪訝な表情を浮かべた。

 ここにはいないという意味だろうし、一方通行な関係というのも理解できる。

 しかし、そうなるとこの爺さんは何者なのかということになる。

 護衛でありながら、護衛の居場所を知らないというのは滑稽にもほどがある。


「これ以上は言えん……帰ってくれ。会うのは無理だ」

「そういうわけにはいかない。俺は俺で大事な用があるんだ」

『よいじゃろう……。その大事な用とやら、聞いてやろう』


 その声は部屋全体から響いていた。まるで部屋全体がその人物かのような気がした。

 初めての感覚に俺は右手を刀に伸ばす。

 しかし、寸前で自分を押さえた。ここで迎撃態勢を取れば話し合いどころではない。


「あんたが中御門か?」

『いかにも。儂は中御門』


 そう言うと声が途切れる。

 拍子抜けを食らった俺は体から力を抜く。

 しかし。


「油断じゃのぉ。まぁ儂の声を聞いて刀を抜かなかったことは褒めてやる。粗暴な輩は嫌い故な」

「っっ!?」


 後ろを振りむくとそこには少女がいた。もしかしたら幼女というほうが正しいかもしれない。

 地面につくほど長い黒髪に巫女装束。年は十代前半くらい。さきほどの声の主だが、外見と喋り方がまったく一致しない。

 なにより笑い方がおかしい。

 表情には生きてきた歳月が出る。年を取ったものほど深みのある表情を浮かべるものだ。なのにこの少女が浮かべた笑みは俺が見てきたどの老人の笑みより深みがあった。

 こんな幼い少女がこんな笑みを浮かべるわけがない。幻術と判断し、俺は右手を強く握る。

 さきほどの傷が痛み、俺を覚醒させる――はずだった。

 しかし、俺の目の前にいる少女は姿を変えない。


「儂を幻術と思うたか? 面白い勘違いじゃ。安心せよ。儂は見た目通りの年齢じゃよ。肉体年齢だけの話じゃが」

「……一体、何者だ?」

「お主の探していた者じゃよ。名は君子きみこ。我が名は中御門君子じゃ」


 そう言って君子は愉快そうに笑う。

 こちらの様子を完全に楽しんでいる。その様子は少女が純粋に笑っているようにも見えるが、やはり違和感がある。不自然なのだ。なにかが。


宮川みやがわ。この者は儂の客人とする。お主は店番をしておれ」

「はっ! お久しぶりでございます。またお会いできたこと。心より嬉しく思います」

「ふふ、相変わらず愛い奴だ」


 そう言って君子は宮川と呼ばれた爺さんの頭を撫でると、ゆっくりと俺のほうを振り返る。

 そして俺に手を伸ばしてきた。


「儂は人の頼みなど聞かぬ。今回、お主の前に姿を現したのはお主の話が面白そうだというのと……宮川の命を助けたからじゃ。ゆめゆめ、自分が特別と勘違いするでないぞ?」

「そりゃあご親切にどうも。だが、そんな勘違いは二年も前に捨ててるよ。俺はただの情けない男さ」

「ふむ、お主はお主で訳ありのようじゃな。しかし、そうでなくては。苦労を知らぬ英雄など英雄とは呼べんからな」



 俺は君子の手を掴む。

 その手はやはり少女のものだった。白く、そして握れば壊れてしまいそうな儚さ。そんな君子の手に引かれて俺は壁に近づいていく。

 そして君子が先に壁の中へと入っていた。


「別空間!?」


 驚いている間に俺もそこへ引き込まれた。

 壁の先は眩しくて何も見えない。しかも熱さや寒さも感じない。

 音もないし、匂いもない。

 君子の手だけが頼りだった。

 やがて眩しすぎる空間を抜け、俺はひらけた空間に出た。

 そこで俺はとんでもないモノを見た。見てしまった。


「おいおい……ここは東京の地下だぞ……?」


 そこ広がっていたのは屋敷だった。しかもかなりデカい。

 同時にその様式も古い。なんというか、平安時代の屋敷をそのまま持ってきましたみたいな屋敷だ。

 文化遺産ですと言われてもすぐに納得できてしまう。そんな屋敷だった。


「儂たちの屋敷じゃ」

「たち?」

「中御門家が儂一人なわけないじゃろ?」


 そう言って君子は屋敷の中にずんずんと入っていく。

 その後を追っていくと、多くの使用人が君子を迎え入れた。


「お帰りなさいませ」

「うむ」

「これは……」


 百人くらいはいるだろうか。

 全員が男だ。老人もいれば少年もいる。

 彼らも屋敷の雰囲気にたがわず、古めかしい服を着ていた。

 しかし。


「式神か?」

「ほう? なかなか見る目があるの。そうじゃ、基本的に使用人は式神じゃよ」

「これだけの数の式神を同時に操るなんて、よほどの魔術師だな」

「魔術師という呼び方は好きではないのぉ。せめて陰陽師と言ってほしいものじゃ。あれもあまり良い呼び方ではなかったが」


 一体、何の話をしているのやら。

 たしかに魔術師は昔、陰陽師と呼ばれていた。しかし、それは数百年以上も前の話だ。今ではそんな呼び方をする者などいない。


「長く生きているような言い方だな?」

「うむ。儂は長生きじゃぞ」

「じゃあ聞くだけ聞こう。一体、どれくらい長生きなんだ?」

「まぁ千八百歳は超えておるのぉ」

「はぁぁぁ!?」


 どんな年齢が飛び出てくるのかと待ち構えていたが、予想外にデカすぎる数字に思わず驚いてしまう。

 しかし、すぐに俺はさきほどの言葉を思い出す。


「ちょ、ちょっと待て……さっきは見た目どおりの年齢って……」

「うむ。儂の肉体年齢は十代前半じゃ。そのぐらいのときにここに来たのでな」

「どういうことだ……?」

「まぁ上がるがよい」


 質問には答えてもらえず、俺はとにかく黙って君子についていく。

 しばらくすると君子は一つの部屋で立ち止まり、襖を開ける。

 するとそこには屋敷の雰囲気をぶち壊す現代的な部屋が広がっていた。

 洋風な椅子とテーブル。さらには大きなテレビに数々の調度品。

 ここだけ現代の金持ち部屋みたいになってるのはなぜだ……。


「儂らの土地を荒らした西洋人は好まんが、奴らの文化は素晴らしい。それに現代科学もまことに便利じゃ」

「千八百歳のわりにずいぶんと現代に適応しているんだな……」

「時代は変わる。新しいモノも生まれる。それらを取り入れてこそ適応じゃ。儂らはその生き方を選んだのじゃから、どんどん適応していくぞ?」

「いやいや……もう話が見えてこないんだが……」


 君子の言うことはおそらく嘘ではない。そんな気がする。

 しかし、君子と俺とでは持ってる知識、常識が違いすぎて話がかみ合わないんだ。

 とにかく説明が必要だ。そんなことを思っていると君子がお茶を淹れてくれた。


「とりあえず座るがよい」

「……」


 促されるままに俺は座る。

 そしてお茶を手に持つとぐいっと飲んだ。美味しいことは美味しいが、普通のお茶だ。変わったところはない。


「さて……どこから話したものか」

「単刀直入でいい。回りくどい話はやめてくれ」

「ふむ……では言おう。儂は古代の日本人じゃ。正確に言うならば日本人の古代種というべきかの」


 単刀直入なその切り出しはまったくもって意味不明なものだった。

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