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第八十二話 狂災のカリム

まだ体が本調子じゃないので、24時更新はお休みです。すみません。

一応、これで間章は終了で次は第三章。プロット的には最終章になると思います。

それとまた活動報告でアンケートを取るのでぜひ答えてみてください。



 島根県東部。

 かつて出雲と呼ばれたその場所にある小さな山。

 霊山というわけでもなく、何かが祀られているわけでもない普通の山。

 そこにとある男が降り立った。

 名はカリム・ヴォーティガン。見た目は白い髪の青年だが、その実態は年齢不詳。一体、いつから生きているのかすら不明な大召喚士。

 そして決して表には出てこない黄昏の邪団ラグナロクの盟主である。

 魔界より悪魔を召喚し、ケルディアの存在を魔王に気づかせ、魔王の侵攻を招いた諸悪の根源。

 世界の破滅を望み、多くの陰謀を繰り出す黒き陣営の盟主。

 その男が地球、しかも日本にいる。そのことも驚きではあるが、なんの変哲もない山に降り立ったことも驚きであった。

 しかし。


「ここが封印の地か。予想外な場所にあったな」


 呟きながらカリムは周囲を見渡す。

 パッと見では気づかないが、この地には広大な結界が張られており、その中心となるのがこの山だった。しかも存在を希薄化する結界も張られており、一般の者では興味を持つことすら難しい。

 広大な結界は緻密かつ複雑で、カリムだからこそ中心を見つけ出せたが、多くのフェイクが混ぜられているため、これまで誰も中心となる場所を見つけ出せなかった。

 そこまでされて封印されているモノとはなにか。


「かつてケルディアで暴れまわり、討伐すること叶わず異界送りにて地球にやってきた竜。そして各地を暴れまわり、この地にたどり着いた悪しき竜王。神獣に属する竜でありながら、暴虐の権化にして魔に染まった竜。最恐の邪神竜。ケルディアでの名はティフォン。この国の名ではヤマタノオロチ。封印された三体の天災級の魔物の一つとされ、その中でも最古にして最大最強。神話では英雄神に討伐されたことになっているが……その実は世界と世界の間にある僅かな隙間に閉じ込めてあるだけ」


 語りながらカリムは山の中心へと向かう。

 そこに向かう過程でカリムは想像を絶する抵抗を感じた。行きたくない、行ってはいけないというネガティブな感情が心の中にわく。

 そういう風に思わせる結界だ。

 四名家の始祖たちよりもさらに前。古代に生きた日本人が全身全霊をかけて作り上げた防御機構。まだまだ世界に魔力が濃く、神や精霊の類が地球に平然と存在していた時代のものだ。さすがの効果にカリムも舌を巻く。しかし、カリムはその抵抗を振り払ってさらに足を進めた。

 そして山の中心にたどり着く。

 見た目には何もない。しかし、カリムが手を伸ばすとその手は見えない何かに弾かれた。


「さすがに一筋縄ではいかないか」


 触れただけでその結界の強度を推し量ったカリムはため息を吐く。

 様子見で来た程度の覚悟ではこの結界は突破できない。やるならばこちらも全身全霊と万全の準備が必要になる。


「さすがは最古の竜王の封印ということか」


 失敗にカリムは笑う。

 ヤマタノオロチのような強力な竜王はもはやケルディアには存在しない。

 ケルディアには、神獣と呼ばれる種と魔物と呼ばれる種がいるわけだが、太古の昔にはこのような区分はなかった。根本的なところでいえば、どちらも力ある獣だ。

 区分ができるようになったのはヤマタノオロチが暴れまわった頃から。

 当時の人間はひ弱な存在だった。いや周りにいる多くの種が今よりも強かったので、相対的にひ弱な存在だった。

 しかし暴虐のかぎりを尽くすヤマタノオロチやそのほかの種に憤りを覚え、人間につく種が現れた。後の世に神獣と呼ばれるのは彼らの子孫たちだ。彼らは人間と協力してヤマタノオロチやそのほかの害ある種を排除した。その過程で力ある神獣たちも命を落としたため、ケルディアでは人間の時代が到来したのだ。だからケルディアには強力な竜王は存在しないのだ。

 そんな太古の時代に生きた竜王であるヤマタノオロチを封印し続けることができているのは、日本という国が龍脈の上にあり、大地に魔力が漲っているからだ。その力を借りることによって封印は保たれている。

 しかし、封印とはすべてを未来に押し付ける行為ともいえる。


「我々のために延命措置を取っておいてくれたと思えば、古代の日本人には感謝の言葉しか出ないな」


 厄介な封印を見てもカリムが苛立ちや困惑を覚えることはない。

 むしろカリムは喜んでいた。これだけの結界があるということは、その奥に眠る竜王がカリムの想像以上の存在であると言うことの証左だった。

 これほどの感動は魔王がケルディアに姿を現したとき以来だった。


「魔王は世界を滅ぼしてはくれなかった……しかし、このヤマタノオロチならば可能かもしれない。少なくとも大きな打撃をケルディアの国家に与えられる。そしてその間にまたどんどん刺客を送っていけばいい……ああ、楽しみだ……世界の終焉というのはどんな景色なのだろうか……」


 自分の世界に酔いながらカリムはつぶやく。

 黄昏の邪団ラグナロクは終末論者の集まりである。

 だれもが世界の終わりを願い、そのために動いている。

 しかし、多くの者が自らに降りかかった悲劇、不運に絶望してそうなったのに対して、カリムはその手の悲劇、不運とは無縁だった。

 長き時を生き、あらゆる召喚術をマスターしたカリムが世界の終わりを願うのはひとえに〝興味〟だった。

 終焉の景色。それを見てみたいがためにカリムは終末論者らを集め、世界の終わりを目指す。

 そんなカリムにつけられた異名は〝狂災〟。その危険すぎる思想と力を知る各国によって指名手配されており、騎士、軍人問わず国家に関わる戦士たちには見つけた瞬間に殺せと命じられている。

 それもあってこれまでカリムはほとんど人前に出ることはなかった。しかし、そんなカリムが動き出した。

 それはすなわち、ヤマタノオロチがそれだけのターゲットということだった。


「まぁじっくりやろうか。幸い、二度の陽動で多くの目は東京のゲートに向いている。時間をかけて封印を解かせてもらおう」


 そう言ってカリムはその場から音もなく消え去る。

 そしてまた封印の地は静けさに包まれたのだった。

 

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