第八十一話 ジュリア現る
斗真とミコトがケルディアに行ってる頃。明乃は学生の本分である勉学に励んでいた。しかしテスト期間中のため、テストが終わればすぐ下校となる。
一部の生徒などは図書館などで勉強するが、明乃はテストを終えてすぐ下校しようとしていた。図書館で勉強しても良いのだが、それをすると図書館が多くの男子生徒で一杯になるため、周りの迷惑を考えてできないという理由もあった。
そんなこんなで珍しくすぐに下校しているため、学校にはまだ多くの生徒がおり、明乃の横には栞もいた。
「明乃ちゃん、テストはどうだったの?」
「いつもどおりですね」
「いつもどおり高得点ってことね。私も明乃ちゃんみたいな頭が欲しいよぉ~」
そう言って項垂れる栞を見て明乃は苦笑する。
明乃は毎日勉強しているが、栞はしていない。テスト前に少しだけ勉強するだけだ。それでも学年で二十位以内をキープしている。毎日勉強すれば明乃のように一桁順位も狙えるだろう。
しかし、前にそれを言ったらそれは面倒だと返されたため、明乃は苦笑だけに留めた。
「あれ? 今日は佐藤さんは?」
「ミコトとケルディアです。少し用事があって」
校門の近くで待つ明乃の護衛が光助であったため、栞は質問した。
光助がいるときは斗真はいない。そのことは栞も知っているのだ。
そんな栞に返事をしつつ、明乃は目を伏せる。
光助の護衛が頼りないとは言わないが、斗真には劣る。斗真がいれば何も気にしないでいれる。それくらい明乃は斗真を信頼しているのだ。
「へぇ~、噂の妹さんとね。私も会ってみたいなぁ」
「そのうち機会があれば紹介しますね」
「うん! 楽しみにしてる」
栞はそう言ってミコトへの想像を膨らませる。
栞ならばミコトを可愛がってくれるだろうと思いながら、明乃は校門まで歩く。いつもなら途中まで栞と帰るところだが、今日は斗真がいないためすぐに車で帰る。
なにか話したりないことはなかったかと頭を巡らせたとき、一陣の風が吹いた。
「きゃっ!?」
その風は的確に明乃のスカートを靡かせる。
瞬時に両手押さえたため、衆目の目に白い下着を晒すことはなかったが明乃の美脚に周囲に男たちは釘付けになる。
それだけならただの風の悪戯で済んだだろう。しかし、風はなぜか止まず、また明乃のスカートを襲う。そう明乃のスカートだけを、だ。
「きゃっ! もう!? なんですか、これ!?」
「明乃ちゃん!?」
近くにいる栞には何の影響もない。
かなり限定的な空間で、しかも的確な強さで風を吹かせる。よほど高度な魔術師、魔法師でなければできない芸当だ。
そしてこんな悪戯を仕掛けそうな魔法師を明乃は一人知っていた。
「こんなくだらないことするのはジュリアさんですね!? どこにいるんですか!? 出てきてください!」
明乃の訴えに応じて、明乃の後ろでゲートが開く。
そしてそこからジュリアがすっと現れた。そしてそのまま後ろから明乃を抱きしめる。
「私はここよー、アケノ」
「もう! 何するんですか!?」
「今日の明乃の下着チェックよ。フリルのついた可愛いヤツだけど、もうちょっと色気が欲しいわね」
「な、なんで見てるんですか!?」
「そりゃあ私が風を操ってるんだもの。私だけに見えるように調整したに決まってるじゃない」
「そういうことではなくて……」
いきなり現れた異国美女に学校中が騒然となる。
横にいる栞も驚いているため、明乃はこれ以上ここで喋らないほうがいいと判断して、栞に別れを告げるとジュリアを車まで引っ張っていく。
「栞ちゃん! ごめんなさい、また明日!」
「う、うん、また明日……」
「ジュリアさんはこっちです!」
「あら? そんな慌ててどうしたの?」
のんびりした口調のジュリアに呆れつつ、明乃は光助に目配せる。
意味を察した光助は、明乃とジュリアが車に乗るとすぐに護衛体勢で車を出させた。自分はあえて明乃と同じ車には乗らない。ジュリアがいれば平気だと判断したのだ。
そして車中にて明乃はジュリアを軽く睨む。
「どうして日本にいるんですか? この前来た時はしばらく来れないって言ってませんでしたか?」
「ええ。来れない予定だったのだけど、日本のお金持ちが是非私に依頼したいっていう仕事を持ち掛けてきたから来日したのよ」
「百歩譲ってそれはいいとして、どうして学校に転移してくる必要が?」
「アケノを驚かせたくて。可愛かったわ~下着見られそうになって慌ててるアケノ」
「慌てるに決まってるじゃないですか!」
明乃は憤慨して抗議するが、ジュリアはそれを別の理由として取った。
少し目を細めたジュリアは、その豊満な体をゆっくりと明乃に近づける。
そして。
「慌てるってことは上下で違う下着つけてるのかしら?」
「どうしてそうなるんですか!?」
「じゃあ確認するわね」
明乃の返事も聞かず、ジュリアはするりと明乃に密着して動きを封じるとシャツのボタンをはずしていく。
「きゃぁぁぁ!!??」
「下着くらいでそんな悲鳴出さないの。あら? 下とお揃いのじゃない。なら、なんであんなに慌てたの?」
「ジュリアさんには一生わかりません!!」
ジュリアを振り払い、自分の身だしなみを整える。
幸いなのは運転手は祖父の代から仕える老人であり、プロフェッショナルらしく後ろの様子を一切気にしないで運転に集中しているということくらいだろうか。
「もう……一体なんなんですか……」
「アケノ。ずっと思っていたのだけど……あなたミコトにバストの大きさで負けているわよ?」
「なっなっ!? 何を言ってるんですか!?」
「さすがに年下に大きさで負けるのは屈辱的ではなくて? バストアップの秘訣を教えてあげましょうか?」
「そ、そういう話の前に、どうして私とミコトのバストサイズがわかるんですか!?」
「私、抱きしめた女の子のスリーサイズがわかるのよ」
「五英雄は変態しかいないんですか!?」
触っただけでサイズがわかる斗真に、胸を数値化しようとするパトリック。極めつけは抱きしめただけでスリーサイズがわかるジュリア。
五人中三人が恐ろしくどうでもいい特技や趣向を有している。ほかの二人もこの分じゃどんな隠し技を持っているかわかったもんじゃないと明乃は戦慄した。
「ふふ、伊達に五英雄とは呼ばれてないわ」
「そんなことで自慢する五英雄なんていりません! 捨ててきてください!」
「あら? 私ほど女性のスリーサイズに精通した魔法師はケルディアにはいないわよ?」
「スリーサイズと魔法にどんな関係があるんですか……」
「一切関係ないわね」
あっけらかんと言い放つジュリアに疲れて、明乃は大きくため息を吐く。
しかし、すぐに明乃は悲鳴をあげた。
「きゃあぁぁぁ!!??」
「また悲鳴なんて出して。運転手さんに迷惑でしょ?」
「迷惑なのはあなたです! やめてください!」
「これが一番のバストアップ法なのよ」
そう言ってジュリアは明乃の胸に両手をのせて揉み始める。
制服の上からなため、そこまで触られているという感触はないがそれでも恥ずかしいものは恥ずかしい。しかも背中にジュリアの圧倒的な胸が押し付けられているため、敗北感が尋常ではない。
なんとか振りほどいた明乃は、自分の体を抱きしめるようにしてジュリアから距離を取る。
そんな明乃の態度を楽しみつつ、ジュリアは明乃に一冊の分厚い本を渡す。
「まぁスキンシップはこのぐらいにして、今日はこれを渡しにきたのよ」
「最初から本題に入ってください……これは?」
「魔導書よ。私が書いたもので、私が有用と思った魔法しか載ってないお宝よ。頻繁に修行はつけてあげられないから、これで修行してちょうだい」
「あ、ありがとうございます……」
ケルディア最強の魔法師であるジュリア直筆の魔導書。
その希少価値は計り知れない。そんなものをポンと渡された明乃は戸惑うがジュリアは一向に気にせずに明乃を抱きしめる。
「じゃあ私はそろそろ行くわね。ちゃんと修行しておくのよ?」
「は、はい……」
「それと次来たときは下着買いにいきましょうか。もっと色気のあるやつを私が選んであげるわ」
「け、けっこうです!」
「斗真は色気のある下着のほうが好きよ?」
「ど、どうして斗真さんの話になるんですか!?」
「さぁ、どうしてかしらね~」
そう言って茶目っ気のある笑みを浮かべると、ジュリアは来た時のようにゲートを発生させて瞬時に車から消え去る。
同時に車は東凪邸に到着した。
残された明乃はしばらく魔導書を見つめたあと、とりあえずテスト勉強から終わらせようと魔導書をカバンにしまって車を出た。