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第八十話 レイモンドVSミコト・下

とりあえず中編はこれでおしまい。

レイモンドにフローゼ。新キャラの多い中編でしたね。




 勝負には流れがある。

 その流れはほんの些細なことで変わってしまう。

 ミコトの魔剣の性能に驚き、ヴィーランドに意識を向けてしまったレイモンドは、その行動で勝負の流れを完全に手放してしまったといっていい。

 ミコトへの対策はすぐに思いついた。遠距離攻撃を避け、接近戦に持ち込めばいい。剣術勝負はレイモンドも望むところ。

 しかし、その手は一手遅い。それをするならばミコトが懐にいる時点でするべきだった。距離が空いてしまえば高速で動くミコトに近づくのは難しい。

 流れをイーブンに戻すチャンスはあった。しかし、レイモンドは敵から距離を取り、ヴィーランドを見るという余計な行為で手放してしまったのだ。


「こっちこっち」

「っ!?」


 接近しようにもミコトを追い切れず、ミコトもヒットアンドアウェイを繰り返す。

 手傷は負わないが、それでもレイモンドは完全に押されていた。


「なにをしてるんだ? レイは。動きがいきなり鈍くなったぞ?」

「あいつにとっては衝撃だっただろうからな」

「どういう意味だ? ヴィーランド」


 斗真の質問にヴィーランドはため息を吐く。

 当事者に自覚はないのだと思ったからだ。


「あいつが目指す剣士はアーヴィンドじゃない。お前やリーシャだ。だからお前らの能力を模倣した魔剣がミコトに与えられたってのはショックだったんだろうさ」

「くだらないな」

「厳しい言い方ですね」


 批難の視線をフローゼが斗真に送る。まだまだ少年のレイモンドに厳しすぎる意見と感じたのだ。

 しかし、斗真に賛同する声もあった。


「たしかにくだらないかもしれませんわね」

「エリス様まで?」

「レイはどこまで行ってもレイなのですわ。リーシャにもトウマ様にもなれはしません。二人の偶像を追うのは自由ですが、それに翻弄される必要はありませんわ。二人の力を模した魔剣がミコトさんの手にあるからといって、どうだというのでしょう? だからどうしたと不敵に構えればよいのです。彼は我が聖王国最強の聖騎士団の一員。リーシャやトウマ様に劣らない力がレイにはあるのですから」


 斗真やリーシャの力は絶大ではあるが、それが唯一の正解ではない。

 また違った強さも存在し、人には向き不向きもある。

 たとえレイモンドがミコトの剣を使っても、上手くは使いこなせない。

 ヴィーランドの魔剣とはそういうものだからだ。

 ワンオフ型の専用武器。その使用者に合わせて作られており、その使用者の力を最大まで引き出す。レイモンドにはただリーシャや斗真のような戦い方が合わなかった。それだけの話なのだ。

 そのことをエリスはよく理解していた。その程度の理解がなければ、聖騎士団の忠誠は勝ち取れない。


「そうであったとしても、彼はまだ少年ではありませんか……」

「違う。あの白いマントを纏った時点であいつは少年である前に、聖騎士だ。その自覚がないならマントを纏う資格はない。もしもあいつがこのまま情けない姿を見せて敗北するようなら、俺はあいつからマントを奪うぞ。エリス。そんな奴が白いマントを羽織っているのは、あの日、戦死した俺の戦友たちへの侮辱だ」

「どうぞ、ご自由に」


 魔王との決戦に参加した聖騎士は六名。そのうち五名は戦死した。

 彼らを含めた魔王戦に望み、命を落とした者たちは斗真にとってかけがえのない戦友であり、一切の侮辱を許さない神聖な存在だった。

 彼らの後継でありながら、情けない姿を見せるなんて許さない。それが斗真の本音だった。なにせ斗真の見立てではレイモンドのほうが強いのだ。

 エリスも似たような気持ちを抱いていた。この勝負を持ち掛けたのはレイモンドのほうだ。それで無様な敗北を晒すようなら白いマントに相応しくはない。

 そして、当事者であるレイモンドもそのことをよく理解していた。

 ミコトの攻撃をなんとか剣で受けながら、レイモンドは自分を嗤っていた。

 戦いの最中、余計なことを考えたあげく、それで敵を調子づかせている。

 敵と向かい合って考えるべきことはただ一つ。敵をどう倒すか。それのみ。視野を広げ、多くのことに考えを巡らせることは大切だが、一対一の場面で関係のないことに心囚われるなど失態も失態、大失態である。

 神童と謳われ、多くの任務をこなしてきた。聖騎士に任命され、序列も順調にあげ続けた。その中で驕りが生まれたのかもしれない。油断が生まれていたのかもしれない。

 どこかで本気を出さずに勝てると踏んでいた自分がおり、それがさきほどの失態に繋がっている。

 馬鹿な話だとレイモンドは笑う。

 相手はまぎれもなく天才。あの斗真が妹にした剣士なのだ。弱いわけがない。


「まったく……くだらないな」


 後悔なども不要。今すべきか、ただ目の前の敵に勝利するのみ。

 呟き、レイモンドは体から力を抜き、持っていた剣をだらりと下げる。

 どこもかしこも隙だらけ。だがそれでいいと思っていた。

 変に構えるから追うことができないのだ。どこに攻撃が来ると予想するのではなく、どこにでも来ると思っていれば反応も速まる。

 さぁどこからでも来い。

 レイモンドはミコトを待つ。そしてすぐにその瞬間は訪れた。何の工夫もなく、ただ速さのみを追い求めた直線的な突き。それを真正面から繰り出してきたミコトの素直にレイモンドは苦笑しつつ、ミコトの白影を受け止めた。


「嘘っ!?」

「捕まえたぞ」


 右手の剣で白影を止めつつ、瞬時にレイモンドは左手を動かして、ミコトの右手を掴む。

 これで完全にミコトの動きは止まった。


「そっちも何もできないけど?」

「いやできるさ」


 言った瞬間、レイモンドの後ろから炎の竜が現れた。

 すぐに意図を理解したミコトは離れようとするが、右手は掴まれたままであり、左の剣同士は力比べ中。引けば一太刀を浴びることは確実。


「本気!? 自分もまきこまれるよ!?」

「構わない」


 言うと同時にレイモンドは炎の竜をミコトと自分に向かって放った。

 高密度の炎が降りかかってくる。まともに受けたらどうなるかなんて考えたくもなかったミコトは、なんとか右手の拘束を外して炎の竜を消し去った。

 それは行動としては正解だった。脅威である炎の竜を消す。それに間違いはない。

 ただ、目の前にいるレイモンドも明確な脅威であることは確かだった。


「う、わぁぁぁぁ!!!???」


 レイモンドはミコトの胸倉を掴むと、そのまま背負い投げの要領で投げ飛ばす。

 地面に叩きつけられたミコトは、受け身も取れずにせき込む。


「ごほっごほっ!!」


 その隙を逃さずレイモンドは上から剣をふりおろず。

 何とか両の剣で受け止めるミコトだが、レイモンドはミコトの左手を蹴り上げて白影を飛ばす。

 これでさきほどの魔力を使って、超加速は不可能。


「あっ!?」


 つまり、この絶対的に不利な状況から逃れる術がないということだ。

 飛ばされた白影にミコトが意識を向けた瞬間。レイモンドはその僅かな隙を逃さず、ミコトの顔の横に剣を突き刺した。


「勝負あり!」


 すぐに斗真の声が飛ぶ。

 その声を聞き、レイモンドは深く息を吐く。

 一手でもしくじればミコト有利な状況がまた出来上がっていた。それでも炎の竜を繰り出したのはしくじらない自信があったから。

 レイモンドは焔竜牙を背中の鞘にしまうと、エリスとフローゼに一礼して修練場を後にしようとする。


「俺と戦わないのか?」

「……お前にはまだ勝てない。だが三年だ。三年で追いつく」

「へぇ、三年でいいのか?」

「お前は剣を学び始めて三年で魔王を討った。オレも三年でお前を抜く。そのときまでせいぜい、なまらないようにしてろ」


 そういうとレイモンドは修練場を後にした。

 残されたミコトのほうに斗真が近づく。


「どうした? 怪我でもしたか?」

「ううん」


 ずっと寝転がっているミコトに対して、斗真が問いかけるがミコトは首を振る。

 ミコトはずっと天井を見つめていた。


「すごい強かった。勝ったと思った状況から一気に覆された……ボクと同じくらいなのにあんなに強いんだね」

「お前も悪くはなかった。ただ、レイは聖騎士だからな。キャリアが違う」


 ミコトの戦闘経験はレイモンドと比べればたかが知れている。

 強さが互角なら経験が物をいう。ましてや地力の上でもミコトよりレイモンドのほうが上だった。

 この結果に斗真は驚くことはなかった。


「ボクも経験を積めばもっと強くなれる?」

「ああ、それは保証する」

「じゃあ帰ったら稽古の相手をしてね」

「それはちょっとなぁ……俺ばかり相手にしても経験は増えないぞ」

「トウマが一番強いんだから、トウマと戦うのが一番強くなる近道だよ。約束だよ?」

「はぁ……」

「ね、起こして。疲れたー」


 勝手に約束させられた斗真はため息を吐きつつ、いつまで立っても起きないミコトを引っ張って起こすのだった。

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