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第七十九話 レイモンドVSミコト・中

よく眠ったら体調がだいぶ戻った。皆さんも風邪の時は無理せず寝ましょう。




 





 翌日。

 修練場の中央でミコトとレイモンドは向かい合っていた。

 ミコトの手には黒と白の剣。ヴィーランドが仕上げたミコトだけの専用武器だ。


「まさかお試し相手が聖騎士とはな。豪華なもんだ」


 観客席には製作者であるヴィーランド。

 そしてエリス、フローゼ、斗真の姿があった。

 エリスとフローゼは万が一のための回復要員であり、斗真は万が一の審判係。ほかの人間が見れば、観客席のほうが豪華なのでは? という疑問を抱く面々だった。


「レイ、怪我をさせることが目的はありませんわ。よろしいですね?」

「はっ」

「ミコト。あまり無理はいけませんよ?」

「うん!」


 エリスとフローゼにそれぞれ声をかけられ、レイモンドとミコトは返事をする。

 互いに気負いはない。当然だ。どちらも剣の才に恵まれた一流の剣士であり、それなりの修羅場を潜ってきた。相手と向かい合って気負うような段階はとうに過ぎ去っている。

 向かい合う二人はまだ子供ではあるが、しかし地球で行われるような子供の試合ではない。真剣を用いた勝負であり、双方ともその気になればこの修練場を破壊するだけの力を持っている。そんな二人の勝負だ。


「ルールは特にない。互いに魔剣を使って戦えば、なにしても構わない。ただし、致命的な一撃は止めろ。多少の怪我ならエリスとフローゼが何とかするし、それだけ守って全力でやっていいぞ」

「不本意な頼られ方ですわ……」

「まったくです」


 文句を言うエリスたちに苦笑しつつ、斗真はレイモンドとミコトを見る。

 二人はじっと相手を見たまま動かない。すでに臨戦態勢だ。


「始め!」


 声と同時に二人は動いた。




■■■




 動くという点で二人は同時だった。しかし、行動は真逆だった。

 詰めるミコトに対して、レイモンドは同じ速度で退いた。

 意表を突く、虚を突くという言葉があるわけだが、レイモンドは開幕から全力で退くという勝負からは程遠い行動でミコトを完全に混乱させた。

 ミコトは相手も向かってくると読んでいたからだ。

 そして加速が終わり、ミコトが失速し始めたとき。そこを狙ってレイモンドは背中に差した剣を抜く。

 名工ヴィーランド作。聖騎士になったときに受け取ったレイモンドのための武器。


「行くぞ、焔竜牙えんりゅうが


 老いた神獣〝焔竜〟の牙より作られたその剣には焔竜の意思が宿る。

 万物を焼き尽くす炎を持つ焔竜。その意思を持つ魔剣。もちろん属性は――火である。


「うわっ!?」


 炎を纏った長剣が一振りされ、ミコトは咄嗟に両の剣で受け止める。

 しかし、斬撃は防げたものの纏う炎の力まで受け止めきれず、大きく後ろまで後退させられた。


「元々レイは炎と極端に相性のいい体質だったが、竜にすら気に入られたのか」

「そうですわ。炎を扱わせたら今のレイに匹敵するのはジュリア様くらいしかいないのではないでしょうか?」

「そいつはどうかな」


 吹き飛ばされたミコトは炎を纏うレイモンドの剣を興味深そうに見つめる。


「炎が出る剣か。ちょっとびっくり」

「さっさと負けを認めれば怪我せずに済むぞ?」

「負け? なんで?」

「なんでって……」

「キミは強いよ。それはわかった。けど、負けを認める理由にはならないかな。だってボク、君よりすごい炎を見たことあるし」


 そう言ってミコトは笑う。

 その言葉が張り合いから出た言葉ではないことをレイモンドはすぐに感じ取った。

 恐れがなかったからだ。レイモンドの炎の熱さ、威力を見て怯まない相手はいない。これほどの火力を見た経験がないからだ。

 しかし、ミコトにはそれがなかった。


「技術もすごいし、駆け引きもできる。けど、勝てないほどじゃないかな」

「なに?」

「次はキミから来なよ。ボクの黒陽こくよう白影はくえいの力も見せてあげるからさ」


 そう言ってミコトは手を前に出して、レイモンドを手招きする。

 舐められた真似にレイモンドは青筋を立てる。

 そして。


「上等だ……後悔するなよ?」


 そう言ってレイモンドは自らの剣に魔力を流し込む。

 すると剣の周りにあった炎がどんどん膨れ上がり、やがては意思を持つようにレイモンドの周りを回り始めた。

 そして一定量の魔力が与えられたとき。

 炎の先端は竜の首を象っていた。


「ヴィーランド。ミコトの双剣の能力はなんなんだ?」

「それは見てからのお楽しみだな」


 勿体ぶるヴィーランドに対して、斗真は何も言わない。

 聞くより見たほうが早かったからだ。


「はぁぁぁぁぁ!!」


 レイモンドは炎の竜をミコトへと差し向ける。

 それに対してミコトは構えることもしない。ただ両手をだらりと下げるのみ。

 そしてレイモンドが放った炎の竜は動かないミコトへと直撃した。


「しまった……やりすぎたか?」


 観客席にいるエリスを気にしながらレイモンドはつぶやく。

 試合前に注意を受けた以上、やりすぎだと叱責を受けるのではと思ったのだ。

 しかし、同時にレイモンドは不思議に思った。

 審判役である斗真が一切動かないことに。

 そしてその理由はすぐにわかった。


「いやーすごい威力だね。黒陽がなかったら避けるしかない攻撃だったよ」

「な、に……?」


 レイモンドは自分の攻撃に自信を持っている。

 正面から防がれた経験などほとんどない。

 しかし、粉塵の中から無傷で現れたミコトを見て、認めざるをえなかった。

 自分の攻撃がいとも簡単に防がれたという事実を。


「なにが起こったのですか?」

「わたくしも気になりますわ」


 フローゼとエリスに解説を求められた斗真はただ自分が見たことを話した。


「ミコトの右手にある黒い剣が炎の竜を打ち消した。余波で粉塵は舞ったが、ミコトには当たってない」

「御名答。黒陽は魔力を打ち消す。魔法の使えない純粋な剣士が、魔法に対抗するために作った剣だ。本当はお前さんみたいに魔力を吸収し、貯蓄するところまでは目指したかったんだが、今の俺にはあれが限界だった」

「トウマを真似た剣ということですか?」

「まぁそうとも言えるな。劣化コピーみたいになっちまったが、それでも十分強力だ」

「対遠距離には無類の強さを持つということですわね。トウマ様が魔法師相手に圧倒的アドバンテージを持っているのと同じ効果がミコトさんにもあると」


 ネタばらしを受けた斗真はミコトの左手に注目した。

 その剣に斗真は微かな見覚えを感じていた。なにもかも似ているわけじゃないが、どことなく雰囲気が似ている。

 そうかつて師匠が持っていた剣に。


「しっかり受け止めてね? トウマに怒られるの嫌だから」

「っ!?」


 そう言った瞬間、ミコトはレイモンドの懐に入り込んでいた。

 繰り出された左の剣の斬撃を咄嗟にレイモンドが受け止められたのは、経験ではなく天性の才からだった。

 まったく見えず、かつ動きの始動すら感じられなかった。

 それほどの速さを見せつけられたのは人生で二度目。

 レイモンドは衝撃を受けながら距離を取り、ヴィーランドを信じられないといった様子で見つめる。

 対面したからこそレイモンドはよくわかっていた。

 魔力を打ち消すのは斗真が得意とする戦い方。

 そして超高速戦闘はリーシャの得意とする戦い方。

 黒陽が斗真を真似たものならば、白影はリーシャを真似たものだったのだ。


「大気中に散らばる微弱な魔力。白影はそれを吸収することができる。そして、それを使用者の速度に変えるっていうのが能力だ。大したことはない。相手の魔力を吸収し、自分の速度に変えるリーシャに比べればな」

「たしかにな。しかし、黒陽で打ち消したことでミコトの周りにはその微弱な魔力が大量に存在した。そしてそれを吸収したからこそ、ミコトの超加速は成立した……俺とリーシャの戦い方を一部とはいえ魔剣に写し取るなんて、やるじゃないか」

「言ったろ? 劣化コピーだ。単体じゃ大した剣じゃない。ただ、両方使えるとなれば話は別だ。大きく化ける」

「自分からあの二本を選んだのか?」

「ああ。近くに置いておいたが俺もまさかあの二本を選ぶなんてと驚いたが、お前の妹ならまぁ納得できなくはないが……それにしても恐ろしいだろうな。レイモンドはお前もリーシャも知ってるからな」


 そう言ってヴィーランドは驚愕の表情で自分を見つめてきているレイモンドを見返す。

 まだまだ決着はついてはいない。

 ただ双方の魔剣の力が垣間見えただけ。

 しかし、勝負の流れは完全にミコトへと傾いていた。

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