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第七十六話 剣の選び方

今日はなんだか疲れた……。

だれかオラに元気くれー






「まったく……信じられませんわ。五英雄同士が、その国の王に断りもなく試合をするなんて……」

「悪かったって言ってるだろ?」


 エリスの文句を受け流しながら、斗真は薄青色の水を飲む。

 それはフローゼが作り出した癒しの水だ。飲めば回復力が上がり、傷の治癒が促進される。外側の傷に有効な回復魔法に対して、癒しの水は内部の病や傷によく効く。

 内部の回復力が上がったところで、さらにエリスが回復魔法をかける。それくらいしなければならないほど、斗真の左腕はダメージを負っていた。


「いきなり癒しの水が必要と言われてどうされたのかと思いましたが……まさかアーヴィンド様とトウマが立ち会ったなんて……」

「軽い手合わせだ。どっちも本気じゃない」

「本気じゃないのに肩が壊れますか?」

「痛っ! やめろ! おい!?」


 笑顔でエリスが斗真の左肩を押す。それだけで痛みが走り、斗真は顔をしかめた。癒しの水を飲み、エリスの回復魔法を受けてもなお痛みが残るということは、それだけ内部の損傷がひどかったということだ。

 骨には無数の亀裂が走り、中の筋肉や神経はズタズタだった。しかし、アーヴィンドの突きを受けてその程度ならまだましともいえる。

 木剣でもまともにくらえば肩が吹き飛んでいたことだろう。


「アーヴィンド様の左腕もひどい状態でした。すでに処置しましたが……互いに左腕を破壊するのはやりすぎでは?」

「互いに木の獲物だ。殺す気もないし、なにか壊す気もない。この程度なら許容範囲だろ。まぁ、ちょっと火がついて木刀が耐えられる範囲で思いっきり殴ったが」

「それが問題ですわ! 互いに動けない状況を見たわたくしの気持ちがわかりますか? 予想外の状況に卒倒しそうになりましたわ……」

「ああ、予想外だった。あいつだけ吹き飛ばすつもりだったんが、思ったよりいい攻撃をしてきやがっ、痛っ! 痛い! 肩を押すな!」

「その状況はその状況で問題だと気づけませんの? トウマ様はお馬鹿様ですか?」


 聖王国の切り札にして、聖王都防衛の要である聖騎士団長を戦闘不能にする。

 それがどういうことなのか。わからない斗真でもない。しかし、そんなことを考える余裕はあのときはなかった。

 その程度の雑事に捉われれば結果は相打ちではなく、斗真の負けだっただろう。

 久々に戦いのみに集中していたのだ。斗真は。

 そういう意味ではアーヴィンドの配慮は正解だったといえるだろう。


「そ、そんなことよりミコトは?」

「そんなこと……?」


 エリスの笑みが深まる。しかし目は全く笑っていない。

 斗真は助けを求めるようにフローゼを見た。


「ミコトはヴィーランドと剣との相性を確かめにいきました」

「そうか。ヴィーランドの城に行ったのか」


 俺も何度か行ったことがあるその場所は、刀剣マニアなら涎ものの場所だ。

 なにせ、ヴィーランドの作品が無数に置かれているのだから。




■■■




「好きな剣を使え」


 そう言われ、ミコトは困惑した。


「ボク、さっきまでは城にいたはずなんだけど……?」


 扉を開けた瞬間、巨大な荒野が広がっていた。

 そこには無数の剣が突き刺さっており、その中央には小さな小屋があった。


「ここは俺の工房だ。空間魔法で城の扉と繋げてあんだよ。ここにある剣はすべて俺の作品。俺が勝手に使い手を想像し、勝手に作りあげた使い手のない刀剣類だ。自分に合う物を選べ。それをベースにしてお前さんの武器を作る」

「合う物を選べって言われても……」


 こんな多くの剣を一々振っていたら日が暮れる。

 それにその程度では剣との相性はわからない。

 そう思っていると、ヴィーランドは傍にあった剣を引き抜く。そしてそれをミコトに突きつけた。


「剣士ならごちゃごちゃ言わずに感性で選べ。そしてかかってこい」

「え? おじさん戦えるの?」

「たしかに俺は担い手ではないが、作り手だ。自分の作った剣なら十分に扱える。さっさとかかってこい。俺は動きの遅い剣士は嫌いだ」

「っっ!? わ、わかったよ!」


 鍛冶師とは思えない眼光で威圧され、ミコトは瞬時に気持ちを切り替える。

 相手は魔王との戦いで剣を作り続けた鍛冶師。一流の剣士であってもおかしくはない。

 油断せず、ミコトは一番近くにあった剣を二本手に取った。


「二刀流か……扱えるか? 俺の剣を」

「扱うよ……甘えるばかりじゃいけないから」


 一呼吸の後、ミコトは一瞬でヴィーランドの真上にいた。

 そのまま落下と同時に両の剣を振り下ろす。

 しかし。


「速いは速いが……それだけじゃ一流の剣士とは言えねぇな」


 ヴィーランドは何の変哲もない剣でミコトの二刀を受け止めると、思いっきりミコトを弾き飛ばした。


「うわっ!?」

「その二本は合わなかったみたいだな。次を選んで来い」


 ミコトは言われてみると、両手に持った剣は刃こぼれを起こしていた。

 耐久値が問題だったわけじゃない。持った瞬間に一級品だと確信した。しかし、その剣が壊れた。

 なぜか。


「ここにある剣は俺が妄想した使い手に完璧に合わせてある。それだけピーキーな仕様ってことだ。ほかのヤツが使えば壊れちまうくらいにな」

「嘘……これ全部?」

「毎日それしかしてないからな。さぁかかってこい。トウマ・サトウの義妹。日本じゃどうだから知らんが、こっちの世界でそれを名乗るならそれ相応の実力が必要だぞ? 見せてみろ」

「……言われなくてもやるよ!」


 挑発に乗ってミコトは大剣と短刀を手に持ち、真っすぐ突撃する。

 しかし、どちらも数合で刃こぼれをする。それを気にせず、ミコトは傍にある剣に取り換えてヴィーランドに攻撃していく。

 ヴィーランドはそんなミコトの連撃を涼しい顔で受け止め続けた。

 やがて、ヴィーランドの傍に剣がなくなり、その隙にミコトは遠くに吹き飛ばされた。


「うわっ! もう! 容赦ないなぁ」

「泣き言をいうには早くないか?」

「泣き言じゃない! 文句だよ!」


 言いながらミコトは無造作に両手を近くの剣に手を伸ばした。

 すでに何度も繰り返した作業。すぐに壊れる消耗品。そういう感覚で手を伸ばしたのに、両の手から返ってきた感触はそれとはまったく違うものだった。


「え……?」


 まるで何度も何度も死線を超えてきたかのような安心感と頼もしさ。

 右手にあったのは黒い片刃の剣だった。重さはほとんど感じない。バランスがミコトに一致しているからだ。左手にあったのは白い細剣。まるでガラス細工のような危うさがあるのに、刃の輝きには力強さがあった。


「すごい……」


 自分のために作られた剣だ。

 それをミコトは直感で確信した。この剣は自分と戦うために生まれてきたのだと。


「どうした? ギブアップならギブアップだと」

「ううん……この二本がいい。この二本しかないよ」

「ほう? それなら見せてもらおうか」


 そう言ってヴィーランドは剣を構える。

 それに対してミコトはゆっくりと近づき、そして一瞬の後。ミコトはヴィーランドの後ろにいた。


「見えた?」

「……見えなかったな」

「そっか。残念。上手く斬れたと思ったんだけど」


 まさか斬られたのかとヴィーランドは慌てるが、少し遅れてヴィーランドの持っていた剣が細切れになった。

 それを見てヴィーランドは笑う。

 かつて同じことをした剣士がいたからだ。


「はっはっは!! トウマが妹にするわけだ! 俺の剣を細切れにしたのはお前さんで二人目だぞ! ミコト!」

「二人目? 一人目はトウマ?」

「トウマはここで剣を選んじゃいない。トウマが持っている刀は俺がトウマの師匠に頼まれて作った実験的な刀だ。トウマは特殊すぎたからな」

「じゃあ一人目ってだれ?」

「トウマの師匠。九天一刀流正統後継者。大陸最強の剣士。閃空の勇者、リーシャ・ブレイクだ」


 そう言ってヴィーランドはミコトに両手を差し出す。


「貸しな。その二本をベースにしてお前さんの剣を作ってやる」

「え? これでボクはいいよ?」

「馬鹿にするな。もっといい物にしてやる。完全なお前さんだけの剣だ」


 そう言ってヴィーランドはミコトから奪うようにして二本を受け取り、自分の工房である小屋に入っていった。

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