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第七十四話 女王の説得

とりあえず新キャラ、フローゼの登場話でした。

昔の女で、未亡人。なかなかどうして斗真もいろいろとやってますね。

だんだんアクセス数も回復してきたので、この調子でやっていこうと思います。


感想、評価、ブックマークお待ちしてますね。


 フローゼの部屋に呼び出されたミコトはやや緊張した面持ちで部屋に入った。

 女王と一対一で話すという状況だ。無理もないことだろう。

 そんなミコトをフローゼは優しく迎え入れた。


「あなたがミコトですね?」

「は、はい……」

「トウマから話は聞いています。どうぞ、かけてください」


 そう言ってフローゼは斗真にそうしたように自分の横の席にミコトを誘う。

 斗真とは違った意味で緊張しているミコトに対して、フローゼはハーブティーを淹れた。気持ちを落ち着かせる効果のある香りにミコトはほっと息を吐く。


「どうですか? 私の国のハーブティーなのですが」

「美味しい……」

「そうですか。よかったです。では私とお話をしましょうか。まず自己紹介から。私はフローゼ・アイスヘイム。雪原の国、アイスヘイムの女王です。氷の女王と呼ぶ方もいますね」

「ぼ、ボクはミコト・サトウです……」

「トウマの義妹と聞いていますが、こうして姓を名乗るのを聞くと変な感じがしますね。どうですか? トウマは良き兄君ですか?」

「は、はい! それはもう……いつもボクのわがままを聞いてくれるし、困ったら助けてくれるし」

「そうですね。トウマはいつも助けてくれますね。私もそうでした」


 フローゼは少しだけ遠くを見つめる。

 見つめるのは今ではない。かつての記憶。

 斗真が自分の傍にいたときの記憶。もはや戻らぬ甘い日の記憶。


「あの……女王陛下」

「フローゼで結構ですよ」

「じゃあフローゼ様。その……フローゼ様はトウマの恋人なんですか?」

「どう見えますか?」


 質問に質問を返されてミコトは困惑する。

 ミコトにとって大人の女性というのはブリギットのような人のことを言う。

 分類としてはジュリアやフローゼもそのカテゴリーに入るだろう。だからミコトから見て大人の男である斗真と特別な関係でも驚きはしない。

 誉れ高き五英雄。魔王を倒した英雄。女王が恋人とするのに十分な格だ。どのような王族もこれまで高い戦闘力や魔力を持つ者を血筋に迎えてきた。斗真ならどこの国も大歓迎だろう。

 それにフローゼは気品があり、落ち着いている。斗真とも気が合いそうだとミコトは確信した。

 しかし。


「違うかな……?」

「正解です。正確には恋人にはなれなかったというべきでしょうか。私たちは良き友人であり、それより先には進まなかった。ですけど、私は斗真の存在に救われた。もちろんそういう人は私だけじゃありません。多くの人が彼に救われてきました。あなたもそうでしょう?」

「は、はい。トウマがボクを助けてくれました。居場所も……作ってくれました」

「そうですか。でも、武器は持ちたくないのですね? そんなトウマの提案でも?」

「そ、それは……」


 その話に触れられ、ミコトは視線を落とす。

 そんなミコトにフローゼは近くに立て掛けていた杖を見せる。

 淡く輝くその杖はフローゼ専用の杖だ。魔王軍との戦いの際には優秀な魔法師として、フローゼはその杖で戦ったのだ。


「この杖を見てどう見ますか?」

「綺麗だと思います」

「そうですね……。多くの人がそういうでしょう。しかし、私には辛い戦いの象徴でした。だから私はこの杖を魔王軍との戦いの後、城の地下に封印しました。もはや戦いなどしなくていい時代が来たと信じていましたから」

「でも……今は持っているんですね?」

「ええ……私は悲劇の女王として広く知られています。どうしてだか知っていますか?」

「い、いえ……」


 首を横に振るミコトにフローゼは自分を重ねていた。

 ミコトはかつての自分と同じなのだ。今の平和を信じ、戦いの象徴である武器を忌避している。悪いことではない。

 しかし、それを許さない存在もいる。


「私には二日だけ夫がいました」

「二日だけ?」

「式をあげ、夫婦となって二日後、夫は殺されました。城の宝物庫に潜入しようとした賊と相討つ形で。そのとき私はなにもできませんでした。賊は強力で杖のない私では足手まといだったからです。そして夫は私の腕の中で命を落としました」

「そんな……」

「……運命の分かれ目は私たちの都合など関係なくやってきます。静かに、そして唐突に悲劇は訪れます。そのときに備え、出来る限りの準備を整えておく。私たちにできることはこれだけです。トウマはそのことをよく知っているから、あなたに武器を持たせようとしているのでしょう」

「……理解は、してます……」


 頭では必要なことだと理解している。

 しかし、感情は別物だ。武器に操られたにもかかわらず、また武器を持つ。その葛藤をフローゼはよく理解していた。だが、それでもとフローゼはミコトに訴える。


「甘えるのはおよしなさい」

「甘えているわけじゃ……」

「いえ、あなたは甘えています。トウマがいるから大丈夫。そう思っているのではありませんか?」

「!?」


 図星を突かれてミコトは押し黙った。

 自分しかいないならばまだしも、傍には斗真という最強の剣士がいる。それならば無理をして自分が武器を持つ必要はない。そう心のどこかで思っていたことは事実だった。


「トウマは万能の神ではありません。事実、トウマですら守り切れなかった人は大勢います。それにもしもあなたの傍にトウマがいないとき、あなたはどうするのです? 戦わないのですか? 大切な人が危険でも?」

「た、戦います! それはもちろん……」

「そのとき力が及ばなかった場合、どうするのですか? 誰かを失ってから後悔しても遅いのですよ?」


 まだまだ子供の少女に厳しいことを言っていることは承知の上だった。

 しかし、フローゼはミコトに同じ思いをしてほしくなかった。

 力がありながら、それを満足に振るえずに大切な人を目の前で亡くす。それは一生ものの傷を心に残す。


「トウマはあなたが大切なのでしょうね。自分の傍に置いているのがその証拠です。彼は失うことを恐れる人。よほど大事なモノしか傍に置きません。失ってしまえば悲しいから……」

「……武器が必要なときが来なかったら?」

「当面の危機が去り、状況が落ち着いたら手放せばよいでしょう。しかし、今のあなたを取り巻く状況は複雑です。感情に折り合いをつけて、武器を持つべきでしょう」


 しばし考えたあと、ミコトはフローゼを真っすぐと見つめる。

 純粋な瞳にフローゼも真っすぐ目を見つめて応じる。


「……あなたは良い人だね。ボクの直感だけど……だからアドバイスに従います」

「それは良かったです。トウマも一安心でしょう」

「……あなたもトウマの傍にいたかった人?」


 純粋ゆえにストレートな質問だった。

 フローゼは虚を突かれて目を見開くが、すぐにクスクスと笑い始める。

 そして。


「ええ。そうですよ。私だけじゃありません。トウマの傍にいたいと思う人は大勢います。そんなトウマの義妹となったのですから、あなたにはトウマの義妹らしく強くあってもらわねば困ります」

「そっか……そうだよね。トウマは人気者だもんね」

「ええ。甘えてばかりいるとあなたの立場を取ってしまう人も現れかねません。トウマが許しても、周りが許さないということですね」


 言いながらフローゼは穏やかな笑みを浮かべる。

 口にしながらそのようなことをする者はいないとわかっているからだ。わかっているからだ。

 斗真は傍にいる者を大切にする。義妹となったミコトに何かしようものなら斗真の逆鱗に触れる。

 かつてその逆鱗に触れて魔王は討伐された。その逆鱗にあえて触れようとするのは、死を恐れぬ狂人たちしかいないだろう。


「黄昏の邪団ラグナロクに用心しなさい。彼らはどこにでもおり、そしていつでも世界の破滅を願っています。いざというときはあなたがトウマを守ってくださいね」

「うん! わかりました!」


 元気な返事をするミコトをフローゼは抱き寄せる。

 ジュリアに抱きしめられた時とは違い、優しく包み込むような抱きしめ方だ。

 それはかつてブリギットが優しかったころにしてくれた母の抱きしめ方だった。

 その居心地の良さにミコトはそっと目を閉じる。


「温かぁい……お母さんみたい……ううん? フローゼ様ならお姉ちゃんかな?」

「ふふ、トウマが兄で私が姉ですか? それもいいですね」


 フローゼはミコトの頭を撫でながら、隣で微笑む斗真を想像して笑みを深めた。

 


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