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第六十三話 パーティーも楽しいばかりじゃない

たぶん、次で第二章はラストかな? 何度も似たようなことを言ってる気がするw

活動報告で過去編のアンケート中。メッセージかコメントよろです


あと明日で投稿開始から一か月。よく毎日更新続いているなと自分に感心してます笑



 パトリックとアーヴィンドの揉め事をどうにか収めた俺は、そろそろパーティー会場からお暇させてもらおうと思っていた。

 まぁ理由はそろそろダンスタイムだからだ。

 苦手ではないが、好きでもない。

 そもそも人前で何かすること自体、そんな好きじゃないし。

 そんなわけで自然な流れでいなくなろうと思ったのだが……。


「トウマ様、どちらへ行かれるんですか?」

「わかってて聞くなよ……」


 目聡く退出しようとする俺を見つけたエリスが俺の傍に寄ってくる。

 リーシャに貰ったお気に入りのドレスを今日も着ている。ただ、そのドレスで俺の前に来るのはやめてほしい。

 なにせ前回の魔力供給のときもそのドレスだった。


「どうかなさいましたの?」

「いや、なんでもない」


 不思議そうにエリスが首を傾げる。

 本人はあまり気にしてなさそうだし、俺も気にしないようにするか。


「どこに行くかって質問だけど、当然部屋で休む」

「まぁ、パーティーはこれからですのに……残念ですわ……」

「いや、そう言われても……」


 しょんぼりとしたエリスを見て、罪悪感が刺激される。

 俺はまったく悪いことしてないのに……。


「ふふふ、冗談ですわ。あまりダンスはお好きじゃありませんものね」

「まぁな……。よく踊る気になるよ、みんな」


 演奏が始まり、ペアを組んだ男女が踊りだす。

 夫婦や恋人も多いが、そうでもないペアもいる。

 アーヴィンドは完璧な騎士らしく、大量の女性から踊りを申し込まれており、それをすべて受け入れた。

 その姿は貴公子のようであるが、女性の多さに若干引いているのが俺にはわかる。

 パトリックはといえば、さきほどの醜態でアーヴィンドほどの女性は集まっていないが、華やかな女性たちにダンスを申し込まれて、珍しく受け入れている。全員が巨乳だし、たぶん女性はパトリックが巨乳好きとか勘違いしてそうだな。だが、パトリックはそういうタイプではない。どうせ踊っているのもより精密なデータを得るためだろう。あいつはそういう人間だ。


「羨ましいですか?」

「あいつらが? そんなわけないだろ。男から嫉妬の目に見られるし、女は群がってくるし、羨ましいなんて思うわけないだろ?」

「トウマ様らしいですわね」


 エリスはくすくすと笑う。

 そんな姿を見て、俺の周りにはだんだん男が増え始めた。会話の流れで割って入り、エリスとお近づきになりたい連中だ。

 これ以上、エリスと親しいところを見られるといらん恨みを買いそうだし、退散するか。

 そう思ったとき、俺の考えを読んだようにエリスが俺を引き留めた。


「お待ちくださいな」

「っ! なんだ? 用でもあるのか?」

「用というか、おねだりですわね」

「は?」


 エリスは悪戯っぽく笑うと、コホンと咳払いする。

 そして指を一本立てた。


「わたくし、今回いろいろとトウマ様に便宜を図りましたわ。レオン王子と接触して、こちらに来るルートも確保しましたし、いくつかの有力国の代表者に口添えもしておきましたわ」

「あ、ああ、ありがとう。助かった」


 礼を言うとエリスは笑みを深めた。

 こういうときのエリスは厄介だ。自分の思った通りに事が進んでいるときしか、こういう笑みは浮かべないからだ。


「ではご褒美をくださいな」

「ほ、褒美……? お前にあげられるものなんて俺はないぞ?」

「一杯ありますわ。でも今日は一つだけで構いませんわ」

「……なにすればいいんだ?」

「わたくしと踊ってくださいな」


 優雅に手を差し出すエリスの魂胆を察して、俺は天井を見つめた。

 男避けに使う気か。

 エリスが避けたいのはダンスを申し込んでくる若い男ばかりじゃない。自分の息子や孫をアピールしたいおっさん、爺さんたちもエリスの様子を伺っている。

 そいつらすべてを避けるのに俺ほど好都合な相手はいない。

 五英雄の中で抜群に知名度が低い俺は、多くの人間から謎が多い人物と思われている。

 賢王会議の参加者の中にも、俺の人物像を把握できていない者は多い。加えて、今回の一件で俺は厄介者と認識された。

 傍にいるだけじゃなく、エリスと踊るほど仲が良いことをアピールすれば男はエリスに近寄りがたい。

 そういう魂胆なんだろう。そして俺は断れない。

 その程度の褒美も断ったら、今度からエリスに何も頼めないからだ。


「……喜んでお受けします」


 一応の礼儀として俺はエリスの手を優しく握る。

 そしてそのまま会場の中央へ向かった。そしてエリスの腰に手を回す。


「トウマ様。覚えていますか? わたくしたち前にもここで踊っていますのよ?」

「覚えてるに決まってんだろ。この城に来たばかりの頃、ダンスを教えてもらったな」

「まぁ、覚えていてくれたのですか!? 嬉しいですわ」

「お前は俺の記憶力をなんだと思ってるんだ……」


 ちょいちょいエリスは俺の記憶力を甘くみる。普通に平均的な記憶力はあるつもりなのに、ことあるごとに確認してくる。

 からかっているのか、それともガチで覚えてないと思っているのか。

 かなり真剣に悩み始めたとき、俺の視界に真剣に話し込むジュリアと明乃の姿が映った。二人とも目立ってないと思ったら、あんなところで喋ってたのか。

 あまりにも真剣な雰囲気に周りには男の影はない。

 なにを話しているのか。興味をそそられ、耳を澄ました時。


「っ! おい……」

「まぁ、申し訳ありませんわ。トウマ様」


 いきなりエリスに足を踏まれた。

 しかもかなり強めに。


「お前……わざとだろ?」

「そんな、わざとだなんて……」


 エリスは笑顔を浮かべるが、俺は知っている。

 エリスはダンスが非常に上手い。大して難しい動きをしてるわけじゃないのに俺の足を踏むなんてありえない。


「足が勝手に動いてしまっただけですわ」

「わざとじゃないか……」

「トウマ様がいけませんのよ? わたくしとダンスを踊っているのにジュリアさんとアケノさんを見たりするから、わたくしの足が怒ってしまったんですわ」

「すごく理不尽な気がする……」

「理不尽ではありませんわ。わたくしとダンスを踊っているのですから、わたくし以外を見るのはマナー違反ですわ。今はわたくしのことだけ考えてくださいな」


 そう言ってエリスは俺に密着してきた。

 体温はもちろん、胸の感触がしっかりとわかる。

 その後、俺はエリスが満足するまで何度も踊りに付き合わされた。

 飽きてきたり、別のことを考えたりすると即座に足が飛んでくるため、油断もできず非常に疲れた。

 女って怖い……。




■■■




「あー……頭痛てぇ……」


 白金城の一室。

 俺に割り振られた部屋だ。

 そこに俺は明乃に付き添われてたどり着いた。


「最後に早飲み勝負なんてするからですよ……」

「早飲み勝負ならヴィーランドに勝てると思ったんだ……間違いだった……」


 大量に酒を飲むヴィーランドを潰すのは不可能だが、早飲みなら勝てるだろうと最後のほうに勝負を持ちかけた。

 陽気にヴィーランドは受け入れ、用意された酒を一瞬で飲み干しやがった。そのあと、まだまだガキだなと挑発されて何度も勝負を挑んでしまったのが失敗だった。

 結局、一度も勝てずに酔わされた。


「くそー……あの爺さんをいつか潰してやる……」

「はいはい。わかりましたから。ほら水飲んでください」


 明乃は俺に水を差し出す。正直、腹の中には液体しかないから水も飲みたくないが、飲んだほうがいいことは理解しているため無理やり飲みほす。


「……悪いな……介護させちまって」

「別に平気です。斗真さんがろくでなしなのは知ってますから」

「言ってくれるぜ……」


 断続的に訪れる頭痛、そして不快な睡魔に抵抗しつつ、俺は何か話をしようとする。

 そしてジュリアと明乃が話をしていたことを思い出した。


「ジュリアと……なにか話してたが何の話をしてたんだ……?」

「それは……」

「……言いたくないなら別にいいぞ」


 何もかも打ち明けるのが信頼というわけでもない。

 あのジュリアが真剣に話すくらいだ。なにか大事かもしれない。

 しかし、明乃は首を横に振った。


「いえ、斗真さんには相談しようと思ってましたから……ジュリアさんが私に弟子にならないかと誘ってくれたんです」

「……あのジュリアが? マジか?」

「はい……。それで、そのこの前の事件の時にジュリアさんに助けを求めたら、あとで何か要求するって言われてて、私はお金か何かだと思ってたんですが、その要求が弟子にしたいって話でした……最初はジュリアさんが日本に来たときに教えを受けるみたいな関係でいいそうです……」

「明乃……お前のことは天才だと思ってたが、俺の想像以上みたいだな。あのジュリアが弟子にしたいなんて……ケルディアの魔法師なら卒倒もんだぞ?」


 気まぐれの代表みたいなジュリアは、これまで弟子を取る気はないと公言していた。

 しかし、そのジュリアが明乃を認めた。これはとんでもない事態だ。ケルディアの魔法師たちは面子丸つぶれだろうな。

 まぁそこらへんは置いておくにしても、かなりすごいことだぞ、これは。


「すでに二度襲撃を受け、ミコトという新たな襲撃対象を抱えるなら、力をつけれるうちにつけたほうがいいとも言われました……」

「そりゃあそのとおりだな」

「でも、その……」

「なんだ? 嫌なのか? それなら代わりに断ってやるぞ?」


 歯切れの悪い明乃に対して俺は助け船を出す。

 しかし、明乃は首を横に振った。


「ち、違うんです……その斗真さんに失礼かなと思って……」

「失礼? なんでだ?」

「だって……私は斗真さんからも教えを受けてますし……」


 まぁたしかに俺は明乃の稽古に付き合うこともある。そのときに指導もする。

 だから今の明乃は俺の弟子といえば弟子だ。

 だから明乃は遠慮していた。そういうことか。

 まったく、生真面目なヤツだ。


「それで俺が怒ると思ったのか?」

「い、いえ……斗真さんは優しいので怒るなんて思ってません……ただ色んな人に教えを乞うのはなんだか八方美人な気がして……」

「いいじゃないか。いくつも師匠がいたって。明乃は守られるだけの存在じゃ嫌なんだろ?」

「は、はい。私は斗真さんやミコトと……支え合えるような存在になりたいです。まだまだ力不足は承知の上ですが……」

「それなら八方美人でいいじゃないか。誰も文句は言わない。親しい人間を守るために強くなる。立派な理由だ。それを馬鹿にする奴がいるなら俺が斬ってやる。だから安心しろ」


 俺は明乃の頭を撫でる。

 すると明乃は顔を真っ赤にして俯いた。ただ嫌がる素振りは見せない。

 そのまま手触りのいい明乃の髪を楽しんだあと、俺はベッドに横になる。


「さすがに眠くなってきたな……」

「じゃあ私は失礼しますね」

「ああ……あ、明乃」

「はい?」

「言い忘れた……よくゼノンや皇帝と真正面から言い合ったな。ゼノンとお前が言い合って、言質を取ったからレオンに繋がったし、皇帝もお前を気に入ったから退いたんだ。俺じゃああはいかない。さすがだ」


 そう褒めると俺はゆっくりと目を閉じる。

 そんな俺の耳に明乃のやけに嬉しそうな声が入ってくる。


「斗真さんがいたからです。斗真さんがいたから頑張れました」


 そう言われると気分は悪くない。

 こんな俺でも頼られ、必要とされている。

 そのことに満足感を覚えながら、俺は眠りに落ちた。

感想、ブックマーク、評価をお待ちしてます。

増えればテンション上がって、三回更新するかもよ?(チラチラ)

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