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第六十二話 まとめ役

外伝はとりあえず柚葉の続きにしようかと思います。

それともう一つアンケートを取ります。

過去編を見たいかどうかですね。たぶん書くなら別タイトルで書くことになります。また活動報告に書くので、コメントやメッセージをください。



 賢王会議は終わった。

 黄昏の邪団ラグナロクへの対策をより強め、各国は自国内の引き締めに取り組むこととなった。

 その日の夜。

 白金城では盛大なパーティーが開かれた。

 それには当然、俺たちも出席した。あの会議にいた人間で参加していないのはミコトとヴォルフくらいだろう。

 ミコトは立場上、パーティーを楽しむわけにはいかない。だからエリスが気を利かせて孤児院の子供たちと過ごせるように手配してくれた。

 ミコトは嬉しそうに出かけたし、護衛兼監視には聖騎士がつくそうだし大丈夫だろう。

 残る一人、ヴォルフは会議が終わり次第さっさと聖王都を出た。元々、俺との決闘を餌に呼び出しただけだしな。

 万全になったら相手をしてやると言ったら、では俺も爪を研いでおくと言っていたからガチ目に修行をしにいったんだろうな。

 あいつと本気で戦ったら、最悪二人とも死にそうだがまぁ仕方ない。戦うときはアーヴィンドあたりを審判として連れて行こう。

 そんなことを考えながら、俺は夜の聖王都を眺めていた。場所は白銀城のテラス。そこから見える聖王都は平和そのものだった。


「ここの景色は変わらないか……」

「変わってほしいのか、変わってほしくないのか。どっちとも取れる言い方だな?」


 俺の横から声が飛んでくる。

 そしてその人物は俺の横に並んだ。

 パーティー会場なのにツナギ姿の初老のおっさんだ。相変わらずTPOとは無縁な人だな。このおっさんは。


「ヴィーランド……」

「よう、久しぶりだな。トウマ」

「……そうだな。あんたとも二年ぶりか」

「ああ、お前さんの脱走を手伝って以来だな」

「その節はどうも」


 魔王戦後、この城にいた俺はエリスからの聖騎士就任要請を受けて逃走した。

 その手伝いをしてくれたのはヴィーランドだった。


「何もかもから逃げて、過去しか見てなかったお前さんがいつの間にか復活してたんだな。意外だ。俺はてっきりずっと腑抜けのままかと思ってた」

「……色んな人のおかげだ。あんたのおかげでもある」

「俺の? 俺がなんかしたか?」

「朔月を持たせてくれた」


 白金城から逃げるとき、俺は武器を持つ気はなかった。

 そのときにヴィーランドは朔月を俺に無理やり持たせた。できればリーシャを思い出しそうなモノは何も持ちたくなかったのに。

 だけどあの日、朔月を持たせてくれたから今の俺はある。


「それはお前さんにくれてやったもんだ。リーシャの奴が刃のない刀を打ってほしいって言ってきたは頭でも打ったのかと思ったが、たしかにお前さんに刃はいらないわな」

「ああ、俺にとって最高の相棒だよ。こいつは」

「その割にはずいぶん荒っぽい使い方をしてるみたいだな」


 持っていた朔月を一目見ただけでヴィーランドは呆れたようにつぶやく。

 さすがは二大鍛冶師の一角。見ただけでどういう使い方をしたかわかるのか。


「だが、使いこなせているならいい。最悪なのは武器を使いこなせないことだからな……なぁ、トウマ」

「ん?」

「俺がもっと違う理念で剣を打っていたら、ブリギットは狂気に落ちることはなかったと思うか?」


 ヴィーランドの理念は人を最大限に生かす武器。ブリギットは人を最大限に強化する武器。どっちも正しい。ただブリギットの武器は行き過ぎた結果、武器が人を操るようになった。そういう武器をヴィーランドは常に恐れていた。

 今思えば、自分も作ろうと思えば作れるから恐れたんだろうな。


「どうだろうな。二人して人を強化する武器を作っていれば、たしかに民間人の被害は抑えられて、ブリギットの娘は死ななかったかもしれない。だけど……魔王は倒せなかっただろうさ。朔月なんて、あんたの理論そのままの刀だ。俺以外が使っても大して威力を発揮しない。だけど、これがあったから魔王を倒せた」

「そうか……そう言ってくれると救われるぜ」


 そういうとヴィーランドは持っていた酒をグイッと一気に流し込む。

 中々強い酒だろうに、まるで水みたいに飲みやがった。相変わらずどういう胃をしてるんだ。このおっさん。


「安心したぜ、トウマ」

「どういたしまして」

「いや、お前さんのことだ」

「俺の?」

「……自分を認められるようになったんだな。昔のお前さんなら自分がいなくても魔王は倒せたといって譲らなかった」


 ああ、たしかに言われてみればそうだな。

 そうか……いつの間にか俺は自分が魔王を倒したことを受け入れていたのか。


「俺がいなくてもリーシャが魔王を倒してた……それが間違ってるとは思ってない。それだけリーシャは強かった。けど、俺がいなかったらリーシャは生き残っても、ほかの奴らが生き残れたかはわからない。俺が行ったことにも何か意味がある。最近はそう思えるよ」

「成長したな……しかし、わからんもんだな。リーシャがお前さんを弟子にしたとき、誰もが首をひねったもんだ。これといって誰もお前さんに才能を感じなかった。それが魔王を斬っちまうんだからな」

「リーシャは指導者としても優秀だった。リーシャが師匠だから俺はここまでこれた。ほかの人なら無理だっただろうな」


 そんな風に言う俺を見ながら、ヴィーランドは笑う。

 その笑みは豪快で愉快で、見ていてとても気分のいいものだった。


「違いないな。リーシャは天才だった。誰もが一目置き、一癖も二癖もある英雄たちもリーシャがまとめていた」

「ああ、そうだな」

「だが、今日、五英雄をまとめたのはお前だ。そういうところもしっかり引き継げてるようで、俺は安心したよ」

「まとめた? 俺が? 冗談はよしてくれ。あんな奴らをまとめようと思ったら胃がいくつあっても足りないぞ」

「だが、言ってる傍からもめ事のようだぞ。パトリックとアーヴィンドだな」


 パーティー会場のほうが騒がしくなる。

 まったく、あの二人は。どうせくだらないことで喧嘩してるに決まってる。

 とにかくあの二人は相性が悪い。カチカチの騎士であるアーヴィンドはパトリックを受け入れないし、パトリックはパトリックで自分の魔導具を認めないアーヴィンドを受け入れない。


「ほら、お前が連れてきた嬢ちゃんがあわあわしてるぞ。助けにいってやれ」

「へいへい」


 面倒だと思いながら、俺はパトリックたちのところに近寄る。

 するとなにやら二人が一つの魔導具について言い合いをしていた。


「だから、あなたのそういうところが美しくないんだ!」

「合理的と言ってほしいね! この発明の素晴らしさがわからないなんて! まったく、これだから騎士は!」

「なんの話をしてるんだ?」


 できれば関わりたくないのだが、これ以上騒ぎを大きくされても困る。

 近くにいる明乃に顔を近づけ、小声で訊く。

 すると。


「あの……パトリックさんが食事の栄養価を瞬時に測れる魔導具を取り出して、アーヴィンドさんが食べていた料理は栄養価が低いから食べる価値がないと言い出しまして……」

「くだらな……」


 超どーでもいいんだが。

 まったく、パトリックもよくそんな魔導具を開発する気になったな。


「あ! トウマ! 良いところにきた! 私の発明を見たまえ!」


 そう言ってパトリックがタブレットのようなモノを俺に渡してくる。

 その画面には料理の栄養価がびっしりと書かれ、総合評価も表示されていた。


「栄養価を測れるって?」

「そうだ。食事をより素早く効率的に済ませられる」


 済ませられるっていうあたりがパトリックらしい。

 食事を楽しむということを知らないし、興味もない。完全に効率重視。地球ならゼリーとかで済ませてしまうタイプだろうな。


「まぁたしかに便利かもな」

「だろ! さすがはトウマだ!」

「けど、個人の趣向に文句をつけるのに使うべきじゃない。厨房の料理人や病院とかで使えばもっと効率的だぞ」


 栄養を気にする料理人や、栄養食を用意しなければならない病院なら画期的な発明だろうが、ここはパーティー会場。無駄の極みみたいなところだし、ここで披露するべきじゃない。


「む、たしかに……私としたことがつい我を忘れてしまった」

「ああ、だがいい発明だと思うぞ」

「そうか。それにはもう一つ機能があるんだ。横の赤いボタンを押してくれ」


 言われるがままに俺は赤いボタンを押す。

 するとまた小難しい数値が並べられ、総合評価がBと表示された。


「これは?」

「近くの女性のバストを測定する。バストは女性らしさの現れだから、その数値が高い女性とダンスをするのが効率的だ。ああ、この女性のカップの評価はBだね。大きさが足りないし、あまりダンスには誘わないほうがいい」


 近くの……女性だと……!?

 俺はゆっくりと右隣を見る。

 そこにはゴミを見るような目で俺を見てくる明乃がいた。

 そして一瞬の後、俺の手にあった魔導具が下から上に跳ね上げられる。超高速で顔の前を魔導具が横切り、会場の天井にめり込んだ。


「すみません、あまりにも世の中に不要なものだったので、つい」

「お、おう……」


 笑顔を浮かべる明乃に俺の背筋は凍る。

 なにか言ったら殺られる気しかしない。

 そして一瞬、何が起きたかわかってなかったパトリックは状況を理解して絶望の声をあげた。


「ああああああ!!?? 私のバスト測定器が!?」

「ふん、女性のバストを測るだなんて無粋極まるね。トウマ、見損なったよ」

「俺が悪いのかよ……」


 絶対、冤罪だろ。 

 そんなことを思いながら俺は会場の女性たちから辛辣な視線を向けられることとなった。

 やっぱり五英雄にまともなヤツはいない。こいつらをまとめるとか俺には不可能だ……

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