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第六十一話 賢王会議・4

アンケート実施中ー



 俺たちが解放した魔力によって一瞬、白金城が揺れる。

 ゼノンは顔を真っ赤にしながら机をたたく。


「なにが戦争だ! たかが五人で本気で我が国に勝てる気でいるのか!?」

「五人もいらない。私の試製魔導砲があれば開戦の勝利は間違いない。あとはジュリアの転移で城を制圧して終わりだ」

「また野蛮なことを。優雅さに欠ける」

「ふっ……では騎士殿はどう攻める?」

「私とヴォルフで指揮官を討つ。そうやってこそ誇り高い亜人たちは負けを認める」

「強敵は俺に寄越せ。それなら乗ってやる」

「いいだろう。ただし、私の指示どおりに動いてもらうよ」

「面倒ねぇ、開戦と同時にトウマを城に送り込めばいいじゃない。連帯感の強いベスティアは獅子王家を人質を取られたら動けないわよ」


 怒るゼノンをよそに四人は思い思いの方法でベスティアとの戦いを協議する。

 その光景に参加者たちは認識を改めたことだろう。

 自分たちが想像する以上に五英雄は厄介で度し難い存在なのだ。しかも五人揃うと厄介さは跳ね上がる。


「貴様ら……五人で世界を動かせると考えているのか?」

「そこまで考えちゃいない。ただ、武力で訴えるなら受けて立つと言ってるだけだ。知ってると思うが、俺たちは対軍戦だろうが、要人暗殺だろうが何でもできるぞ?」

「っ……!」

「分かったら大人しく話し合いの場にいろ。武力行使は俺たちにとっては得意分野だ。俺たちの土俵で戦うのはおすすめしないが?」

「……」


 本気でやる気を見せるから脅しは機能する。

 だから俺たちは本気で武力勝負になれば戦う気だ。実際、ベスティア一国なら負けはしない。

 ほかの国が参戦すればまた別だが、俺たちを敵に回したいもの好きな国はいない。そもそも敵に回しても、味方にしても大したメリットがない。

 ミコトの処遇など多くの国とってはどうでもいいことだからだ。


「ゼノン。お前は獅子王家らしい武人だが、こういう場は苦手なはずだ。お前の兄のほうがこういうところは向いているだろう。なのにお前がこうして出てきている。その理由を当ててやろうか?」

「なにが言いたい……?」

「お前の父や兄はそこまでミコトの身柄に興味がないんだろう? だが、お前は弟をやられて黙っていられない。国内で激しく主張したお前に、父と兄はそこまで言うならば自分で勝ち取ってこいとお前を送り出した。違うか?」

「貴様……! どこでそれを!?」

「ただの想像だ。そこまでミコトの身柄を主張してもベスティアには旨味がないからな。感情的な部分では納得できるかもしれないが、お前の父や兄は感情では動かない。レオンが襲撃されたときならいざ知らず、黄昏の邪団ラグナロクが関わっているとわかった以上、他国と揉めるようなことはしない」


 ただ国内には納得しない者たちもいる。

 その急先鋒がゼノンなんだろう。そしてそいつらを黙らせるためにゼノンは代理者として派遣された。同じ結果になったとしても、ゼノンが失敗した場合は納得しない者たちも黙らざるをえないからだ。

 獅子王も面倒なことをしてくれる。うるさい息子を黙らせるのに他国を利用するのだから。もちろん息子の成長を願ってのことでもあるだろうが。

 俺たちがいなかったとしても、ゼノンが聖王と皇帝に政治の場で勝てるわけがない。


「個人的な感情を抜いて話をしようか、ゼノン。どうして日本がブリギットやミコトの身柄をさっさとケルディアにゆだねたかわかるか?」

「そのようなことに構っている暇がなかったからだ。二度の襲撃で忙しいからな」

「それもあるが……抱えていると黄昏の邪団ラグナロクを呼び込む要因になりかねないからだ。そして今の日本はそれを防げる自信がなかった。答えはそれだ」

「助けに来ると? 黄昏の邪団ラグナロクが?」

「ああ、ブリギットが作る武器は魅力的であり、ミコトはブリギットの魔剣と抜群の相性を誇る。すでに武器の供給を受けているなら、使い手も欲しがるだろうな。どっかの国みたいに」


 俺は視線を皇帝のほうへ向ける。

 皇帝は俺の言葉に微かに眉をあげた。


「儂が使い手として求めていると?」

「違うのか?」

「否定すれば嘘になるかのぉ。たしかに取り調べの結果、危険なしと判断されれば我が国としては彼女にポストを用意するつもりではある」


 皇帝はそう告げながらチラリとミコトを見る。

 その目に敵意はない。

 ミコトも不思議そうに老人を見つめている。

 ミコトからすればゼノンのような反応のほうがわかりやすいんだろう。


「ほらな。まぁそれだけ欲しい人材ではあるわけだ。だから抱え込めば黄昏の邪団ラグナロクの介入があるかもしれない。そのリスクを承知した上で、お前は自国での処分を求めるか? 下手したら国民を危険にさらすぞ?」

「それは……ええい! どれだけ言葉を尽くしたところで俺の考えは変わらん! レオンの落とし前をつけると決めたのだ! 被害を受けたのは我が弟! 我が国にはその少女を裁く正統性がある!」


 ゼノンは迷いを振り払ったように告げる。

 ちっ、開き直りやがった。

 それだけを主張されるとこっちとしては困る。ミコトとベスティアという関係性は完全に加害者と被害者だからだ。

 それを覆そうとすると暴論に近いことを言わなければいけない。明乃としては準備はしているだろうが、明乃としてはもう仕事は終わっている。


「その通り。被害者には加害者を裁く正統性があります」

「ベスティア第四王子、レオン様、ご到ー着!!」


 意外すぎる乱入者に誰もが驚く。

 しかし、俺は驚かない。この城の中にレオンが来ていることは知っていたからだ。

 見れば、会場の外にはエリスがいてこっちに手を振っている。

 その様子を見て参加者たちはレオンを手引きしたのはエリスだと気付いた。


「れ、レオン! お前は本国にいるはずだぞ!?」

「姫殿下に無理を言って来ました。ここに来るまでの厳重な警備が問題だったのですが、大混乱だったので苦労せずに来ることができました」

「ベスティアの代表はゼノン王子のはずだが? レオン王子はどういう立場になるのかな?」


 聖王の問いかけを受け、レオンはゼノンの傍まで近寄る。そして。


「この一件は僕にお任せください。兄上」

「し、しかし……」

「襲撃されたのは僕です。アケノ嬢の言う通り、このまま黙っていれば兄の後ろに隠れていたと笑われるだけでしょう。獅子王家の一員として、僕は面子を守る必要があります」

「それはそうだが……」

「彼女を裁く権利があるのは僕のはずです」


 そう押されてゼノンは何も言わずにレオンに席を譲った。

 聖王はその代理者の交代を議長として承認する。本来ならありえない行為だが、この会議はさっきからありえないことだらけだ。そこに文句を言う奴はもういない。


「アケノ嬢。これで文句は言わせません。よろしいですね」

「はい。あなたがこの場で主張することに異議を唱える気はありません」

「ありがとうございます。皆さまもよろしいですか?」

「直接の被害者が出てきたとあれば何も言えんな」

「確かに」


 皇帝も聖王も頷く。

 これでレオンの言葉は絶対だ。

 まぁそういう流れにあえてしたんだが。あとはレオン次第だ。


「僕は……ベスティア代表のレオン。ケルディア各地の代表者たちの前で宣言しましょう。僕はミコトさんの行動を裁く気はありません」

「なっ!? レオン!?」


 ミコトは目を見開く。

 そしてゆっくりとその目から涙がこぼれた。


「僕は獅子王家の一員として、その誇りを守るために正々堂々と戦って負けたのです。負けた以上、言うべきことは僕にはありません。敗者と笑われるのは構いません。しかし、負け犬と笑われるのは耐えられない。国や兄の威光で復讐したなど思われたくない。あの敗戦は僕の実力不足。それで終わりです」

「だ、だが! お前は死にかけたのだぞ!?」

「こうして生きています。彼女が手加減してくれたからです。だから僕は彼女に命の借りがある。そこらへんを含めてもお見事な剣技でした。ミコトさん。完敗です」

「……ごめんなさい……」


 ミコトは勢いよく頭を下げる。

 そんなミコトを見ながら、レオンは笑みを浮かべる。


「謝罪は結構です。次は獅子王家の名において必ず勝ちます。ですから死なれては困るのです。勝ち逃げはさせません」

「レオン! お前は!」

「……実を言うと僕は父や兄に逆らったことがない。これが初めての反抗と言えるでしょう。子供にとっては親は絶対です。ましてや孤児になり、絶望してたところを救ってくれた人なら逆らうのは不可能でしょう。悪いことと分かっていても従ってしまう気持ちは僕はわかります」


 一拍置いてレオンは周囲の参加者を見回す。

 だれもがレオンより年上で、経験豊かなトップだ。

 そんなトップたちにレオンは告げる。


「犠牲は二年前に十分すぎるほど味わいました。だから犠牲ではなく、違う方法でこの問題を解決していただきたい。ここにいるすべての代表者は多くの孤児がいると知りながら、利害関係から孤児問題は遅々として改善しなかった。そこをブリギットに突かれたのです。その上、テロリストだからとミコトさんを処分することはできないはずです。彼女はこの場にいる賢王たちが真っ先に救わなければならなかった人間です。救えなかったことをまずは恥じるべきでしょう」


 レオンはそういうとふぅと息を吐く。

 そして俺の方を見て笑う。

 二年前はまだま子供だった。しかしこの二年があいつを成長させたんだな。

 そのことにゼノンも驚いている。

 いつまでも子供と思っていた弟が立派に成長している姿を見せたのだ。しかたないか。

 身内のほうが成長を実感できない場合もある。


「では……残る問題はどの国がミコトを保護するかという問題ですね」

「そうなるのぉ。しかし、お見事な言葉だったレオン王子。あなたが来たとき、儂はどこぞの馬鹿が甘いお坊ちゃんを引っ張り出してきたと思ったが、そうではなかったようだ。侮ったことを謝罪しよう。我が息子もあなたのようであったなら、首など刎ねる必要はなかったのだがのぉ」

「恐縮です。皇帝陛下」

「さて、どこの国が保護するかという問題だが……聖王国はともかく日本で守りぬけるのかのぉ?」


 痛いところを突いてくる爺さんだ。

 日本政府はその自信がないからブリギットやミコトの身柄を手放した。

 東凪家で守り切れるのか。それは難しい質問だ。答え方を間違えるとこの爺さんは容赦ないぞ。


「両国に比べれば見劣りすることは認めます。私自身、狙われる身となり斗真さんに守ってもらっている状態ですから」

「つまりトウマ・サトウ頼みということだな? たしかに五英雄の一人が護衛ならば不足はないだろうが」

「斗真さん頼みじゃありません」


 明乃は間髪いれずに反論する。

 感情的に見える反論だが、ここでそんなミスをする明乃じゃないだろう。


「私たちは一方的に守る関係をミコトには求めません。支え合う家族として迎えるつもりです。力不足は承知ですが……そこは共に手を取って何とかします」


 明乃が危険な時はミコトが守り、ミコトが危険なときは明乃が守る。

 まぁたしかに言いたいことはわかる。だが、それで皇帝は納得するか?


「支え合うか……予想外の答えだな。聖王よ」

「そうですな。皇帝陛下」

「トウマ・サトウの力を頼りにするというつまらん答えなら、容赦なく叩き潰してやろうと思っていたが……」

「私は好きな答えでしたな。実際、魔剣に操られたミコトを止めたのはアケノ嬢と聞く。ミコトの力も疑いようもない。二人が支え合うなら問題はないでしょう。保険としてトウマもいるわけですし」

「そうだな……だが、それで退くくらいならわざわざ声を上げたりはせんよ。儂は皇帝だ。儂には儂なりに守らねばならん面子がある」


 そう言って皇帝は明乃を真っすぐと見据える。

 その迫力に明乃は思わず体を後ろに退く。気圧されているのは明乃だけじゃない。その場にいる多くの参加者が体を退いている。それだけの迫力が今の皇帝にはあった。


「たとえ儂が認知できなかったとしても帝国の地で暮らしていた以上、ミコトやその孤児たちは帝国の民だ。ならばミコトや孤児たちは儂にとっては守るべき民ということだ。馬鹿息子がそれを利用して騒ぎを起こしたことを抜きにしても、自国の民をはい、そうですかと預けるわけにはいかんのだ。儂は帝国皇帝マリオン・オグマ。すべての帝国の民の庇護者である責任がある」

「……私もそれを聞いて、はい、そうですかとは言えません。ケルディアの多くの国には黄昏の邪団ラグナロクと関わりがある人、もしくは構成員がいることは間違いない事実です。日本ならばその影響はケルディアほど濃くありません」

「しかし、二度も襲撃を受けておる。今、一番危険な国といっても過言ではないぞ?」

「今のこの世の中で危険でない国がどこにあると言うのです?」

「確かにのぉ。これは平行線かもしれんなぁ」


 呟き、皇帝はゆっくりとミコトの方を見る。

 その目はまるで孫をみる祖父のような目だった。

 この爺さんも初めからミコトを保護する気だったんだろう。馬鹿息子のせいでいろいろと迷惑をかけたいう負い目もある。

 俺たちがやらなきゃ、ベスティアと激しく対立したのは帝国だったはずだ。

 だから皇帝はミコトを見ている。

 このまま平行線で話し合うよりも手っ取り早い方法があるからだ。


「こういう場合は本人の意思を尊重することを儂は好む。だから聞こう。ミコト、お主はどうしたい? 我が帝国の下に来るなら今までと変わらない生活を約束しよう。もちろん多少の監視はつくだろうが、そのかわり黄昏の邪団ラグナロクには指一本触れさせん」

「……ぼ、ボクは……」


 ミコトは少々迷った後、明乃を見てきた。

 明乃はまっすぐミコトを見つめる。明乃としては自分のほうを選んでほしいんだろう。

 その思いを感じて、ミコトは今にも泣き出しそうな顔で俺を見てくる。

 今までの生活を考えればわざわざ日本に来る必要はないだろう。聖王のあの様子じゃ孤児たちもおそらく帝国に引き渡される。ならばケルディアにいるほうがいいのかもしれない。


「と、トウマぁ……」

「自分で決めろ。どっちにしろ、お前が孤児たちをまとめることになる」

「そんな……」

「ただ……日本に来るなら明乃と暮らせる。俺とも暮らせる。どうしようもなくなったら俺が助けることもできる」

「と、トウマはどうしてほしいの……?」


 会場の視線が俺に集中する。

 まさかこの場面で俺に視線が集中するとは。

 これって俺の返答次第でミコトは決めるのか?


「ミコトちゃんは手を引っ張ってほしいのよ。男でしょ。決めなさいな」


 小声でジュリアがそんなことを言ってきた。

 まったく、まいったなぁ。

 しかし、ここまでいろいろやったのに日和った言葉も言えないか。


「……俺たちのところに来い。なにがあっても俺が守ってやる」

「っ! うん!! ボクはトウマたちのところに行くよ!」


 それが決め手だった。

 ミコトは日本に来ることを決め、ミコトの監視員は俺に決定された。

 その後、賢王会議は滞りなく進んだ。

 こうして揉めに揉めたミコトの処遇は一段落がついたのだった。


次で第二章は終わるかな?

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