第六十話 賢王会議・3
三話で終わるはずだったのに、終わりませんでしたw
もうちょっと賢王会議は続きます。
ここにいる王たちはさすがに俺のことを知っている。なにせ魔王に挑む百人を選出したのも賢王会議だからだ。
この会議で俺は候補に挙がりながらも外された。そしてそれを不服として、俺は百一人目として魔王城へ入った。
結果的に五英雄になったが、賢王会議からすれば最初から命令に従わない問題児。それが俺だ。
「パトリックとヴォルフは二年ぶりか」
「そうだね……最後に見たときと比べれば、かなりまともになっていて私は嬉しいよ」
「そりゃあどうも」
パトリックとの会話を終えると、ヴォルフに視線を移す。
さすがにこいつと再会を喜び合うことはしない。
「約束は覚えているな? トウマ」
「ああ、俺が本調子に戻ったらお前と勝負してやる」
「ふっ……楽しみだ。ここ最近は歯ごたえるのある奴がいなくて飽き飽きしていたからな」
ヴォルフは愉快そうにニヤリと笑う。本当に戦うことしか頭にないんだな。
ある意味羨ましい性格をしている。
俺はそんなことを思いつつ、最後の席の椅子を引く。
「座らないんですか? 斗真さん?」
「座るのはお前だ」
「はい?」
「俺はこんなくだらない会議に参加しに来たわけじゃない。俺の席をお前に渡すために来たんだ。五英雄はすべての国際会議で王と同等の権限を持つ。この席に座れば、お前も会議に参加できるぞ」
「えっと、それは知ってますけど……そこに座るのはちょっと」
「いいから座れ」
俺は明乃の手を引いて席に座らせる。
左にヴォルフ、右にはジュリア。その先にはアーヴィンドとパトリック。
最強の亜人と最強の魔法師。最強の騎士に最強の魔導具師。
ケルディアの最高戦力に囲まれ、明乃は緊張で体を縮こませる。そんな明乃を見てゼノンが気に食わなそうに鼻を鳴らす。
「そんな小娘が会議に参加だと? 馬鹿にしているのか? サトウ」
「いたって真面目だが?」
「五英雄に席が与えられているのはその力によるものだ。そんな小娘が会議に参加することを承認すると思うか?」
「なら構わない。この場にいるすべての代理者も退出しろよ?」
「俺は正式なベスティアの代理者だ!」
「こいつも正式な俺の代理者だ。こいつを認めないってことはこの場のすべての代理者を認めないってことだ。いいか、こいつの言葉は俺の言葉と思っていい。こいつが敵と判断するならどいつだろうが俺の敵だし、戦争したいというなら俺は容赦なく攻め込む。わかったな?」
俺は椅子に座る明乃の肩を掴み、そう参加者たちに告げる。
参加者たちに戦慄が走るが、俺は気にせずに議長へ視線を移す。
「いいよな? 議長?」
「本人がいるのに代理者か……まぁいいだろう。五英雄、トウマ・サトウの代理者としてあなたを承認する。ご紹介しましょう。日本の四名家筆頭トウナギ家の姫、アケノ・トウナギ嬢です」
参加者に紹介され、明乃は丁寧に頭を下げた。
日本の姫と紹介され、参加者の明乃を見る目が変わる。自分から言うより議長である聖王のおっさんから言ってくれたほうが効果はあるな。あえて自己紹介させなくてよかったな。
「日本の姫君を担ぎ出し、五英雄を集結させて何を考えておる? トウマ・サトウ」
「ちょっとした口約束があってな」
「ほう? ただの口約束で五英雄をそろえたのか?」
「口約束でも約束は約束だからな」
「さすがは魔王を倒した英雄。立派な精神だ。それで、どんな約束をした?」
「ブリギットの事件で俺は渦中にいてな。そこでお前たちが今、自分勝手に処分を決めようとしているミコトに約束した。俺がなんとかしてやるってな。だから持てる人脈を使って集められる助っ人を集めた。性格には大いに問題のある奴らだが、戦力として見ればこれほど頼もしい奴らはいないからな」
部屋の隅にいるミコトを見る。
今にも泣きそうな顔をしているミコトに苦笑しつつ、俺は視線を戻す。
五英雄を俺が集めたことを知り、参加者の顔が強張る。つまり五英雄は俺の味方だということだからだ。
「パトリック……儂が来いと言っても来ないお主がサトウの頼みを引き受けるとはな」
「申し訳ありません。陛下。少々、試作魔導砲の試験場に困っておりまして。その点、ここにいるトウマに協力してもらえばどこでも試験できますから」
「はぁ……ヴォルフ。貴様は戦うことを餌にされたのか?」
「その通りだ。強者との戦いこそ俺の喜びだからな」
これには円卓にいるほとんどの人間が険しい表情を浮かべた。
五英雄同士なんてどこでやっても迷惑極まりないことになる。それが決定事項になったとなれば喜べる参加者はいない。
「なるほど……ではトウナギの姫の話を聞こう。そのために連れてきたのであろう?」
「ああ、話すのは明乃だ」
そう言って俺は立ち上がった明乃の背を軽く叩く。
それで気合が入ったのか、明乃の体からはもう緊張は消え去っていた。
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「ケルディアの代表者の皆さま。この度はこのような乱暴な参加という無礼をお許しください。私はアケノ・トウナギ。日本の魔術師を統べる四名家筆頭、東凪家の娘です。一つ断っておきたいことがあります。私は現在、四名家を代表する立場で来ていますが、日本政府とは関係ないことをご了承ください」
「国と関係ないだと? ここは国の代表者が話をする場だぞ?」
「はい。ですから斗真さんの席をお借りしました」
日本政府はすでに立場を表明している。ケルディアの犯罪者はケルディアにお任せしますというスタンスだ。
ここで明乃が乗り込むと政府と四名家で意見の相違が出たことになるし、今みたいにそこを突かれる。だから俺の席を明乃に譲った。俺の席に座る以上、明乃は一国家の代表者と同等の権利を得る。
明乃の所属はたしかに日本だが、俺の席に座っているから今の明乃は俺の代理者。日本政府の意向は関係ない。
「私はとある提案をするためにこの場にいます。ミコトに対して、現在三つの意見が出ています。ベスティアは処罰を、帝国は取り調べを、聖王国は保護観察処分を。それぞれは自国でそれを行うことを提案していますが、私それに対して四つ目の意見を提出します」
「聞こう」
「はい。私は我が東凪家がミコトとブリギットの孤児院の孤児たちを引き取ることを提案します」
それはこの場にいるすべての参加者の面目を潰す発言だった。
ケルディアの犯罪者を自分が引き取ると言ったのだから。
お前たちには任せておけないと言ったようなもんだ。
案の定、参加者たちが怒りの声をあげた。
「なんだその提案は!?」
「いきなりやってきてそんな提案があるか!」
「よそ者は今すぐ帰れ!」
見る限り派閥は二つ。
明乃へ反発する派閥と静観している派閥。
賢いのは静観している派閥だ。なにせ。
「私はアケノちゃんの案に一票いれるわ~」
「私もそうしたいね。一番平和な解決法だ」
「俺も一票いれよう」
ジュリア、パトリック、ヴォルフが明乃の援護に回る。
参加者の視線が最後のアーヴィンドに移る。ここで明乃を指示することは聖王国の意見に反発することに繋がるからだ。
パトリックは帝国に仕えているわけではない。帝国がラボを提供し、パトリックを手元に置いているだけだ。しかし、アーヴィンドは違う。明確に臣下なのだ。
だが。
「お許しを。陛下。聖騎士団長としては聖王国の案に賛成するべきなのでしょうが……今の私は五英雄の一人。立場に関係なく、自分が好む案を支持させていただきます。私はアケノ嬢の案を支持します」
反発していた派閥が一気に静まり返った。
まさか本当に五英雄全員が明乃の支持に回るとは思ってなかったのだ。こうなると敵対するのはまずい。かといって明乃の案を飲むわけにもいかない。
周囲が悩みだした。狙い目だな。
そう思ったとき、ゼノンが食って掛かってきた。
馬鹿め。
「たかが四人の支持を取り付けただけでいい気になるな! 自分の家で引き取るだと? 調子に乗るな! あれは犯罪者だ! 我が弟は死にかけたのだ! 獅子王家の名誉にかけて処罰せねばならん!」
「……レオン殿下とは私も会ったことがあります。素晴らしい王子でした。その王子が重傷を負ったのは悲しいことです。しかし、その指示を出したのはブリギットです。ミコトは従っただけ。絶望の闇の中にいたミコトは拾われたのです。ブリギットに。そしてブリギットを母として育った。そのような母に子供が逆らえますか?」
「子供というのは関係のない話だ! やったことは事実!」
「なるほど……ならばレオン王子が直々に来るべきでしょう。王家の誇りというならば、本人が来てそう主張すればいい。兄であるあなたがここで声を大にしても説得力は皆無です。弟をやられて怒っている兄。そうとしか見えませんし、実際その通りでは?」
「貴様ぁ!」
ゼノンが席を立って殺気を全面に出す。
しかし、その殺気は明乃に届くことはない。逆にゼノンは強烈な殺気を感じ、立っていられずに腰を落として席についた。
「ゼノン王子……話し合いに殺気は不要でしょう?」
パトリックがゼノンを威圧して座らせたのだ。
といっても、パトリックが好戦的というわけではない。
なぜなら。
「君たちもな」
「ちっ!」
「女の子に殺気をぶつけようとする奴が悪いのよ」
ヴォルフとジュリアは瞬時に反応しており、反撃の準備までしていた。
それを察してパトリックは自分で事を収めたのだ。相変わらずラボにいないときは常識的なヤツだ。
「ぐっ……! 弟をやられて怒って何が悪い!? 王家とはその国の顔! そこに泥を塗られたのだ! 怒って当然であろう!」
「怒りはごもっとも。しかし、向ける相手が間違っています。正常な判断がつかない子供を処罰したいとこれ以上言い続けるならば、両世界の笑い者になりますよ?」
「これ以上の無礼は許さんぞ!」
「無礼はどちらですか! あなたのやってることは子供の喧嘩に大人が出しゃばっているようなものです!」
「なにぃ!?」
「自分の弟は子供扱いし、自分が前に出てきておきながらミコトを子供じゃないと言う! レオン殿下が子供ならミコトとて子供です!」
おうおう、勇ましいね。
ただ明乃の言う通りだ。
ゼノンは獅子王家の誇りなんて言葉を使ったのが間違いだな。
「話によればミコトはたしかにレオン殿下を襲撃しました。しかし、二人の戦いは正々堂々だったと聞きます。それで敗れたからといって、兄であるあなたが出てくるのは間違っている! 武門を自負し、王家の誇りを語るなら本人が出てきなさい! 話はそれからです!」
王子が暗殺されかけた。そのこと自体を問題とするなら明乃はこんな言い方はしなかっただろうが、ゼノンは王家の誇りや面子を理由にしてしまった。
それを理由にしてしまえば、まぁこうなるだろうな。
「小娘がぁ……! 大人しくしていれば好き勝手言いおって!! そちらが退かないというならこちらにも考えがあるぞ! 自分の国のことを考えて行動するがいい!」
「脅しなら通用しませんよ?」
「脅しではない!」
「宣戦布告だということですね? よろしい。では戦争です」
明乃はよく五英雄の使い方を知っている。
そして人の脅し方も。
明乃の言葉と同時に俺たち五人は一気に魔力を解放した。
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