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第五十九話 賢王会議・2

外伝アンケート中。活動報告にコメントか、メッセージよろです。

詳しいことは活動報告を見てください。


 鐘がなり、白金城では賢王会議が始まった。

 ケルディア全土の代表者が集まり、黄昏の邪団ラグナロクについて話し合う。

 その会議の議長はホスト国である聖王国の王が務めることとなった。

 巨大な円卓。そこにすべての代表者が腰かけ、聖王に視線を向ける。


「では、これより賢王会議を始めさせていただこう」


 エリスと同じく聖王家特徴の銀髪。静かな海を連想させる青い瞳。

 さすがはエリスの父だと誰もが納得する美男子がそこにいた。

 すでに四十に差し掛かっているが、その見た目は若々しく覇気に満ちている。

 男の名前はテオボルト・アルクス。聖王国の現国王だ。

 世間一般では聖王として知られている。


「まずは各国の代表者の皆さま。大陸全土よりお越しくださり、感謝する。こうして賢王会議を開催できるということが今のケルディアの団結を物語っているといえるだろう」

「余計な言葉は結構だ。聖王陛下」


 そう口にしたのは若い亜人だった。

 獅子の耳を持ち、出席者たちの中でもひときわ体がデカい。通常の椅子には座れず、特別な椅子を用意されているこの亜人の名はゼノン。ベスティア王国の第二王子にしてレオンの兄だ。

 武人という言葉を体で表現するゼノンは、その性格も武人肌だった。

 余計なことを嫌うゼノンは駆け引きもなく、ただ自分の要求を伝えた。


「さっさと我が弟を暗殺しかけた娘を渡してもらおう。渡さないというなら力づくでも奪う」


 一瞬、円卓が凍り付く。

 ここは各国の権力者が集まる最上位の外交の場だ。そこで武力をチラつかせるということは、多くの国を敵に回すことになる。

 実際、ゼノンの言葉に多くの王たちが険しい表情を浮かべていた。

 だが、そんなゼノンを窘める老人がいた。

 聖王の傍に座るその老人は持っていた杖で床を叩き、注目を自分に集めると静かに告げた。


「猛るでない。獅子王子。敵を増やすぞ?」

「ご心配痛み入る。皇帝陛下。しかし、いらぬ心配だ」


 ゼノンは鋭い視線を老人に向ける。

 常人ならば気絶しかねない視線を老人は涼し気に受け流す。その程度の視線は向けられているからだ。

 彼の名はオグマ帝国の皇帝、マリオン・オグマ。

 六十を過ぎ、魔王軍との戦いで右足を負傷した今でも皇帝の座にあり続ける老皇帝だ。 


「それはすまんかったのぉ。しかし議長は聖王だ。その言葉を遮るのはいささか無礼ではないか?」

「……確かにな。失礼した」


 ゼノンは素直に引き下がる。

 それを見てテオボルトはこほんと咳払いを一ついれて、話を再開する。


「ゼノン王子の言う通り、此度の議題には少女の身柄をどこに置くかというモノも入っている。だが、その前に特殊な参加者を紹介させてもらおう」


 そう言ってテオボルトは議長席と対面に位置する席に座る二人の男に視線を向けた。


「ご存知のとおり、魔王を倒した五英雄には、すべての国際会議に王と同等の権限で参加できる権利がある。今回、その五英雄から二名の参加者がいる」


 その出来事は多くの出席者を驚かせた。

 なにせ魔王を倒した直後の賢王会議ですら二名しか参加しなかったからだ。

 それだけ今回の議題は五英雄の興味をひいた。そこに出席者は危機感を覚えていた。

 なにせ五英雄の面々は実力こそ確かではあるが、基本的に自分勝手な傾向にある。まともに国仕えているのは聖王国のアーヴィンドのみであり、そのアーヴィンドもコントロールできるのは聖王と娘のエリスのみだ。

 そんな五英雄が二名も参加する。それは、それだけ厄介ごとが迫っているということだった。


「一人は我が聖王国の聖騎士団長〝白金の騎士〟。アーヴィンド・ローウェル」


 アーヴィンドは立ち上がると、理想の騎士らしく優雅な礼をしてみせた。

 その所作に何人かの女性の参加者は見惚れて、釘付けになる。

 しかし、テオボルトはそれを気にせず次の五英雄を紹介した。


「もう一人は帝国の最高技術顧問〝奇才の魔導具師〟、パトリック・コールマン」


 名を呼ばれて席を立った男は眼鏡をかけたヒョロ長の中年だった。

 薄い金髪に同じ色の口髭。着ている白衣と相まって、英雄というよりは教授とよばれたほうがしっくりする。静かに一礼する姿は落ち着いた大人の雰囲気に包まれていた。

 ナイスミドルという言葉を体現しているその中年は、パトリック・コールマン。五英雄の中では最年長であり、自らが作り出した数多の魔導具で貢献した最高の魔導具師だ。

 いつもは帝国が用意した自らのラボから出てくることはせず、帝国の政治に関わらないどころか街にすら出ない男だが、今回は五英雄として参加を表明した。


「できれば久々に五人そろったところを見てみたい気もするが、五人中二人も来てくれたことで満足するとしよう。二人の貴重な意見を期待している」

「期待に応えられるかどうか……私はただの魔導具師ですので」

「謙遜だな。パトリック」


 テオボルトは軽く笑いながら、傍にいた側近に目配せする。

 少しして、その側近が一人の少女を連れてきた。

 ホスト国である聖王国以外の代表者は護衛を一名だけ連れている。その護衛たちが突然発せられた殺気に反応し、思わず武器に手をかけた。

 少女、ミコトを見た瞬間にゼノンが殺気を放ったのだ。

 これといった拘束は受けていないミコトはそんなゼノンを見て、すぐに自分が襲ったレオンの関係者だと察した。

 そして深々とゼノンに向かって頭を下げた。しかし、ゼノンの殺気は消えない。


「最初の議題は別にするつもりだったが、この問題が終わらないかぎり話し合いにもならないようなので、まずこの少女の処遇を決めよう。彼女の名はミコト。二大鍛冶師の一人、ブリギットに育てられた少女で、ブリギットとブリギットの作った魔剣に操られて多くの人間を襲撃した実行犯だ」

「このような少女が……?」

「武の才能に年齢は関係なかろう」

「それはそうだが……まだ子供ではないか」

「しかし、脅威は脅威」


 出席者たちはミコトを見て、周りの者と喋り始める。

 意見は真っ二つに割れていた。

 許可なく発言してはいけないと言われていたミコトは、自分に向けられるそんな言葉を黙って聞いていた。しかし、そこでアーヴィンドと目が合う。

 アーヴィンドはミコトを安心させるように笑うと、一つ頷く。


「我が聖王国は罪は犯したとはいえ、すべて母親代わりであったブリギットの指示であったこと。そして終盤では魔剣に無理やり操られたことを鑑みて、保護観察処分が妥当と判断している。もちろんそれは聖王国が主導したいと思っている」

「保護観察処分? 生ぬるいな。その程度、我が獅子王家が納得すると思うのか? 聖王陛下よ。情緒酌量の余地などない。我が国に引き渡してもらおう。我が国なりのやり方で処罰する」

「暴論じゃな。獅子王子よ。彼女の身柄を求めているのはお主の国だけではない。我が帝国も求めている」

「ほう? 俺の記憶ではブリギットを利用したのは帝国ではなかったか?」

「馬鹿息子が利用したのじゃ。帝国は関係ない。儂としてもクーデターを起こされかけた。彼女はそれに関しても重要な参考人だ。我が帝国で取り調べを行いたい」


 三者三様の意見が出そろう。

 とくにゼノンとマリオンは激しく対立した。

 しばらく二人の舌戦が繰り広げられるが、それは突如として起こった爆発でいったん止まる。


「何事だ?」


 テオボルトの問いに答えられる者はここにはいなかった。

 ただ、だれもがある予想にたどり着いた。賢王会議を襲撃しようとはさすがにどの組織も考えない。

 そうなると戦神のように警備を破って参加しようとする遅刻者ということになる。だが、この場の空席は三つのみ。

 すべて五英雄のモノだった。


「まさか戦神のように警備を破る気か?」

「あのときとは違うぞ? ここにはケルディア中の精鋭が揃っているのだ。突破などできるわけがない」

「捕まるのがオチだ。これだから残りの五英雄の面々は度し難いのだ」


 一気に出席者が不満を口にする。

 まったく歓迎ムードではない会場に一人の伝令が慌てて入ってきた。

 捕まえたという報告だろうと、多くの参加者が思った。しかし、伝令が伝えたのは真逆のことだった。


「ご、五英雄! ジュリア・ユーステス様! 西門から侵入! 真っすぐこちらに向かっており、とても止められません!」

「なんだと!?」

「あの魔女め! どういうつもりだ!?」

「ええい! 戦力を集中してさっさと捕まえろ!」

「無理よ~。もう着いちゃったもの」


 その声に会場が騒然とする。

 いつもどおり余裕に満ちた笑みを浮かべながら、ジュリアは会場に入る。

 会場の入り口に立っていた古参の騎士は、その瞬間にジュリアは出席者と認めて大きな声で報告した。


「五英雄! 〝真紅の魔女〟ジュリア・ユーステス様、ご到ー着!!」

「もう、さすがに疲れたわ。誰か飲み物を持ってきてちょうだい。とびっきり冷えているヤツじゃないといやよ?」


 まるでちょっと走って疲れたぐらいのテンションでジュリアは言いながら、パトリックの横に座る。

 そして意外そうにパトリックを見つめる。


「あら? パトリックじゃない。久々ね」

「そうだね、ジュリア。君は相変わらずのようだね」

「あなたこそ昔と変わらず暗いわね。まだ魔道具だけが生き甲斐なのかしら?」

「簡単に生き方は変えられないよ」

「それもそうね。まぁ、会えて嬉しいわ。二年ぶりね」

「私も嬉しいよ。君は私の魔道具の価値をわかってくれるからね」


 そんな二人に割って入るように今度は別の報告が飛び込んでいた。


「報告します! 北門より五英雄、ヴォルク様侵入! 手が付けられません!」

「五英雄が四人も来ただと!?」

「どうなっているんだ! 三人だけでも異常なのにあの狼まで来るのか!?」

「群れるのを嫌い、ずっと一人で鍛錬に励むような男だぞ!?」

「ふん、俺だってこんな場所に来たくはなかった」


 青い髪に尖った耳。素肌に分厚いベストのみを羽織った狼の亜人がそこに現れた。

 ラフな格好のその男は慌てふためく出席者を鼻で笑う。ゼノンとは違い、人間より大きいというわけではないが、引き締まったその体は歴戦の猛者感を出していた。

 会場に入ると正式に名前を呼ばれる。


「五英雄! 〝孤高の戦狼〟ヴォルフ様、ご到ー着!!」


 ヴォルフは気難しい顔でアーヴィンドの横に座る。残るは中央の一席だけとなった。


「北門には聖騎士もいたはずだが?」

「たしかに一人だけ歯ごたえのあるやつがいたな。だが、そこまでそそられなかった」

「相変わらずだな。君は」


 強い者と戦う。そのことにしか興味がないのがヴォルフという男だった。

 魔王軍との戦いでも一匹狼でずっと戦い続け、たまたま会って一緒に戦うことはあっても初めから共闘体制を敷けたのは最終決戦のみだった。

 ゆえに出席者のだれもが驚いた。絶対に来ない二人の一人だったからだ。


「意外だな。ヴォルフ。君が来るとは」

「ああ、俺も一生来る気はなかった」

「ではなぜ来たのかな?」

「呼ばれたからだな」


 テオボルトの質問にヴォルフはニヤリと笑う。

 その笑みを見て、テオボルトは理解した。

 この場にいる五英雄の中で、ヴォルフを呼べる者はいない。ならばもう一人来るはずだと。


「呼ばれたからだと? ヴォルフ! 貴様、我が父の呼びかけにも応じないのに誰に呼ばれてきた!」


 ゼノンはヴォルフの言い分に納得できないのか激高するが、ヴォルフはそれを鼻で笑う。


「軍の教官役などというつまらない役職を提示するからだ。自分より弱い奴と戦うのはごめんだ」

「貴様ぁ!」


 同じ亜人に愚弄されたことはゼノンのプライドをいたく傷つけた。

 しかし、そんなゼノンをおちょくる様にして一人の男と少女が現れた。


「罵声に怒号。賢い王の集まりとはとても思えないだろ?」

「と、斗真さん!」

「ほ、報告! 五英雄、〝無刃の剣士〟サトウ様! 東門より……」

「侵入したのだな。わかった、下がっていい」

「馬鹿な……」

「なぜ奴がここに……?」

「二年間、表舞台に出てこなかった男だぞ……?」


 茫然とする参加者をよそに斗真は明乃を引き連れて会場に入る。

 そんな斗真を懐かしそうに見ながら、古参の剣士は大きな声で入場を告げた。


「五英雄! 〝無刃の剣士〟トウマ・サトウ様、ご到ー着!!」


 こうして二年ぶりに五英雄の面々が顔をそろえることとなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「五英雄から二名の参加者がいる」 「なにせ魔王を倒した直後の~二名しか参加しなかったからだ」 「そんな五英雄が二名も参加する」 「人数同じ」なのにおかしいでしょう。 「誰も参加しなか…
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