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第五十六話 真紅の魔女

そろそろ活動報告でアンケートを取ろうかなぁと思います。

外伝の続きですね。柚葉の話がいいか、エリスの話がいいか。とりあえずこの章が終わったら書こうかなと思います。




 時間は少し遡る。

 斗真とアーヴィンドがバアルと戦っているとき、ジュリアは空から戦況を見ていた。


「これは私の出番はなさそうね」


 つまらなそうにつぶやく。

 せっかく来たというのにやることがないというのは面白くない。

 いっそう、バアルにトドメをさしてもいいかと思ったが、ブリギットがまだ余裕を保っていることにジュリアは引っかかっていた。


「ヒステリーも起こさないし、まだ手があるのかしら?」


 極限の被害者意識を持ち、破滅思考を持つブリギットならば何をするか。

 同じ女であるため、ジュリアは斗真やアーヴィンドよりもブリギットの考えが読めた。


「街全体を巻き込む気かしらね?」


 そこまで読めていたが、詳細はわからない。

 だからジュリアは動かなかった。先手を打って動き、外した場合に恰好がつかないというのと、そこまでする義理がジュリアにはなかったからだ。

 脅威が現れたならば止めてもいいが、未然に防いであげるほどの思い入れはこの国にはない。なにより、下に斗真とアーヴィンドがいる。


「私がなにかすると二人とも怒るし」


 不満そうにジュリアは下で戦う二人を見る。

 性格的に合わないのに、なぜか昔から連携だけはしっかりと取れている。騎士と冒険者、貴族と元奴隷、持っている者と持たざる者。

 なにもかも正反対。共通点は同じ人間で、剣を使うということくらいだろうか。その剣の戦法も真逆だ。

 本来のアーヴィンドは盾を構えてごり押すパワーファイター。一方、斗真は相手の攻撃を読み、その隙を狙うテクニシャン。

 攻めと守り。剛と柔。ここまで反対だと仲良くなりそうだが、二人は仲良くはならない。

 その理由にもジュリアは気づいていた。


「斗真がアーヴィンドを嫌うのは何でも持ってるから」


 ではアーヴィンドは?

 アーヴィンドは斗真に嫌われていると知りながら、その人間関係を改める気はない。斗真に面倒事を押し付け、さらりと嫌味を会話に混ぜる。

 白金の騎士と呼ばれるアーヴィンドらしくない振舞いだ。なぜそのような振舞いをするのか。決まっている。アーヴィンドがどうしても欲しかったモノを斗真があっさり奪ったからだ。


「ま、それをアーヴィンドは絶対に認めないでしょうけど」


 子供ね、とジュリアは付け足す。

 敬愛する主君。その心を奪ったのが自分と正反対の男。認められない。認めれば自分の存在が揺らぎかねない。

 だからアーヴィンドは斗真を剣士として尊敬し、友に値すると評しながらも斗真に嫌われる行動をとる。張り合っているうちはいい。だが、友になれば認めてしまう。斗真という人間を。

 そしてアーヴィンドが一番恐れているのは、そんな斗真がおそらく主君の気持ちに応えないということだ。応える=統治者の地位につくということだからだ。斗真が一番嫌う位置だ。

 そのとき、自分がどんな気持ちになり、どんな行動に出るのか。アーヴィンド自身にも予測がつかない。

 だからアーヴィンドは斗真と距離を縮めない。


「けど、戦闘中はさすがにそこまで考えられないから抜群の連携。変な二人よね」


 やっぱり五英雄にまともな人間っていないのね、私以外は、と斗真とアーヴィンドが聞けば憤慨し、声を大にして否定しそうなことを呟きながらジュリアはあることに気づく。


「この魔力は……?」


 その魔力は巻き込まれないように距離を取った光助と明乃たちのほうから感じられた。

 よく覚えのあるその魔力を追って、ジュリアはそちらに移動した。

 



■■■




「医療班はまだか!?」

「この状況じゃ駆け付けられません!」

「ちっ!」

 

 光助は面倒な状況に苛立ちながら、こちらに向かってくる剣士に牽制の銃撃を放つ。


「ふふ! 遅いわよ!」

「ぐわぁ!」


 隊員がまた一人斬られた。

 そのことに深い怒りを抱えながら、光助は敵を見る。

 女物の着物を着た長髪の剣士。斗真の報告ではキキョウという名の女装の剣士だ。


「両腕切り落としたんじゃないのかよ!?」


 ばっちり両手があり、その手には小太刀が握られている。

 ミコトやほかの隊員たちの治療を行うため、医療班を呼んだところ、いきなりキキョウが乱入してきたのだ。

 なんとか明乃たちに近づかせてはいないが、このままでは時間の問題だった。


「明乃! ミコトの様子はどうだ!?」

「なんとか傷は塞ぎました! けど、血が……!」

「ちっ!」


 大量の血を吸われたミコトは現在、出血多量と同じ症状だった。明乃が全力の治癒魔術で傷を塞いだため、これ以上の出血はないがすぐに対処しなければ命に関わる。

 しかもそのせいで明乃の消耗も激しい。まだ魔力は残っているが、体力のほうが限界に近かった。

 ミコトと打撃戦を展開したツケが今になって回ってきているのだ。

 一度気持ちが切れれば、疲労感は増す。斗真とアーヴィンドが来て安心してしまった明乃が戦うほどの気力をもう一度持てるかどうか。

 無理だろうなとすぐに判断し、光助は明乃を戦力として見なすことをやめた。

 そもそもあのすばしっこい剣士を捉えるのは明乃でも難しい。


「ちくしょう……最悪のタイミングで来やがって! 狙ってやがったな!」

「ふふ! あなたが自衛隊の幻術使いね? ブリギットを嵌めた幻術は見事だったわよ? 思わず惚れちゃいそうなくらい」

「やっぱり見てやがったか! 気色悪い!」

「あら? つれないわね」


 キキョウは言いながら弾を軽々と避ける。

 弾幕があるため軽率には近づかず、護衛を一人一人排除して確実に近づいてくる。

 一気に突っ込んでくれればまだ勝機があるのに。

 光助は銃のマガジンを交換しながら考える。

 最優先は明乃とミコト。このタイミングで狙ってきた以上、敵の狙いは明乃。もしくはセットでミコトも連れ去る気かもしれない。

 そうなってはブリギットを捕まえたところで意味はない。


「黄昏の邪団ラグナロクめ……」


 ブリギットの後ろには必ず大きな組織があり、その筆頭候補だったのは黄昏の邪団だった。タイミングの良さからして、間違いなく協力関係を築いている。

 最悪だ。

 そう光助が呟こうとしたとき。

 光助の近くにキキョウが縮地で移動する。


「隙あり」

「ちっ!」


 迫る小太刀を銃で受け止める。半ばまで銃は切断されたが、それでも防ぐことはできた。 一本だけだが。


「ごめんなさいねぇ。私はバイなのよ」


 笑い声をあげながらキキョウのもう一本の小太刀が光助に迫る。

 しかし、それは割り込んできた刀によって阻まれた。


「あら? あなたはブリギットの娘よね? 動いて大丈夫なのかしら?」

「大丈夫じゃないよ……苦しいけど……ここであなたの好きにさせるわけにはいかないから」


 ミコトが使っているのは自衛隊が持ってきていた対魔物用の刀だった。銃弾が効かない敵に対してのモノだが、キキョウの持つ小太刀と比べればだいぶ見劣りする代物だ。

 だが、ミコトはそれでも数合打ち合い、キキョウを押し戻す。


「大した腕ね。捨て駒にされたのが不思議だわ」

「っ……!」


 手強いと判断し、キキョウが揺さぶりにかかる。

 精神的にも立ち直ったとはいえないミコトは見事に集中力を乱し、一瞬の隙ができる。

 だが、その隙を埋めるようにミコトの前に明乃が立った。

 キキョウの小太刀は明乃が作り出した防壁に防がれる。


「大丈夫ですか!? ミコト!」

「う、うん!」

「厄介な子たちね……」


 距離を取りながらキキョウはつぶやく。どちらも消耗は激しい。だが、目には戦意がある。

 さきほどまではそこまでの戦意は感じなかった。

 迫る危機に自分を奮い立たせたのだろう。誰かを守ろうという意思をもって。


「残念ね。気合だけじゃ勝てないわよ?」

「どうだろうね……ボクらを舐めないほうがいいと思うよ」

「そうです……前の私と同じだと思わないことですね」

「お前らな……助けてもらっておいてなんだが、下がってろって言わなかったか?」

「須崎さんが死にそうになるから悪いんですよ……私たち疲れているんですから、しっかりしてください」


 年下の少女に説教をくらい、光助はその場で自殺したいほど暗い気分になった。

 だが、すぐに切り替えてキキョウに銃を突きつける。

 二人がどうにか動けるならばやりようがあるからだ。

 しかし、そんな光助たちを絶望に陥れるようにキキョウの後ろからオズワルドが現れた。


「キキョウ。急げ、ぐずぐずしていると向こうの決着がつく」

「それもそうね。さっさと終わらせましょうか」

「ちっ! 例の魔法師だ! 不意打ちに気をつけろ! 味方同士で死角をカバーしろ!」


 光助が指示を出し、明乃とミコトは警戒レベルをあげた。

 厄介な剣士に厄介な魔法師。

 明乃たちも消耗しているが、光助たちも消耗している。ほかならぬ明乃たちのせいで、だ。責任を感じながら明乃とミコトは絶対に守り切ると強い決意を抱いていた。

 しかし、そんな明乃たちの前にふわりと空から女性が降ってきた。

 綺麗な人だ。明乃は第一印象でそう思った。美貌と抜群の体を持った赤髪のその人は自信と余裕に満ち溢れていた。

 明乃が思う大人の女性がそこにいた。


「あらあら、こそこそとご苦労なことね」

「お前は!?」


 オズワルドが驚愕の声をあげる。

 キキョウはキキョウでジュリアの巨大な魔力に戦慄していた。


「オズワルド……何者かしら?」

「奴は……」

「姉弟子よ。かつては同じ師の下で魔法を学んでいたわ。ねぇ? オズワルド。師匠の魔導書を盗んで逃げたあなたがどうしてここにいるのかしら? お姉さんに教えてちょうだい?」

「っ!?」


 一瞬でジュリアの体に殺気が漲る。

 そのことにオズワルドは本能的に恐怖を覚えた。

 大抵の魔法師には負けないと自負するオズワルドだが、今回は相手が悪かった。


「退くぞ! キキョウ!」

「そうしたほうがいいみたいね!」


 オズワルドはすぐにゲートを作り、逃走を図る。

 ジュリアは追うかどうか迷い、やめた。

 不出来な弟弟子の始末はまた後でもできると思ったからだ。


「大丈夫? 怪我はないかしら? お嬢さんたち」


 そう言ってジュリアは二人の少女に笑みを向けた。

 それは意識したものではないものの、蠱惑的なもので明乃とミコトは赤面する。


「は、はい……」

「大丈夫です……」

「そう。よかったわ。いくらなんでもあなたたちが攫われたんじゃ、トウマが可哀想だものね」

「斗真さんのお知り合いですか?」


 自分を伺うように見てくる明乃にジュリアは親しみを覚えた。

 だからこそ、ついついジュリアは明乃をからかうように笑いながら告げた。


「知り合いというか、愛人ね」

「愛!?」

「人!?」


 明乃とミコトは衝撃を受けたように叫び、それを聞いた光助は、あいつ殺さなきゃだな。男代表として、と銃の点検を始めた。

 その様子に満足したジュリアは笑いながら訂正する。


「嘘よ、嘘。ただの知り合いよ。あなたが思うようなことはしてないわ」

「わ、私は何も!」

「あーもう。可愛いわねー」


 ジュリアは愛らしい反応を見せる明乃を抱きしめる。

 すると、明乃の顔がジュリアの巨乳に埋もれる。

 息ができない明乃はジタバタと暴れる。しばらく撫でまわしたあと、ジュリアは今度はミコトを抱きしめて撫でまわす。

 どちらも解放されたあと、息を切らしながら自分の胸に手を当てながら格差に慄いていた。

 そんなことをしている間に、斗真たちのほうは最終局面を迎えていた。

 空に浮かんだ六つの巨大な魔法陣。それに立ち向かおうとする斗真たち。


「何かする気です! 手伝わないと!」

「行くだけ無駄よ。今のあなたじゃ足手まといだわ」


 冷静に分析しながらジュリアは斗真とアーヴィンドを見る。

 おそらく二人ならギリギリどうにかなるだろう。そう予測していたのだが。


「ならお姉さん! トウマたちを助けて!」

「そうです! お願いします! 斗真さんたちに力添えを!」

「あの二人なら助けがなくても平気よ。安心なさいな」

「でも! トウマは疲れてるよ! 見ればわかる!」


 言われてジュリアは斗真を見る。

 たしかに疲弊している。夢幻解放の影響だ。前回使ってから一か月も経っていない。早々連発できる技ではないのだ。あれは。


「そうね。たしかに疲れてるわね」

「お願い! 綺麗なお姉さん!」

「あら? いい子ねぇ。また抱きしめてあげるわ」

「わー! いいよ! それはいいから!」


 窒息死しかねないため、ミコトはジュリアから距離を取る。

 その反応を残念そうに見ながら、ジュリアは明乃を見る。

 真っすぐ明乃はジュリアを見る。


「どうか助けてあげてください。お願いします」


 その真っすぐな目にジュリアは見覚えがあった。

 かつて親しみを覚えた戦友。

 その姿が明乃と重なる。

 だからジュリアは柔らかな笑みを浮かべながら、その頼みを引き受けた。


「ふふ、いいわ。あなたたちに免じて助けてあげる。けど、私は高いわよ?」

「何とかします」

「そう。じゃあ、あとであなたに何か要求するわ。それでいい?」

「はい」


 迷わず即答する姿にジュリアはますます笑みを深める。

 彼女もそうだった。人を助けるときに迷わない。

 その姿に誰もが惹きつけられた。


「じゃあ助太刀にいこうかしらね」

「あ、その……お名前は?」

「そういえば名乗ってなかったわね。私はジュリア。人は誉れ高き五英雄、真紅の魔女と呼ぶわ」


 そういってジュリアは驚く明乃たちを置いて、ゲートで斗真たちの下へ飛んだ。

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