第五十四話 極光の盾
言い訳しよう。普通に昨日の24時にこの話を投稿したと思っていた。
別にサボっていたわけじゃない。マジで予約投稿をミスっただけだ。
本当にごめんなさい。次の話を書き終えて、投稿しようとしたところで初めて気づきました。
許してクレメンス(´;ω;`)
魔王軍四天王のバアル。
俺やリーシャは何度も戦った相手だ。
正面からの戦いを好む猛将タイプで、バアルを討ち取ったときも絡め手はほとんど使わずに正面から俺たちと戦った。
そういう点ではやりやすい相手ではあったが、それはあのとき戦力が揃っていたからだ。
今は違う。あのとき豊富な戦力で苦労して討ち取ったバアルと、今度は少ない戦力で当たらなくちゃいけない。
なかなかに辛い状況だ。
懐に飛び込んだ俺は、攻撃をする素振りを見せるだけでバアルの攻撃範囲から離れた。
バアルの特徴は硬い皮膚とそれによる殴打だ。全盛期は特注の斧を持っていたが、今は武器はない。
ダーインスレイヴはバアルの体の中で核となっているし、そもそも核になっていなくともバアルには小さすぎて扱えないだろう。
「ふん!」
バアルは攻撃の素振りを見せた俺に腕を振るう。ギリギリのところで攻撃は当たらないが、その威力には背筋が凍る。直撃は避けなきゃまずいだろうな。
その間にアーヴィンドが回り込んで、バアルの背中を斬った。
硬い皮膚が邪魔して浅くしか傷は入らない。だが、それがわかっただけで十分だ。
俺とアーヴィンドは距離を取って、情報を交換する。
「攻撃のパターンは前と同じく単調だな。ただ威力はあるぞ」
「防御は前より薄い。あの程度の攻撃で削れるなら我々だけでもどうにかなりそうだ」
バアルに一番手こずったのは防御だ。硬い防御を突破するのに複数人で攻撃をし続ける必要があった。
しかし、今回はそこまでの防御力はないらしい。
「悪魔の実体は魔力で構成されてるからな。魔力が少なきゃ、それだけ防御も弱いって寸法だろうさ」
バアルの全盛期ほどの魔力を集められなかったというのが答えだろう。
それを自覚していたからブリギットは明乃を狙ったんだろうな。
「とりあえず削れるだけ削って、大技で終わりでいいか?」
「それでいこう。私は右を。君は左で」
「了解だ」
簡単な作戦を立てたあと、俺とアーヴィンドは縮地でバアルの懐に入り込む。
そして左右から一気に攻勢をかける。
俺は鞘から魔力を移して強化した魔力刃で、アーヴィンドは自分の魔力で強化した愛剣でバアルの体に傷を与えていく。
「うおおおおおおお!! 殺す! 殺す! 殺す!」
ほとんど理性がないのか、バアルはそれしか言わない。
左右から攻撃してくる俺たちの攻撃を捌ききれず、イラついた様子で地面をたたいて衝撃波を起こす。
魔力の籠った衝撃波のため、俺とアーヴィンドは即座に距離を取って躱し、再度接近する。俺たちが完璧な対応を見せれるのは、どれも生前にバアルが使っていた技だからだ。しかも精度や威力、効果範囲は劣化している。だからといって容易い相手でもないが、大苦戦するほどの相手でもない。
チクチクと俺たちは地道にバアルの体を削っていく。削れば削るほどバアルの体は魔力を失っていくからだ。
理性がなくても、かつての戦闘勘は健在なのだろう。
バアルは俺たちのその行動を危険と見て、俺たちから距離を取る。
そして右手を大きく引いて突きの構えを取った。かつて多くの戦友の命を奪ったバアルの必殺技だ。
「あれが来るぞ!」
「わかってる!」
俺はアーヴィンドの後ろに隠れるように移動すると、アーヴィンドは背中に背負っていた盾を構える。
その姿は見るのは二年ぶりだ。あれ以来、盾を使わなくなったと聞いていたが、今回はどういう風の吹き回しなのだろうか。
「この際だから言っておこうと思う」
「なんだ?」
「……リーシャを守れなくて済まなかった。これは私だけでなく、ほかの三人も負い目を感じている。君に助けられたのに、我々は君に何も返せなかった」
「いきなりなんだ? 気持ち悪いぞ?」
「君は……! 私がせっかく本心で謝罪しているのに!」
「ここで謝るなよ。タイミング悪いんだよ。ほら、前を見ろ」
俺はアーヴィンドをそう促す。
バアルは相当な魔力を右手に溜めている。軍すら粉砕するそれを受け止めるとなれば、アーヴィンドも本気で盾を展開しなくちゃいけないだろう。
だからアーヴィンドはもう俺のほうを見ない。かつてもこうしていた。いけ好かないとは思っていたが、戦友としてはこれほど信頼のおける奴はいなかった。
そんなアーヴィンドの背中を見ながら俺は静かにつぶやく。
「リーシャを守れなかったのは俺が弱いからだ。それでも……気に病むならリーシャが守るはずだった人たちを守ってやってくれ。俺はそうするつもりだ」
「……承知した。ならば君と君が守りたい少女たちをまずは守ろう!!」
アーヴィンドは盾に魔力を込める。
その盾はあくまで触媒だ。とある魔法を発動するための。
強力無比な盾があり、かつローウェル家の血筋のみに使える防御魔法。
広範囲に結界を張るプリトウェンを戦略防御魔法とするなら、今からアーヴィンドが使うのは戦術防御魔法。
面を守るプリトウェンに対して、それは点を守る。集中されたその魔法は何人の攻撃も許さない。
ローウェル家が多くの聖騎士を輩出してきた理由がその魔法だ。
「極光は空に現れた――」
詠唱は四節。
詠唱がほとんどない魔法にしては長い。しかし、それが終われば魔法は完成する。そして誰も貫けない。
なにせ単体では最強であった魔王ですら、アーヴィンドのそれを貫くことはできなかったのだから。
「極光は天を覆う衣にして、天空を守る不可侵の防壁――」
一方のバアルも準備が整い始めた。
奴の必殺技は〝ただの正拳突き〟だ。
思いっきり魔力を込めて、それを正拳突きで放つだけ。
単純にして、まったくひねりがないが全盛期はまさしく必殺の威力があった。
それこそ俺の鬼刃斬光に匹敵する威力だった。
「我が血の契約をもって、今、極光をこの手に――」
だが、今は威力が落ちているだろうし、アーヴィンドの魔法を抜くことはできないだろう。
周囲の被害も心配だが、もう光助たちは明乃たちを連れて逃げている。
それに今のアーヴィンドなら後ろにそらすようなことはしないだろう。
「守り手は光を手に入れた――アウローラシールド!!」
巨大な光の盾がアーヴィンドを起点として展開される。それは魔力で作り出された幻想の光。極光の盾だった。
ただ、これは単純な魔力の盾じゃない。光によって向こうとこっちを分かつ断層だ。
その断層はすべての干渉を許さず、ありとあらゆる攻撃は光によってせき止められる。
性質上、こちらからも攻撃できないが、敵の大技を防ぐという点ではこれほど便利な魔法はない。
展開時間の短さが玉に瑕だが、その分、防御能力は保証されている。
断言してもいいが、この盾を突破できる者はいない。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
雄たけびと共にバアルが正拳を突き出す。
すると、黒い魔力の奔流がこちらに向かってくる。かつてこの一撃でバアルは人間の連合軍を散々に打ち破った。
貫通力に優れるため、大軍相手にかなり有効な技だ。
しかも厄介なのは魔力と同時に衝撃波も飛んでくるため、吸収しようにも吸収できない。あれほどの魔力を吸収しようと思ったら、その場に留まらなければいけないからだ。
そういう意味でバアルは苦手な相手だったが、今回は組み合わせが悪かったな。
バアルの一撃は光にぶつかり、その光を突破しようとするがこちらへの被害はまったくない。
やがてバアルの一撃は霧散していき、光も同時に消えていく。
さすがというべきかバアルの一撃はほとんど周囲に影響を与えていない。
余波を含めて、すべてアーヴィンドが防ぎ切ったのだ。
「我が主の敵は……殺す! 殺す! 殺さねばならん!」
「私が斬ってもいいのだが……今回は君に譲ろう」
「ふん、カッコつけやがって」
やっぱりこいつはいけ好かない野郎だ。
そう思いながら、俺はその場でゆっくりと居合抜きの体勢を取り、ゆっくりと詠唱を開始した。
「その刃は幻想である――」