表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/145

第五十三話 魔王軍四天王




「勝手に動いて勝手に敵を襲う魔剣か……もう魔剣というよりは魔物だな」

「同感だ」


 明乃とミコトを庇うように俺とアーヴィンドは前に出る。

 俺たちから少し遅れて、六人の刺客がブリギットの傍に着地する。

 結局、俺とアーヴィンドは突破を優先したため、刺客を戦闘不能にはしてない。しかし、この状況を見るに正しい判断だったな。


「あらあら、五英雄が二人も揃うなんて珍しいわね?」

「ああ、お前が相手じゃなきゃ揃わなかっただろうな」


 ブリギットの余裕は崩れない。

 ミコトを失い、確実に戦力ダウンしたというのに。

 あの勝手に飛び回る魔剣にそこまで自信があるのか?


「アーヴィンド。どう見る?」

「奥の手ありということだろうね」

「だよな」


 ブリギットは俺たちと因縁がある。

 だからブリギットからも俺たちが揃うことくらいは考慮しているだろう。少なくとも俺を標的にしている以上、五英雄と戦えるだけの戦力は確保していたはずだ。

 当初はミコトと予想していたが、この様子じゃ違うみたいだな。


「アーヴィンド。なかなか早い到着だったわね? 名誉挽回に必死かしら?」

「ああ、そうだ。といっても、名誉が掛かってなくてもあなたは倒すが」

「怖いわね。でもいいのかしら? 愛しい姫殿下を一人にして」

「……」

「ブラフだぞ」

「わかってる」


 短く答えたあと、アーヴィンドは剣をゆっくりと抜き放った。

 その目には明確な殺意が宿っている。

 こいつはエリスが絡むと本当に豹変する。もしも俺がエリスの唇を奪ったと知ったらどうなるかな?


「殺されるだろうな……」

「なにか言ったかい?」

「いや、こっちの話だ」


 そこらへんは後になって考えよう。

 もしも殺されそうになっても、エリスが庇ってくれるだろうしな。

 問題なのは不気味に宙を浮く血を吸う双剣。

 やはり六人の刺客たちが持つ魔剣と似たような禍々しい魔力を放っている。だが、こっちのほうが遥かに大きい。


「ねぇ、斗真。私はあなたが私に許しを乞うて首を捧げれば、ここは退いてもいいと思っているわ。どうかしら?」

「残念ながら、お前に許しを乞うようなことをした覚えはないな」

「覚えが……ない?」


 ブリギットの目が大きく見開かれる。

 顔を歪め、ブリギットは怨嗟の籠った目で俺を睨んできた。


「私の……私の娘を殺したでしょう!!??」

「たしかにな。だが、あの子はすでに死んでいた。お前が自分勝手に甦らせ、あの子を道具として使ったんだろう。解放してやったとは言わない。だが、あのまま手を汚させるよりはずっとマシな決断だったと思うがな」


 俺はいつでも動けるように腰を落とす。

 それはアーヴィンドも一緒だ。

 もはやヒステリーを起こしているブリギットはいつ動いてもおかしくはない。その雰囲気を察しているのだ。


「道具? 私はあの子を誰よりも大切に思ってきたわ! 道具なんて思ったことはないわ!」

「そうか……そうかもな。だが、大多数の人間からすればお前のやったことは死者を愚弄する行為だ。それにな……お前こそ詫びるべきじゃないか?」

「詫びる? 私が? なにを詫びるの?」

「三百人の子供たちを魔剣で操り、大多数の命を奪った。しかもそれに飽き足らず、また子供を利用した。このことについてお前はどう考えている?」

「命を奪ったのは私じゃないわ。あなたたちが命を奪ったのよ? 責任転嫁はやめてちょうだい。それに今回だって、私はこの子たちを育ててきたの。それなら私のために働くのは当然でしょ?」


 本気でそう言っているのがよくわかった。

 もはや言葉は不要か。


「アーヴィンド。悪いが、周りの子供たちの相手を頼む」

「……君に譲れと?」

「今回は俺の番だ。俺がしくじればお前がやれ」

「……わかった」


 一度失敗し、嵌められかけたせいか、アーヴィンドは素直に俺の言葉を聞いた。

 これでいい。

 あとはブリギットを抑え込むだけ。

 どんな奥の手を隠しているか知らないが、出す前に仕留めてやる。

 意気込み、右手を刀に持っていく。

 だが、その瞬間。

 悪寒が走った。


「っ!?」

「なんだ!?」


 俺とアーヴィンドは咄嗟に、後ろにいた明乃とミコトをそれぞれ抱えて距離を取った。

 なにかまずい気がした。

 死の恐怖。明確な殺気。それを俺とアーヴィンドは感じ取った。

 俺たちが殺気で悪寒を感じるということは。

 殺されるかもしれないと直感したということだ。

 魔王軍と戦っているときでもこんな感覚に陥ったのは数度しかない。


「トウマ。あの双剣だ」

「わかってる……明乃、ミコト。できるだけ距離を取れ」

「は、はい」


 明乃は素直に返事をして、ミコトを支えながらその場を離れる。

 俺たちが下がったのをみて、まずいと思ったのか光助たちとも距離を取り始めている。

 良い判断だ。正直、あんな悪寒を感じる相手なら誰かを守りながらじゃ戦えない。


「トウマ……あなたが悪いのよ? 私の提案を聞かないから……さぁ、ダーインスレイヴ。内なる自分を解放なさい」


 異常は一瞬で起きた。

 禍々しい魔力がダーインスレイヴからあふれ出し、やがて人の形をとる。

 それは筋肉の鎧に覆われた大男だった。肌は青白く、その背には真っ黒な翼が生えていた。

 俺とアーヴィンドはそいつのことを知っていた。おそらく上から見ているジュリアも度肝を抜かれているだろう。

 まさかそいつとまた対面することになるとは。


「魔王軍四天王……バアル……だと?」

「なるほどな……その魔剣の禍々しさも納得だ……ブリギット、魔剣に悪魔を宿らせてたのか?」

「正確にはあなたたちが倒した悪魔の残留思念よ。そいつの残留思念を宿らせるために、かなり強固な魔剣を作る羽目になったけれど」


 だから神獣の牙か。

 まさか器として必要だったとは思いもよらなかった。

 しかし、狂気ここに極めりだな。


「ブリギット。お前の娘を殺したのは魔王軍だ。その幹部を復活させるなんてどうしてると思わないか?」

「あの子が死んだのはヴィーランドが間違った方針で武器を作ったからよ」

「そうか……」


 憎しみの方向が明後日のほうに行きすぎて、もう正常な判断力も残っていないみたいだな。

 狂ったというよりは壊れたというべきか。


「どうする? アーヴィンド」

「どうにかできるのかい? あれを討伐したときのメンバーをもう一度そろえるのは無理だが?」

「そうだな」


 あのときはリーシャがいた。

 それ以外にも多くの戦友たちが。

 しかし、それはもういない。

 だが。


「所詮は残留思念だ。同じ力を持っているはずがない」

「それでも私たちだけで戦うのは危険だと思うが?」

「じゃあ放置するか?」


 戦力が整うまで待っていたら、東京は壊滅する。

 たとえ全盛期の力じゃなくてもバアルは十分すぎるほどの脅威だ。今の時点ですら天災級の魔物に匹敵する力を持っている。

 魔剣の特性上、まだバアルは強化される可能性もある。

 止めるならここでやるしかない。


「仕方ないか……だが、聖騎士の派遣は要請しておこう」

「そうだな。それだけじゃ足りないかもしれないけどな。あの六人が持つ武器にもおそらく悪魔の残留思念が宿ってる。さすがにバアルほどの大物じゃないだろうが、復活すれば厄介なことになるぞ」

「残りの二人は呼んでも来ないと思うが?」

「そうだな。あいつらは来ないだろうな……」


 性格破綻者ばかりの五英雄の中で、アーヴィンドは比較的マシなほうだ。

 一応、会話が成り立つ。

 しかし、残りの三人は違う。ジュリアはあの通りだし、ほかの二人もエゴの塊みたいな連中だしな。

 あいつらの援軍は期待しないほうがいいか。


「俺らだけでやるか」

「そうなるな。彼女は手伝う気はなさそうだしね」

「油断するな。チャンスと見たら俺たちごと巻き添えにして撃ってくるぞ」

「……どうして味方を一番に警戒しなければいけないんだろうね」

「まったくだ……」


 警戒度で言えば上に六十、目の前のバアルに四十といった感じだ。

 やっぱりジュリアはいるだけ邪魔だな。


「殺す! 殺す! 我が王の敵は私が殺す!」


 体が完全に出来上がったのか、バアルはそう叫んだ。

 それはバアルが最後の瞬間に叫んだ言葉だった。たしかに残留思念を取り込んでいるみたいだな。


「まさかまた戦う羽目になるとはな」


 そう言って俺は右手を柄にかけながらバアルへと突っ込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ