第四十九話 二人の喧嘩
ブルースクリーン連発で焦りましたが、なんとか投稿できました!
ただ解決したわけではない!
またエラー起きて時間どおりに投稿できなかったらすみません!
「極陽の矢は東天より昇り、全天を照らす――」
煙の中で詠唱が静かに響く。
奇襲ができるのはスモークが効いているうちだけ。だから明乃は自分が持てる最大の魔術を選択した。
巨大な魔術だ。まともに食らえば人間はいとも簡単に燃えつくされる。
それでも明乃は詠唱をやめない。
ミコトならば防ぐだろうと確信に近いものがあったからだ。
「滅魔の炎、清浄なる光――」
それにと明乃は思う。
自らの我儘に多くの人を付き合わせている。ここで日和ればその人たちを裏切ることになりかねない。
その魔術を選択したことは、ミコトと味方。
どちらにも自分が本気であることを示すためだった。
「天涯まで届くその陽はすべてに恩恵を与え、すべてに天罰を与える――」
詠唱が終盤になったところで煙が晴れ始める。
幻術によって明乃の場所を見失っていたミコトは、ようやく明乃の場所に気づく。
そして異様に膨れ上がった魔力にも。
「!?」
「不遜を承知で我はその矢を放たん! ―天羽々矢―!!」
神炎を纏った巨大な矢。
それが明乃を探していたミコトへ真っすぐ向かう。
タイミング的に避けるのは不可能と判断したのだろう。ミコトは全力の防御を選んだ。
ダーインスレイヴはバチバチと黒い雷を纏い、巨大な魔力の壁となってミコトと天羽々矢の間に立ちふさがる。
衝突と同時にミコトの体は大きく後退する。
「くっ……!」
攻撃魔術という観点で見れば最大規模の魔術だ。
それを正面から受け止めるのは、いくら天性の剣士であるミコトと最上級の魔剣であるダーインスレイヴでも不可能といえた。
だからミコトは体を後ろにそらし、天羽々矢の進行方向を上に向かせる。
その判断は功を奏し、天羽々矢は天空へと進路を変えた。
しかし、代償としてミコトの右手にあったダーインスレイヴの片割れが大きく弾き飛ばされた。
そして。
その隙を見逃すほど光助たちは甘くはなかった。
「撃って撃って撃ちまくれ!!」
明乃を援護するためにミコトを囲うような形で布陣した光助たちは、ミコトへ一斉射撃を開始する。
多くはミコトの周囲にただよう禍々しい魔力によって受け止められるが、いくつかの攻撃はそれを突破してミコトに向かう。
それをミコトは残った剣で弾くが、それによってミコトには更なる隙が生まれた。
「炎風の剣は空天に響き、大地に轟く。破邪の炎、鎮静の風。風焔の理をもって我が眼敵を討ち滅ぼせ! ―焔嵐剣―!!」
畳みかけるような魔術攻勢。
避けようにも間断なく周囲からは攻撃を受けており、防ごうにも剣は一本しかない。
しかも威力はさきほどより落ちているとはいえ、作り出された剣の大きさはさきほどの矢に匹敵する。
避けるのは現実的ではなく、防ぐのはもっと現実的ではなかった。
どちらもダメージを覚悟しなければいけない。そこに至って、ミコトの剣士としての才が答えをはじき出す。
斬るしかない、と。
ミコトは向かってくる炎の剣を避けるのでも、防ぐのでもなく。無謀ともいえるほど躊躇いなく、前に踏み出していく。
そして炎の熱さが感じられるほど接近したところで、ミコトは魔力を込めたダーインスレイヴを下から上へ斬り上げた。
炎の剣は左右に分断され、その存在を消失させていく。
だが、ミコトは次に来るだろう攻撃を予想していた。
二段階攻撃では終わらない。それでは詰めが甘すぎるからだ。
次はどんな魔術が来るのか。そう考えたとき。
ミコトの視界の端で何かが動いた。
それが接近してきた明乃だと認識する前に、ミコトは思いっきり腹部に掌底を食らっていた。
「旋牙!!」
「ぐっ……!」
初めてまともに攻撃を食らい、ミコトの体は大きく吹き飛ばされた。
苦悶に歪むミコトの顔を見て、明乃も苦し気に顔を歪める。
しかし、やらなければいけない。剣はあと一本。弾き飛ばせば解放できるかもしれない。
そんなことを考えていた明乃の耳に声が届く。
「逃げて……って言ったのに……」
「ミコト……? ミコトなんですね!?」
駆け寄ろうとする明乃に向かってミコトは剣を構える。
体の自由は利かない。痛みによって意識が覚醒しただけだ。
「どうして……言う通りにしてくれないんだよ……ボクの最後のお願いだったのに……」
「最後じゃありません! だから聞きません!」
まだ体が自由になってないことを察し、明乃も構えを取る。
一撃を与えたとはいえ、この間合いはミコトの間合い。油断すれば一撃でやられかねない。
「今からでもいいから……逃げて」
「嫌です」
「っ! どうしてさ!?」
「友達だからに決まっているでしょ!」
明乃は珍しく声を荒げる。
逃げろ、逃げろというミコトに腹が立ったのだ。
どうして助けてほしいと言ってくれないのか。どうして頼ってくれないのか。
そのことに明乃は深い憤りを覚えていた。
「もう、ボクは……駄目なんだ……」
「勝手に諦めないで! みんなあなたを救おうとしてるんです! 諦めるなんて私は許しません!」
言葉を交わしながら、攻防が始める。
ミコトの鋭い剣閃が明乃を襲うが、その狙いは甘く明乃でも避けれるものだった。
それがミコトが必死に抵抗している証拠だ。
「今は……抵抗できてるけど! また飲み込まれちゃうから!」
「今、出来ているならこれからもできるはずです! ミコト! 気持ちを強くもって!」
「無茶言わないでよ! ボクは……ボクは……お母さんに騙されて、いろんな人を傷つけて……ボクなんてもうどうでもいいんだよ!」
「あなたがどうでもよくても! 私はどうでもよくない!」
剣を躱し、懐に入る。
そして明乃はそのままミコトの顎を跳ね上げた。
意識が覚醒しているため、もろに痛みを食らったミコトは軽く涙を浮かべながら明乃を睨む。
「ほ、本気で殴ったなっ!?」
「当たり前です! あなただって剣振り回しているでしょう!」
「ボクは手加減してるのに! ひどい!」
「ひどくありません! 自分のことをどうでもいいなんていう人へのお仕置きです!」
そういうと同時に明乃は縮地を使って後ろに回り込む。
ミコトが得意の高速戦闘は、ミコトが抵抗していることもあって今は使えない。
背後を取った明乃は、もう一発という気持ちで攻撃態勢に入ったが、それをさせじとミコトの回し蹴りが飛ぶ。
咄嗟にガードしたものの、明乃は横に吹き飛ばされた。
「っ!? 今、本気で蹴りましたね!?」
「当たり前だよ! 痛いの嫌だもん!」
「我慢しなさい!」
「ボクの言うこと聞いてくれない明乃の言うことなんて聞かないから! アケノのバカ!」
「ば、馬鹿!? 言うに事欠いて、馬鹿!? 少しは感謝の言葉があってもおかしくないと思いますけど!?」
「知らないよ! 頼んでないもん!」
「じゃあいいです! 勝手に助けますから!」
こうして二人は互いに文句を言いながら接近戦を開始した。
明乃は剣を掻い潜り、痛みを知れとばかりに腹部を強打し、ミコトはお返しとばかり
に明乃を蹴り飛ばす。
そんな二人の様子を見ながら、光助はため息を吐いた。
「真剣勝負だったのに、いつの間にか喧嘩だな……だが、全員手は出すな。子供の喧嘩に大人は出ないほうがいい」
そう言いながら、光助は遠巻きで様子を見ているブリギットを見る。
向こうの保護者もそういう気持ちでいてくれれば、このまま終わりそうな気配なんだが。
そんなありえないことを考えつつ、光助はブリギットへの注意を怠らなかった。