第四十八話 足止め開始
高橋からエスタックを貰った。
これは柚葉の外伝を書けということなのか、それともエリスの外伝を書けということなのか。
解せぬ……(-ω-;)ウーン
「に、逃げてぇぇぇぇ!! アケノぉぉぉぉぉ!!!!」
突然の事故で通行止めになったため、徒歩で移動しようと車を降りた明乃の耳にその声は確かに届いた。
何もかもを斗真から聞かされていた明乃だが、その声を聞いて迷わず振り返った。
「ミコト!?」
ミコトの隣には金髪の女性。
それが話に聞くブリギットなのだろうと明乃には察しがついた。
それは女の直感などというわけでもなく、ただ単純に浮かべる笑みが邪悪だったからだ。
ミコトは双剣が発する禍々しい魔力に飲み込まれており、一目で普通じゃないとわかった。
「助けないと!」
「馬鹿いうな! こんなところで戦えるか!」
明乃の護衛責任者である光助は、ミコトに向かおうとすると明乃の腕を掴む。
その言葉を聞いて、明乃は周囲の状況に気づく。
事故によって道は塞がれ、多くの人がここに集まっている。こんなところで戦闘になれば民間人への被害は計り知れない。
「全員撤退だ! とにかく人のいない場所まで走れ! そのうち援軍もくる!」
光助は指示を出しつつ、明乃を引っ張ってその場を離れる。
ダーインスレイヴに飲み込まれ、どす黒い魔力を発しているミコトはそんな明乃たちを追撃する。
縮地で加速し、逃げる明乃たちとの距離を詰めようとするが、そうはさせまいと護衛についていた自衛隊員や東凪家の魔術師が攻撃を仕掛ける。
だが、それはミコトを攻撃するというよりはミコトに縮地を使わせないということを徹底した攻撃だった。
移動を阻害されたミコトはまず、足止めをする者たちへの攻撃を優先した。
「ちっ! やりたい放題やりやがって」
「須崎さん! あれはミコトですけど、ミコトではなくて……」
「わかってる! あの顔みれば操られてるんだろうなってのは察しがつく!」
言いながら光助は後ろにいるミコトを見た。
どす黒い魔力が体全体を覆い、その目には意思の光がない。まるでロボットみたいな目だなと思っていると、そんなミコトと光助は目があってしまった。
「やべっ……目があったよ……こえぇ」
「そんなこと言ってる場合ですかっ!? なにか手はないんですか!?」
「とにかく足止めしながら走る。これに尽きるな。事故が起きた時点で、ほかの分隊が周囲の避難誘導を始めてる。そろそろその区画に入る。それまでは待て」
この場で最大の力を持ち、ミコトに対応できるのは明乃だけだと光助は理解していた。
しかし、明乃の力は周辺にもかなり影響を及ぼす。とくにあんな敵と激突したら、それはさらに肥大化する。
だから光助は避難が済んでいる区画まで明乃の戦闘を禁じた。
「でも……!」
後ろでは足止めに入っている東凪家の魔術師や、自衛隊の隊員がミコトの攻撃を食らっている。
自分を守ろうとしてやられる人がいる。しかもそれをしているのはミコトである。
本来、ミコトが望まないことをやらされている。そのことも明乃が焦る要因であった。
しかし。
「気にするな。全員、覚悟の上だ」
「気にするなって……」
「割り切れ。あのくらいの攻撃じゃ死にやしない。まだあの嬢ちゃんの意識があって、手加減してんのか、それともトドメを刺すのが面倒なのか。どうであれ死んでない。だから気にするな」
明乃に言い聞かせるように言うが、光助自身も苦い表情を浮かべていた。
部下を攻撃されて平気なわけではない。いつも一緒に訓練をして、いつも笑ながら話す仲間なのだ。
しかし、任務は任務。
ここで明乃を助けに行かせては意味がない。
「じゃあ私だけ縮地で先に」
「それも駄目だ。俺たちと連携が取れなくなる」
「でも、そうすれば皆さんを無視するはずです!」
「ああ、だからそれが駄目なんだ」
光助は言いながら周囲を見渡す。
もう周囲に人影はない。そろそろ避難区画だ。
明乃もそれを察しているのか、何度も光助を見てくるが光助はそれには答えない。
このまま〝適度な早さ〟で逃げてもらわなければ困るからだ。
「もういいですよね!?」
「ああ、もういいな」
言った瞬間。
建物の上を移動していたミコトは四角い結界の中に閉じ込められた。
周囲にはミコトを囲うように自衛隊の車両が複数展開していた。
その後部にある装置が結界を作り出していた。
「これって……!?」
「試作型の結界発生装置でな。デカいから車に乗せるしかないし、速すぎる奴は捉えられない。導入されたものの、いつ使うんだよっていう欠陥品扱いだったんだが、意外なところで役に立ったな」
傷つけたくはないが、動きは止めたい相手には有効であり、ミコト相手には完璧な装置だった。そのため、斗真から事情を聞いた時点で光助はこれを要請しており、うまくミコトをこの場に誘いこんだのだ。
「ちなみに須崎さん……」
「うん?」
「結界の強度は?」
「そこは保証する。A級冒険者が全力でやってもしばらく外に出ることができなかった。だからあれでしばらく時間は稼げるはずだ。この間に」
光助の言葉は途中で途切れる。
いとも簡単にミコトが結界を切り裂いて外に出たからだ。
その光景を見て、光助は引きつった笑みを浮かべる。
「あ、あれ~……?」
「やっぱり私が足止めをします!」
「いや、お前は下がってろ」
光助はそういうとスモークを地面に投げつける。
それに合わせて、ほかの自衛隊員もスモークを展開した。辺りが白い煙に覆われるが、それでもカバーできている範囲は狭い。
それを承知していながら、光助はすばらく明乃を連れて煙の外に出た。
すると、なぜかミコトはその行動を見逃した。
「えっ……?」
「幻術の効果を高めるスモークだ。しばらくどこにお前がいるかあの子にはわからんよ」
「でも、手あたり次第に攻撃されたら!?」
「時間が稼げればそれでいい」
「だから私が足止めします! 斗真さんが来るまでは持ちこたえますから!」
自分が、と訴える明乃だが、光助はそんな明乃に冷めた目を向ける。
そんな目で見られ、明乃がやや怯む。
「じゃあお前、あの子を殺す気で戦えるか? 茨木童子と戦ったみたいに」
「えっ……それは……」
「手加減して前に出たら、即やられかねない相手だぞ? できるのか? 友達相手にお前は本気で魔術を撃てるのか?」
「……」
「できないならこのまま足止めと避難続行だ。血を吸って成長する魔剣をこれ以上、成長させるわけにはいかないからな」
答えのない明乃を見て、光助は話を進める。
そんな光助の言い分は明乃にはよくわかった。そして自分にはミコトを殺す覚悟がないことも。
それでもと明乃は心の中で呟いた。
自分がやりたいのだ、と。
「須崎さん……私は足止めに入ります」
「おい……人の話聞いてたか?」
「はい。よくわかってます。だけど、私は自分の友達が人を傷つけるのは見たくないありませんし、ミコトにこれ以上、人を傷つけさせたくありません」
光助は明乃の言葉に天を仰ぐ。
この緊急事態になんて甘いことを、と叫びたかった。
だが、光助には言えない理由があった。
それは斗真にあらかじめ言い含められていたからだ。
「……斗真からはお前が食い下がるようなら好きにやらせてやってくれと言われてはいるんだがな……」
「斗真さんが?」
「あいつはお前が食い下がるとわかってたのかもしれないな……」
「そうですか……」
少し考えたあとに明乃は嬉しそうに微笑む。
自分の理解者でいてくれるのが嬉しかったのだ。
「本気であの子を止める気か? どう見ても意識はないぞ?」
「はい、私は友達を止めたい。私が初めて名前だけで呼んだ友達だから、止めるのは私でありたいんです」
「私情だな」
「はい、私情も私情。ただの我儘なのは承知してます」
それでもと心の声が明乃を後押しする。
たった一晩、一緒に時間を過ごしただけの関係だ。
だが、楽しい時間だった。これからも続いてほしいと願った。
長さだけで語るなら、薄っぺらい関係かもしれない。
しかし、それを言うなら斗真とだって付き合いは長いとは言えない。
それでも斗真は必死に自分を守ってくれた。
ならば、次は自分の番でありたい。ただ、自分は斗真のようにいかないことも承知している。
「私はミコトを止めます。なので援護をお願いします」
「はぁ……さすがはお嬢様。我儘すぎるぜ」
言いながら光助は通信をオンにして、護衛についていたすべての人間に指示を出す。
「我儘お嬢様がお友達を止めたいそうだ。全員、援護位置につけ。ここで足止めするぞ。あと、狙撃班は奥のババアに狙いを定めたまま待機だ。母親を攻撃すれば説得に響くかもしれないからな。ただ、動いた場合は躊躇うな」
「須崎さん……」
「まぁ……人を助けたいって気持ちはわかるからな。俺もそういう自分になりたいから自衛官になった」
「はい、いつも助けていただいてありがとうございます」
明乃に丁寧に一礼されて、光助は居心地悪そうに顔をしかめる。
そして、光助はポケットからタバコを取り出して咥えた。
「まったく、俺って損な役割だよなぁ……」
「タバコは体に毒ですよ?」
「こんだけ煙ばっかなんだ、見逃せ」
光助は愛用のサブマシンガンを準備し、深くため息を吐く。
そして明乃に対して年長者としてアドバイスを送った。
「明乃、ダチと喧嘩するときは一発目が大切だ。自分が本気なんだってわからせてやれ。デカいのを食らえば、眠ってもいられないだろうからな」
「はいっ!」
こうして本格的なミコトの足止め戦が始まった。
正直な話をしよう。
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