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第四十六話 魔力供給

ほら! 読者たちよ、ご褒美だ!

だから俺にもご褒美ください……。



 



 大使館に着くと俺はすぐにエリスの部屋に案内された。

 しかし、いつも一緒の女従者は部屋の前で失礼しますと一礼した。


「入らないのか?」

「姫殿下はサトウ様と二人で話したいことがあるそうです」

「人払いってわけか……」


 俺の言葉に女従者は頷く。

 これは意外に珍しい。そこまでしてエリスがしようとしていることってなんだ?

 考えがあると言ってたが……。


「まさかとは思うが、王族座乗艦を引っ張り出すとか言わないよな……」

「その可能性はありますね……その場合は」

「わかってる。絶対にやめさせる」

「ありがとうございます……私たちとしましても、王族座乗艦の機能はあまり使ってほしくはありませんので」


 そう言って女従者はまた頭を下げて、下がっていった。

 残された俺は覚悟を決めて、部屋のドアをノックした。

 どうぞ、という声を聞いてドアを開ける。

 そこには白を基調としつつ、紫色の生地も使われた清楚なドレスを着たエリスがいた。そのドレスはリーシャがエリスのためにデザインしたもので、エリスのお気に入りのドレスだ。

 大事な式典の際に着る服のはずだが、なぜここで着ているんだ?


「お待ちしていましたわ。トウマ様」

「お、おう……」


 そういってエリスはニコリと笑う。

 なんだかおかしい。いつもエリスは余裕に満ちている。誰と話しているときでも、どこか余裕があるからエリスと話すと大抵の人は落ち着く。騒がしい子供でも、エリスにやんわりとたしなめられると借りてきた猫のようにおとなしくなる。

 そういうところは大したもんだと思っていたのだが、なんだか今日は様子が違う。

 いつもと同じように笑っているように見えて、笑顔に余裕がない。


「どうぞ、こちらへ」


 そう言ってエリスは自分の向かい側の席へ俺を誘う。

 丸テーブルの上には紅茶を入れるための道具が揃っている。お茶でもしましょうってことか? この非常時に。


「それで? 考えってなんだ?」


 悠長にお茶を飲んでいる場合ではないので、席に座るなり切り出すが、その瞬間にエリスは置いてあったスプーンを落とした。


「ご、ごめんなさい……」


 おかしい。

 絶対におかしい。

 エリスは超上流階級で育った正真正銘のお姫様だ。お茶を淹れるのだってプロ級だし、今までその作業でミスをしたのは一度だって見たことはない。

 そのエリスがスプーンを落とした。

 一体、なにが起きてるんだ?


「エリス……」

「は、はい!? なんですか?」

「お前、熱でもあるのか?」

「っっっ!!??」

「……」


 額でも触って熱を確かめようとしたら、すごい勢いで距離を取られた。

 地味に傷つく行動をしてくれるじゃないか……。

 やっぱり変だな。


「どうした? なにがあった?」

「そ、その……で、電話越しでは覚悟が出来ていたのですわ……で、ですけど、いざトウマ様を目の前にすると躊躇うというか、緊張するというか……」

「なんの話をしてるんだ……?」


 わけのわからないことを言いながら、エリスは顔を赤くして手をパタパタとさせる。

 いつもは絶対に見れないエリスの混乱している様子は、写真に撮っておきたいくらいだが、今はそういう状況じゃない。


「奴らは深夜。もしくは明け方には動く。もしかしたらもう動いてるかもしれない。魔力補給の時間はほとんどないんだぞ?」

「は、はい……わかっていますわ……」

「明乃にちょいちょい魔力補給してもらってるが、それでも夢幻解放を発動するだけで精一杯だ。ここから神刀級のやつを召喚しようと思ったら、生半可な魔力じゃ足りない」

「そ、それも承知していますわ……」


 これだけ言ってもエリスは話を切り出さない。

 自分から早く来いと言ったのに。もしかして準備が整ってないのか?

 いや、早く来いとエリスが言ったんだ。そんなミスをするとも思えない。


「俺としては明乃に魔術を撃ってもらって、それで出来るところまでブーストしようと思ってる。それをすると明乃は戦力として数えられないが、二人そろって戦うよりはそっちのほうが可能性はある」

「そうですわね……ですが、それでも足りないのでしょう?」


 エリスの言う通りだ。

 俺が二年間コツコツとため込んだ魔力はこの前の事件ですっからかんになった。それから俺と明乃で少しずつ溜めて、なんとか夢幻解放を使えるところまで来たが、神刀級のやつを召喚しようと思ったら、もう一度明乃に全力で魔力を引っ張り出してもらうぐらいしか手はない。

 だが、この前の戦いから一か月も経っていない。短いインターバルで魔力をまた空にすれば、今度こそ明乃の命に関わりかねない。だから、できるかぎりの魔力をもらい、あとは敵から補充するというのが現実的な手段だろう。



「ほかに手がないだろ?」

「手なら……ありますわ」


 エリスは少し顔を俯かせて迷ったあと、ゆっくりと深呼吸をしてから顔をあげた。

 その顔には並々ならぬ決意が漲っていた。そんな顔は魔王軍と戦っているときですら、数度しか見たことがない。

 思わず気圧されて微かに腰が引ける。まさかエリスに腰を引かされる日がくるとは……。


「そ、その手ってなんだ……?」

「ま、魔力供給ですわ……」


 言った瞬間、エリスの顔が完全に真っ赤になって恥ずかしそうに俯く。

 そりゃあそうだ。俺もその提案に呆気に取られてしまっている。それだけありえない提案だった。

 一般的に人へ魔力を渡すのは不可能だ。血を奪うという最低で効率的な方法があるわけだが、それだって血をただ飲むだけじゃ普通の人間は魔力を取り入れられない。しかし、例外が口内の粘膜を接触させること。つまり接吻、キスだ。

 とはいえ、よほど無防備な状態か心を許していなければ魔力供給は成功しない。渡すにしろ、奪われるにせよ、どうしても魔力を供給する側に抵抗が発生するからだ。

 だから魔力を渡す、奪うというのは非現実な手段だとケルディアでは考えられている。


「お前……そんなこと考えてたのか……?」


 呆気にとられた俺が絞り出したのは、そんな言葉だった。

 その言葉を聞いて、エリスの顔がさらに赤くなった。

 そんなエリスを見ていると、俺も反応に困る。ぶっちゃけた話をすれば、成功するならこれほど良い手はない。

 なにせエリスの魔力量は明乃に匹敵するか、それ以上だ。

 しかも俺を介して無駄なく鞘に流し込めるから効率的だ。

 問題は。


「言っておくが……魔力供給の経験なんて俺にはないぞ?」

「わ、わたくしもありませんわ……」

「……理論的には連環法と一緒なんだろうがな」


 ようは敵の魔力攻撃を吸収する感じでキスすればいい。

 言葉にすると簡単そうだが、戦闘中とキスしている状態では状況が違いすぎる。

 しかも相手は妹のように思っているエリスだ。

 血は繋がっていないし、そもそも家族として育ったわけでもない。ただ、俺の認識は妹みたいなものなんだ。

 世の兄に問いたい。いくら人命が掛かっているとはいえ、妹とキスしろと言われてできるだろうか?

 よほど特殊な性癖を持っていないかぎり、普通の兄は頷かないだろう。


「……エリス。お前はアルクス聖王国の王女なんだぞ? いいのか?」

「だからこそ……できることはやる義務がありますわ……それに誰にでもこんな提案をするわけではありませんわよ? と、トウマ様だから提案したのです……」


 恥ずかし気に言ったあと、エリスはそっと目を閉じた。

 覚悟を決めて待つエリスを見て、俺は少し瞠目する。

 そこまで女にやらせておいて、さすがにやっぱり無理ですとは言えない。しかも今回は人命がかかっている。そもそも成功するかわからないのだ。さっさとやって試してみないといけない。

 色んなものに後押しされて、俺はエリスの傍によると顎を掴んでそのまま柔らかそうなエリスの唇に自分の唇を重ねた。

 最初は軽く唇と唇が触れるままごとみたいなキス。

 それでも甘い味がした。同時にいい香りが広がる。そしてエリスの体が微かに震えているのを察し、俺はそっと髪を撫でる。

 すると、強張っていたエリスの体から力が抜ける。それを見て、再度唇を重ねた。

 今度は連環法の要領で魔力を吸収しようとする。すると、少しだけ俺の体にエリスの魔力が入ってきた。


「少しだけ入ってきたな……」

「……やっぱりキスに慣れていますわね」


 エリスは顔を赤くして、恨めし気に俺を軽く睨む。

 まぁ当然か。自分は初めてなのに、相手は初めてではないのだ。不公平に思えるだろうな。


「わたくし、知っていますわ……トウマ様がよく娼館に通っていたのを……」

「知ってたのかよ……」


 軽く頬を引きつらせる。

 できるだけリーシャやエリスに気づかれないように行っていたのだが、バレてたのか。

 さすがに女は鋭いな。


「女なら誰だって気づきますわ……知らない香水の香りがしますもの……軽薄でいいかげん。ぐうたらで、面倒くさがり。行く先々の街で女性と関係を持ったり、しょっちゅう女性ばかりを助ける女好き……まさしくろくでなしですわね……」

「うっ……」


 ここぞとばかりに攻撃されて、俺はたじろぐ。

 なんで今、そんなこと言われなきゃいけないんだ。

 次のキスをどうやってすればいいんだと思いつつ、エリスを見ると、意外にも怒った様子もなく微笑んでいた。


「でも……あなたはいつだって誰かのヒーローだった。今回もわたくしではない違う少女を助けるのですわ。けど……それでもかまいませんわ。わたくしはその代わりに移ろ気なあなたの傍にいる権利を持っているのですから」


 そう言ってエリスは両手を広げる。

 その顔にはもう迷いも緊張もない。

 男なら誰だって魅了してしまう美貌に、蠱惑的な笑みを浮かべてエリスが告げる。


「どうぞ……奪ってくださいな。さしあげます。わたくしを」

「っっ!」


 殺し文句というのはこのことだろう。

 妹にしか見えなかったエリスが、その瞬間に女に変わった。そう見えるとエリスの素晴らしさに改めて気づく。

 抜群のプロポーションに、輝く美貌。穢れを知らない聖王女で、ケルディア復興の希望。にして象徴。

 だれもが憧れ、しかし触れることは絶対にできない純白の美少女が俺の前におり、自らを差し上げると言っている。

 そのことに気づいてしまった瞬間に俺の中の何かが切れた。

 迷わずにエリスの唇に吸い付く。そして魔力を奪っていく。さきほどとは比べ物にならない量の魔力が俺の中に流れ込んできた。

 それを左手に持った鞘に移動させながら、俺はさらなる魔力をエリスに要求した。


「んっ……」


 艶めかし声を出すエリスに対して、俺はもっと寄越せとばかりに舌を口の中に割り入れて、エリスの口の中を蹂躙する。


「っっっ!?」


 いきなり舌を入れられたエリスは怯んだ様子を見せるが、そんなことは関係ないとばかり俺はエリスを抱き寄せた。

 息継ぎのために口を離す。


「はぁはぁ……ま、待ってく、んん」


 落ち着く暇も与えず、また唇を重ねる。

 乱暴な俺を嫌がるようにエリスは何度か身をよじるか、やがて俺の体に体重を預けてきた。

 柔らかいエリスの体を堪能しながら、俺はしつこくキスをする。

 息も絶え絶えになったエリスは抵抗らしい抵抗もできない。

 それがどれほど続いただろうか。

 永遠にも思えた甘美な時間は、エリスの体から魔力が尽き始めたことで終わりを迎えようとしていた。


「んん……と、トウマ様……も、もう」

「もう辛いか?」


 問いかけにエリスはコクリと頷く。

 すでにエリスは自分では立ってられず、俺に寄りかかっている状態だ。俺が支えていなければ倒れてしまうだろう。

 急速に魔力を失い、疲労度も相当なはずだ。

 健気に俺に魔力を渡す姿を見ると、どうしようもないくらい愛おしさが芽生えてくる。


「よく頑張ったな」

「はい……ん」


 最後のお礼代わりに魔力供給をせずに唇を重ねる。

 そのキスにうっとりと目を細めながら、エリスは初めて自分から舌を絡めてきた。

 その後、しばらくそれを続けたあと。

 女従者がドアをノックする音で俺たちは我に返った。

 気づけば互いの唾液で口のあたりはすごいことになっている。

 エリスは完熟トマトのように顔を真っ赤にするが、もう自分では立っていられないため俺から離れることもできずに顔を俯かせてしまった。

 そんなエリスの髪を撫でながら、椅子に座らせると、近くにあったタオルを二つ取って一つはエリスに渡す。

 口を拭くエリスはまだ喋れる状態ではない。

 しょうがないため、俺がドアを開けて応答に出る。


「なんだ?」

「あ、サトウ様。姫殿下は?」

「今はちょっとな。厳しく言いすぎて……」

「な、なるほど……さすがはサトウ様です。では、姫殿下にお伝えください。日本政府が要請を受諾したと」

「わかった」


 なんとか誤魔化し、俺はドアを閉めて深く息を吐く。

 別にいけないことをしたわけではない。人命のために魔力を貰っただけだ。しかし、なぜこんな慌てなきゃいけないのか。

 もっと余裕を保てると思ったが、俺もそこまで大人ではないらしい。


「日本政府が要請を受諾したらしいぞ……」

「……よく平静を保てますわね……」

「いや、そこまで平静ではないが……まぁお前よりはマシだな」

「経験が豊富な方は違いますわね……」


 恨めしそうな目を向けられ、俺は苦笑する。

 これは落ち着くまでそっとしたほうがいいか・


「別の部屋に行ったほうがいいか?」

「ここにいてください……一人になったら恥ずかしさで発狂してしまいますわ……」


 恥ずかしさから涙ぐんでいるエリスはいつも以上に魅力的で、ドキッとさせられる。

 俺も気恥ずかしさを感じつつ、そのまましばらくは俺たちは近くにいた。

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