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第四十四話 嗤う魔女

よく一緒にゲームをするオンラインフレンドの高校生がいる。彼には俺のことを教えているし、この作品も読んでいるのだが、主人子のモデルは自分だと信じて疑わない。

なぜなのか……(-_-;)




 どうすればいいのか。

 禍々しい魔力が双剣から噴き出るのを見ながら俺はそんなことを考えていた。

 一番いいのは斬ってしまうことだ。そうすれば被害は出ない。これだけの魔力を持つ魔剣だ。間違いなくベスティアから盗んだ神獣の牙を使っているだろう。

 ならばこれがブリギットの切り札ということになる。これ以上、成長する前に止めるのが正しいだろう。

 だが、それで本当にいいのか? それでは前回と何が違う? 結局、数年後にはまたブリギットが暗躍し、また子供が犠牲になる。そのたびに俺は罪のない子供を斬るのか?

 エリスやリーシャが泣く姿が蘇る。根本を断たねば悲劇は続く。


「剣を収めろ……俺は戦う気はない」

「そんな言葉……信じられないよ! ボクにはお母さんと孤児院がすべてなんだ! それしかないんだ!」

「……じゃあお前の母親が明乃を斬れといえば、お前は斬るのか?」


 今の明乃は日本の魔術師の中では屈指の強者だ。ブリギットのリストに上っていてもおかしくない。

 いや間違いなくブリギットは明乃もマークしているだろう。


「あ、アケノは関係ないでしょ!」

「見ればわかるだろ? 明乃の魔力は尋常じゃない。十分に関係あるはずだ」

「そ、それは……」

「どうなんだ? お前は母親がいえば明乃を半殺しにするのか?」


 ミコトの顔に迷いが生じる。

 どれほど母親に心酔していても、ミコトは自分で考える人間だ。自分によくしてくれた人を斬ることには抵抗を覚えるだろう。

 これで、それでも母親が言うなら、という結論に達するなら力づくで武器を奪うことも考えなきゃだろうが、ミコトはそんなことは言わないと俺は踏んでいた。

 俺と明乃は違う。ミコトにとって明乃はこっちで初めて出来た同年代の友人だ。


「や、やめてよ……ひどいこと言わないで……トウマ……」

「ああ、ごめんな。俺も言いたくない。だが、聞いておかなきゃいけないんだ。お前は明乃を斬るのか? 母親と孤児院は至上で、それ以外は本当にどうなってもいいのか?」

「ち、違うよ! そんなこと言ってない! ボクらは……ボクらはただ静かに暮らしたいだけなんだ!」

「なら……やらないでいいならやりたくないんだな?」


 ミコトは俺の質問を受け、涙を流し始める。

 孤児院のため、母親のため。いろいろと抱え込み、抑え込んできた感情が溢れてきたのだろう。


「当たり前じゃないか……ボクだってやりたくなんてないよ……でも、帝国が……」

「帝国をどうにかすればいいだな? じゃあ俺がどうにかしてやる。だから俺を信じて、その双剣を渡せ」

「……お母さんは……?」

「お前に言ったことがすべて本当なら俺がなんとかしてやる。約束だ」


 口から出まかせを言っているわけじゃない。それくらいなら五英雄の権威を使えばどうにでもなる。もちろん俺だけじゃ無理だろうが、ほかの四人も使えば大抵のことはどうにでもない。

 問題はほかの四人をどう動かすか、だが、そんなことはあとで考えればいい。今はあの危険な双剣をミコトの手から手放すほうが先だ。

 俺はゆっくりとミコトに近づき、手を差し出す。

 まだミコトは迷った様子だが、その目には交戦の意思はない。ひとまず話を聞いてくれている。そのことにホッと息を吐いた瞬間。

 双剣が跳ね上がった。

 咄嗟に鞘で受けるが、勢いは殺しきれずに端まで吹き飛ばされた。


「ぐっ……!」

「ち、違うんだ! ぼ、ボクがやったんじゃなくて……!」

「わかってる……だから危ない剣だって言ったろ?」


 動揺した様子でミコトが弁解する。本当にミコトの意思じゃないんだろう。

 危険な状態だ。まだミコトの意思はあるようだが、体の自由を奪われはじめてる。


「すぐに手を放せ、ミコト」

「で、できないんだよ……それに声も大きくて……」


 声?

 魔剣がミコトに語り掛けているとするならまずい。その声に従った瞬間に取り込まれる。

 意思持つ武器はケルディアにはいくつかある。それらの成立は大抵ははるか昔だが、現存する物の大半はろくなもんじゃない。

 使用者を取り込み、自らの意思のままに動かす魔剣。その域にあの双剣は入ろうとしている。


「なんとか抵抗しろ! 声に負けると取り込まれるぞ!」

「そんなこと言ったって……わっ! だめ! 近づいちゃ!」


 ミコトは近づく俺から距離を取ろうとするが、意思に反して双剣が俺に向かう。

 手数を確保するため、銃のレバーをあげて魔力をこめる。そして魔力刃を展開して、こっちも二刀流で対応した。

 しかし、それでも双剣を押さえるだけで精一杯。そこから何かすることはできなかった。

 だから俺はミコトに呼びかける。


「なんとか手を放せ!」

「で、でも……!」


 手を放せないのはまだミコトが判断に迷っているからだ。

 今ならまだミコトが本当に手を放したいと思えば放せるはず。

 ここでミコトから双剣を手放させておかないと、次はどうなるかわからない。

 今がラストチャンスだ。


「困ったことがあれば俺がなんとかしてやる! 帝国が怖いなら日本に移住してくればいい! 東凪家が必ず助けてくれる! いや、俺が必ずそうするように動いてやる! だからもうやりたくないことをする必要はないんだ!」

「でも……でも……お母さんが……」

「お前の家族はお母さんだけか!? 孤児院の子供たちにどう説明する!? 自分たちの生活のためにお前が人を傷つけたと知って、孤児院のやつらは喜ぶのか!?」

「そんなこと言わないでよ……ボク、わかんないよ!」

「いや、自分でよく考えろ! 自分は今、どうしたいか! 大事なのはそれだけだ!」


 必死に呼びかけながら、俺は徐々に鋭さが増す双剣に手こずっていた。これにミコトの速度が加わったらと思うとぞっとする。

 ミコトという使用者を攻撃できないという制約があるとはいえ、俺が手数で負け始めている。

 さきほどまで俺が抑え込む形だったが、今では完全に防戦一方だ。

 まぁべつに元々防御主体のスタイルだから、こっちのほうが慣れてはいるんだが、なかなかにプライドが傷つく。まさか武器単体に押し負けるとは。


「ぼ、ボクは……ボクは……トウマと戦いたくなんてないよぉ……」

「なら手を放せ! 自分の意思で!」


 あと少し。

 もう少し。

 希望が見えた瞬間。

 魔女の声が響いた。


「騙されちゃ駄目よ。ミコト」


 数年ぶりに聞くその声に俺は鳥肌が立った。

 ミコトに向けたその声が、まるでペットに向けるような声だったからだ。


「お母さん……?」

「ブリギット……!」


 ミコトの後ろに立ったブリギットは二本の短剣を投げてきた。

 それは自動で敵を追尾する短剣。

 それに対応するために、俺はミコトから距離を取る。

 向かってきた一本は叩き折り、もう一本は踏みつけて動きを封じ、そのまま突き砕く。


「大丈夫だったかしら? ミコト?」

「お母さん……ボク、ボク……」

「平気よ。私がついているわ。愛しのミコト。無事でよかったわ」


 そう言ってブリギットはミコトを振り向かせて、抱きしめる。

 久々に会った母に抱きしめられ、ミコトはされるがままだ。

 まるで子のピンチに助けにきた母。

 まるで子の無事を喜ぶ母。

 しかし、こちらから見えるブリギットの顔は嗤っていた。

 暗く、歪んだ笑みだ。俺を嘲笑し、同時に盲目的なミコトすらも嗤った。

 この女は……自分を母と呼ぶように仕向けたうえで、それに縋るミコトを嗤ったのだ。


「ブリギットぉぉぉぉぉ!!!!」


 一瞬でブリギットの背後に回り込む。

 どれだけミコトや孤児院の子供たちに恨まれることになろうと。今、こいつを殺して終わらせる。

 それがすべての人のためだ。

 こいつは悪意をまき散らす災害だ。

 しかし。


「ミコト……お母さんを守って」

「うん……」


 俺の魔力刃はミコトによって防がれた。

 揺れ動き、こちらに傾いたミコトの心は母親の登場でまた向こうに傾いてしまったのだ。

 そのことに俺は一瞬、絶望した。かつて手に掛けた子供たちのように、またミコトを殺さねばならないのかと思ったからだ。

 そしてその隙をつくように、ミコトは双剣から黒い雷撃を放ってきた。

 魔力攻撃だったため、鞘で吸収する。しかし、吸収しきれない分が建設中のビルに命中して一部が倒壊しかける。


「ちっ!」

「ごめんね……トウマ……」


 それに対応している間にミコトとブリギットは姿を消した。

 俺は目を瞑り、天を仰ぐ。

 ブリギットが東京に入ったということは、奴が動き出す準備ができたということだ。


「また犠牲者が出るのか……」


 戦士が死ぬのはしょうがない。覚悟の上で戦っている奴がほとんどだし、覚悟がなくとも他者やほかの物の命を奪おうとしているんだ。殺されても文句はいえない。

 だが、ブリギットの犠牲になるのは罪のない子供たちだ。


「なんてざまだ……」


 自分への深い失望を抱えながら、俺は携帯を取り出す。

 それでも打てる手は打たなきゃいけないからだ。

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