第四十三話 対面する二人
高橋が言った。
「更新しすぎだからみんなブックマークしないんじゃね?」
基本、こいつの言うことはいつも適当なので相手にしてないが、読んでるけどブックマークしてないよって人はブックマークお願いします( `・∀・´)ノヨロシク
俺は久々に目を疑った。
ミコトにバレないようにかなり距離を取って尾行していたのだが、裏路地に入ったところでミコトが俺の視界から消えた。
どこを探してもミコトの姿はない。
「まさか俺が撒かれるのか……」
持たせたGPSつき携帯にも反応がない。
壊れたか、電源を切ったか。どちらにせよ、追跡するには材料が少なくなった。
しかし、いつぶりだ? 尾行していて撒かれたのは。
単純な速度で俺よりも速かった奴は知っている中では二人しかいない。一人はリーシャであり、一人は戦大好き気狂い狼だからしかたない。だが、追いきれなかったということはミコトはその二人に匹敵する速度を持っているかもしれないということだ。
「バレたってことはないだろうけど……」
さすがに見てればバレたかどうかだけはわかる。あれは気づかれていなかった。にもかかわらず、ミコトは姿を消した。
ますますきな臭い。そんなことをする理由があるということだ。
「亜人なら匂いを辿るって手もあるんだろうが……」
俺には無理だ。
器用な魔法師なら魔力のセンサーを張り巡らせて、それにひっかかるのを待つというのもあるが、俺がそんなことをしても大した距離はカバーできない。
あとできるのは薄い魔力反応を辿るだけか。
「地味な作業だな……」
呟きながらミコトのモノだと思われる魔力を判別して、それを辿っていく。
難しい作業に辟易しつつ、俺はそれ以降は黙々と作業に没頭した。
■■■
見えない細い糸を辿るような作業を続け、俺はなんとかミコトを追った。
そして一つのホテルにたどり着いた。
その一室で俺の知る魔力が二つあった。
「ミコトとレオンか……」
レオンの魔力が膨れ上がっていることから、おそらくレオンは獣化しているだろう。
そして遊びで獣化はしない。間違いなく戦闘中だ。
だが、一瞬ミコトの魔力が上昇し、俺の知らない魔力へと変貌した。その後、すぐにレオンの魔力が激減する。
決着がついたのだ。ミコトの勝利で。
「終わったか……」
辛うじてレオンの魔力があることを確認し、俺はホテルから離れるミコトの後を追った。
黒装束に身を包み、まるで暗殺者のように音もなくミコトは東京を走り抜ける。
そしてある程度、ホテルから離れたところにある建築中のビルの上でミコトは立ち止まった。
「ふー……危ない危ない。あのままじゃ殺しちゃうところだったよ」
「半殺しならセーフだとでも思ってるのか?」
ミコトの背中側に立ち、独り言に俺は答える。
見るからにミコトの体が強張った。まさか追手がおり、それが俺とは思わなかったのだろう。
「へ、へぇ……追手がいたんだ。す、すごいね、追い付くなんて。お兄さん」
「ああ、知ってる魔力だったんでな。追いやすかったよ。ミコト」
真っすぐミコトの背中を見据えると、ゆっくりとこちらに振り向いた。
深く被ったフードによって表情は見えない。しかし、その表情は容易く予想できた。
「動揺してるみたいだな。俺がいるのが信じられないか?」
「……」
「お前が半殺しにした亜人の王子は俺の知り合いだ。もっと幼い頃から知ってる。やってくれたな、まったく」
「……護衛の一人だったの?」
ようやく口にした一言がそれだった。
それならば理解できる。そうであってほしい。そんな気持ちが声から伝わってくる。
しかし、俺はその質問に首を振った。
「いや、お前が家を出たときから後を追ってた。お前と会ったときからなぜか違和感があった。さっきのでようやく理解したよ。お前が持ってる武器が俺の違和感の正体だ」
本来、人の魔力は指紋と同じで人それぞれだ。
それを複数持っていればそりゃあ違和感も出てくる。
ミコトへの違和感は朝に比べて格段に上がっている。一瞬、ミコトの魔力が変質したのは武器を使ったからだ。それによってミコトの魔力はおかしなことになっている。
「まともな状態じゃないぞ? 武器の魔力にお前の魔力が侵食されているんだからな」
「……全部演技だったの……?」
俺の言葉を遮るようにミコトがぼそりと呟く。
その言葉に俺は再度首を横に振った。
「明乃は何も知らない。俺や東凪さんもお前が噂の辻斬りなんて思いもしなかった。ただ、違和感があったからつけさせてもらった。ずっと思い過ごしであってくれと思いながら後をつけたよ。けど、思い過ごしじゃなかったな。お前が聖王都を荒らした辻斬りか」
「トウマは……ボクをどうするの……?」
言いながらミコトはフードを脱ぐ。
朝見たときより疲れた様子の顔がそこにはあった。その疲れは肉体的なものか、精神的なものか。
どちらにせよ、良い状態ではない。
「事情を聞く。少しの付き合いだが、お前は理由もなしに人を傷つけたりしないと思うからな」
「……見逃して」
「まず事情からだな。話はそれからだ」
「ボクは! この武器を完成させないとなんだ! これができればお母さんや孤児院のみんなが幸せになれるんだよ!」
そう言ってミコトはどこからともなく黒い双剣を取り出した。
見ただけでわかる業物だ。そして、その双剣からは禍々しい魔力も感じる。どう考えてもまともな武器じゃない。
「これは血を吸って成長する魔剣なんだ! 強者の血を吸わせることで完成する! それで……これができれば帝国はもうボクらに干渉してこなくなるんだよ! 必要なんだ! お母さんや孤児院を守るためには!」
真っすぐ俺を見据える目にはある種の覚悟がある。
その目を見て、俺の中に苛立ちが増幅した。
「お前の母親がそう言ったのか? その武器を完成させるのは孤児院のためだって。みんなを守るためには仕方ないって。お前に血を集めてこいってそんな武器を……お前の母親が渡したのか?」
「そうだよ! お母さんは孤児院を守るためにずっと頑張ってくれたんだ! 帝国のために武器を作り続けて、それで孤児院は守られてた! そこで育った恩を返すために、ボクはなんだってするよ! お母さんと孤児院はボクのすべてなんだ!」
子供にこんな目をさせて、こんなことを言わせて、こんなことをやらせる。それが母親だと? ふざけた話だ。
孤児を拾い、育てる優しく立派な院長がそんなことをさせるか? 自分を母と呼ぶ子供にこんなことを言わせるか?
「悪いのは全部帝国で……孤児院のためだから仕方ないか……あいつがやりそうな手口だ」
久々だ。こんなに人を殺してやりたいと思ったのは。
ミコトは本当に母親を慕っている。恩を感じ、愛情も感じてきたんだろう。
孤児院は一度は失った自分の居場所であり、家族。だからそれを守るために必死になっている。もう二度と失いたくないからだ。
そういう風に言えばミコトは素直に頑張るとわかっているんだろう。
外道の所業だ。他人を騙すならまだしも、身内をここまで卑劣に騙す奴はそうはいない。
「トウマ……?」
「その武器を見ればわかる……お前の母親の真の名はブリギット。二大鍛冶師として魔王軍との戦いで活躍した伝説の鍛冶師だ」
「えっ……?」
「そして……自分の娘が魔王軍に殺されたショックで狂った女だ。お前の母親はかつて罪のない子供たち三百人を魔剣で操り、聖王都に攻め入った指名手配中の犯罪者だ。その結果、子供の大半が死亡した。魔剣の力に耐えきれず、命を落としたんだ……」
ミコトは強い。
そんなのは相対しただけでわかる。だが、それ以上に持っている武器がやばい。
血を吸い、成長したその双剣はいずれミコトですら飲み込む。
その確信が俺にはあった。
「う、嘘だよ……そんなの信じない……!」
「嘘じゃない。そこまでの魔剣を作れるのはケルディアで二名のみだ。たとえ改心し、お前に言ってることがすべて本当だったとしても、過去は変えられないし、お前が持っている魔剣が危険なことも変わらない」
ヴィーランドとブリギット。
この二人の決定的な違いは主導権だ。ヴィーランドが作る武器は担い手に主導権があり、ブリギットが作り出す武器は、武器側に主導権がある。武器によって無理やり強化ということは、下手をすれば武器に操られるということだ。
そして狂ったブリギットは下手をせずとも、そういう風な武器を作り出している。
「その剣を渡せ。お前とお前の孤児院は俺が守ってやる。だから」
「……嘘だよ……お母さんは優しいもん……独りぼっちのボクを救ってくれたのは……お母さんなんだぁぁぁぁぁ!!!!」
ミコトの魔力が爆発的に上昇する。
そして、魔剣に魔力が流れ込む。
その瞬間、禍々しい魔力が一気に解放された。