第四十二話 血を吸う双剣
タンバは感激した。一日三回更新で体調を崩したタンバに高橋が栄養ドリンクをくれたからだ。
お前良い奴だな、とその時は別れたが、あとになって元々あいつのせいだと気づいた(´・ω・`)
建築中の高層ビル。
その上にミコトはいた。
周囲を見渡し、誰も見ていないことを確認すると持っていた小瓶を開けた。
すると、紫色の煙がもくもく出てきた。そしてその煙はやがて丸い円をミコトの前で描いた。
「お母さんに繋いで」
その煙の名はスモークミラー。あらかじめ指定した人物とどれだけの距離があっても連絡の取れる魔道具だ。
一流の魔道具職人でも作るの難しい超高価な代物だが、ミコトはそのことを知らない。
なにせこれまでも結構な頻度で使っているからだ。
煙の中心に女性の顔が映し出される。向こうでも小瓶を開けたのだ。
「お母さん!」
長い金髪に紫色の瞳。いつもと変わらぬミコトの母の顔がそこにあった。
その女性は優しげな笑みを浮かべているが、まさしくブリギットその人だった。
『ああ、ミコト。連絡が遅いから心配したのよ?』
「ごめんごめん。ちょっと東京に不慣れでさー」
『ちゃんと泊まる場所は確保できたの?』
「うん! 親切な人たちに泊めてもらってるんだー」
『そう、よかったわね』
それは一見すると仲の良い親子の会話に見える。
実際、ミコトは母を好いていたし、ブリギットのほうもミコトを愛していた。しかし、その愛情には致命的なまでの差異があることをミコトは気づいていなかった。
「それで、ボクはここで何をすればいいの? 例の五英雄を探す?」
『最終的にはそうね。けど、五英雄と戦うにはまず剣を成長させないといけないわ』
「そうだよね。じゃあまずは日本で強い人を探すんだね!」
『ええ、あなたに渡した剣は強者の血を吸って強くなるわ。でもただ血を吸わせるだけじゃだめよ。ちゃんと戦って、相手の力を引き出さないと』
戦うたびに成長し、強くなる魔剣。
たとえ使用者が死んでもその経験は残り、どんどん強い魔剣が出来上がっていく。
ある意味、武器の極致にある武器をブリギットは作りあげたのだ。
「わかってるよ。でも殺さなくていいんだよね?」
『当たり前よ。私たちはあくまで帝国が要求する武器を作り上げているだけだもの。殺す必要なんてないわ』
やっぱり自分の母は優しい。そうミコトは笑みを浮かべる。
そんなミコトを見て、ブリギットは申し訳なさそうに目を伏せる。
『ごめんなさいね。あなたを巻き込んでしまって』
「ううん、いいよ。孤児院のためだもん」
『そう……私たちの孤児院は帝国の保護の下で生活できているわ。それなりにお金を貰えるのも帝国のおかげ。そしてその対価に私は彼らに武器を渡してきたけれど、最近じゃ普通の武器じゃ満足しなくなってきたわ』
「ひどい奴らだよね……」
『ええ……けど、あなたに渡した武器が完成すれば、もう要求しないと帝国は約束しているわ。申し訳ないけれど、そのために頑張ってちょうだい』
「うん! ボク、頑張るよ!」
孤児であったミコトを拾い、ここまで育てたブリギット。
孤児院のために一生懸命武器を作るブリギット。
その姿を見ていたミコトは、ブリギットの言葉を信じて疑わない。
それはもはや洗脳だった。
自分に忠実な子供であるように育て、利用する。誰もが吐き気を覚えるような所業をブリギットは平然とこなしているのだ。
『これは孤児院のため、みんなの幸せのためなの。年長者のあなたしか私は頼れないわ』
「うん、任せて」
『じゃあ次のターゲットを教えるわね』
そう言ってブリギットはあらかじめ調べておいた情報に基づき、ミコトを誘導する。
母を信じ、自分の行いが孤児院のためと疑わないミコトは、その言葉にも迷わず頷いた。
■■■
都内のとある高級ホテル。
そこにベスティアの第四王子であるレオンは滞在していた。
そのホテルを守るのはベスティアの屈強な戦士たち。全員が亜人であり、誰もが聖王国の騎士に匹敵する力を持つ者たちだったが、黒装束に身を包んだミコトは彼らを容易く突破してレオンの部屋にたどり着いた。
「まさか僕の護衛を全滅させるとは……その恰好から察するに聖王都で噂の辻斬り殿ですか?」
「そうだよ。ボクと腕試ししてよ」
「殿下! お逃げください!」
「いや……逃がしてはくれないでしょう。ならば獅子王家の者として恥じない戦いをするまでです」
近くにいた侍女を下がらせ、レオンは前に出る。
レオンの部屋は王家の者が滞在するにふさわしく、かなり広い。
しかし、高速戦闘するとなれば話は違う。そこにレオンは勝算を見出していた。
多くの護衛はホテルの外で倒された。自由に動き回れたならば素早い相手のほうが有利。だが、狭い場所であれば亜人の力が勝る。
「はぁぁぁぁっ!」
レオンは大きく腰を落とし、気迫の声をあげる。
すると見る見るうちにレオンの体が膨らんで、屈強な戦士へと変わる。その顔は獅子のモノへと変化し、その手と足もそれに準じる。しかし二足歩行の半獣人状態である。
本来、亜人は獣化で完全な獣に変化できるのだが、室内の戦いのためレオンはあえてそのスタイルを取らずに半獣化で止めたのだ。
「では行きます!」
レオンは先手必勝とばかりにすぐにミコトへ近づき、鋭い爪で攻撃する。
その攻撃をギリギリで見切ると、ミコトは左右の剣で反撃に出る。
片方の剣はレオンの残っていた腕に弾かれるが、もう一本の剣はレオンの防御をすり抜ける。
しかし、剣はレオンの体を微かに傷つけるだけで終わった。
「嘘っ!?」
「獣化した亜人の防御力を甘く見ましたね」
レオンの足が跳ね上がる。
咄嗟に二本の剣で受け止めるが、ミコトは天井まで吹き飛ばされた。
猫のような俊敏さで天井に足をつけて勢いを殺し、なんなく床に着地したミコトだったが、レオンの防御力に舌を巻いていた。
さすがは多くの亜人をまとめ上げる獅子王家。まだまだ子供のレオンですら、すでに護衛たち以上の力を持っていた。
とにかく硬い皮膚を突破する必要がある。そのためには通常の状態では文字通り歯が立たない。
「まいったなぁ……本気でやらなきゃか」
「今までは本気ではなかったと?」
「うん、本気でやると手加減が難しいんだよね」
言いながらミコトはだらりと双剣を下げる。
ミコトが魔力を通すと、待ってましたとばかりに双剣がバチバチと音を立て始める。そして同時に双剣からどす黒い魔力が発生し始めた。
血を吸う魔剣が活性化したのだ。
今まではミコトの力だけで戦っていたが、これからは違う。血を吸って成長した魔剣のバックアップをミコトは受けることになる。ただし、これにはデメリットもある。
「うるさいなぁ……」
ミコトは小さく呟く。
この状態になるとミコトには幻聴が聞こえるようになるのだ。それらは敵を倒せ、殺せという声であり、その声の主は魔剣だった。
今までは全然無視できていたが、最近はかなり声が大きくなりつつある。
ブリギットはその声は魔剣の本能であり、従ってはいけないと言っていた。その声に逆らえる者だけがこの武器を操る資格があるのだと。
だからこそ、ミコトは母の期待に応えるためにその声を無視した。
「凄い魔力ですね……」
双剣から発せられる魔力にさすがのレオンも冷や汗をかく。
これほどの敵とは出会ったことがなかった。対面したときの感覚でいれば、五英雄の面々に近い。それほどの魔力だった。
だが、レオンは自らを奮い立たせる。
これまで自分も遊んでいたわけではない。獅子王家の一員として、無様を晒すわけにはいかなかった。
「いきます……!」
「いいよ」
突っ込むレオンに対して、ミコトも突っ込む。
レオンの爪攻撃はミコトに躱され、ミコトはすれ違いざまにレオンの横腹を斬る。
ザシュッという音が響く。そしてその後、レオンの横腹から血が噴き出した。
「殿下!?」
「ぐっ……! まだまだ!」
傷を押さえながらレオンは振り返る。
だが、そのときにはミコトの姿は消えていた。
まさかいなくなったのか。そんなはずはない。
周囲を見渡すレオンだが、ミコトの姿はどこにもない。
なぜ消えたのか。自分はまだ戦えるのに。
混乱するレオンに侍女が青い顔で駆け寄る。
「殿下! 殿下!」
大丈夫、そう言おうとしたとき。
レオンは異変に気付いた。
声が出ない。代わりにネルリとした液体が口からこぼれた。
鉄の味を感じ、それが血であることを気付いたとき。
レオンは自らがすでに敗北していることに察した。
ゆっくりと下を見れば、いつの間にか腹部にはいくつもの刺し傷があった。しかし、傷の深さのわりには出血が少ない。
奪われたのだと思いながら、レオンはゆっくりとその場に倒れこんだ。
そろそろ間章も話が動くぞー
ただマジで体調悪いので、二回更新止まったらすみません。
僕を元気付けたい場合はポイント入れたり、ブックマークしてくれれば多分元気出ます(笑)