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第三十九話 ミコト到着

タンバ必殺の一日三回更新の第二弾!

怒れ、我が読者たちよ! 

高橋が「お前の読者大したことねぇなw」とラインを送ってきたぞ!

素で悔しい!



「どうやら明乃が客を連れてくるらしい」

「客?」


 風呂上りに俺は雅人の部屋で将棋を打っていた。

 互いに陣形を整えつつ、互いの領地に攻め入っている。


「トラブルに巻き込まれた人を一晩泊めてあげたいそうだ」

「なるほど。お人よしのあいつらしいですね」


 そう答えつつ、俺は駒を動かす。

 ここは慎重に行く場面だ。

 なにせ先ほどはチャンスと思ったところに落とし穴があった。


「しかし……東凪のお嬢様が子犬感覚で人を拾ってきていいんですか?」

「そういうな。明乃なりに考えた結果だろう」


 俺が動かすと即座に雅人が駒を動かす。

 着物を着て、駒を動かす姿は棋士と言われても納得してしまうほど様になっている。

 実際、それに匹敵する腕もあるだろう。さすがは名門の当主だ。


「ところで斗真。約束は覚えているな?」

「負けたら明乃にバレないように明乃の授業風景を撮ってくればいいんですよね? わかってますよ」


 この親バカめと心の中で呟きつつ、俺は守りを固め始めた。

 なんだか盤面的にチャンスに見えるが、さきほどやったときはそこで逆撃を食らった。そういう戦法が得意なのはもう知っている。


「悪いな。立場的にあの子の授業参観に行ったことはなくてな。やはり父としては気になるところだ」

「バレたら俺は盗撮犯なんですが、わかってますかね?」

「君ならバレんだろ? それに――金は出す」

「ええまぁ、負けたらやってもいいですよ。負けたら」


 まぁ負けたところで俺に損はない。ただし、勝てば給料アップだ。それは捨てがたい。実際、ここまではいい感じで来ているしな。

 そんなことを思いつつ、総攻撃に移った雅人の駒を受けていく。あらかじめ防御を固めていたし、なんとか攻撃はしのげそうだ。これが終われば俺の反撃の時間だ。


「ただいま帰りました」


 いよいよと言うときに、玄関のほうから明乃の声が聞こえてきた。

 しかし、俺はそれにかまわず攻めの一手を考える。

 だが、突然立ち上がった雅人の手が盤を揺らし、駒がめちゃくちゃになった。


「あー!!??」

「おっと、すまんすまん。明乃を迎えようとして慌ててしまったようだ」

「なにがようだだ! どう考えてもわざとでしょうが!?」

「そのような言いがかりは見苦しいぞ、斗真」

「あんたのほうがよっぽど見苦しいわ……」


 どんだけ娘の学校生活を知りたいんだよ。

 正式な試合なら雅人の反則負けだろうが、これは正式な試合じゃない。これ以上言っても無駄だと悟り、俺はため息を吐きながら立ち上がる。


「はぁ……その客の顔を見てきます」

「うむ。私は食事の用意をさせよう。斗真、またあとで再戦をしようじゃないか」

「いえ、しばらくはやりません」


 しっかりと断りを入れて俺は廊下を歩いて玄関に向かう。

 そこで明乃が誰かと喋っていた。噂の客人か。


「明乃。だれを拾ってきたんだ?」

「あ、斗真さん。捨て猫や捨て犬みたいに言わないでください。こちらは」

「あ! トウマだ!」


 明乃の後ろにいた客。小柄な少女がひょっこりと顔を現わす。

 昼間に分かれたはずの少女、ミコトがいきなり現れ、俺は一瞬眩暈に襲われた。


「ねぇ! ここってトウマの家なの? すごい大きいね! トウマってお金持ちだったの? ねぇ! トウマー」


 俺の周りをウロチョロしながらミコトが質問攻めをしてきた。

 それに答える元気は俺にはなかった。


「斗真さん……お知り合いですか?」


 驚いているのは明乃も同じようだ。

 唖然とした様子で訊ねてくる。


「昼間にちょっとな……なんで拾ってくるんだよ……」

「じゃあ親切な人って斗真さんだったんですか!?」


 まさか知らずにつれてきたのか……。

 マジか。俺との関係性も分からず拾ってくるとか、どんだけお人よしなんだよ。


「うん! トウマがボクにいろいろ教えてくれたんだ! 遊園地も行ったし」

「遊園地……? 斗真さん、仕事だったのでは?」



 一瞬、明乃の目がゴミを見る目に変わる。

 自分の護衛をサボって遊園地で遊んでたのか? 良い度胸だな、と言わんばかりだ。

 それに対して俺はしっかりと弁明する。


「仕事が終わって飯食おうと思ったらこいつと遭遇してな。そのあと、お礼がしたいという口実で遊園地に保護者として連れてかれた」

「楽しかったねー。ジェットコースター、だっけ? また乗りたいなぁ」

「でも一緒に遊んでたんですよね?」

「午前は仕事してた」

「私も午前は学校でしたけど?」


 たしかにミコトと関わらなかったら明乃の護衛にはいけたな。欠片も護衛にいく気はなかったが。


「代わりに光助が行っただろ? なんでそんな不機嫌なんだ。ナンパでもされたか?」

「されてません! 須崎さんが追い払ってくれたみたいで!」

「ならいいじゃないか。あいつはそこらへん地味に有能だからな」

「そういう問題じゃありません! 東凪家の魔術師たちに監視のように付きまとわれたんですよ!? 斗真さんが遊園地で遊んでるせいで!」

「それ俺は関係ないだろうが……そもそも遊園地で遊ばなくてもお前の護衛はしない予定だった。つまり今日の俺は休みだった。文句言うな」

「うー……」


 納得いかなそうに明乃は唸るが、俺はそれを取り合わない。

 一方、ミコトは日本風の屋敷が珍しいのか、あちこちを見渡している。


「ミコト。触って壊すなよ?」

「わかってるよー。ボクもそこまで子供じゃ」


 そう言ってミコトは障子に指を突っ込み、破いた。

 一瞬、沈黙が流れるがすぐに慌てたミコトがうるさくする。


「わぁぁぁぁ!!?? すぐ破けた!? なんでこんな脆いのさ!?」

「だから言っただろうが」

「どうしよう!? どうしよう!? 弁償!? ボクお金ないよ!? どうしよう! トウマぁー……」


 半泣きで俺に縋りつくミコトの頭を押さえつつ、俺はため息を吐いた。

 騒がしいことこの上ない。

 俺は明乃のほうを見るが、明乃はなぜか不機嫌そうにこっちを見ている。


「なんだ?」

「いえ……なんだか仲がよろしいようなので」

「は? 仲がいい? これがか? どう見ても犬に絡まれているだけだろう」

「ボクは犬じゃなーい! それより、これどうしたらいい? 全部破いたらわかんないかな?」

「やめとけ……。この家にはいくらでも人手がいる。だれかが張りなおすさ」

「え? 直るの?」

「まぁな。気になるなら明日にでも見せてもらえ」


 直ると聞いて安心したのか、ミコトは俺にまとわりつくのをやめた。

 俺はこれ幸いとばかりに明乃とミコトに背を向けた。


「トウマ、どこ行くの?」

「飯だ」

「あ、お父様に紹介しないと。ミコトさん、ついてきてもらえますか?」

「うん、わかった! あとミコトでいいよ。ボクもアケノって呼んでるし」

「えっと……」


 困ったように明乃が俺を見てきた。

 呼び捨てでいいと言われた経験がほとんどないんだろう。一番親しい友人である栞でも栞ちゃんだしな。


「俺を見るな。人の呼び方くらい自分で決めろ」

「そうですね……えっとじゃあミコトと呼ばせていただきます」

「うん! ありがとー!」


 ミコトはまた人懐っこい笑みを浮かべる。

 こいつは人間関係には困らないだろうな。どうもこの笑顔を見ているとこいつを嫌えなくなる。


「ねぇトウマ! ボクね、車に乗ったよ! すごいでしょ!」

「まったくすごくないな」

「えー、そうなの?」

「まぁ……大体の日本人は乗ったことがあるかと」

「ちぇっ……トウマに自慢できると思ったのにー」


 残念そうにつぶやくミコトだが、すぐに気持ちを切り替えて屋敷にある物に興味を持ち始める。

 結局、雅人のところにはかなり時間が経ってから行く羽目になった。


「明乃の父、雅人だ。ようこそ、我が屋敷へ」

「はい! ミコトです! よろしくお願いします!」

「元気のいい子だ。斗真とも知り合いなのか?」

「まぁ一応は」


 用意された食事の席で雅人とミコトが挨拶を終える。

 ミコトはもう目の前に出された食事に目を奪われている。

 お腹が空いているってのもあるだろうが、東凪家の料理は一級品だからな。普通に店が出せるレベルだ。


「ふっ。ということは斗真もお人よしということだな」

「俺は違います。拾ってませんから」

「しょ、しょうがないじゃないですかっ。野宿させるわけにもいかないですし」

「金を渡してホテルを取ってやればいいだろうが。それでも十分お人よしだけどな」

「斗真さんだってわざわざお店で騒ぎを起こして助けたらしいじゃないですかっ。十分、お人よしですっ!」


 互いにお人よしの擦り付け合いが始まる。

 いつもならこのまま不毛な言い合いに発展するが、今回は違った。


「と、トウマぁ……」

「うん?」

「ボク、お腹減っちゃった……」

「はっはっは、そうだな。まずは食事にしよう」


 雅人がそう言って手を合わせる。俺たちもそれに続き、ミコトも俺たちのを見て、見様見真似でいただきますと言った。

 そして食事が始まるのだが。


「あっ……このっ……えいっ……うー!!」


 箸に慣れてないミコトは煮物に遊ばれていっこうに口に運べない。

 だんだん涙目になってきたミコトを見かねて、明乃がフォークを用意させて差し出した。


「はい、どうぞ。ミコト」

「うわぁ! アケノ、ありがと!」


 見慣れた道具が出てきてミコトは顔をパッと明るくする。

 そして嬉しそうに煮物を口に運んだ。


「うーん!! 美味しい! すごい美味しいよ! トウマ! ハンバーガーより美味しい!」

「ハンバーガーと比べられるとこの家の料理人が泣くぞ……」


 何度も美味しいと連呼しながらミコトは夕食を口に運ぶ。

 この様子を見れば料理人も満足か。

 この家でこれほど感情豊かな人間はいない。

 こうして、この日はいつになく賑やかな食卓となったのだった。


 

 

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  将棋は「指す」ものであって「打つ」ものではありません。「打つ」のは囲碁もしくは麻雀ですな。 [一言]  この作品は「出涸らし皇子」ほどではないが、モノが違うと思う。
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