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第三十八話 明乃の拾いモノ

タンバ必殺の一日三回更新! 見ていろ、高橋! 俺を馬鹿にしたことを後悔するがいい! 今日だけで日間一位に上り詰めてやるわ!


読者のみなさーん、よろしくお願いしまーす(他力本願)






「楽しかったねー、明乃ちゃん!」

「うん!」

「またねー、明乃ちゃん!」

「はい、また学校で」


 斗真が依頼を受けた日。

 明乃は学校の後に友人たちと出かけていた。

 世間ではそろそろ夏休みだが、明乃の学校は襲撃で休校が続いたため、もう少し学校がある。その鬱憤を晴らすために栞が計画したものだった。

 参加したのは明乃と栞、そしてクラスメイト数人。久々に楽しい時間を過ごした明乃は非常に満足だった。

 そんな明乃は友人たちと別れ、歩き始めた。

 その後ろを静かにつける男がいた。明乃はそれに気づき、振り返る。男は何食わぬ顔で明乃の横に並んだ。まったく見覚えのない顔ではあったが、その姿に対する違和感で明乃は男の正体を察した。


「なにしてるんですか? 須崎さん」

「須崎? 何言ってるんだ? 嬢ちゃん。人違いじゃないか?」

「幻術破りをしてもかまいませんが?」

「おー怖い怖い」


 参ったとばかりに男、光助は幻術を解いた。

 それを見て、明乃は眉を潜める。


「また監視ですか?」

「護衛といってほしいな。斗真が今日はお前の護衛につかないと言ってたから、こうして出張ってきたわけだ」

「東凪家の護衛がもういますが?」


 明乃は瞬時に三方向を見る。

 そこには見知った東凪家の魔術師たちが潜んでいた。見られた側は驚いているが、明乃に対しては姿を隠したところで魔力を隠さなければ意味がない。


「その護衛だけじゃ心配だから俺が出張ってきた。現に俺が近づくまで気づかなかっただろ?」

「まぁ……そうですね」

「楽しい時間を邪魔しちゃ悪いと思ってな。ちなみにお前たちに寄って行くナンパ男たちを排除してたのも俺だぞ?」

「そんなことしてたんですか?」

「護衛の邪魔だからな。あの事件以来、お前は東凪家の娘という立場に加えて、敵に狙われる可能性がある要注意人物になったんだ。護衛が薄くなればこうして俺みたいのが出張ってくる。いつも気にしないでいられるのは斗真っていう馬鹿強い護衛がいるからだぞ?」


 自分が外出するだけで何人もの大人が動き、自衛隊までが出動してくる。そのことに明乃は眩暈が起きそうだった。

 それと同時に斗真の偉大さも再確認できた。


「そうですね……斗真さんがいれば何の問題もないんですけど……」


 先日、明乃はついに斗真の隠密護衛を見破った。しかし偶然の要素が強かったため、雅人は斗真に、まだしばらく護衛をしてやってくれと依頼していた。

 斗真も、自分に依頼がないときならばと承諾したのだが、さっそく明乃の外出と自分の依頼がブッキングしたため、こうして光助が出る羽目になっていた。


「それで? この後の予定はなんだ?」

「この後? もう帰りますけど?」

「歩きか? 車か?」

「歩きです。縮地の練習しながら帰りたいので」

「なるほど。オーケーだ。じゃあ寄り道せずに帰れよ?」


 そう言って光助は遠方で警戒していた部下に指示を飛ばして下がらせる。

 家に帰るまで護衛したいところだが、そこまで行くと東凪家の魔術師たちの反感を買いかねない。

 ここらへんで退くのが両者のためなのだ。


「はい。ありがとうございました」

「まぁ仕事だからな。本当に気を付けて帰れよ? お前が襲われたりしたら俺がどやされる」

「はい。気を付けます」


 明乃は丁寧にお辞儀して光助を見送る。

 その後、周りにいる東凪家の護衛に対して、これから縮地を使うと一応伝えてから明乃は帰路についた。

 縮地など使えない東凪家の護衛は急いで車に乗るが、明乃に追いつくことはなかった。




■■■




 我ながら酷い理由だと明乃は縮地を使いながら思っていた。

 縮地の練習とは言うが、前回の戦いでコツを掴んで以来、明乃はもうそれなりに縮地を使えるようになっていた。

 練習というのは建前で、ずっとまとわりつく視線から逃れたかっただけだった。


「斗真さんならこんなことないのに……」


 斗真は気配を上手く周りに溶け込ませ、明乃に視線など感じさせない。

 だから護衛をされてもストレスにはならないが、今日の東凪家の魔術師たちはそういう点では下手だった。

 光助の存在に気づかなったのも、東凪家の魔術師たちがあまりにも露骨だったため、そっちに意識が行っていたというのが大きい。


「はぁ……」


 ため息を吐きながら、明乃は屋敷を目指す。

 そんな明乃の視界の端に誰かが映る。その人影が明乃は気になり、止まってよく見た。

 すでに時刻は八時を回っており、明乃が目にした場所にはほとんど人がいなかった。

 しかし、その人物はシャッターのしまった銀行の前でピョンピョン飛び跳ねていた。


「どうしたんでしょうか……?」


 自分と同じかもしかしたら年下の女の子。不釣り合いな場所で不釣り合いな行動。

 関わらないほうがいいとは思ったが、困った様子のその少女を見逃せず、明乃は近づいて声をかけた。


「ねぇ! ねぇってば! 開けてよー!」

「あの……」

「うん? あ! このお店の人!?」


 シャッターの閉まった銀行に声をかけていた少女は、明乃が声をかけると勢いよく振り返った。

 可愛らしい少女。それが明乃の第一印象だった。


「い、いえ……えっと、その銀行はもう閉まってますよ?」

「閉まってる……?」

「はい。営業時間が終わっているので、明日にならないと開きません」

「嘘!? ってことはボクのお金を日本のお金にしてくれないの!?」


 そう言って少女は自分の財布の中にある通貨を見せる。

 それがケルディアで流通する通貨だと察し、明乃は目の前の少女がケルディアから来たことを知る。

 そしてこれまでの奇行にも納得がいった。


「そうですね。明日にならないと」

「えー……じゃあ今日は野宿か……」

「えっ!? 野宿!? お金はそれしか持っていないんですか?」

「うん……昼間に親切な人がここでお金をかえれるって教えてくれて、少しだけ日本のお金にしたんだけど、ちょっと前に困ってるお婆さんがいて、その人にあげちゃったんだ。ボクはここでまたお金をかえれるって思ったから……」


 困っているお婆さん?

 どう考えても騙されたとしか思えない。

 明乃は額を押さえる。日本はそれなりに平和な国ではあるが、それでもこの手の詐欺はなくならない。


「それで全額渡しちゃったんですか……?」

「うん! ボクが持ってるお金でちょうど足りるんだって!」

「そんな偶然あるわけないじゃないですか……」


 これは完全に騙されている。

 そう確信した明乃は少女をどうするか悩んだ。

 警察に事情を話すという手もあるが、下手をすれば大使館に送られてしまう。せっかく日本に来たのにそんなことになってしまうのは可哀想だ。

 幸い、お金はあるようだし、今夜だけ凌げば問題はない。

 色々考えたあと、明乃は右手を少女に助け船を出すことにした。


「んー、野宿ならどこがいいかなぁ? やっぱり草があるところのほうが」

「良ければですが……私の家に来ますか?」

「え? 君の家?」

「はい。部屋は余ってますし、食事も大丈夫だと思います」

「えっと……いいの? 迷惑じゃない?」


 明乃は少女の言葉に頷く。

 父の雅人は反対しないだろうし、父が反対しないから家の者は絶対に反対しない。問題があるとすれば斗真だが、さすがにこの年代の少女を野宿させろとは言わないだろう。

 食事もないならコンビニで買うという手がある。

 問題ない。確信を強めて明乃は右手を差し出す。


「私は明乃。東凪明乃といいます。あなたは?」

「ボク? ボクはミコト。ねぇ、アケノ。本当に泊まっていいの?」

「大丈夫です。もちろん無理強いはしませんが……」

「ううん、アケノは信用できるから大丈夫! 実を言うとね、野宿は平気だけどお腹ペコペコでさ……」


 ミコトはお腹を押さえて苦笑する。

 それにつられて明乃も笑う。


「奇遇ですね。私も食事がまだでお腹がペコペコです。車を呼びますから、ちょっと待ってくださいね」

「車!? ボク乗ったことないんだ! 乗れるの!?」

「はい。屋敷もそれなりに近いですから、すぐにつくと思います」


 そう言って明乃はテキパキとやることを済ませる。

 まず、家の主である父に電話して、事情を説明。食事も一人分多く作ってもらうようにお願いする。雅人から了承を得ると自分の護衛だった魔術師たちに電話し、現在地を教えた。


「これでよし。じゃあちょっと待ってくださいね」

「うん!」


 こうして図らずも明乃はミコトを屋敷に連れていくことになったのだった。

 

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