第三十三話 ケモミミ
一日三回更新したら評価すると言われたので、タンバは本気を見せて三回更新を果たしました!
指が痛いよー、ご褒美をくれー( ;∀;)
大使館には大勢の人が来ていた。
ケルディアの人間もいるし、日本の人間もいる。ケルディアの人間は多くが聖王国関係者のようだが、それ以外にもいるようだ。
この機会に日本と誼を結びたいケルディアの国の大臣たちとかだろうか。復興支援やら軍事技術の提供。日本が欲しいものを彼らは提示できる。
本来ならそれを妨害するべき聖王国の大使館で、そういう人間たちがいるということは聖王国としても日本にほかの国が介入するのは別に構わないと思っているんだろう。
まぁ小国じゃ聖王国に楯突くような動きはできないし、復興が進む分には聖王国としては助かるってことだろう。
まぁ復興に関しては世界中から支援物資が届いているみたいだし、ケルディア側が何かする必要はない。問題なのは今後のこと。恐ろしい話だが、この国はまだ二体も天災級の魔物が封印されている。
それを利用しようとする者は必ず現れる。
そんな大事な場で明乃は何かに興奮したように俺の服の袖を引っ張ってきた。
「なんだ?」
「ね、ね、猫耳です……」
そんなことを言う明乃の視線の先には黒い猫耳を持った女性が聖王国の人間と歓談していた。
ぱっとした見た目にはほとんど人間と変わらないが、耳だけは猫のそれだ。
「ん? ああ、亜人の国の奴らも来てるのか。別に珍しいことじゃない。ジロジロ見ると怪しまれるぞ」
「そ、そうですね……で、でも本当に猫耳が……う、動くんでしょうか? あれって」
動くだろうな。亜人ってのは獣の特性を持つ人間のことだ。あの耳は飾りじゃない。
完全に食いついている明乃は、ジロジロ見るなといったのに数秒置きに何度も見ている。
まったく。
「触りたいとか思ってないよな?」
「えっ!? そ、そんなこと思ってませんよ……?」
挙動不審になる明乃を見て、俺は明乃に手を伸ばす。何かされるのではと明乃が身構えるが、俺はそれを指摘する。
「それと同じ行動をされるぞ。あいつらにとってあれは自分の体の一部だ。お前、知らない奴に耳触らせてくれって言われて、いいですよって言えるか?」
「うっ……言えません……」
「ならジロジロ見るな。あれは亜獣王国ベスティアの人間だ。あの国が送り込んでくる奴なら間違いなく戦闘もできる。絡まれたら面倒だぞ」
「ベスティア?」
「亜人が中心となって作られた連合国家だ。この中で来ている国なら聖王国に次ぐ国だな」
「そ、そこはもしかしてケモミミのパラダイスですか!?」
「人の話聞いてたか?」
いつもの物分かりの良さがない。興奮して頭がパーになってるらしい。困ったもんだ。
まぁそれでもいきなり触るなんて馬鹿な真似はしないだろう。
そう思って俺は護衛らしく怪しい人物がいないチェックを始める。
一応、今回の主催者であるエリスは会場の一番奥で話をしている。周りには騎士の護衛がおり、まぁ今のところ危険はない。
大使館自体も聖王国の騎士団で守られており、そもそもここまで入ってくるということが難しい。
なにか起きるとは思えないが、エリスが俺を呼んだなら何かあるかもしれないってことだろう。
そう思って監視を続けていると後ろから声をかけられた。
「もしやサトウ殿では?」
ゆっくり振り返るとそこには小柄な少年がいた。年は十三、四歳くらいだろうか。
薄茶色の髪に琥珀色の瞳。その耳には特徴的な耳があった。
ライオンの耳だ。それはその少年がベスティアを束ねる獅子王家の系列に属することを示していた。
そして俺はそのぐらいになる少年を知ってはいた。しかし、会うのは二年以上ぶりなので俺の中で目の前の少年と一致しなかった。
「まさか……レオンか?」
「はい! お久しぶりです!」
そう言って少年、レオンは頭を下げようとする。それを慌てて制した。ここには多くの目がある。そんなことされたら目立ってします。
「護衛で来てるんだ。やめてくれ」
「あ、すみません……配慮が足りませんでした」
「いやいい。しかし、お前がどうしてこんなところにいるんだ?」
レオンは現ベスティア王の四男だ。つまり王子ということになる。
さすがにエリス主催のパーティーとはいえ足を運ぶには大物すぎる。
「一度こちら側に来てみたいと思っていましたので。父に無理を言ってこさせてもらいました」
「なるほど。まぁ王子なら社会勉強は必要だわな。外交でこっちに来る機会もこれからは増えるだろうし」
「はい。でも、まさかサトウ殿に会えるとは思いませんでした。あなたが姿を消したと聞き、僕も探したんですよ?」
「それは悪かったな。目立つのは嫌いな性分なんだ」
「そうですね。あなたはそういう人です。しかし、あなたが護衛に参加しているということは〝あの噂〟は本当みたいですね」
そんな意味深な発言をレオンはした。
あの噂というのは何か。俺にはまったく覚えがないが。
「レオン。あの噂ってのは?」
「えっ!? 聞かされていないんですか?」
「ああ、エリスから今日、ここで護衛してほしいとしか言われてない」
「なるほど……では僕の口からは言えません。エリスフィーナ姫が直接話すことだと思いますし」
「そんな大事なことなのか? 俺はてっきりお前がいるから俺は呼ばれたのかと思ったんだが……」
久々にレオンに会わせてやろうというエリスの心遣いと思ったが、そんなわけでもないらしい。
勘弁してくれ。俺はこの前、天災級の魔物と戦ったばかりなんだぞ? また厄介ごとはごめんだぞ。
「それもあるかもしれませんが……おそらく主な理由は違います。僕から言えるのはあなたに関わることだということだけですね」
「俺に関わること? どういうことだ?」
「これ以上は僕からは言えません。僕自身、噂で聞いていただけですし、確証のある話でもありませんから」
そういってレオンは申し訳なさそうに目を伏せた。
つい問い詰める口調になっていたことに俺は気づき、謝る。
「悪い。あとでエリスに聞く」
「はい、それが確実です。それで……その……サトウ殿のお連れの美しいお嬢さんが僕をずっと見てるんですが……」
レオンは困ったように笑う。
軽く周囲を見て明乃を探すと、少し離れたテーブルでジュースを飲みながらジーっとレオンを、いやレオンの耳を見ている。どうやら猫の耳じゃなくて、獅子の耳でもいいらしい。
「猫科ならなんでもいいんだろうな……」
「非常に気まずいのですが……僕、なにかしましたか?」
怯えた子猫のようにレオンは俺の体にすすっと隠れる。あんまり人間の女と会う機会のないレオンからすれば明乃のあの視線は怖いんだろうな。
その反応を見て、明乃はショックを受けたような表情を見せた。その様子はまるで猫に逃げられた飼い主だ。
「はぁ……悪いんだが、レオン。あいつに耳触らせてやってくれないか?」
「えっ!? そ、それはちょっと……」
「駄目か……いやそうだよな。あ、お前の家臣はどうだ?」
「うーん……どうでしょうか」
「ちなみにあいつは日本の四名家筆頭、東凪家の跡取り娘、東凪明乃だ。仲良くなっておいて損はないと思うぞ」
そういうとレオンは何やら考え込み始めた。
かなり心の中で葛藤しているようだ。たぶん悩んでいる内容は自分の耳を触らせるべきか、家臣の耳を触らせるべきか、という感じだな。
そしてレオンは意を決して俺を見上げてくる。
「ぼ、僕の耳を差し出します……!」
「そんな悲壮感漂う表情で言われてもなぁ……」
「いえ、国のために日本の名家とは仲良くしておくべきですから!」
「はぁ……まぁここで触らせるわけにはいかないからまたあとでな」
「わ、わかりました……よろしくお願いします」
なにをよろしくやればいいのやら。
そんなことを思いつつ、俺はいまだレオンをチラチラと見ている明乃の傍によった。
「明乃」
「は、はい? 見てませんよ? 私はなにも」
「耳、触らせてもいいらしいぞ」
「え!? 本当ですか!?」
「ああ、後でな。本人はかなり嫌そうだったが、日本の四名家筆頭である東凪家の跡取り娘にならって苦渋の決断をしたみたいだ」
こういえばあきらめるかと思ったのだが……。
甘かった。
「け、け、ケモミミを触れる日が来るなんて! はっ!? 手を洗わないと! あとカメラも! あ、斗真さん!」
「お、おう?」
「マタタビって持ってますか?」
「やめとけ、あいつら本当に酔うから」
「そうですか……じゃあほかの方法で好かれるようにします」
もしかして明乃は連れてきてはいけなかったのでは?
なんとなくベスティア人にとっての天敵を連れてきたような気がして俺は罪悪感に包まれながら護衛を続行するのだった。